光る石
光る石
ダンジョンに戻り、そう言えばと、さっきの魔核を確認する。
近藤に気を取られていて、無造作にアイテムボックスに放り込んだままだった。
メデューサの魔核×1
メデューサの爪×10
ストーンゴーレムの魔核×2
ネーミングからして、イオリがつけた名前だろう。
メデューサなんて言葉は俺達の世界の奴しか知らないはずだ。
「よし、大体相手の攻撃方法は分かった。耐性もついたし、次からは全力戦闘で行くぞ。あの範囲魔法も解禁だ!」
「どきどきしますね。」
「津波の魔法は、リムちゃんと被りますわね。」
「じゃあ、クレア姉様からお願いします。」
「あたいの無敵ぶりを見るっす!」
結果としてはまずまずだった。
ストーンゴーレムには火魔法があまり効かなったが、メデューサには良く効いた。
そして、津波の魔法は逆で、水魔法がストーンゴーレムの弱点のようだ。
更に、風魔法は両方に有効だった。
「ふむ、俺の【地獄の業火】、リムの【大津波】、ミレアの竜巻魔法、【荒れ狂うお姉様】を合わせれば、2種類来ても瞬殺できるが、流石に燃費が悪いな。」
ちなみに、クレアの【アラタさんへの愛】も津波の水魔法だが、これはリムより威力が劣るし、恥ずかしいので、あまり使って欲しくない。
もっとも、クレアはミレアに使って欲しくないようだが。
俺の魔法は気力が100、リムが80、クレアが90、ミレアも90消費する。
そして、現時点で、俺が7発、リムが5発、クレアが3発、ミレアも3発撃てる勘定だ。
「そうっすね。あたいの【無敵】も100消費するんで、2回が限度っす。」
「まあ、纏まった数の時以外は温存だな。カレンのも階層主用に温存だ。」
「「「「はい。」」」」
その後は、魔法を温存して進む。
カレンが挑発したところを、俺が三重苦のナイフで無力化していく。
これが鉄板戦法で、時間はかかるがダメージはほぼ受けない。
その日は、62階層でいい感じの行き止まりを見つけて、休憩となった。
「あの冒険者達、巧くやってくれているだろうか?」
「いつも思いますが、アラタさんは甘すぎます。自分を殺そうとした相手を助けるなんて、異常です。」
「全くっす! でも、あいつらは結構場慣れしてたみたいっす。ああいうガラの悪そうなのは、ああいう仕事が向いてるっす。最低でもうまく逃げるっす。」
「そうね。でも、そこがアラタの魅力でもあると思うわ。それで、あの人達もランクを落とさない為に、最低限はやってくれるはずよ。」
「私はアラタさんが心配ですわ。あのお馬鹿を召喚したサンタルなんて、どうでもいいのですわ。とにかく、背負い過ぎないで下さいね。」
クレアの『背負い過ぎるな』という言葉が響く。
俺がこの世界のパワーバランスまで考慮するのは、分を超えているのだろうか?
その後は、ミニ工房を広げて、損傷した装備の修復に励む。
ストーンゴーレムは、名前の通り身体も硬く、武器の手入れも必須だ。
カレンの小剣とクレアの槍は、聖銀製にも関わらず、少し刃こぼれしている。
もっとも、装備品の修理程度、今のカレン工房では雑用の部類である。
食事の準備が整う頃には、一通り済ませることができた。
食後は皆で、ソファーで寛ぐ。
ミレアが紅茶を淹れてくれる。
「ところで、いつも不思議に思うのですが、このダンジョンの壁の光る石、どういう仕組みで光っているのでしょうか?」
ミレアは手を止め、壁を指さす。
「今まで、それが当たり前だと思っていたが、言われてみれば不思議だな。」
「そうっすね。」
カレンが壁から光る石をダガーで削り出して、持って来てくれた。
この石に関しては、マッピングとかで利用したことはあるが、それ以外は特に興味も無かった。
大きさはテレポートの石くらいだが、テレポートの石は灰色だ。
俺は、アイテムボックスからテレポートの石を取り出して比べる。
握ってみると、触感はほぼ同じだ。
魔結晶程ではないが、少しすべすべした感じ。
だが、待てよ?
テレポートの石はどうやって作るのだろう?
あれも、魔結晶のように、どっかに落ちているのだろうか?
それとも、巨大な原石みたいなのがあって、そこから削り出すのだろうか?
ちなみに、この石は壁から取り出すと、数時間程で光らなくなる。
これは以前マッピングで利用した時に確認済だ。
ひょっとして!
俺は隣の小部屋に行った。
そこはさっき、ストーンゴーレムが暗闇状態で壁に突進した結果、光る石が結構剥がれ落ちていたはずだ。
記憶を頼りに地面を探すと、微かに光る石が散乱していた。
5個程拾って、持って帰る。
全員、俺が何をしようとしているのか分からず、困惑顔だ。
うん、多分そうだろう。
俺はその石をテーブルに広げ、そのうちの最も暗い奴を摘まみ上げる。
俺は魔核を合成、付与する要領で気力を込め、テレポートするイメージを流し込む。
ふむ、成功かな?
石は灰色に変化した!
良く見ると、【テレポートの石】と表示される。
俺は慌てて自分のスキルを確認する。
あった!
【鉱石鑑定1】
「これは? まさかとは思いますが、またチートな事をやらかしましたね?」
「うん、ミレア。どうやらそのようだ。」
他の3人は首を傾げている。
俺は他の石にも同様に気力を込めると、全部灰色に変化する。
「まあ、アイテムボックスに入れて確認してくれ。」
全員に一個ずつ手渡す。
「アラタ! 凄いわ! テレポートの石がこんなにお手軽に作れるなんて!」
「流石はアラタさんですわ。」
「何か良く分らないっすけど、売れば大儲けできるっす!」
テレポートの石は取引に規制がかかっているので、大っぴらには売れないが、その気になれば、一財産作るのは可能だろう。
多分この製法は、全世界的に拡散が規制されていて、一部の者の門外不出となっているはずだ。
もっとも、テレポートの魔法が使えないと不可能なので、知ったとしても、出来る奴はごく僅かだろうが。
「多分、リムにも可能なはずだ。魔核を合成、付与する要領だ。ミレアも練習すれば可能だと思う。」
リムはテレポートが可能だし、既に簡単な魔核の付与なら成功している。
ミレアも、テレポートはまだ無理だが、時空魔法は使えるので、魔核の付与と併せて努力すれば、そのうちできるだろう。
「早速試してみるわ。」
「はい、後で教えて下さい。」
「しかし、これはミレアのお手柄だ。あんな事を言われなければ、全く気付かなかったはずだ。」
ミレアの顔が真っ赤になる。
褒められて照れ捲っているようだ。
青髪とのコントラストで、これまたいい感じだ。
その後は俺の講習会となったが、残念ながら誰も成功しなかった。
しかし、ミレアが【鉱石鑑定】を取得できたのが救いだ。
これからは二人で魔結晶を見つけられるだろう。
結局、何故光っているのかは分からなかったが、これだけでも大収穫だろう。
皆で光る石を大量に集めて、テーブルに放置しておく。
明日の朝になれば、全部光らなくなる筈だ。
「じゃあ、今日は寝よう。続きは明日だ。」
その晩は全員、テレポートの石の作り方に気を取られていたのか、ダンジョンではいたす気が起こらなかったのかは分からないが、特に何も無く、ぐっすり眠れた。
翌朝、俺は光らなくなりくすんだ半透明の石を前に考える。
横では全員、朝食の準備をしてくれている。
この石、テレポートの魔法だけってことは無いのでは?
俺は石に気力を込めて、イメージを流し込む。
【地獄の業火】!
「げっ!」
なんと石が割れてしまった!
おまけに、規模は大したことなかったが、周りが火の海だ!
慌ててリムが手加減した【大津波】を放ってくれて、大事には至らなかった。
範囲魔法なので、仲間へのダメージは無いが、おかげで、ソファーが丸焦げだ。
ベッドとかは既に仕舞ってあったので、かろうじて被害をま逃れる。
「アラタ! 実験するのはいいけど、ちゃんと考えてやってね!」
「す、済まん。」
クレアも【ドライ】の魔法をかけてくれる。
ふむ、石に入りきらなかったと見るべきか?
懲りずに、次は【アブノーマルキャンセル】でやってみる。
これなら失敗しても被害は無いはずだ。
ふむ。成功かな?
石は濃い緑色になった。
見ると、【万能薬の石】と出る。
「よし! 間違っていなかった! 成功だ!」
俺がまた何かやらかさないかと、横で心配そうに見ていたリムが手に取る。
「これは?」
「まあ、アイテムボックスで確認してみろ。」
リムが虚空に石を入れると、大声を上げた。
「ア、アラタ! こんなの見た事ないわ! 大発明よ!」
「ふっふっ、分かってくれたようだな。俺は決して無駄にソファーを焦がした訳では無い!」
全員、何事かと集まってくる。
俺が説明すると、皆、一様に歓喜の声を上げる。
「凄いっす! これならあたいでも回復できるっす!」
「これは! 私の回復役としての地位が危ないですわ!」
「もう驚きません。私も早く習得したいです。」
ここで俺は考えた。
この発明品を量産して、皆に持たすのは当然だし、魔核も素材も試していないのが多すぎる。
特に階層主の魔核は殆ど手付かずだ。
急いで攻略する理由も無い。
「うん、ここは、やはり一旦屋敷に戻って仕切り直すべきだろう。途中で魔核や素材を集めながら60階層まで戻ろう。」
「そうっすね。あたいも新素材を試してみたいっす。」
「ええ、ミニ工房だと限度があるわ。」
「ソファー、買い替えましょう。」
「そうですわね。急ぐ必要もありませんわ。」
途中、狩れるだけ狩り、街で買い物もしたので、屋敷に着いたのは夕方だった。
マリンにはテレフォンで連絡しておいたので、今晩の食事とかは心配無い。
「お帰りなさいですにゃ!」
満面の笑みでサラが飛びついて来る。
一日しか経っていないのに、寂しかったのだろうか?
「「「「あ~っ。」」」」
俺は唇を奪われた。
まあ、予想通りの落ちですね。m(_ _"m)
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