志願者
志願者
「冒険者ギルドから、依頼完了の報告が入っているざます。」
ふむ、そう言えば忘れていたな。
以前、20階層と30階層の主の魔核と素材を依頼していたのだった。
早速、ギルドへ飛ぶ。
すぐに帰るつもりだったのだが、一応、用心の為にクレアも連れて行く。
もし何かあっても大丈夫なようにと、勇者会談の時と同じ人選だ。
冒険者ギルドに入ると、何やらいつもよりも人が多い。
「あの、勇者、近衛様でしょうか?」
いつもの受付嬢の居るカウンターへと歩いて行くと、見知らぬ男に声をかけられた。
茶髪でがっしりとした体格。
聖銀製の重装甲を纏っているが、兵隊には見えない。
おそらく、冒険者。
それも前衛で、且つ熟練者の可能性が高い。
駆け出し冒険者には、聖銀は高くて買えないからだ。
「そうだけど。貴方は?」
「私はセバン・ボランドと申します。冒険者を生業にしています。失礼ながら、勇者様のパーティーには、まだ空きがあるとお聞きしました。私は、剣術とガードのスキルには自信があります。誠にぶしつけではありますが、是非、私を加えては頂けないでしょうか? 私のパーティーは先日、解散してしまったので、路頭に迷っているのです。」
う~ん、これはこっちも迷う。
確かに戦力は欲しい。
空きがある以上、今のままで完全とはとても言えない。
前衛、しかも盾職がもう一枚加わるなら、カレンの負担も減らせる。
これから深層階を進むのなら、是非とも強化しておきたい。
しかし、現状、俺のパーティーは、仲間というよりは家族だ。
そこに他人を入れるのには抵抗がある。
俺がクレアに振り返ると、彼女も俺と同じ考えのようで、迷っているようだ。。
「私からは何も言えませんわ。」
すると、もう一人の冒険者風の男が、また声をかけてきた。
背中に弓を背負っている。
こいつも茶髪で、顔立ちは、割と若そうに見える。
高身長で、筋肉質というよりは、バランスの取れた体格と言ったところか。
「す、すみません。セバンの話を聞いてしまいました。そういうことなら、僕も立候補させて下さい! 僕はポロック・カーンと言います。元々、セバンと同じパーティーで、弓には自信があります! 実は、先日のクエストでリーダーを失ってしまい、それでパーティーが解散してしまいました。セバン、悪いが、僕も冒険者を続けたいんだ。できれば、ハイレベルな人達とね。」
「え? 先日のクエストって、もしや、30階層の主の魔核と素材って奴か?」
俺は、思わず聞いてしまう。
もし俺の発注した依頼で仲間を失ったのなら、と考えたからだ。
ちなみに、依頼を受けるのは冒険者の自己責任だ。
例え全滅しようと、発注者に非は全く無い。
セバンが答えた。
「はい。そのクエストです。私とポロックと後4人で、依頼そのものは達成したのですが。」
う~ん、これは本当に困った。
確かに俺に責任は無いのだが、何かやるせない。
できれば二人共、と行きたいところだが、空きは一人だ。
以前、スコットの弓にはかなりお世話になった。
弓職も捨てがたい。
「正直に言おう。そのクエストを発注したのは俺だ。貴方達と、亡くなられたリーダーにはお悔やみ申し上げるが、俺は何ら責任を感じていない。そんな奴のパーティーでもいいのか?」
そう言って、俺がクレアを見ると、彼女は俯いてしまった。
あ~、やっちまったようだ。
ここは余計な事を言わずに、断っておけば良かったのだ。
戦力が欲しいなら、それこそ募集をかければいい。
俺の知名度なら引く手数多だろう。
ただ、あのクエストを受けることのできるパーティーなら、相当な実力があったのは確かだろう。
俺の知っている手練れでは、カレンとヤットン達だが、やはり30階くらいだ。
「僕達は、危険を承知で引き受けたのですから、近衛様にはなんら責任はありませんし、恨んでもいません。」
「私もポロックの言う通りだと思います。そんな事は全く気にしません。それで、私と、ポロック、どうでしょうか?」
うん、どつぼだ。
しかし、この二人、相当な信頼関係のようだ。
普通なら、後から来たポロックに、セバンが文句の一つでも言いそうなところなのに。
ここは少し脅してみるか。
「貴方達は知らないと思うが、俺のパーティーは全員俺の奴隷だ。まあ、色々あって、それが最善と考えている。なので、俺のパーティーに加わるなら、俺の奴隷になって貰わないと困るのだが。」
クレアやミレアは、俺とパーティーを組むのが使命だったので、信用を得る為に、自ら奴隷になった。
カレンは元々奴隷だし、リムは、奴隷の能力上昇値がいいことを知ったからだ。
その事を知らない奴は、普通、奴隷なんか断るだろう。
「僕は、パーティーの解散時に、開放して下さるという条件なら、全く構いません。」
「私もそうです。近衛様のお噂は伺っております。奴隷を盾にしない話は、もはや有名です。私とポロック、どちらがふさわしいか、ステータスを確認してください。」
益々もって、困った。
ステータスとかを確認させて貰うと、いよいよ断れなくなる。
「う~ん、参ったな。確かに戦力は欲しいが、今俺達が挑んでいるのは、80階層より下だ。普通の冒険者だと、足手纏いになる可能性が高い。俺も貴方達を守れる自信は無い。」
「「80階層・・・。」」
二人共、絶句した。
うん、これは効いたようだな。
「僕はそれでもいいです! 足手纏いになるようなら、遠慮無く切って下さい! セバン、僕はこういうのがやりたかったんだよ! 報酬だって要りません! そして、例え死んでも後悔はしない!」
「ふむ、ポランド(セバン)さんは?」
「私も望むところです! ポロックに負けたく無い!」
あら、油を注いでしまったか?
「分かった。だが、俺の一存では無理だ。仲間全員と相談したい。それでいいかな?」
二人共、黙って頷く。
クレアもほっとしたようで、顔を上げている。
屋敷に帰れば、交渉事の鬼、リムも居る。
どう転んでも、悪い事にはならないだろう。
俺達は、ギルドのカウンターで、依頼した品を受け取り、屋敷に飛ぶ。
テレポートの石を使わずに転移したことに、二人共かなり驚いていたようだが、それくらいでびびって貰っては困るな。
現在の俺達は、そこらの冒険者とは異次元のレベルに居るはずだ。
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