第1話 門出と見送り
初投稿作品です。
四月上旬。
木々の間から暖かい光が差す今日は、俺たちにとって門出の日だ。
「都会ってやっぱり人でいっぱいなのかなぁ。満員電車とか乗りたくないよ」
「いや、寮に入るんだから電車通学はしないでしょ」
「そっかぁ、良かった!」
日本のとある県の片田舎に住んでいる俺、梶山夏樹。
平凡な容姿で平凡な人生を送ってきた俺は、同年代と同じく今日から高校生だ。
正確に言えば入学式は三日くらい後なのだが、寮住まいが始まるのは今日だし、今からでも高校生としての自覚を持つべきだろう。
高校は都内にあり、実家からは新幹線で二時間の距離。ただ新幹線の駅に行くまでバスで一時間、バス停まで行くのに徒歩四十分かかる。
今はバス停に向かう途中、山間の小路を歩いているところだ。
「寮ってどんなところなんだろう。夏樹と同じ部屋だったらいいな!」
「さすがにそれは無いな……。あまり確認してないけど、普通男子と女子は分かれるもんだ」
どうやら俺の幼馴染は自覚がないらしい。
隣を歩く幼馴染の宮下千華。黒髪ショートの垢抜けない女子だ。
千華も、俺と同じ高校に進学する。なんで同じなのかというと、単に俺についてきたがっただけだ。
本人曰く「夏樹を一人にすると危ないからダメ!」だそうだ。俺は小学生かよ。
まあ実際、千華には何度か助けられたこともあるので、強く否定することができないのが悲しいところである。
そもそも、なぜ俺は地元ではなく都内の高校に進学するのか。
一言でいえば『親の勧め』なのだが、根本の原因は生まれ持った俺の才能にある。
そう、俺のへっぽこな『炎魔術適性』に。
――二十年前から、地球上には『魔力』と呼ばれる物質が存在する。
その影響で『空間獣』やら『魔術』といった現象が起きるようになったのだが、魔術を使える『魔術師』は未だ数少ない。
そんな数少ない魔術師としての才を生まれながらに持っていた俺は、中学卒業後の進路選択で親に勧められるがまま『国立魔術高等学校』を選んだというわけだ。
ちなみに魔術の才能は多くの場合生まれたときから持っているが、後天的に発現する可能性もわずかにあるらしい。
だが才能の成長曲線はみなほぼ同じ。一度伸びなくなったらそこで打ち止めだ。
親は一体何を期待して俺を魔術高校に入れたのだろうか……?
「それにしても、千華はよく受かったよね」
「えへへー、すごいでしょ」
俺が褒めるとすぐに胸を張ってどや顔する幼馴染。
一見アホっぽいがその実まあまあのアホだ。
とはいえ魔術の才能が(今のところ)全くない千華が魔術高校に受かったのは衝撃だった。魔術高校入試には一応学科と面接の試験もあるが、一番重視されるのは「実技」試験だと思われる。実技は魔術が使えなければもちろん零点だ。
千華は勉強ができるほうでもないし……。
「面接で何かしたの?」
「何かって、特に何もしてないよー。特技を見せてくださいとは言われたけど」
「特技……? まさか千華、『刀』を持ち込んだのか!?」
てへっ、と舌を出しておどける千華。
こいつ予想以上にやばいことしていやがった!
「おま、それはほぼほぼ脅しじゃんか!」
「見せてくださいって言われたから見せただけだよー。面接官には『内緒にしてくださいね』ってお願いしたし」
「アウトだよッッ!! 『黙ってろ』とか脅し以外の何ものでもねぇ!!」
いまもTシャツに鞘がデコられた忍者刀みたいなものを背負っていて、「武装コーデ? 意外とア……いややっぱ無しだわ」みたいな格好になっているが、アクセサリーではなく真剣だと俺は知っている。
「高校では持ち歩くなよ、刀。『空間獣』なんてほとんど出ないし、本物だってバレたら警察すっとんで来るからな」
「なんで? 別に人は斬らないよ?」
「銃刀法って知ってるか?」
なおも疑問顔の千華に、一般常識として法律を教える。
今まで平気な顔して持ってると思ったら、そもそも法律を知らなかったのか。
誰からも教わらなかったのか? 教わらなかったんだろうなー。
「うーん、都会じゃ刀を持ち歩いちゃダメっていうのは分かったけど……。
そしたら空間獣出たときどうするの? みんな危なくない?」
「さっきも言ったが空間獣なんて都会じゃほとんど出ない。
それに、空間獣と戦おうなんて考えるのは千華だけで、普通の人は全力で逃げるから。学校でも教わったよね、全力で逃げなさいって」
「そ、そうだっけ」
俺の追及に目を泳がせる千華。
ゆるふわな雰囲気出しといてかなりの戦闘狂だからな、こいつは……。
そんなこんなで山の小路を下り、バス停まであと半分に差し掛かったときだった。
突如、ゴオオォォという低音が前方の木々の間から響き始めた。
俺たちはその場に立ち止まった。
「ほーら夏樹。空間獣だよー」
「なんでこんな日にも出てくるんだ……。田舎を出ようって時なのに」
見れば少し離れた前方に、青白く発光する球状の物体が浮かんでいる。その球体は周囲の気体を吸い込んでいるかのように膨らんでいき、触れた木々をバキバキとへし折っていく。
そして直径四メートルほどに達した瞬間、球体は静かに弾けた。しぶきのような燐光の中、現れたのはこれまた青白く光る四足歩行の獣だった。
「お見送り、かな?」
「こんな物騒なお見送りなんていらんわ」
トラのような姿をした獣。
魔力によって生み出され、人々に恐れられる災害『空間獣』の出現だ。




