釣り
釣り
翌日、サラの提案の元、屋敷の全員で、帝都近くの、直径2kmくらいの湖に来ている。
クレアの言った通り、ほとりには釣り道具屋みたいなものがあったので、そこで全員仕掛けと竿を借りる。
釣り道具屋の主人の話だと、ここに来る人は、大抵、日本で言う所の、鱒のような魚を狙うらしい。
普通、淡水魚は泥臭さを処理するのが大変だが、その魚はその心配がなく、非常に美味いと評判のようだ。
俺が好きな帝都のホテルの魚料理も、この魚を使用していると聞いた。
「で、サラちゃん、餌はこの魔物の肉でいいのか? 魚が普段から食ってる物とは思えないが?」
俺が手にしているのは、フォートウルフの肉片。
それを、チロルチョコくらいの大きさにカットしてある。
「そうですにゃ。狙いのパイクトラウトは肉食ですにゃ。湖に落ちた獲物は、寄って集って何でも食べますにゃ。」
ふむ、名前からは鱒のようだが、イメージとしてはピラニアだな。
「早速、釣れたざます。このくらいのサイズが美味しいざます。」
見ると、30cmくらいの、歯の鋭い、深海魚みたいなのをマリンが抱えている。
グロテスクだが、そういう奴程美味いと聞くので、ある意味納得。
だが、話と名前とのギャップは否めない。
どうやら、簡単のようだ。
マリンだけでなく、リムもミレアも釣っている。
うん、晩飯の確保には成功したようだ。
さて、俺もそろそろと、竿を出そうとして思いついた。
皆と同じものを釣っても意味が無い。
晩飯は既にある。
餌を変えてみよう。
何か面白いのが釣れるかもしれない。
横を見ると、カレンも同じことを考えていたようで、餌を変えている。
「カレン、そ、それはなんだ?」
「あ、ドリルモグの一匹掛けっす。大物狙いっす!」
食料用として確保していたドリルモグを、一匹まるままだ!
いつの間にか、竿までごついのを用意している。
「ふむ、面白そうだな。俺もやってみよう。」
俺も釣り道具屋へ引き返し、大物狙いの竿を借りて来る。
主人の話だと、大物には、釣ったパイクサーモンを餌にするのが主流らしい。
皆、釣れているので、生きの良さそうなのを一匹失敬する。
お約束の、カレンやサラの尻尾を水に浸けるというのは無しだ。
「う~ん、なかなか思い通りの場所に誘導できんな。」
針をつけたパイクサーモンは、岸周辺の浅瀬でぐるぐる回り出し、大物が居そうな深みへは潜ってくれない。
「ならば!」
俺は【魅了】効果のついたダガーで、餌のパイクサーモンを軽く小突く。
「よし、効いたようだ。そこの深場へ行け!」
うん、これで完璧なはずだ。
「あ、その方法いいっすね。あたいもやるっす!」
カレンにダガーを渡すと、カレンもドリルモグを小突く。
「あっちの深場で、獲って来いっす!」
二人共、待つこと数分。
「来たっす! カレンモグ、行けっす!」
カレンの竿が大きくしなる!
ん? カレンモグ?
あいつ、餌にも自分の名前つけるんかい!
まあ、それはいい。
問題はその後だった。
2mはあろうかとう大魚が浮いて来た!
良く見ると、腹に大穴が開いている。
「カレン、それは釣りとは言わないぞ! むしろ鷹狩りだ!」
「獲れれば何でもいいっす!」
カレンモグは、浮かんだ大魚に更に突進する!
もはや、大魚は穴だらけだ!
そら、死体とは言え、元は40階層より深い場所の魔物だ。
でかいだけの魚相手じゃ、勝負?は見えている。
ドリルモグ、水中でも闘えるのか? とか、
竿を使う意味あるのか? とか。
突っ込み所は満載だな。
でも、カレンが上機嫌なので、それでいいか。
その日の晩は、皆で釣った魚を美味しく頂く。
丸ごと素揚げしたのが絶品で、サラは頭からかぶりついている。
うん、これはあのレストランにも負けない味だ。
カレンの獲った?大魚は、名前をレッドカープというらしく、こいつは刺身が美味かったのだが、何しろ量が多い。
余った分はアイテムボックスに保管する。
これでダンジョンでの食生活に華が添えられるだろう。
ちなみに、俺は釣れなかった。
と言うより、食材が確保できたのでやる気が起きず、木陰でクレアの膝枕だった。
たまには、こういうのんびりしたのもいいだろう。
「さあ、明日からはまたダンジョンだ!」
今回はかなり短めです。
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