試練の時
試練の時
あれから三日後、俺達は遂に90階層の扉の前に居る。
外では、そろそろ日が暮れ始めているだろう。
途中、あぶないぞうが団体で出て来た時は苦しかった。
しかし、奴には魔法が効くので、カレンが【無敵】で敵の真ん中に躍り出たところを、残り全員の範囲魔法で仕留めるという力押しで何とか凌いだ。
ナインティードラゴンに関しては、例の鉄板戦法、近寄ってきたところを通路で凹るで、楽勝。
百人前とスワレントラップは、パターンさえわかれば、敵ではない。
「では、くれぐれも言っておくが、扉越しに確認するだけだからな! 決して、開けるなよ!」
あれ以来、俺はかなり慎重になっている。
今回は階層主の顔だけを【シースルー】で拝んで、後は89階層で休むつもりだ。
そして、少しでも対策を立ててから、明日挑もうという訳である。
「それで、どんな感じですの?」
「うん、既にレーダーで確認している通り、見えるのは4体。階層主らしいのと、いつものお引きが各一種。スワレントラップも居るはずなのだが、例によって見えないな。で、階層主らしいのは、巨大な美少女だ。ゴスロリ着ている、3mくらいある銀髪美少女。」
リムとはタイプが違って、かなり幼さが残る。
でかくなければ、人間だと勘違いしているところだ。
サイズさえまともなら、その手の店に行けば、指名の嵐だろう。
しかし、残念ながら、3mは厳しい。
それでも、指名する変態は居そうだが。
まあ、それくらいの美少女ではある。
時空魔法が使える、ミレア、リム、サラも、確認しているようだ。
【シースルー】は気力の消費が激しいので、普段使うのは俺だけだが、今からドンパチすつもりが無いので、問題は無い。
「あれは、多分魔法タイプね。【反射】の盾は欠かせないわ。」
「どうやらそのようですね。でも、他にも特殊な攻撃があるかもしれません。油断は禁物です。」
「あいつ、やばそうですにゃ! でも、胸は勝ってますにゃ。」
サラ、お前の注目ポイントはそこかい!
よく見ると、ミレアもにやついていやがる!
確かに、こいつらに胸で負ける女性は少ないな。
まあ、サラはこれからだが。
「よし、今日はこれでいいだろう。引き返すぞ。」
「はいっす。え? 二体、扉に向かって来るっす!」
俺も慌てて確認し直すと、ナインティードラゴンと、巨大美少女がこっちに向かって来る。
ナインティードラゴンは感知能力が高いので、扉越しにでも反応したのだろうが、階層主が、こちらから扉を開ける前に反応するのは初めてだ。
でも、こちらから開けない限りは大丈夫だろう。
しかし、連中がどうするのか気になるので、扉越しに監視し続ける。
他の二体、あぶないぞうと百人前は、相変わらず部屋の奥でじっとしている。
だが、階層主とナインティードラゴンは、扉のすぐ前まで来た!
「ふむ、なんかやばそうだ。急いで引き返すぞ!」
「「「「「はい!」」」」ですにゃ!」
俺達が踵を返すと同時に扉が開かれた!
馬鹿な! 前例が無い!
階層主自ら扉を開けるなんて!
更に、俺達が上の階に戻ろうと走ると、後ろから声が聞こえる!
「ここまで来て、わらわに会わずに帰ろうとするなんて、いい度胸なの! わらわ、ぷんぷんなの!」
こいつは一体何なんだ?
まあ、喋るのは予測していたが。
しかし、幼女口調で『わらわ』って。
「最後の試練を任されている筈のわらわが、この階層ってだけでも許せないのに、無視? 無視なの?! 絶対許さないの! 縮地!」
巨大美少女は、そう言うと、上への通路の真ん前に瞬間移動する!
ヤバい!
このままじゃ挟み撃ちだ!
「俺は主に行く! 他はドラゴン頼む! リフレクトシールド忘れるな! 縮地!」
「「「「「はい!」」」」」
俺も、反射の盾を翳しながら、仲間を追い越し、階層主との間合いを一気に詰める!
こうなってはやるしかない!
幸い、全員、それ程気力は消耗していないし、体力も満タンの筈だ。
俺も、気力はまだ700以上ある。
いざとなれば、お引きから吸える筈だ。
しかし、巨大美少女は、何やら意味深なことを言っていたので、こいつも知性がありそうだ。
なので、俺も冷静になって、訊いてみる。
「いや、『わらわ』さん、無視している訳じゃなく、今はやるつもりが無いだけなんですが。あの、そう言う事なんで、そこ、通して貰いたいんですけど。」
「ダメ! わらわ、ずっと待っていたの! これ以上は無理なの! わらわの試練を受けるの! さあ、そうするの! で、その変な盾、嫌いなの! ピアス!」
巨大美少女がそう叫ぶと、彼女の身体が灰色に明滅する!
これは、何か分からないがヤバそうだ!
しかし、俺の身体に異常は無い。
リフレクトシールドも光らなかった。
「じゃあ、行くのっ! 試練の時なの! 心弱き者、纏めてぜ~んぶ死ぬのっ! オールデス!」
ん? 何だ? この呪文は?
意味からすると、かなりヤバそうだ!
しかし、俺の身体に変化は無い。
慌ててステータスを確認するが、何処も異常は無い。
そして、再び俺が階層主に目を向けると、そのでかい図体が崩れ落ちる!
背後で、かすかに聞き覚えのある音がした気がする。
何だ? こいつは?
俺が近寄っても、無反応だ。
蹴飛ばしてみたが、やはり反応は無い。
どうやら、死んでいるようだ。
試練の時?
お前が死んでどうする?
聞きたいことは山盛りだ!
その時、背後でクレアが絶叫した!
「ミレア! ミレア! しっかりしなさい!」
俺が振り返ると、カレンとリムとサラが、呆気に取られた顔をしている。
ドラゴンは、地面に落ちていて、動かない。
他のお引きに至っては、まだこちらに気付いていないようだ。
しかし、クレアが蹲って、ミレアを抱きかかえている!
「ミレア!どうした?!」
俺もすぐに駆け寄る!
ミレアのステータスをチェックする!
全く外傷は無いが、何か、状態異常を受けたに違いない!
「何だ! これは! どうなっている!」
氏名:リムリア 年齢:16歳 性別:女
職業:奴隷〈アラタ・コノエ:死後開放〉
レベル:94
体力:0/433
気力:351/467
ヤバい! 体力が0だ!
スコットの時と同じだ!
だが、閻魔は言っていた。
『あれは結構いい線行ってたんだよ~。』
そう、まだ望みはあるはずだ!
これは、完全に死ぬ前の、一歩手前の段階だと、俺は勝手に解釈している。
「クレア! まだ望みはある! と言うか、俺が死なせない! 貸せ!」
俺はミレアを奪い取り、アイテムボックスに放り込む!
人間:ミレア の死体
やはりスコットの時と同じだ!
名前がまだ表示されている!
「リム! あの時の! スコットの時の! あの魔結晶は?!」
「え、ええ、あるわよ。」
全員、俺に完全に気圧されしているようで、何も言って来ない。
もっとも、ミレアが死んだことを理解したからでもあるだろう。
生きているものは、何であれ、アイテムボックスには入らない。
リムが黙って俺に、スコットの作ってくれた、特大魔結晶を手渡す。
これ一個で気力が200くらい増えるのだが、俺がスコットに乗り移る時に使用した物だ。
俺は、どれくらい減っているかを確かめる。
全く減っていない!
俺が持つと、気力が200程増えた。
あの時の俺の気力は700くらいだったはずだ。
流石に神殿の水晶の残量までは分からないが、あの時、気力が足りなかったのなら、この魔結晶が先に減っているはずだろう。
現在、最大気力は軽く1000を超えているが、現状は素で700くらい。
だが、魔結晶を持った今は、900以上だ。
つまり、あの時よりも気力は多くある。
なら、条件は前回よりいいはずだ!
「うん、ミレアは俺が必ず生き返らせる! しかし、この状態では流石に集中できないな。どこか安全な場所に移動しよう。 リム! そこの階層主を頼む。お前ならアイテムボックスに入るだろう。」
「え、ええ。分かったわ。」
「「「「はい!」」」」
全員、かなり緊張しているようだ。
サラの語尾も普通になっている。
扉は開いたまま。
ドラゴンはやはり死んでいた。
全く反応しない。
部屋の中に入ると、何と奥の扉が開いていた!
ふむ、どうやら、試練とやらはクリアしたらしい。
後はお引きだけだ。
残った2体が近寄って来る!
「そこ! スワレントラップがいる! 注意しろ! 今はあいつらの相手をする気は無い! 一気に突っ切るぞ! クレア! カレン! こっちに来い! リムはサラを頼む!」
「「「「はい!」」」」
俺は両腕にクレアとカレンを抱きかかえる。
「縮地!」
そして、一気に部屋を抜ける!
「縮地!」
リムも、サラを抱えて、ちゃんとついて来た。
「よし、追っては来ないな。まずは登録を済ませよう。」
俺達はワープの小部屋で、5個浮き出た魔法陣に触れる。
クレアがやっと我に返ったようだ。
「アラタさん! ミレアは? ミレアはどうなりますの?!」
「クレア、心配は要らない。さっき言っただろ。俺が必ず生き返らせると。サラちゃん、どうだ? 俺に出来そうか?」
「はいですにゃ! 出来そうですにゃ!」
サラは完全に元に戻っている。
そして、俺はこの言葉が欲しかったのだ!
彼女は、その一言で何でも出来てしまう。
勿論、出来ない事も沢山あるが、今はこれで充分だ!
「ふむ、多分だが、神殿じゃなくても可能なはずだ。流石にこれからやることは見られたくない。この世界の理を変えてしまいそうだからな。」
「アラタ、やるのね!」
「当然だ! 今の俺なら出来るはずだ!」
リムは落ち着きを取り戻したようだ。
リムだけでなく、クレアもカレンも顔を上げて、俺を見ている。
俺は思った。
一撃で、手も触れずに相手の命を奪う術があるのだ。
逆が出来ない訳が無い!
俺はアイテムボックスからミレアを取り出し、部屋の中央の魔法陣から、少し外れた場所に置く。
うん、さっきと同じ状態だ。
「じゃあ、前回と同じだ。全員、俺に触れてくれ。そして、ただひたすら願ってくれ。ミレアの復活を!」
「「「「はい!」」」」
「行くぞ! 生き返れ! ミレア!」
そう、呪文は何でもいいはずだ!
俺は、ミレアの魂がこの身体に戻って来るイメージを固めて、気力を込める!
「サラちゃん、作者はチョコレートを貰えると思うか?」
「無理ですにゃ!」
この子猫、いつか作中で殺す!
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