第13話 急襲
その後は坂田先生の監視の目もあり、C,D組男子はふつうのサッカーを楽しんでいた。
「やばい、C組に取られた!」
「守れ守れ! 早く戻れ!」
みんな前に出ているとき、不意を突かれてC組にボールを取られてしまう。D組側のコート内にはゴールキーパーと俺しかいない。
俺はドリブルしながら向かってくるC組の奴をブロックしようと立ちふさがる。しかし相手のほうが上手でかわされてしまった。
それでもボールを取り返そうと、俺は頑張って追いかけたが――。
「シュートッッ!!」
ドリブルしていた奴がゴール前でボールを思いっきり蹴り込む!
しかし、ボールはゴールネットに吸い込まれることなく。ゴールのはるか上を飛び去って行った。
「何やってんだよ、チャンスだったのに!」
C組から仲間に対してのブーイングが飛ぶ。
「はぁ、危なかったー」
「……ちょっと待て。お前、魔術使っただろ!」
シュートを外した奴はチームメイトのブーイングを受けたせいか、無実の俺に魔術使用の嫌疑をかけてきた。
坂田先生の目がぎろりと俺に向く。
「いやいやいや。俺そんなボールを動かせるような魔術使えないから」
「そうだそうだ! 夏樹はしょぼい炎魔術しか使えねぇよ!」
「そもそもD組にまともな魔術使える奴は一人もいねぇ! D組なめるなよ!」
サッカーでズルする程度の魔術も使えない。それがD組クオリティ。
「あっ……なんかすまんかった、D組」
「わ、分かればいいんだよ、分かれば……」
D組に憐憫のまなざしを送ってくるC組の皆々。
魔術使用の嫌疑は晴れたが複雑な気持ちだ……。
ともあれボールが遠くに飛んで行ってしまったので、回収に行く必要がある。
比較的行きやすい位置にいるのは……俺かな。
「じゃあボール取りに行ってくる」
「おっけ、頼む」
俺はボールの飛んで行った方向に小走りで向かっていった。
§
ボールは思ったよりも遠くまで飛んでいたようだ。
俺が見つけた場所は校門の近く。ボールを拾ってふとその校門のほうを見ると、真っ赤な髪のマッチョな男が悠然と歩き、学校の敷地内へ入ってきていた。
男は視線を軽く左右に振っている。
誰かを探しているみたいだ、と思ったとき、俺はその男と目が合った。すると、男は俺の方へ寄ってきたではないか。
坂田先生みたいに威圧感のある風貌、あまり関わりたくはないのだが……。
「そこの貴様」
「は、はい」
「貴様はこの学校の生徒か?」
話し方もものすごく威圧的。どうにか話を早く切り上げたいな。
俺はじわりじわりと後退しながら、当たり障りのないような返事をする。
「いいえ、違います」
「嘘をつくな。貴様の着ている体育着はこの学校指定のものだろう」
ひえ、早速嘘がばれた。
男は眉間の濃いしわをさらに深くする。
怒らせてしまったか、と思ったが、そこで男はにやりと笑みを浮かべた。
「運がいいな」
「へっ?」
男の態度の変わりようがよく分からない。
困惑する俺。
だが突然――男からとてつもなく嫌な気配を感じ取った。
「なあっ!?」
その瞬間に俺は反射的に後ろへ跳んだ。
間一髪、目の前を通り過ぎる太い鉄拳。その拳は赤く燃え盛っていた。
「ちっ、俺の拳をよけるとはな」
「なんなんですか突然!」
「くっ、うぉぉおおおお!!!」
男が雄叫びを上げると、男の身体全体が炎に包まれる。
こいつ、魔術師だったのか。しかも俺と同じ炎属性。
でもどう見ても俺より強い上に、なぜか最初から敵意むき出し……。
「俺の名はボルゴ・ファーレンハイト。
尊き我らが魔王様の命を受け、魔術高校を――」
「うわああぁぁ!!」
名乗りを入れている途中みたいだったが、この隙は見逃せない。
暴力沙汰に不慣れな俺は尻尾を巻いて逃走を図る。
「待て! 逃げ切れると思うなよ小僧!」
一方ボルゴと名乗った男は、炎を身体にまとったまま俺を追いかけてきた。
幸い俺のほうが身軽な体型な分、足は若干速い様子。しかし体力的に逃げ切るのは厳しそうだ。
「くそっ、どこに逃げればいい」
頼りになる人は、と考えてまず頭に浮かんだのは千華だったが、俺は却下する。
俺から進んで千華を危険に巻き込むわけにはいかない。
となると、あとは……そうだ。
坂田先生ならまだ校庭にいるはずだし、さっき生徒に振るったあの拳を見る限り暴力にもきっと慣れているはず。
そう判断して、俺は校庭へと全力で走った。
「わあああああ!!!」
叫びながら校庭へ駆け込む俺に、ただならぬものを感じたのだろう、坂田先生が駆け寄ってくる。
「どうした梶山」
「不審者です! 不審者が俺の後ろから追ってきます!」
「何だと、俺に任せろ」
よし、作戦通りだ。
先生がまず校庭に残っている生徒全員に退避するよう指示し、俺をかばうように立ちふさがった。
俺は校庭から退避する他の生徒に混じろうと、最後の力を振り絞って走る。だが途中で足がもつれ、こけて地面に転がる。痛ぇ。
涙目になりながら坂田先生のほうを見ると、燃え盛る炎が先生の前に立っていた。
「ん? 生徒かと思ったが誰だ貴様は」
「俺は体育教師。生徒を守るのが俺の仕事だ!」
そうして地面に倒れている俺の目の前で、戦いが始まった。




