金色の魔物
金色の魔物
「やっぱり、ミニ工房じゃこれが限界っすね。」
「う~ん、あと少しって感じなんだがな~。」
「アラタ、クレア姉様、ここは一旦諦めて、屋敷の工房で再挑戦よ!」
俺達は72階層の魔物を狩り尽くした後、新しい素材の加工を試している。
玄武の甲羅は、カレンの睨んだ通り、素晴らしい素材だった。
玄武のダガー:攻撃力+50 ??
一般的な鉄製のダガーだと、攻撃力が+5、聖銀製でも+10なので、とんでもない性能だ。
しかも、特殊効果の空きまである。
この素材でちゃんとした武器や防具を作りたかったのだが、ミニ工房では火力不足の為、これ以上の装備が作れないのだ。
現状、俺達のステータスは、俺でほぼ900以上。
クレアとミレアが、平均で約360、リムが500弱。
カレンは少し特殊で、体力や攻撃力だけなら、俺以上の伸びなので、400を超えている。
なので、俺に限って言えば、装備の基本性能はあまり重要ではなく、特殊効果のみ重視だ。
だが、仲間はそこまでではないので、少しでも上げるに越した事はない。
「しかし、結界石が使えないこの層だと、一度引き返したら最後、戻るのが、結構面倒だぞ。」
「そうっすね。できれば80階まで行きたいところっす。」
「まあ、今日はもう寝て、明日どうするか皆で決めよう。」
「「はい。」」
俺達は念の為に、魅了化した玄武を隣の小部屋に配置しておく。
これで何かあっても、時間稼ぎにはなるだろう。
ピンクドラゴンは、耐性でもあるのか、魅了化できなかった。
その晩は、流石に少し緊張していたこともあり、ミレアが求めてきたのだが、何もせずに休む。
翌朝、全員で相談した結果、このまま進むことになった。
73階層へ降りて行く。
例によって、俺は【シースルー】と【ファーサイト】で、この階層全てを見渡す。
「また新顔が出て来たな。今度は人型、それも子供だ。羽がついていて、金色に光って、空中を漂っている。もう一種類は猪見たいな奴だ。牙が6本、こいつも金色に輝いている。」
人型の方は、まさに童話に出てくる天使そっくりだった。
猪の方は、いかにも攻撃力重視といった様相だ。
「その、子供の人型は特殊スキルを持っていそうですね。」
「同感だ、ミレア。次の小部屋には、そいつと玄武とピンクドラゴン。まずは、魅了化した玄武で偵察だな。」
「了解よ! じゃあ、行きなさい!」
リムが魅了化した玄武をけしかける。
玄武は硬く、耐久力があるので、こういう役目には持ってこいだ。
俺達は、部屋の手前で固唾を飲んで見守った。
早速、囮にピンクドラゴンが仕掛けてきた。
口から炎をまき散らす!
もう一体の玄武の方は、同族と見たのか、無反応だ。
玄武の弱点は火なので、少し心配だな。
天使の攻撃方法を探るまでは持ってくれよ。
「ダブルアタック!」
ん? 天使が何か唱えた。
すると、ピンクドラゴンと玄武の身体が真っ赤に明滅しだす!
「あれは多分、支援系統の魔法だろうな。」
「ええ、光り方があたしの攻撃力強化魔法、【ブースト】に似ているけど、色が濃いわね。」
「ふむ、取り敢えずは様子見だ。他に何か唱えてくるかもしれん。」
囮玄武は、懸念していた、弱点である炎の攻撃には耐えたようだ。
今度はピンクドラゴンが、鋭い爪で攻撃してきた!
「げ! あの硬い玄武を一撃って! いくら炎で削られているからって!」
ピンクドラゴンの攻撃で、玄武はあっけなく死体に還る。
「あれは、とんでもない効果のようね。多分だけど、呪文からして攻撃力を倍増させたのじゃないかしら?」
「うん、リム。俺もそう思う。とにかくあの状態の攻撃は喰らいたくないな。」
「他の死体でも試してみますか?」
「いや、ミレア、手持ちの死体も少ない。今あるのは、パワーラビットと、ドリルモグ、それとポーラーベアが一体ずつだ。出したところで、一撃でやられるのは目に見えている。」
「そうですわね。でも、ピンクドラゴンがこっちに向かってきますわ!」
「仕方無い。やるぞ!」
「「「「はい!」」」」
真っ赤に明滅した状態のピンクドラゴンが通路に飛んで来る!
しかし、狭い通路だと、奴の機動力は半減だ。
高度も低く、かろうじて空を飛んでいるという様子。
あれならクレアの槍も届きそうだ。
「挑発!」
「アイスガード!」
「プロテクト!」
カレンがドラゴンを引き付けたところに、ミレアとリムの防御効果の魔法が飛ぶ!
何も指示しなくても、今の俺達なら、これくらいは普通にやれる。
ドラゴンがカレンに噛みつこうと、大口を開けて迫る!
これでは、いくら盾を翳したところで、丸齧りされるので、カレンも避ける!
目標を見失ったドラゴンは、地面に激突した!
「よし、畳み込め!」
「はい! 五点連穿!」
「ウィンドカッター!」
クレアがドラゴンの翼の付け根に、正確に槍を突き刺して行く!
そこへ更にミレアの風魔法が飛ぶ!
この連撃で、奴の翼は完全に折れ、もはや千切れそうだ。
これで奴はもう飛べないはずだ!
「真似してみるわ! アラタ、行くわよ! ダブルアタック!」
「おう!」
俺の身体が真っ赤に明滅しだした!
「なんじゃこりゃ!」
もはやお決まりのセリフだな。
ステータスを確認すると、俺の攻撃力は、総合で軽く2000を超えている!
翼が使えなくなったドラゴンは、それでもカレン目掛けて爪を立てる!
だが、防御を高めたカレンにあっさりと防がれている。
「喰らえ!」
俺は渾身の蹴りをドラゴンの頭に放つ!
「チート勇者に、チート魔法、絵に描いたような最凶コンビネーションですね。」
全くミレアの言う通りである。
見ると、ピンクドラゴンの頭が無くなっていた。
壁には、べったりと血がへばり付いている。
頭の原型は全く無く、完全に潰れたようだ。
「この効果が持続している間に、天使も仕留めるぞ!」
「「「「はい!」」」」
俺達は小部屋に突入する!
天使も玄武も気付いたようだ。
玄武が突進してくる!
「ダブルプロテクト!」
また天使が何か唱えやがった!
今度は玄武の身体が赤と黄色、交互に明滅しだす!
「邪魔だ! どけ!」
俺は玄武の蛇の首を抱え、力任せに投げ飛ばす!
「ふむ、防御アップの魔法のようだな。さっきの感じだと一撃かと思ったが。」
「じゃあ、こいつで大人しくするっす!」
カレンが、甲羅が壁に突き刺さってもがいている玄武に、麻痺効果のダガーを突き立てる!
「クレア、カレン! 玄武は任せた!」
「「はい!」」
俺が天使に飛び掛かろうとすると、何と、奴は隣の小部屋に逃げ始めた!
追おうとしたが、結構素早く、あっという間に逃げ込まれる。
隣の小部屋には、新顔の猪が2体と、玄武が1体居る。
新顔相手に準備無しでは厳しい。
「チッ、逃げられたようだ。そっちの玄武はどうだ?」
「まだっす。とにかく硬くて攻撃があまり効かないっす。」
「焦るな。効果が切れるまで待とう。切れたら、俺が【弱体化の拳】で防御を半減させるから、そこで止めだ。」
「はいっす。あ、光らなくなったっす。」
俺の効果も既に切れていたが、俺が殴ると、一撃で死んだ。
実はさっきの攻撃で、相当のダメージを与えていたようだ。
「じゃあ、次の囮はこいつだ。さっき使った奴は、甲羅が割れているからもう使えないだろう。取り敢えず回復してから使おう。ヒール!」
「【魅惑のリム】の出番ね! あたしに従いなさい!」
リムが魅了効果のナイフを突き刺す。
効いたようで、玄武は頭を持ち上げた。
俺達はピンクドラゴンと玄武の魔核と素材を回収し、天使の逃げた小部屋に向かう。
「行ってきなさい!」
再びリムが玄武を偵察に向かわせる。
囮玄武が部屋に入ると、金猪がすぐに察知し、突進する!
そして、天使がまたもや呪文を唱えた!
「ダブルアタック!」
猪の金色の身体が真っ赤に明滅し始める!
赤と金のコントラストが微妙に綺麗だな。
等と考えている暇も無く、金猪2体が囮玄武に牙を突き立てる!
またもやあっさりと玄武は死体に戻ってしまったようだ。
あのくそ硬い甲羅が穴だらけだ。
「あの攻撃は喰らいたくないな。」
「そうっすね。リムちゃん、あの強化版防御魔法、使えそうっすか?」
「試してみるわ。ダブルプロテクト!」
流石はリムだ。
カレンの身体が黄色に明滅し始めた。
金猪の効果が切れてからと思ったが、切れてもどうせまた使われるだろう。
なら、カレンの効果が生きているうちにやってしまうべきだ。
「じゃあ、行くぞ! いつも通りだ!」
「「「「はい!」」」」
俺は【三重苦のナイフ】を握りしめ、真っ先に飛び込む!
「挑発!」
「ファイアショット!」
「サンダーラッシュ!」
むむ、カレンの挑発が効かないようだ。
金猪2体は、俺に向かって突進してきた!
目の前には、穴だらけになった囮玄武が転がっている。
あれを喰らったら、流石の俺でもかなりヤバそうだ。
「躱すぞ! 後衛、気をつけろ!」
「「はい!」」
俺は擦れ違い様、一体に三重苦のナイフを斬りつける!
斬られた方はそのまま突進し、壁に突き刺さってもがいている。
無傷の方もやはり壁に突き刺さるが、こっちはすぐに立て直し、今度はミレア目掛けて突進しだした!
多分、暗闇効果が効いていると思われるのだが、判断に苦しむな。
「ミレア、避けろ! 当たらなければどうという事も無い!」
うん、このセリフ、一度使ってみたかった。
ミレアが躱すと、奴は再び壁に激突し、方向転換する。
今度はリム目当てのようだ。
「ダブルプロテクト!」
再び天使が魔法を唱えた。
これは厄介だな!
攻撃だけでなく、防御まで固められたら倒すのに一苦労だ!
逃げ回るリムを見ながらも、俺は指示する。
「俺は諸悪の大元を断つ! お前達は金猪を頼む! できれば色々効果を試せ!」
「「「「はい!」」」」
奴は再び通路に向かうが、今度は逃がさない!
「縮地!」
俺は一瞬で出口を抑える!
奴は逃げられないと知ったか、今度は別の魔法を唱えてきた!
「サンダーストーム!」
俺の周りに無数の雷線が走る!
結構痺れたが、ダメージは50くらい。
我慢できない程では無い。
「ふむ、ちっとは効いたが、俺の魔法防御の勝ちのようだな。」
俺は迷わずナイフを突き立てる!
「うん、寝つきのいい子は好きだぞ。」
そういや、親戚の姪っ子をあやすのに、苦労したことがあったな。
天使は宙に浮かんだまま、寝息を立てている。
「こっちは大丈夫だ! そっちはどうだ?」
「暗闇が効いてるっぽいんすけど、こいつらの攻撃は直線的なんで分かり辛いっす。」
見ると、部屋中を金猪がめったやたらに駆けまわっている。
身体は既に光っていない。
そして一体が、こっちにも来た。
俺を狙ってなのか、たまたまなのか?
微妙に軌道がずれているので、恐らくたまたまだろう。
「起こされると面倒だな。」
俺は鼻面目掛けて正拳を叩き込む!
奴はもんどりうって転げまわる!
手があったら、きっと鼻を抑えているに違いない。
「止めだ!」
俺が蹴飛ばすと、骨の折れた感触が伝わり、動かなくなった。
【防御半減】の効果のせいだろう。
結構あっけない。
もう一体は、壁に突き刺さっているところを凹り倒されている。
その後、天使は、俺が気力を【サイコドレイン】で吸収し尽くし、無力化したところで止めを刺した。
魔核を回収すると、こいつらにも既に名前があった。
カバーエンジェルの魔核×1
ストレイトピッグの魔核×2
ストレイトピッグの牙×12
その日は75階層で休憩となった。
結界石が通用しないのは、どうやらピンクドラゴンだけのようなので、75階層はそいつが居る部屋だけを狩り尽くした。
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