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第30話 招待状

 さすがに授業が始まってからは騒ぎが収束し、人心地つくことができた。

 こんなにも授業でほっとしたのは初めてだぜ……。

 騒ぎを見かねた大人の方々が注意喚起をしてくれたおかげで、それから放課後まではいつも通り、落ち着いた学校生活を送ることができた。


「ん……これはなんだ」


 さて帰ろうと下駄箱を開けたとき、そこに一枚の紙があった。

 二つ折りにされた便箋のようだ。


「えっ、それってもしかしてら、ラブ――」

「まさか、ははっ」


 一緒に来ていた千華がありきたりな動揺をするので適当にあしらい、俺は中を開いて文面を確認する。

 クローバーの柄が入った可愛らしい便箋。シャープペンシルで書かれたと思われる文字は全体的に丸みがあり、尖った印象は感じられない。


 宛名は『梶山夏樹くんへ』。俺宛で間違いなさそうだ。

 内容を要約すると『話があるので演習棟の裏へ来てほしい』、そして差出人は『鬼嶋紅音』となっている。


「うそ! なんで紅音ちゃんが夏樹に!?」

「こ、心当たりはないな。どんな用だろう」

「もう、体育館裏に呼び出す用なんて一つしかないじゃん!」

「そんな訳……」


 体育館じゃなくて演習棟だが、そこはまあいい。

 呼び出される用件――まさか告白、だったりするのだろうか。


 いやいや、と俺は頭を振って余計な妄想を振り払う。

 そんな伏線も心当たりも可能性もないことを考えるんじゃない!

 思い当たる節がない以上、いくら考えても無駄だ。


「とりあえず行ってみるしかないな。ごめん千華、先に帰っててくれ」


 今日は期末テストに向けた勉強会をする予定だったが、明日以降に回そう。

 そう思って千華に帰るよう促したが、千華はぶんぶんと首を横に振った。


「嫌、私も行く!」

「な、何で!? 千華がついて来たらダメでしょ!?」

「手紙には一人で来てとか書いてないじゃん!

 やっぱり夏樹も告白されると思ってるんだ!」

「ち、違、そういう意味では……」


 あるかもしれない。

 ああもう、頭がこんがらがってきた。


「もういいよ、千華もついてきなよ」

「よろしい。私がバッチリ見届けてあげるからね」


 俺がしぶしぶ許可を出すと、千華は急に笑顔になって俺の背中をぐいぐいと押した。

 楽しそうだなこいつは。まったく他人事だと思って……。


   §


 午後四時。

 手紙の指示通り、俺と千華は演習棟まで歩いて行った。

 そして裏に回る直前、千華は立ち止まる。


「私はここから隠れて見てるから」

「覗きかよ」


 覗き見する気満々の千華を残し、俺は一人で演習棟の裏へ回った。

 ここは演習棟と学校の敷地を囲う塀の間で、人目につきにくいスペースだ。広さはテニスコート半面くらい。固い土の地面には真上から太陽の光が降り注ぐ。


 そのスペースの中央に、鬼嶋紅音は立っていた。


「来たわね」

「ど、どうも」


 視線をまっすぐ俺へ向けた紅音に、あいまいに言葉を返す。

 俺が態度を決めあぐねていると、紅音は正面から俺に近づいてきた。


「梶山夏樹。

 私がここにあなたを呼び出した理由、分かるわよね」

「えっ? いや全く……」


 分かる前提で話をされても困る。

 少なくとも今まで関わりはほぼなかったし、そもそも学校で紅音の姿を見ていなかった。なのでこれがファーストコンタクトぐらいの感じだ。


 だから素直に俺は分からないと言ったのだが、それに紅音は深いため息をついた。

 そして、紅音のこめかみ付近からバチッ、と破裂音が聞こえた。


「ずいぶんとなめた真似してくれるじゃないの……。

 人がせっかく久々に学校へ来たっていうのに――!!」


 紅音の身体の周りから次々にバチバチッ、と破裂音が続く。

 いや、音だけでなく、空気中に青白い火花が散っている。

 これはもしや、紅音の電撃魔法――!?


「なんで国民的人気タレントの私よりも目立ってるのよ――!!」


 紅音がそう叫んだ瞬間、紅音の身体から雷が真上に噴き上がった(・・・・・・)

 轟音が目の前で弾け、衝撃で俺は二メートルほど後ろに吹っ飛ばされる。

 鼓膜がジンジンする……。


「じ、自分で国民的人気とか言っちゃうのかよ」

「うるさいうるさい!

 仕事が忙しくて学校来れなかったから、私が学校通うようになればみんな私に注目してくれると思ってたのに!

 今日来てみたらほぼガン無視! 無視はさすがにないでしょうが!!」


 全身に青白いスパークをまといながら、紅音はまくし立ててくる。

 目には少し涙が浮いている。

 そういえば今日の朝はみんな俺を囲んでいて、紅音の登校を見ていた奴はいなかったな……。駆け寄ったのは唯一千華だけだった。


「……つまり俺を呼び出したのは、今日俺が注目を浴びていて、紅音……鬼嶋さんには誰も注目しなかったから?

 それが気に入らなくて俺に当たりに来たの?」

「そうよ! 私は負けるのが嫌いなの!」


 目を赤くしながら、怒り心頭状態の紅音。

 紅音ってこんなに負けず嫌いだったのか、テレビで見てるだけじゃ全然知らなかった。まぁ、考えてみれば中学校のリレーで魔術使っちゃう奴だし、元々そんな性格だったんだろう。


 さて、九割方とばっちりで呼び出された俺は、この状況をどう収めればいいんだ?


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