新戦略
新戦略
翌日、83階層、【シースルー】で確認した結果、やはり新顔が2種類追加されている。
「降りてすぐの小部屋、真っ青な、象のような奴だ。かなりでかい! 高さだけでも3mくらいある! しかも、足が棘だらけだ! 鼻と尻尾の先には、クレアが使っていたチェーンフレイルの鉄球みたいなのがついている! そした、ナインティードラゴン2体が一緒だ。これは厄介だぞ。」
体形は、確かに象に似ているが、その姿はかなり凶悪だ。
目も四つあるし、もし、動物園に入れたら、目的の違う施設になってしまうであろう。
「ゾウってなんですにゃ?」
「う~ん、こっちの世界には居ないのか。長い鼻とでっかい耳を持った、巨大な豚だと思ってくれ。ただ、あいつの場合、全身が武器みたいなもんだけどな。」
「良く分らないですが、とにかく、迂闊に近寄れない敵なのは間違いなさそうですね。」
「そうだな、ミレア。しかし、あの図体だ。必ず隙があるはずだ。」
とは言ったものの、俺の運動性を持ってしても、あの棘だらけの足を掻い潜って攻撃を加えるのは至難の業だろう。
「この位置なら、まだ気づかれていないはずだし、今、対策を練るべきね。」
「勿論だ、リム。あの巨体の攻撃を喰らったら、カレンと言えどもヤバそうだ。俺でもどうかってところだな。」
「では、いつも通り、囮を先に突入させるっすか?」
「そうだな~、残っているのは、玄武が一体と、後は雑魚ばかりだしな~。突っ込ませても、瞬殺されそうだ。ん? 待てよ。」
俺は考えた。
さっきの階層での経験を活かすべきだろう。
「ふむ、俺に考えがある。リム、スワレントラップの魔核、まだあるか?」
「ええ、丁度2つ余っているわ。合成する?」
「うん、頼む。合成したら、この、ファイアウルフの靴に付与してくれ。」
「ちょっと待ってね。」
前の層で試した結果、【認識阻害大】の効果のついた、【認識阻害の帽子】を着けると、ナインティードラゴンは、同じ小部屋に入るまで、気付けなかったのだ。
俺に至っては、目の前に居ても攻撃されなかった。
しかし、着けると、仲間がお互いの気配を感じられなくなって、連携に支障をきたす。
リムですら、俺が着けたら、目の前に居て、何とか分かると言うレベルだ。
皆、見えてはいるはずなのだが、見えている事を拒否している、といった状態と思われる。
俺からは全員分かるのだが、同士討ちのリスクが高すぎる。
しかも、魔物に気付かれないとは言っても、こっちから攻撃をしようとすると、すぐに気付かれるようで、正確にこちらを攻撃してくる。
どうも、敵意のようなものに反応するようだ。
つまり、魔物とやり合う場合、効果としては微妙なところなのだ。
だが、偵察限定ならどうだろう?
こっちから仕掛けなければ、相手も気付かない可能性が高い。
眼が四つもあるから、効かないかもしれないが、試す価値はあるだろう。
「できたわ! 名前はどうする?」
「そうだな。【忍び足の靴】でいいだろう。今から履いて、俺が先に小部屋に入るから、全員、小部屋の中がぎりぎり見える位置で待機。お前達も、【認識阻害の帽子】に付け替えておいてくれ。お互い、ぶつからないように注意しろ。手を繋いで行くといい。後の指示はテレフォンで伝える。あと、【サラの剣山】を貸してくれ。何か一つでも効けばラッキーだ。」
「「「「「はい!」」」」ですにゃ!」
俺は、【素早さ20%アップ】のついた、【俊足の足袋】を履いていたが、それを、今できたばかりの、【認識阻害大】をつけた、【忍び足の靴】に履き替える。
相手に見つからないのなら、運動性を捨ててもお釣りが来るはずだ。
「じゃあ、行くぞ。」
俺は、【サラの剣山】を握り、慎重に降りて行く。
ふむ、部屋に入っても、襲われない。
しかし、近づくと、ナインティードラゴンは、地面に立ったままだが、きょろきょろしだした。
こいつには気付かれたか?
だが、象の化物の方は、俺が目の前に居ても、微動だにしない。
うん、これはチャンスだ。
俺は、【サラの剣山】を、纏めて巨象に突き刺した!
「バォ~ッ!」
流石に奴は気付いたようだ!
俺に向かって突進してくる!
ドラゴンの方も気付いて、俺にブレスを吐こうと身構える!
「チッ! どれも効果は効かないようだ! お前達はそこで待機! 返事はするな!」
流石にこの状態でテレフォンを使う余裕は無く、俺は大声で指示を出す!
返事を拒否したのは、当然、仲間を敵に気付かせない為だ。
現状、俺達は【火無効】なので、ドラゴンのブレスは俺達には効かない。
奴の攻撃はブレスが主体だ。
なので、ドラゴンだけなら楽勝なのだが、この未知の巨象が鬱陶しい。
ふむ、どちらかだけならいけるな。
巨象の方も、鉄球を振り回しながら、突進してくるだけで、特殊な攻撃は無さそうだ。
もっとも、間合いに入るのは大変そうだが。
「ハイスタン!」
俺は、反射の盾を翳しながら唱える!
実はその時、俺に、ドラゴンのブレスが直撃しているのだが、全く効かないので、軽く無視している。
奴の動きが止まる!
ふむ、効いているようだ。
なら、この隙に体制を立て直すか。
「縮地!」
俺は、一瞬で部屋を飛び出す。
目の前にカレンが居るのだが、当然彼女は気付いていない。
うん、やはり追って来ないな。
これだけ距離を取れば大丈夫のようだ。
仕切り直し成功だ。
俺はテレフォンで皆に伝える。
「全員、上の階まで撤退だ。慌てず、手を繋いだままでな。声も立てるなよ。」
「「「「「はい!」」」」」
全員がそろそろと移動していく。
俺は全員が昇り切るのを見届けた後、続く。
「よし、もう大丈夫だろう。帽子をいつものに変えろ。」
「「「「「はい!」」」」」
俺も、靴を【俊足の足袋】に履き替える。
彼女達は、お互いを完全に認識できるようになって、ほっとしたようだ。
「それで、アラタさん、どうするつもりっすか?」
「焦るな、カレン。先ずは状況の説明からだ。あのでかぶつの反応から、あいつには、ドラゴン程の認識能力は無さそうだ。そして、魔法も、【ハイスタン】が効いた。」
「はい、あたいらが見ていても、そんな感じだったっすね。でも、三体同時はきつそうっす。」
「問題はそこだ。ドラゴンだけなら?」
「今のあたいらなら、何とでもなるっす。」
「そう、要は、一緒にいるから面倒なだけだ。あのでかぶつだけなら、俺とサラの、【ハイスタン】をかましている間に皆で凹ればいけそうだろ?」
「そうっす・・・、あ、分かったっす! ドラゴンだけを先に狩るんすね!」
皆も、理解してくれたようで、笑顔になる。
「うん、【認識阻害の帽子】を着けずに、普通に降りていけば、ドラゴンは俺達に気付いて追って来るだろう。しかし、でかぶつの方は部屋に入るまで気づかない。つまり、狭い通路でドラゴンを先に仕留めてから、でかぶつをやろうという作戦だ。」
「いい作戦です。狭い通路なら、ドラゴンも上手く飛べないですし、私達に有利です。」
「その通りだ、ミレア。俺も、飛び乗らなくても済みそうだ。」
ドラゴンを小部屋で狩る時は、まず地面に叩き落すことが重要だ。
今までは、俺が飛び乗って翼をへし折るか、サラの魔法の矢で翼の付け根を狙撃していた。
しかし、通路ならクレアの槍も、カレンの剣も届くし、津波の魔法も躱せない。
「じゃあ、通路に出て来た所を、カレンが挑発して、リムが【大津波】、後は皆で凹る。これでいいな?」
「「「「「はい!」」」」ですにゃ!」
俺達は再び通路を降りて行く。
降り切ったところで待っていると、予想通り、ナインティードラゴン二体が、窮屈そうに通路を飛んで来る。
「挑発!」
うん、挑発が効くのは実証済みだ。
ドラゴン二体は、カレン目掛けてブレスを吐いて来た!
「よし! 俺とクレアは、この隙にドラゴンの背後に回り込む! リムは、確認したら唱えろ!」
「「はい!」」
リムの【大津波】の威力だと、ドラゴンが小部屋まで押し流される可能性が高い。
なので、途中で少しでも削ろうという算段だ。
今までの経験だと、リムの【大津波】3発なら確実だった。
しかし、それでは燃費が悪い。
大魔法なだけに、消費が高く、リムでも5発が限度だからだ。
もっとも、俺が【サイコギフト】で俺の気力をやれば済む話なのだが。
俺の気力は、【サイコドレイン】で魔物から回収するだけだし。
「大津波!」
俺とクレアが回り込んだ瞬間、激しい濁流がドラゴンを呑み込んで、こっちに来た!
「喰らえ! コンボラッシュ!」
俺は、ドラゴンの顔面目掛けて、左右のワンツー、膝蹴り、更にワンツー、そして最後に飛び蹴りの、連続攻撃を決める!
相手は、濁流の中で無防備だが、こっちには影響が無いので、やりたい放題だ!
俺の拳には、【防御半減】もついているので、この攻撃で、あっさりと息絶えたようだ。
頭の原型は既にない。
実はこの攻撃、今みたいに完全に決まれば、これだけでナインティードラゴンを葬れる。
なので、俺が偵察に入った時、その気になれば、一体くらいは仕留めることもできたのだが、あの時は巨象にばかり気が行っていて、完全に忘れていた。
まあ、横槍が入れば成功しないしな。
「こっちも行きますわ! 五点連穿!」
クレアも、もう一体に連続攻撃を決めている!
クレアの槍にも、【防御半減】効果がついているのだが、これだけでは無理だったようだ。
ドラゴンの眼にはまだ光が宿っていて、必死に反撃しようともがく!
「止めですにゃ! 精密三連!」
サラの弓矢が、正確に、頭、首、胸に突き刺さる!
轟音と共に、ドラゴンの身体から、赤い靄が漂う!
矢が当たった場所の血が爆発させられている!
「荒れ狂う・・・、あ、必要無いですね。」
完全に動かなくなって、小部屋まで押し流されて行くドラゴンを見て、ミレアが残念そうに洩らした。
「よし、ドラゴンは片付いたな。リム、他のはどうだ?」
「ええ、他の部屋の奴はまだ気づいていないようよ。今のうちにあの化物を仕留めないと!」
「そうだな。カレンは挑発! サラちゃんは、俺と交互に【ハイスタン】だ! 後は臨機応変に!」
「「「「「はい!」」」」ですにゃ!」
俺達は、カレンを先頭に、小部屋に飛び込む!
巨象は、すぐに俺達を認識し、突進してきた!
「挑発! こっちっす!」
チッ!
奴はカレンの挑発には目もくれず、横から走り込む俺に照準を合わせたようだ。
だが、問題は無い!
「ハイスタン!」
まずは俺が唱える!
巨象は、完全に硬直する!
「隙ありですわ! 三点昇天突き!」
クレアが巨象の足元に潜り込み、喉元に槍を連続で突き立てる!
「荒れ狂うお姉様!」
ミレアも追撃する!
巨大な竜巻が巨象を呑み込む!
だが、まだ、奴の眼には力が残っているようだ。
ここで硬直が切れ、あの棘だらけの足で、クレアを蹴飛ばそうとする!
「ハイスタン! ですにゃ。」
またしても、巨象の動きが止まる!
「喰らいなさい! 落雷!」
リムが叫ぶと、巨象の真上から、凄い太さの雷線が走る!
そして、巨象の頭に直撃する!
「構ってくれないから、こっちから行くっす! 四星陣!」
カレンがジャンプし、巨象の4つの眼、全てに剣を突き入れて行く!
隙が多そうな技だが、今の状態なら大丈夫だ。
これで決まらなければ、俺がもう一度唱えるだけだしな。
流石に、4人の大技が連続で決まったのだから堪らない。
俺が準備していた次の詠唱の前に、巨象は崩れ落ちた。
「ふむ、こいつは名前が無いな。今度は誰がつける?」
俺は回収した魔核を鑑定しながら、皆に訊く。
「では、私が。アラタさんの・・・」
「却下だ! ミレア!」
俺はミレアが言い終わる前に遮る!
これは、変な意味で使われないとしても却下だ!
「この魔物、アラタさんの世界の『ぞう』という生物に似ているのですわね?」
「そうだな、クレア。外国では、エレファントとか、マンモスとか言う。俺の国では古代、『きさ』とも呼んだそうだ。」
命名:あぶないぞう
もういい、好きにしてくれ。
なんか、時間が経つと共に、皆の命名センスが無くなっていく気がする。
一体、誰の影響なのだろうか?
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