70階層
70階層
3日後、現在、俺達は70階層の扉の前に居る。
途中、今までの法則通り、新顔が2種類出た。
ここでは、以前魅了化した、ポーラーベアが大いに役立ってくれた。
サキュバス、こいつは体力を吸い取る魔法、【フィジカルドレイン】を使い、更に、こいつに攻撃を受けると、かかっていた全ての魔法が解除される。
盾役のポーラーベアも、只の死体に戻ってしまう。
おまけに、強力な水の範囲魔法まで使って来た。
三重苦のナイフも効かなかったので、かなり面倒だったが、体力も防御も大したことは無く、俺の本気の蹴りで一撃、クレアの【五点連穿】でも、瞬殺だ。
魔核を武器に付与すると、【解除】の効果がついた。
なるほど、解除の小太刀の出元はこいつのようだ。
もう一種類もかなり厄介な奴だった。
命名:ダイナマイト。
こいつには、あらゆる特殊効果が効くのだが、中途半端に攻撃すると自爆しやがる。
また、火魔法でも爆発する。
複数居ると、連鎖して爆発するので、かなり危険だ。
この爆発攻撃は【リフレクトシールド】でも防げないので、魔法ではないようだ。
また、魔核そのものが爆発しているようで、爆発せると魔核が残らない。
防御を半減させてから、俺の渾身の蹴りで一撃。
クレアとカレンの攻撃だと、うまく削らないと自爆するので、専ら俺が止めを刺す。
こいつの魔核は、付与しようとすると爆発しやがった。
ある程度想定していたので、被害は俺だけだったのが、不幸中の幸いだ。
結局、こいつの魔核は名前通り、ダイナマイトとして利用することにした。
魔物の群れに投げ込み、火魔法を唱えると、いい感じに敵の体力を削ってくれる。
後々の事を考えて、できるだけ爆発させないように倒す。
「ふむ、今回はまとものようだな。」
俺は【シースルー】で主部屋を確認する。
中には、主と思われる、巨大なスライムのようなのが、中心に1体。
かなりでかい。直径5mくらいありそうだ。
その周りには、ストーンゴーレム、メデゥーサ、サキュバス、ダイナマイトが一体ずつ。
「では、手筈通りでいいですね?」
「ああ、扉を開けた瞬間、ダイナマイトを各自一個ずつ部屋の中心に投げ込み、ミレアが点火する。これでお引きは一掃できるはずだ。」
「それで、次はこのストーンゴーレムの死体の出番ね。」
「そうだ。連れて来るのに苦労したが、やっと役に立つな。」
ストーンゴーレムは重すぎて、アイテムボックスには、俺でもぎりぎり1体が限度だ。
なので、二体を魅了化した状態でここまで運んだ。
「じゃあ、あたいは扉の入り口で防御に専念っすね。」
「まあ、主の出方次第だが。ストーンゴーレムを突っ込ませてからは臨機応変だ。皆、くれぐれも俺の指示に従ってくれ。」
「「「「はい!」」」」
全員、リムに強化させた後、俺が扉を開ける。
お引きはすぐに気づいて向かって来る!
「よし、投げ込め!」
部屋の中心にダイナマイトの魔核が放り込まれる!
「ホーミングファイア!」
ミレアの呪文と同時に、全員、扉の陰に避難する!
凄まじい轟音が連続して響き渡る!
お引きを含めて6連発だ!
これで死なない奴は、まず居ないのではなかろうか?
爆風をやり過ごし、危機感知レーダーで確認する。
「なんじゃこりゃ?!」
部屋の中は無数の赤点に覆いつくされている!
爆発のせいで、部屋の中はもうもうとしており、全く見えない。
しかし、異常事態であることは間違いない!
「行け! ゴーレム! 全員、そのまま待機!」
「「「「はい!」」」」
俺は2体のストーンゴーレムを突入させる。
しかし、入り口から、無数の直径30cmくらいの、水の球みたいなのが飛び込んで来た!
入り口で、ストーンゴーレムが穴だらけにされる!
そしてあっさりと倒れる。
見ると、溶かされているようだ。
これは不味い!
俺は慌てて唱える!
「地獄の業火!」
焦って唱えた結果、威力は大したことなかったが、それでもかなり効いたようだ。
透明な球体は一瞬で蒸発するように消えた。
「よし! ミレア! 入り口に火魔法!」
「はい! ファイアウォール!」
これで通路への侵入は防げるはずだ。
囮の結果からすると、奴らは物を溶かせるようだ。
そんなの喰らったらとんでも無い!
「ファイアウォール!」
俺も入り口の炎の壁を増強する!
「ミレアはそのまま壁を維持しろ! 他は盾を構えて入り口で待機!」
「「「「はい!」」」」
俺とミレアは入り口の前に飛び出す!
カレンとクレアが、俺とミレアの前に出て、盾を翳してくれる。
詠唱中は無防備になりがちなので、いい判断だ。
炎の壁越しに見ると、部屋の中は予想通り、凄まじいことになっていた!
無数の水球が飛び交っている!
こっちに向かって来た奴は、入り口の炎の壁に焼き尽くされる!
それでも何体かは壁を突き抜けるが、カレンとクレアの盾に阻まれた。
良く見ると、盾が少し溶けている!
俺は気力を込める。
「地獄の業火!」
最大威力の魔法を、部屋の中心にぶち込んだ!
「うん、水玉は一掃できたようだ。だが、まだ扉が開いてない。この陣形で突入する! 俺とミレアで交互に撃つから、リムは回復頼む!」
「「「「はい!」」」」
俺達は部屋の中央に走り込んだ!
「お姉様のお仕置き!」
う~ん、威力は申し分ないのだが、この詠唱は何とかならないものだろうか?
少し萎える。
「地獄の業火!」
定位置に鎮座していた階層主は、もはや魔核だけに見える。
全く攻撃して来ないし、死んでいてもいいはずだ。
だが、扉が開かない。
すると、奴は小刻みに震え、透明なジェル状のものを魔核の周りに分泌し始めた。
「参ったな。直接攻撃すると溶かされそうだし、どうしよう?」
「アラタ、魔法の種類を変えたらどうかしら?」
「そうだな。リム、頼む!」
「はい! サンダーラッシュ!」
リムの指から雷撃がほとばしる!
彼女の場合、初級魔法と侮ってはならない。
魔力20%アップの杖で強化された彼女の魔力は、500を超える!
「ん? 効いているようだぞ。震えが止まった。再生もしなくなったようだ。」
「なら、これでどう?! 落雷!」
まさに落雷そのものだった!
頭上から、眩い光の線がじぐざぐに走り、魔核に突き刺さる!
遂に扉が開いた。
魔核を回収後、ワープの小部屋で登録を済ませ、屋敷に戻る。
夕食事、今日の階層主について話す。
「あれ、なんか意図的だよな。」
俺はここ最近、ダンジョンの敵の攻撃に、何者かの意思が込められているような気がしている。
はっきりとではなく、何となくだが。
「そうですわね。あれはダイナマイトで爆発させることを見越しての攻撃ですわ! 囮のゴーレムが居なかったら、危なかったですわ!」
「うん、あの爆発で奴が分裂したのは間違いない。いつも通りに俺が突っ込んでいたら、運が良くても、素っ裸になっていたところだ。」
「「「それはそれでそそられます。」」にゃ。」
「あ~、変態はもういい。」
しかも、一匹、何か混じっている。
ネタを提供した俺が悪いのだが。
ちなみに、階層主には名前が無かったので、俺達でつけた。
命名:メルトスライム
「3日ぶりの我が家だし、明日は休みにしょう。皆、どこか行きたいとことか無いか?」
「私はありますにゃ!」
「サラちゃん! 私達は充分にお休みを頂いているざます! この3日間はお屋敷の維持だけだったざます!」
「いや、皆に意見が無いなら構わないぞ。で、どこだ?」
なんか、ねだって欲しいカサードの気持ちが、分かる気がする。
「釣りに行きたいですにゃ! 近くに大きな湖がありますにゃ!」
ふむ、猫人族、魚には目が無いと見える。
周りを見回すと、皆、異存ないようで、全員笑顔だ。
「よし、じゃあ、それで決定だ。道具とかはどうしよう?」
「それなら心配要りませんわ。確か、湖のほとりで貸してくれるところがありましたわ。」
食後、メルトスライムの魔核が気になり、早速工房で試してみる。
カレンとリムも、隣で装備の修理に余念が無い。
「う~ん、武器には付かないのかな? 防具で試してみよう。」
「じゃあ、これでやって見て。いい効果だったら勿体無いわ。」
リムが空きの2つついた鎧を渡してくれる。
「そうだな。ありがとう。どれ・・・。」
俺が気力を込めると、成功したようだ。
???:防御+25 特殊効果【自動回復】 ??
自動回復? まあ、予測はつく。
多分、一定時間ごとに体力が回復する効果だろう。
奴も、魔核からジェル状の物を分泌させて、回復していたようだし。
「うん、これは使えそうだな。早速試してみよう。」
俺が鎧をつけて、そこをカレンが殴る。
今の俺なら、本気で殴られても、大したダメージは喰らわない。
「うぐっ、いい正拳だ。結構痛いぞ。」
「ってってっす! 殴ったこっちの方が痛いっす!」
「ふむ。だが、それでも50くらいは行ったぞ。」
思った通り、すぐに体力が全回復した。
恐らく、毎分くらいの間隔で、最大体力値に比例して、僅かずつ回復させるのだろう。
余った空きには【防御20%アップ】をつける。
「うん、これはカレンにだな。お前が一番攻撃を受けるからな。」
未知の魔物相手は俺の役目だが、それ以外はやはりカレンが盾役だ。
彼女の【挑発】は重宝している。
「ありがとうっす! 名前つけてもいいっすか?」
「お、おう。変なのは遠慮して欲しいが。」
「じゃあ、回復の鎧っす。」
ふむ、珍しくまともな命名だな。
「じゃあ、この盾はあたしが魔核を付与したから、あたしがつけていい?」
「うん、勝手にしてくれ。作った奴の権利だしな。」
俺は少し嫌な予感がしたが、任せる。
俺の作った鎧と対になる、カレン専用の盾らしい。
どうせ俺が装備する訳じゃない。
無敵のカレン:防御+55 特殊効果【魔法防御20%アップ】
ふむ、【魔法防御10%アップ】と、ラージスケルトンの【防御+20】を、両方合成してから、付与したようだ。
いい性能だ。
名前以外はな!
「リムちゃん、ありがとうっす! いい名前っす!」
はいはい。
その後、恒例の一家団欒の風呂で疲れを癒そうと思ったら、誰も来ない。
俺が入り終えると、入れ替わりに全員入る。
俺が何か変な事でもしたのだろうか?
ひょっとして、避けられてる?
マリンのティータイムで原因が判明した。
「今日は全員、あの日ざます。」
ふむ、女が固まると、あの日が一致し易くなるというのは、本当のようだ。
その日は、久しぶりの一人を満喫する。
ブックマーク登録ありがとうございます!
評価や感想なんぞも頂けると励みになります。m(_ _"m)




