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22歳♂ 何故か女の体に転生しました。  作者: BrokenWing
第二章
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愚者の末路2

      愚者の末路2      



 翌日、朝風呂に浸かりながら、今日の予定を言う。


「後で、うん、食事が済んだ後でいい。リムは少し俺に付き合ってくれ。後は全員、自由行動だ。休むも良し。工房に籠るも良し。って、今、装備は完全だな。」

「分かったわ。」

「でも、いきなり自由と言われても、することがありませんわ。そうですわ、ミレア、買い物にでも行きましょう。下着が欲しいですわ。」

「そうですね、お姉様。もっと悩殺できるようなのが欲しいです。」

「あ、じゃあ、あたいも行くっす。尻尾用のブラシが欲しいっす。」

「では、私はマリンちゃんのお手伝いですにゃ。」


 うん、今日はのんびりだ。

 リムとの用事も午前中には終わらせるつもりだし、俺も後で買い物に行こう。

 俺も普段着を買い揃えたい。


「それでアラタ、あたしに付き合って欲しいことって?」


 リムは俺に抱き着いてくる。

 だから、ここでいたす気は無いと。

 朝だし、昨日・・・いや、何でもない。


「勘違いするな。あの階層主だ。流石にでかすぎて、ここではちとな。ダンジョンで魔核を取り出すつもりだ。今、お前が持っているからな。」

「あ、そういうことね。分かったわ。」


 いくら魔物とは言え、人型だ。

 俺も、あれから魔核を取り出すのには気が引ける。

 そして、サラの見ている前でだけはやりたくない。

 ダンジョンに飛んだら、リムも先に帰すつもりだ。


 更に、あの階層主の言葉が気になる。

 『最後の試練』、『この階層というだけでも』、これをどう取るか?

 俺は、一つの仮説を立てている。

 そう、あの階層主は、本来は100階層の主ではなかろうか?


 イオリは捕まらないが、確認する手段はある。

 イオリは以前、100階をクリアした時、カサードに魔核を見せに来たという話を、クレア達から聞いた。

 つまり、カサードに魔核を見せれば、照合できるのではなかろうか?


 俺は早速テレフォンでヤットンに連絡を入れる。

 カサードにも直接できるのだが、相手は皇帝だし、悪い気がする。

 まあ、気にしないかもしれないが、一応、手順通りで行こう。


「かしこまりました。では、私から陛下にお伝えてさせて頂きます。陛下のご予定は、まだはっきり伺っておりませんが、城に居られるのは確かです。後でこちらから連絡させて頂きます。」

「済まんな。助かる。」

「いえいえ、お気になさらずに。しかし、90階層でございますか。是非とも私も拝見させて頂きたいものです。」



 俺達が風呂を上がって、食事をしていると、ヤットンから連絡が入る。

 流石だな。

 もうカサードとのアポを取ってくれたのだろう。


「申し訳ありません。近衛様、今、城なのですが、その、すぐに来て頂きたいのです。」

「ん? カサードさんの都合なら仕方が無い。こっちもいきなりだったしな。では、そうしよう。」

「いえ、誠に申し上げにくいのですが、陛下が拘束されてしまいました。相手はあの奴隷勇者です!」

「分かった! すぐに行く!」


 奴隷勇者と言えば一人しかいない!

 そう、勇者会談の時に、俺に絡んで来た二宮だ!

 俺を殺そうとしたので、返り討ちにし、更に奴隷にしてカサードに売り飛ばした奴だ!


 俺は慌てて席を立つ。

 皆は何事かと俺を見る。


「予定が変わった! カサードさんが捕まった! 相手はあのアホ1号、二宮だ! 俺は約束に従い、助けに行く。俺一人でも大丈夫だとは思うが、リムだけついて来てくれ! 後、お前達には悪いが、俺が連絡を入れるまで、屋敷を出ないで欲しい!」

「そんな! 私も行きますわ!」

「そうです! 私達はパーティーです!」

「あたいも行くっす!」

「私もですにゃ!」

「ここで議論している暇は無い! 命令だ! 残れ!」


 俺は、二宮の単独犯で無い事を危惧しているのである。

 もし、組織だった行動なら、俺も狙ってくるだろう。

 ならば、屋敷も標的に入っている可能性がある。

 なので、マリンだけ残して行くのは心配なのだ。


 リムを連れて行くのにも理由がある。

 カサードを殺さずに拘束した以上、相手は何らかの取引をしてくるはずだ。

 その時、交渉が得意なリムが居れば頼りになる。


 しかし、命令に反抗できない奴隷がどうやって?

 疑問は残るが、俺とリムは急いで支度をし、城に飛ぶ!


 俺が最初に召喚された場所、神殿に飛ぶと、辺りは騒然としていた。

 重装備に身を包んだ兵士達が、ひっきりなしに出入りしている。

 どうやら、ここを拠点にしているようだ。


 祭祀長のイーライが俺達を見つけて声をかけてきた。


「助かりました、近衛様! 既に長野様がお見えで、今、交渉しておられます。あちらです! いつもの会議室です!」


 ふむ、イオリが既に来ているのなら、大丈夫だろう。

 と言うか、俺は要らない可能性まである。


「それで、相手の様子は? 二宮一人か?!」

「はい。しかし、ヒロム、いえ、二宮殿は、どうやら奴隷の戒めを解いたようなのです。そして、宝物庫を襲撃し、【リフレクトシールド】を持ち出しております! なので、長野様でも手こずっておられるようなのです。」


 う~ん、やはり腐っても勇者か。

 どうやったかは分からないが、奴隷契約を解除するとは!


 そして、あの【反射】の盾を持ち出されると厄介だ。

 まあ、今の俺には無意味だが。

 しかし、イオリは【スピア】を使えないのだろうか?

 この世の真実とやらを知っているのなら、使えそうなものなのだが?


 俺とリムも、用心の為に、【リフレクトシールド】を装備してから部屋に入る。


 中に入ると、奥の席にカサードが座らされ、その背後に、二宮が聖銀の剣をカサードの首に押し当てて立っている。

 更に、聖銀製の鎧に身を包んでおり、片手に盾を持っていた。

 ふむ、あの盾は確かに【リフレクトシールド】のようだ。


 当のカサードは、身体を椅子に縛られ、完全に固定されている。

 しかし、毅然とした表情は崩さない。

 流石は皇帝と言うべきであろう。


 そして、部屋には、イオリばかりかヤットンも居て、テーブル越しに小剣を構えながら、二宮を牽制している。


 二人共、フル装備のようだ。

 ヤットンは、素材は分からないが、いかにも軽快に動けそうな鎧で、盾は無し。

 また、イオリの鎧は間違いなくナインティードラゴンの皮製だ。

 あと、小手と一体型の盾を装備している。

 おそらく、あれも【反射】効果がついているはずだ。


 勇者同士の戦いになれば、魔法が勝負を決めると俺は考えている。

 なので、【リフレクトシールド】は必須だろう。


 イオリが俺に気付いて、声をかけて来た。


「やっほー。また会えたね、アラタ。僕だけでもいけると思ったんだけど、ごめんね。ちょっと面倒な事になっているんだ。でも、アラタが来てくれたなら安心だね!」


 この人は相変わらずだな。

 この場で陽気に振舞える神経には畏れ入る。


 そして、二宮が口を開く。


「お! お前も来たか! このインチキ野郎! 聞いたぜ! お前、俺達以上にチートらしいじゃねぇか! それじゃあ、俺が負けたのも当然ってもんだ!」

「まあ、隠すつもり無かったんだがな。お前が想像以上のアホだったんで、教えてやる暇が無かったんだ。済まんな。」

「余裕かましてんじゃねぇ! こっちにゃ人質が居るんだ! 言う事聞かなきゃ殺すぞ!」


 う~ん、あまりにもお約束な展開。

 どうしたものか。


「で、お前の要求は何だ? 内容次第だが、呑めるかもしれんぞ?」

「さっきも言ったが、まずはテレポートの石だ!」

「ん? そんな事か。イオリ、やればいいじゃないか? もっとも、この状況でテレポートできるとは思えないが?」

「うん、そこなんだよね~。彼、そうしたら、後は全員城から出ろって言うんだよ。」


 なるほど、相変わらずアホのようだ。

 確かに、敵意を持つ者が近くに居ればテレポートはできない。

 しかし、この状況で、カサードを残して行く奴は居ないだろう。

 全員が遠ざかったら、カサードを殺してテレポートする魂胆が見え見えだ。


 俺は、小声でリムに尋ねる。


「リム、何か手はないか? このままじゃ疲れるだけだ。あのアホが焦れたら、何をしでかすか、分かった物じゃない。」

「そうね。取り敢えずは何処に行きたいか聞いてみたら?」


 うん、リムは分かっていてくれていた。


 俺にとって、今の二宮を制圧するのは容易い。

 貫通魔法【ピアス】を使って、以前成功した、【オールダウン】なり、【スリープ】なりををかければいい。

 少々耐性がついているかもしれないが、俺の魔力ならまず成功するだろう。


 なので、俺が手を下さないのは、奴の処遇を考えてのことだ。

 奴隷にもできないとなると、もはや殺すしかあるまい。


 しかし、それは、俺にとっては最後の手段である。

 俺の事を優しいとか言う奴が居るが、それは買い被りだ。

 俺は自分の手を汚したくないだけだ。

 ひょっとしたら、イオリも殺すのを躊躇って、まだ生かしているのかもしれない。


 リムが小声で返すと、その会話にアホは気付いたようだ。


「ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねぇ! さっさと石寄こして、お前等は出てけって言ってんだよ!」

「うん、それなんだが、お前、何処に逃げたいんだ? 今の狂犬のようなお前を匿ってくれる奴が居るとは思えないぞ。」

「決まってるじゃねぇか! 俺の国、領地に帰るんだよ! あそこなら全員、俺に逆らわねぇ!」

「ふむ、その後は? お前、帝国の皇帝を人質に取ったんだ。帝国も、容認することはできないだろう。お前の領地とやらに派兵するしかない。そうなれば戦争になる可能性が高い。それは勘弁して欲しいんだが。」


 俺が勘弁して欲しい理由は、俺の爵位にある。

 この状況で参戦を頼まれたら、流石に断わり辛い。

 今はそんなことに関わりたくないし、何よりも人が死ぬのは嫌だ。


 俺がカサードを見ると、彼は俺から目を逸らし、頷いた。


「そんなこたぁ、そん時に考えりゃいいんだよ! 戦争? 大歓迎だ! この糞っ垂れた世界がどうなろうが知ったこっちゃねぇ!」


 確かに、奴隷にされた、今の二宮からすれば、この世界がどうしようも無く憎いはずだ。

 一月程前までは、勇者と敬われ、居心地が良かっただけに。


 俺は再びリムに振り返る。

 彼女は少し俯き、黙って首を振った。


「う~ん、イオリはどう思う?」

「アラタの好きにしたらいいと思うよ~。僕も、どうでも良くなっちゃった。こんな奴、期待できないしね。」


 チッ、丸投げされてしまった。

 だが、待てよ。


 イオリの『期待できない』は、おそらく、彼女の今までの行動、勇者をダンジョンに潜らせるという事に関わるのではなかろうか?

 うん、納得が行く。

 彼女は、ダンジョンをクリアする人間が出るのを待っているはずだ!


「おい、二宮、今からでも遅くはない。お前、ダンジョンを攻略したいとは思わないか? 俺は今、90階だ。今の俺ならヒントなり助言なりもやれる。どうだ?」


 俺はカサードの言った、イオリの言葉を思い出していた。


『一度ダンジョンをクリアした者には、この世界の政治や権力なぞには興味が無くなる。』


 これが本当なら、こいつにダンジョンをクリアさせてしまえば、無害になるのではなかろうか?


「アラタ! 何か勘違いしているようだけど、僕はこいつとは組めないよ! アラタや、橘君のパーティーなら、大歓迎だけどね。それに、こいつにはクリアさせちゃダメだ!」


 予想外のイオリの言葉に俺は驚いた。

 誰でもいいから、クリアさせたかったのでは無いのか?

 それに、組めないって?


 そこに二宮が返事をした。


「ダンジョン? クリア? 俺には、んなこたぁ~、もうどうでもいいんだよ! 俺はこの世界で面白おかしく、俺のやりたいようにやりてぇだけだ! その力も既にあるからな!」


 俺は完全に諦めた。

 うん、これは無理だ。

 こいつを放置したら、間違いなく犠牲者が出るだけだ。


「そうか。仕方が無い。ピアス!」


 俺の身体が灰色に明滅する。


「へ! 何を唱えたか知らねぇが、こっちにゃ反射の盾があるんだ! 前みたいにはならねぇ! それ以上近寄ったら、こいつを殺す!」


 二宮はそう言って、カサードの首に更に剣を食い込ませる!

 カサードは、気丈にも表情を変えない。


「スリープ!」


 思った通り、二宮は崩れ落ちる。


「リム、あの杖を貸してくれ。石化の奴だ。」

「何もアラタが手を下さなくても。後は兵隊にやらせればいいのよ!」


 しかし、リムはアイテムボックスから、杖を出して、俺に手渡してくれた。

 周りの連中は、イオリ以外、呆気に取られている。


 俺は躊躇う事無く、その杖で二宮を殴った!


「カサードさん、後は好きにしてくれ。この状態、何もしなければずっとこのままだ。また、割れば殺せる。俺にはまだその覚悟が無い。」


 やっと正気に戻ったヤットンが、慌ててカサードの縄を切る。

 カサードもほっとしたようだ。


「うむ、アラタ、感謝する。何か報酬を与えたいところじゃが、儂も少々疲れたようじゃ。後日でいいかの?」

「いや、カサードさん、こいつは俺達勇者の問題だ。気にしなくていい。どうしてもと言うのなら、変な奴隷を売りつけたことをチャラにして欲しいな。」

「相変わらずじゃの。うむ、良かろう。それでは儂は失礼する。」


 事件が解決したことを悟った兵士達が、部屋になだれ込み、カサードを連れ出して行く。

 イオリとヤットン、そして、俺とリムが、その場に取り残された。


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