サラの資質
サラの資質
翌朝、早速彼らが来たと、サラがリビングに駆け込んで来た。
既に、皆の準備は整っている。
彼等には、玄関で待って貰い、最後の伝達だ。
俺は、普段着けている、素早さ20%アップ、攻撃力20%アップ、魔力20%アップの効果の付いた首輪を、リムに預ける。
【弱体化の拳】も渡そうとしたが、接近戦はするつもりがないようで、断られた。
【三重苦のナイフ】も、特に隠すつもりはないのだが、あまりの効果なので、楽でき過ぎてしまうと、こいつも、断られる。
もっとも、どの魔物にどの効果が効くかは既に知っているので、他の武器で充分代用できるのだが。
「アラタさんは、もう少し一般的な冒険者の装備を知ったほうがいいっす。こんなチート装備している奴なんて、あたいらだけっす。」
「それに、あたし達が居なくても、アラタが自分の身を守れる、最低限の装備は持っておくべきよ。まあ、今のアラタには、伝説の長野さんくらいしか、敵わないでしょうけど。」
ふむ、彼女達の本音は、リムが纏めてくれたようだ。
自分達よりも、俺のことを案じてくれている。
その気持ちは嬉しいのだが、やはり、気になる。
子供をお使いに出す、親の気分か?
どうしても、あれもこれもと持たせたくなってしまう。
「あと、あの変な名前の範囲魔法は、あまり使うなよ。真似されて広まると、あの呪文が正式なものとして定着してしまうぞ。」
もっとも、魔法の本質を知らない他人が、あの呪文で成功するとは思えないが。
「大丈夫です。お姉様にも小声で唱えるように言われてしまいました。」
「私の愛を隠す必要はありませんわ。でも、命令なら我慢しますわ。」
「ふむ、じゃあ、くれぐれも気を付けてな。ミレアは、テレフォンで報告頼むぞ。」
「「「「はい! 行ってきます!」」」」
彼女達を送り出した後、俺は工房に籠る。
家の中が一段落したのか、サラが俺の背後霊となった。
魔核の付与の作業が物珍しいのだろう。
「それ、私でもできますかにゃ?」
「う~ん、どうだろう。差別する訳じゃないが、亜人には難しいかもしれない。カレンは、鍛冶師としては一流だが、この作業はできないみたいだ。」
危うく、試して見るかと言いかけて、昨日のマリンの言葉を思い出す。
いかん!
この娘をこっちの世界に関わらせてはダメだ!
しかし、彼女は、俺の考えなんざ知らない訳で。
「やってみたいですにゃ! 私でも出来るかもしれないですにゃ!」
「まあ、無理とは言わないが、難しいと思うぞ。」
遠回しに否定するが、彼女はお構いなしだ。
「やってみないと分からないですにゃ!」
う~ん、仕方無い。
俺は、最初に成功したパターンである、鉄のダガーとゴブリンの魔核を取り出す。
カレンですら成功しなかったのだ。
これで諦めてくれることを願うのみ。
「この魔核の中身に自分の気力を込めて、このダガーに移す感じだ。慣れれば簡単だが、その感覚を会得できるかは、個人差があるから、失敗しても気にするな。」
「はいですにゃ。じゃあ、やってみますにゃ!」
ぬお?
鉄のダガー:攻撃力+6
成功しやがった!
ちゃんと、魔核の効果、攻撃力が+1されている!
「凄い! サラちゃんは、魔法の才能があるのかもしれない! 初めてで成功するなんて!」
「てへ。出来ると思えば、出来るのですにゃ!」
亜人は、魔法に関する事は苦手だと思い込んでいたが、これは改めねばならないようだ。
「ところで、サラちゃんは、魔法とかは使えるのかな?」
「水魔法なら、得意ですにゃ。お風呂を入れる時、便利ですにゃ。」
なんと、魔法も使えるとは!
なんか、マリンの言葉の重さが増してくる。
いや、ダメだ!
ここはこれで打ち切るべきだ!
彼女をダンジョンになんか、連れて行けない!
「私の言った事に、嘘はないざます。サラちゃんは冒険者としても優秀な素材ざます。混血だからでしょうか。亜人には珍しく、魔法の素質もあるざます。」
マリン! いつの間に!
確かに、亜人としての攻撃系の伸びに加えて、魔法まで使えるとなれば、冒険者としては一流になれる可能性が高い。
まあ、詳しい事はカレンにでも聞かなければ分からないが、魔法関連の才能は間違いなくある。
魔核の付与には、リムだって苦労したのだ。
「だが、マリン、昨日も言った通り、俺にその気はないぞ。」
しかし、マリンの口元が大きく吊り上がる。
これは、勝ち誇った時の表情だ!
サラは、きょとんとしている。
話題が理解できていないようだ。
「大体、マリンも可愛いサラちゃんを、危険なダンジョンなんかにやりたくないだろう? 現に俺の仲間は一人死んでいる。今日の連中だってそうだ。あいつらも、仲間を失った結果が今回の就活だ。」
「あの方達のパーティーになら、サラちゃんは入れないざます。アラタ様のパーティーだからざます。あの娘達を見ていれば分かるざます。今日だって、ピクニック気分ざます。」
確かに、今日の目的地は一度クリアした階層だから、彼女達にしてみれば楽勝モードだろう。
だが、不測の事態は常にある。
危険な事には変わりない。
「大体、俺のパーティーに入るということは、俺の奴隷になるという事でもあるぞ。何を好き好んで、そんな無茶。」
「アラタさんの奴隷なら構わないですにゃ。」
ぐはっ!
「いや、サラちゃん、そんな問題じゃない。君はここで安全に暮らしていればいい。ダンジョンなんかに潜る必要は全く無い!」
「アラタさんのお側に居たいですにゃ。そこがダンジョンだって気にしないですにゃ。」
こいつもか!
しかも、マリンと何の話をしていたか、完全にばれたようだ。
まあ、ここまで言えば、アホでも分かるか。
「いや、今だってこうして側に居るぞ。とにかく、ダンジョンは危険だ。俺はサラちゃんをパーティーには入れない!」
「サラちゃん、ここは一旦退くざます。感情的になった殿方には、何を言っても無駄ざます。」
「はいですにゃ。でも、もし人数を増やすのなら、私も立候補しますにゃ。」
嵐は過ぎ去ったようだ。
その後、魔核の付与の作業を終了し、マリンとサラ、三人で夕食となったが、危惧していた、新メンバーの話にはならなかった。
食後、久しぶりに一人で風呂に入る。
いつも賑やかなバスタイムだったので、こうなってみると、広い風呂も何か落ち着かない。
根が小市民なので、仕方ないな。
意地になって、貸し切り気分を満喫しようとしていると、ミレアから連絡が入る。
「今は39階層です。これから野営します。」
「そうか、お疲れ様。皆、無事か?」
「当然です。カレンさんがうまくルートを選定してくれるので、彼等も安心しているようです。」
ミレアの話によると、セバンは盾役もできる剣術使い。
この階層の魔物でも、充分に盾役として働いてくれるようだ。
だが、盾役は安定しているカレンに譲り、専らクレアと共に、攻撃に回っているそうだ。
また、ポロックは弓による、援護射撃の名手。
スコットに勝るとも劣らないらしい。
スコットの場合、俺のパーティーに居たことにより、普通の冒険者よりも、成長がかなり早かったはずだ。
それを考慮すれば、彼らの熟練ぶりが伺える。
そして、俺が渡した防具もかなり役に立っているらしい。
特にこの階層には、炎を吐きまくるファイアウルフが居るので、火耐性のある【ダークウルフの帽子】は欠かせない。
魔法に関しては、セバンが土と回復、ポロックが闇に適性があったとのことだ。
セバンにはリムが、ポロックには俺が教えれば、かなりの戦力になるはずだ。
「ふむ、問題無いようで何よりだ。最初の目的は次の階層主、ダブルジャイアンの魔核だから、それを狩った後は、リムに任せると伝えてくれ。一旦帰るもよし。そのまま50階まで行くもよしだ。」
ダブルジャイアンの魔核は【防御半減】効果があるので、是非ともクレアの槍にと思っている。
また、次の40階層から下の魔物、ドリルモグも、【素早さ10%アップ】という優れた効果がある。
「かしこまりました。リムちゃんに伝えておきます。では、失礼します。」
その晩、一人で寝ようとしていると、ノックが入る。
「一緒に寝たいですにゃ。」
「アホ! 一人で寝ろ!」
「酷いですにゃ! これでも許婚者ですにゃ! このチャンスを・・・、いや、何でもないですにゃ。」
全く、どいつもこいつも。
この屋敷には、ピンクのオーラでも溢れているのだろうか?
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