奴隷契約
奴隷契約
心の中でリムの声が聞こえる。
「そろそろ起きて! うまく行ったわよ!」
「ん~、分かった。寝る前にステータス表示を教えてくれ。」
「そうね。はい。」
俺の頭の中に情報が飛び込んでくる。
【ステータス表示】
氏名:リムリア・ゼーラ・モーテル 年齢:15歳 性別:女
職業:冒険者 レベル:3
体力:140/140
気力:190/190
攻撃力:155 +5
素早さ:175 +1
命中:175
防御:140 +26
知力:235
魔力:195 +1
魔法防御:175
スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知1 格闘術1 人物鑑定2 特殊性癖1 回復魔法1 水魔法1 土魔法1 光魔法1 家事2 社交術2 パーティー編成 アイテムボックス58
「うんうん、予想通りだ! ん? スキルが増えてる!」
「昨晩、彼女達に魔法書を読ませて貰ったのよ。でも、火と風は覚えられなかったわ。じゃ、2ページ目いくわよ。」
【選択可能情報】
氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男
職業:貴族 勇者
【装備】
毛皮のコート:防御+10
ロッタの帽子:防御+1 認識阻害弱
皮のグローブ:攻撃力+5
皮の胸当て:防御+5
皮の靴:素早さ+1
布の服:防御+1
布の下着:魔力+1
【所持品】
金貨×1
銀貨×20
「本当に凄いな! リム、いや、モーテルか? 良くやってくれた!」
「リムがいいわ。私の為でもあるから、可能な限り協力するわ。だから早く出て行ってね!」
「そうしたいのはこっちもだ。とにかくありがとう。じゃあ、チェンジだ。」
「うん、おやすみなさい。」
俺はゆっくりと目を開ける。
目の前には精悍な狼顔。
「うわっ!」
「ん、どうしたのだ? 少し様子がおかしかったのだ。」
「いや、大丈夫です。ところで・・・。」
「うむ。言われた通り、このことは黙っているのだ。僕は口が堅いのだ。」
周りを見回すと、昨日の応接室のようだ。両隣にはクレアとミレアが少し不安そうにしている。
「じゃあ、これで冒険者登録は問題ないですね。あ、ちょっと待って。」
俺は【ステータス表示】と念じてみる。
俺のステータスが頭の中に表示される。
ふむ、慣れると頭の中で直接見られる訳ね。
【ステータス表示】
氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男
職業:勇者 レベル:3
ところで・・・何か閃いた。ダメ元だし、やってみよう。
氏名変更:リムリア・ゼーラ・モーテル、職業変更:勇者 と、念じてみた。
【ステータス表示】
氏名:リムリア・ゼーラ・モーテル 年齢:15歳 性別:女
職業:冒険者 レベル:3
思った通りだ! 便利なことに、俺は二重魂の影響で、名前等重要な情報も二重になり、しかも入れ替え可能のようだ。
「あ、いいです。それで、これからのことなのですが。」
「うむ、支援は惜しまないのだ。信頼できる冒険者も数人だが居るのだ。」
「それは嬉しいのですが、まず、ミレアとクレアについてです。どうするつもりですか?」
「僕が匿うつもりなのだ。」
「そこなのですが、彼女達、預からせて頂けませんか?」
「それは僕としてはいい話なのだ。しかし、彼女達はそのうち指名手配される可能性が高いのだ。それに、まだレベルもそれ程ではないし、足手纏いになるのだ。」
「レベルなら僕のほうが遥かに低いです。それに、ダンジョンの中のほうが彼女達にとって安全だと思いますが。」
「むむ、それはもっともなのだ。貴殿がいいのであれば、連れて行くといいのだ。」
「「ありがとうございます! 近衛様! ウルベン様!」」
「では、お預かりします。それと昨日のナガノさんへのお願いの件ですが。」
「そのことなのだ。僕も良く考えてみたのだが、無理なのだ。」
「理由を聞いても?」
「うむ、まず貴殿が何故こんな美少女に転生できたかを、良く考えてみるといいのだ。」
「やっぱりですか。この身体は普通の死体ではなく、意図的に用意されたものなのですね。」
「そうなのだ。最近は貴族達が、召喚の儀の際に死体を献上することが多いのだ。」
「勇者が転生できれば、その死体を献上した貴族に報酬が与えられると。」
「物分かりがいいのだ。だから、貴殿の転生を帝国に任せると、無用な犠牲を増やす可能性が高いのだ。」
俺が黙っていると、
「イオ・・長野様ならきっと何とかしてくれるのだ。何なら僕の身体を使ってもいいのだ。」
「それこそ遠慮しますよ。しかし・・、これは・・きついな。」
「悲観してはいけないのだ。転生のヒントはダンジョンにあるのだ。」
ん? ウルベン、言い切ったな。
これは推測だが、ウルベンは昨夜のうちにナガノさんと連絡を取ったのではなかろうか?
魂転移のことも、そこまで知っていたのなら、昨日断ったはずだ。
「ではダンジョンに期待します。それと魔法書は?」
「そこにあるのを持って行くといいのだ。まずはそこから始めるのだ。その2属性は勇者に適性が高いと言われているのだ。でも、多分どちらかしか使えないのだ。」
ウルベンが指した先には2冊の本があった。
『君にもできる! 闇魔法』『今日から魔法使い! 光魔法』
俺は光魔法しか覚えられないような気がするが、せっかくだし両方貰っておこう。
もしかしたら、クレアかミレアが覚えられるかもしれない。
「ありがとうございます。あと、準備してくださった冒険者ですが。」
「3人居るのだ。レベルは40台。即戦力なのだ。」
「申し訳ないですが、最初は彼女達だけで行こうと思います。そのほうがナガノさんの意思とやらにも添えそうな気がしますので。」
「むむ。予想外なのだ。でも、僕は嬉しいのだ。イオリちゃんも喜んでくれるのだ。」
「はい、では行ってきます。」
「うむ、何かあったらすぐに帰ってくるのだ。ここは辺境だから暫くは安全だと思うのだ。」
俺達が冒険者ギルドを後にすると、二人が満面の笑みで纏わり付いてきた。
「今は近衛様ですわね?」
「ああ。リムから話は聞いているよね?」
「はい、登録を済ませてウルベン様のお部屋に入られてから、入れ替わったのですね?」
「うん、良く気付いたね。」
「雰囲気が全く違いますわ。」
「モーテル様から合図みたいなものを感じました。」
「なるほど。」
「しかし、再び勇者様とダンジョンに潜れるなんて、夢のようですわ。」
「本当にありがとうございます。ところで近衛様、ご提案があるのですが。」
「あ~、昨晩の話か。」
俺は昨晩、リムと今後のことを相談した。彼女は俺が起きている間、夢を見ている感覚で俺の行動を見ていたらしい。なので話が早い。
彼女は帝国に戻って研究が成功するまで待ちたかったようだが、ダンジョンに潜るという、俺の案に同意してくれた。今考えてみれば、彼女も召喚の犠牲者なのは間違いないだろう。
後は今日の段取りについてだった。
最後に、クレアとミレアを連れて行きたいと言ったら、『それはいいのだけれど、お姉様達の気持ちは?』と聞かれてしまった。しかし、そこで落ちてしまったので、リムに丸投げしたままだったのだ。
俺は昨晩の夢を少し思い出してみる。
「もし、アラタがダンジョンにクレアさんとミレアさんを連れて行きたいと言ったら、どうします?」
「勿論、ご一緒させて頂きますわ!」
「はい、断るなんてとんでもないです。しかし、私共はいずれお尋ね者になるでしょう。その時、近衛様にご迷惑がかかります。」
「お尋ね者なのは、あたしも同じです。」
「では、こうすれば如何でしょうか? 私共をモーテル様の奴隷にするといことで。」
ミレアが予想外の提案をする。
「え?! それに何の意味があるの? 確かに奴隷になればファーストネームだけになるから、ばれにくくはなるけど・・・。」
「それだけではございません。奴隷ならば物扱いなので、検問で怪しまれません。」
「でも、冒険者の職業が消えちゃうでしょ? お二人とも職業が冒険者だったのは、アラタに聞いたわよ。」
「冒険者の所有する奴隷は、冒険者に近い恩恵が受けられますので、問題ないです。」
「う~ん、あたしでは判断できないわ。アラタが起きたら直接聞いてみて。あたしにとってお二人は、美人なお姉様というイメージなので、奴隷なんて違和感があるのだけど。」
「美人なお姉様だなんて! 萌えますわ!」
「背徳感が半端ないです!」
「あ~ん、近寄らないで! これ以上『特殊な』スキルを成長させないで!」
確かこんな感じだったはずだ。
「何となく聞いていたけど、奴隷なんて本当にいいの? 俺にとってデメリットは無さそうだけど、何か大切な物を失う気がする。」
「構いませんわ!」
「問題ないです。近衛様の信用も得られそうですし。」
「でもな~・・・。」
「奴隷にして下さらなければ、私共、近衛様に同行できないです!」
ミレア! そう来るのか!
まあ、俺も脅しはさんざん使ったし、文句は言えないな。
なら連れて行かないって言えば、折れそうな気はするのだが、彼女達の熱意に負けたとうことにするか。
こんな美人を奴隷になんて・・・ぐへへ。
だが、現実は無情だ。この『女の身体』では逆に地獄です。
「あ~、もう勝手にしてくれ! で、その奴隷とやらにするにはどうればいい?」
俺達は彼女達の案内で、奴隷商なるところに行き、手続きを済ませた。
主人の下卑た視線が痛かったが、手続きそのものは簡単で、費用は銀貨20枚。数分で済んだ。
奴隷に対しての命令は絶対らしく、所有者の命令には逆らえないとのことだった。矛盾した内容の命令には奴隷自身の判断が適用されるが、苦しめることになるので注意しなければならないようだ。
「道具屋へ寄って最後の準備をしよう。」
道すがら、彼女達に何が必要か聞く。
「え~っと、ダンジョンで必要なものを買い揃えたい。俺は分からないし、君達が持っている物と被ってもなんだし、頼むよ。」
「そうですわね。調理器具とか野営用の装備は私共が持っておりますし、回復系の薬と、松明、それに結界石ですわ。ご主人様。」
「あと、水と食料です。ご主人様。」
俺の呼び方が変わってるぞ。これも奴隷効果なのか?
「ありがとう。でも、その『ご主人様』は止めて欲しい。人目もあるし。あと、仲間になったんだから、その他人行儀な敬語もできれば何とかならない?」
「あら、私共は奴隷ですし、この言葉遣いは当然ですわ。」
「ご主人様こそ、私共のような身分への言葉遣いを変えて頂きたいです。もっと、厳しく命令口調でお願いします。そう、『この雌豚!』とか罵るようなのがいいです。」
ん? ミレアの言い方が引っかかる。目がヤバイ。
こいつ、そんな属性も持っていたのか!
「分かった。じゃあ、妥協点だ。『お前ら』は、俺には『アラタさん』と呼ぶ。敬語は禁止しないが、もっと砕けて欲しい。これは命令だ!」
「命令なら仕方ありませんわ。アラタさん。」
「『お前ら』で我慢します。アラタさん。」
俺はリクエストに従って? 後輩に使うような、少しきつめの(偉そうな)言い方にすることにした。
俺達はその後道具屋に寄って必要な物を買い揃えた。水は、樽を購入して俺のアイテムボックスに入れる。結界石がそれなりの値段がして、財布は殆ど空だ。二人が払おうとしたが、金はお前らも持っていたほうがいいと断った。
「じゃあ、街を出る前に作戦会議をしよう。」
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