第21話 再遭遇
もうすぐで、目標地点に到着するらしい。
そこには広く水がたまった場所、いわゆる地底湖があり、見ごたえのある風景ということだ。
ここまで来る間もけっこう綺麗な光景だったし、地底湖も期待できそうだ。
「この先の緩やかなカーブの向こうがゴールです。
あともう少し、頑張りましょう!」
洞窟に入ってから一時間。
道の起伏も少なく、俺はそんなに歩き疲れてもいない。
でも先ほどの空間獣との遭遇で、やはり危険な洞窟なんだと再認識した。さっさと目標まで行って、なるべく早めに洞窟から出たいな。
そんな気持ちもあり、俺たちは少し歩みを速める。
そして地底湖の前のカーブに差し掛かった――そのときだった。
「っ!」
広瀬さんが突然立ち止まった。
正面、少し離れたところで異音がする。
何もない空中から、ピシピシピシ、とガラスにひびが入るような音。目を凝らすと、割れ目のように枝分かれした薄い光の筋が見える。
「もしかして……」
「嘘だろおい」
「みなさん離れてください! 急いで!」
次の瞬間、音を発していたその空中が、強烈な光を放った。
空間を破って現れたのは、青白く輝く球体。
そこへ周りの空気が吸い込まれていくので、俺たちは暴風に抗って必死に後退する。
「あっ……」
「萌っ!」
体勢を崩し引き寄せられそうになった萌の手を、徹が掴んだ。
青白い物体は大きさをぐんぐん増していく。と同時に、球状から上下に伸び始め、チューブのような形になる。
太さ一メートル、長さは不明。洞窟に沿うように形作られたそれ。
暴風がおさまり成長が止まったかと思うと、静かに弾けた。
そして現れたのは――巨大な蛇。洞窟内をのたうつ大蛇型の空間獣だ。
「キィシャアァァーーッ!!」
鎌首をもたげ、こちらを威嚇する空間獣。
パニックになりそうな気持ちを抑え、俺たちは一歩一歩後退する。
だが広瀬さんは空間獣の目をじっと睨み、拳銃を抜いて構えた。
俺たちを守るのが、広瀬さんの仕事。
だけどその身体は震えが隠しきれていなかった。
「――ふっ!」
短く息を吐く、と同時に広瀬さんは引き金を引く。
ダァン、と銃声が響き、アンチミスリルが空間獣の鼻先に降りかかった。
空間獣は頭部の半分を失う。
「っ! そんな」
「効いてない……!」
「シャアァァーーッ!!」
だが何ということか、消えた頭部は数秒で復活してしまった。
そうか、空間獣は魔力の塊。
致命傷になる部位が普通の動物と違う場合もあるし、多少消し飛ばしたところで巨大な体格からすればごくわずかな傷。再生も簡単ということか。
「でも、全部削り切る!」
しかし再生が終わるまで、空間獣は微動だにしていなかった。
その隙に気付いた広瀬さんはアンチミスリルを何発も打ち込む。空間獣の肉体は徐々に削られていった――のだが。
唐突に銃声が止み、カチ、カチ、と音が鳴った。
「嘘っ、弾切れ!?」
「シャアァァ……」
「まずい、復活する!」
弾切れに焦り、空間獣の再生速度に気付いていない。
だんだん加速しているのか、もう再生が終わりそうだ。
俺たち四人は広瀬さんに駆け寄る。そして俺と徹で広瀬さんを力いっぱい引っ張った。
「危ない!」
「きゃっ!」
再生した空間獣の噛みつき。
広瀬さんの位置を狙ったその攻撃を、間一髪のところでかわした。
俺たちは急いで空間獣の攻撃範囲から離脱する。
「大丈夫ですか」
「私は大丈夫……でも弾が」
拳銃を手にしたまま俯く広瀬さん。
空間獣は自らの噛みつき攻撃で一瞬俺たちを見失ったようだが、すぐに再び俺たちを視界にとらえる。
唸り声を漏らしながら、空間獣はじりじりと這い寄ってくる。しかしその速度は人間の早歩きくらいだ。
「全力で走れば逃げられますよ」
「そうですね、でもダメです」
「どうして!」
広瀬さんは空間獣に真正面から向き合って言った。
「このまま逃げたら、空間獣が洞窟から出てきてしまいます。
そうなれば近隣へ甚大な被害を与えるでしょう」
「弾もないのに、何をするつもりなんすか!?」
「アンチミスリル製ナイフなら、ここにあります。
わずかな時間稼ぎにしかならないと思いますが、やれるだけのことはやります」
そう話す広瀬さんは、すっかり覚悟を決めた目をしていた。これが隊員としての責務だというように。
でも、俺はそんなものに納得できない。
そう声を上げようとした直前、千華が広瀬さんの前に立った。
「何をしているんですか!? 早く逃げてください!?」
「広瀬さん、私がやります」
千華が宣言する様子を横目に、俺は徹と萌の肩をたたく。
怪訝な表情を浮かべる二人に、俺は耳打ちした。
(俺と千華が倒す。二人は広瀬さんを連れて逃げてくれ)
(夏樹……また不審者のときみたいに策があるんだな)
(ああ。信じてくれ)
一方広瀬さんは千華の行動に戸惑うも、俺たちを守る大人として常識的な発言をする。
「入るときはあんなに怖がっていたのに、どうして……。
でもいくら魔術師でもD組のあなたたちでは、空間獣に敵わないでしょう!
無茶なことはやめなさい!」
「私はできます!」
「あなたたち未来ある若者を守るのが私の仕事です! 下がって!」
真面目で勇敢な人だ。
でもこうしている間にも空間獣は近づいてきているし、時間がない。
忠実に仕事をしているだけのところ心苦しいが、もうやるしかない。
(ごめん萌。頼めるか)
(了解。まかせて)
密かに俺は、萌に作戦を伝える。
嫌がられるかと思ったが、意外とすんなり快諾してくれたな。
そうして萌は、こっそりと広瀬さんに近づいていく。




