逆襲の母娘
逆襲の母娘
朝起きると、驚いたことに、全員が俺の部屋に居た。
「早速、お話を伺いに参りましたわ。」
「昨晩、私とお姉様は今日の準備をしていました。食事の用意は万全です。」
「アラタ、倒れそうになるまでは頑張りすぎよ。今日は屋敷でゆっくりしてなさい。」
「ちなみに、マリンちゃんとサラちゃんは、陛下に挨拶するって出ていったっす。」
考えてみれば、昨日の俺は、アホの討伐、捕獲と事後処理。
おまけに会談で演説をぶちかましていたのだった。
疲れていて当たり前だろう。
「分かった。ありがとう。では、朝食を皆で取ろう。」
「アラタ、もうお昼前よ。皆、朝は済ませたわ。」
「ということで、ブランチですわ。私達もご一緒しますわ。」
「既にリビングに用意してありますので、行きますか?」
「なんか、待たせたようで、悪いな。うん、このピラフは美味い。また腕を上げたな。」
「それはミレアが作りましたわ。」
「そろそろお姉様に追いつけそうです。」
「アラタ、早く話して。」
「武勇伝が聞きたいっす!」
「そうだな、まず、決定的な違いは俺の世界では魔法が無い。」
「え? それは不便ですわね。」
「しかし、この世界でも魔法を使えるのは一部の人間だ。カレンを見ろ。魔法が無くても強いぞ。」
「えへへ。」
「そして、この世界よりも遥かに便利だ。お前達から見れば魔法のような事が、日常茶飯事に行われている。空を飛ぶ乗り物とか、一瞬で都市を壊滅させる兵器とかまである。」
「なんか、想像がつかないです。しかし、都市を一瞬で壊滅って。そんな物騒な世界なんですか?」
「実際、文化水準はこの世界以上のはずなんだが、世界規模で見た場合、戦争が無くなったためしが無い。そういう意味では、この世界の方がマシかもな。昨日の件だって、下手すりゃ戦争だが、なんだかんだでならずに済んでいる。まあ、勇者という抑止力が大きいのかもしれんが。」
ここで皆が食事を取り終わったので、ソファーに移動する。
カレンは既に眠そうだ。
リムが眠気覚ましの為か、コーヒーを淹れてくれた。
「あと、奴隷制度が無いな。昔はあったが、現在奴隷を所持することは全面的に禁止だ。」
「へ~、そんなもんっすかね~。あたいや、止むを得ずの人は別にして、犯罪者は奴隷にするべきっす。」
「うん、俺達は別の方法で犯罪を減らそうとしている。意味的には奴隷と大差無いのかもしれんが。とにかく、人身売買の禁止ってことだ。なので、俺はお前達を売る気は無い。便宜上、奴隷という職業に就いて貰っているという認識だ。」
「確かに、アラタはあたし達をそういう意味では奴隷として扱ってないわね。だから貴方の奴隷になったのだけど。」
「あたいもアラタさんで良かったっす!」
「私もです。でも、酷いことをして欲しかったです。」
「奴隷で思い出しましたわ。昨日のアラタさんには惚れ直しましたわ!」
「え? お姉様、それはどういう?」
「『俺の奴隷は最強だ!』って、会談の最中、言い切って下さいましたわ。あの時程嬉しかったことはありませんわ。」
「いや、当たり前だろう。あのアホ勇者達相手なら、お前達だけでも充分勝てる。」
ん? なんか皆の顔が赤い。
これは・・・。
「アラタ・・。」
リムが俺に飛び込んで来る!
それを皮切りに、他の奴も一斉に来た!
俺は皆にもみくちゃにされる!
ミレアの唇が迫る!
こいつのこういう時の表情は凄くエロい!
クレアが服を脱ぎだした。
ヤバい!
これは修羅場になる!
「只今帰りましたにゃ!」
「ついでに買い物してきましたので、遅くなったざます。」
スワレンファミリー、完璧すぎるな。
あのままでは、せっかくの休みなのに、全員体力を使い果たすことになっていたのは間違いない。
「お、お帰り、マリン、サラちゃん。カサードはどうだった?」
俺は必死に誤魔化すが、この状況を見れば、何が始まろうとしていたかは一目瞭然だ。
マリンの口元が上がる。
「お邪魔だったざますか?」
「「「「チッ!」」」」
引き続き、皆に俺の世界の話を聞かせる。
サラも加わり、皆、興味津々だ。
マリンがお茶を淹れてくれる。
休みだからと遠慮したが、これは最低限のことらしい。
「だが、俺はこの世界を結構気に入っている。いい仲間、家族を得られた。これは閻魔に感謝だな。そして、世界は変われど、そこに居る人間は変わらないようだ。アホ勇者達は、文化の違いと能力差だけに目が行き、驕ってしまって気付けなかったのだろう。以前のミツルがまさにその感じだ。俺も気をつけないとな。」
「アラタ様は大丈夫ざます。陛下も信頼されているざます。」
「ええ、そうね。あたしも最初は戸惑ったけど、アラタを見ていて、この人しか居ないと思ったわ。そして、同じ身体なのが恨めしくなったわ。」
「あ、ありがとう。さあ、そろそろ飯にしよう。また、あのホテルのレストランでどうだ? 勿論、マリンとサラちゃんも一緒に。」
「一応夕食も準備はしていたのですが、アイテムボックスに保管しておけば大丈夫です。」
「アラタさんがそうしたいのなら、それがいいですわ。」
「あそこの肉、美味いっす!」
「勿論、行きますにゃ! 外食、久しぶりですにゃ!」
「サラちゃん、はしたないざます! でも、ご一緒させて頂くざます。楽しみざます。」
レストランでは、俺は相変わらずの魚料理。
ここのはお気に入りだ。
クレアとミレアも気に入っているようで、同じのを頼む。
マリンも追従した。
カレンとリムとサラは肉料理。
相変わらず良く食べる。
「そうだ、サラちゃん、お前、アイテムボックス持っていなかったよな? 入手過程は説明できんが、余っている。どうだ?」
「も、勿論頂きますにゃ! そこまで私のことを・・・、嬉しいですにゃ!」
ん? なんか喜び方が不自然な気がする。
サラの横に座っているマリンの口元が吊り上がる。
「アラタ! それはダメよ! 早く引っ込めて!」
「え? なんでだ? 売ってもいいが、このほうがいいだろ?」
サラは俺の差し出したアイテムボックスを、マッハで掴み取る!
「これは不味いですね。やはり排除しておくべきでした。」
「あらあら、アラタさんにもそんな趣味があったとは。少し意外でしたわ。」
「「???」」
「アラタとカレン姉様は知らないと思うけど、この国では、男性が女性に指輪を贈るのには、特別な意味があるのよ!」
あ~、そういや、俺の世界でもあったな。
魔法道具としてしか認識していなかった、俺の不注意だ。
「あ~、サラちゃん。それは指輪としてではなく、アイテムボックスとしてプレゼントした。そこは勘違いしないで欲しい。」
「指輪は指輪ですにゃ! その・・、ふつつかですが、宜しくお願いますにゃ。」
サラは、テーブルに猫耳をついてかしこまる。
う~ん、参った。
ここは、やはりあれだろう。
「リム、何とかならんか?」
「ええ、ここは全面的に協力するわ! アラタ、指輪の贈呈は許婚者として認めるという意味よ。」
「うん、それはすぐ分かった。」
「でも、指輪の贈呈から3日以内に、その・・、キスしなければ成立したと認められないのよ! アラタ、貴方はこれから3日間、全力でサラちゃんの唇を阻止しなさい!」
「イエス! マム!」
ふむ、なんだ簡単じゃないか。
どうせ明日からはダンジョンだ。
今回は70階層までを考えているので、多分それくらいはかかる。
屋敷に居なければ、彼女もどうしようもないはずだ。
つまり、今晩だけを凌ぎ切ればいい。
食事が終わり、俺が会計を済ませていると、スワレンファミリーが何やら密談している。
ふむ、元侍女長がバックについているとなれば油断は出来ない。
これは厳戒態勢を敷くべきだろう。
「お前達、済まんが、そういう事だ。俺の唇を奴から守ってくれ!」
「「「「はい!」」」」
屋敷に帰り、リビングで寛いでいると、いつの間にか母娘が消えている。
ふむ、やはり油断できんな。
大方、部屋を出た瞬間とかを待ち伏せているに違いない。
これでは、迂闊に風呂に入れんな。
「クレア、ミレア、風呂場の安全を確保してくれ。発見次第、遠慮なくスキルを使え! 足腰立たなくなるまで、完膚無きまでやれ!」
「「はい!」」
ミレアからテレフォンで連絡が入る。
「やはり居ました! 湯船の中に潜伏していました!」
「よし、攻撃を許可する!」
「はい! え? マリンちゃん? あ、そこは・・・あ~・・・・。」
暫くすると、タオル一枚のクレアとミレアが、ふらふらしながら帰って来た。
顔が真っ赤で目が虚ろだ。
チッ! どうやら、マリンにやられたようだ!
奴も『特殊な』スキルを持っていると見て間違いない!
「う~ん、ダンジョンの凶悪な魔物の方が対処しやすいかもしれん。今日の風呂は諦めるべきか?」
「アラタ、ここで諦めてはダメよ! 屋敷の主人として撤退は許されないわ! カレン姉様も強力して!」
「お、おう。しかし、相手は強敵だ。うちの誇る変態姉妹があのざまだ!」
「当然っす! ここは3人で行くべきっす! あたいが囮になるっす!」
「す、済まんな、カレン。だが、相手は手練れだ。用心しろ!」
脱衣所に入ると、誰も居ない。
そこら中に散乱している下着が、戦闘の凄まじさを物語っていた。
「後ろっす! 扉の裏っす! 挑発!」
盾無くても使えるんかい。
余計な突っ込みは置いておいて、カレンの冥福を祈ろう。
彼女は予想通り、マリンに弱点の尻尾をモフり倒されている。
「カレン、済まん! 尊い犠牲だった! リム、この隙にあの子猫さえ排除できれば俺達の勝ちだ!」
「ええ! 任せて! オールアップ!」
いや、リム、流石に魔法は必要無いと思うぞ。
マリンはそのままリムに行くかと思いきや、交渉を持ち掛けてきた。
「今、サラちゃんは裸ざます。キスするなら入っていいと、サラちゃんが言っているざます。」
「ふっ、そんな脅しには屈しない! リムがサラちゃんをつまみ出せば済むことだ!」
そう言いながら、俺は堂々と服を脱ぐ。
マリンの目線が俺に釘付けになる。
チャンスだ!
「よし! リム! 今、俺は裸だ!」
「そういう事ね! 分かったわ! 縮地!」
リムが一瞬でマリンを脱衣所から廊下へ運び去る!
これでマリンは、裸の俺が居る脱衣所には侵入できない。
リムが誇らしげに帰って来る。
「後は子猫だけだ! 頼むぞ!」
「ええ! これで生き残りはあたしだけね。」
ん? その言葉は何か引っかかるぞ。
しかし、これはどうしたものか。
リムが素っ裸のサラを抱えてきた。
話を聞くと、湯船に浮いていたらしい。
完全にのぼせたようだ。
仕方が無いのでマリンを呼び、介抱させる。
リムも回復魔法をかけたが、こういうのにはあまり効果が無いようだ。
「しかし、厳しい戦闘だった。犠牲になったお前達には何と感謝していいやら。」
俺達は今、湯船で寛いでいる。
「はい。お礼は身体で払って頂きたいのですが・・、その・・、今日はもう無理です。」
「わ、私はアラタさんが最高ですわ! 決してマリンちゃんのテクニックが・・、なんて事はありませんわ!」
「あたい、もうお嫁に行けないっす・・。」
「アラタ、私は感謝の気持ちを受け取れるわよ。」
俺は、膝の上でご満悦のリムを見ながら思う。
この死闘に意味があったのだろうか?
途中からはリムの計画だと思えてしまうのは、俺だけだろうか?
結局、その晩は、警戒の為、全員俺の部屋で寝た。
不毛な闘いの結果、クレア、ミレア、カレンは既に爆睡している。
ルール上、スワレンファミリーは、俺の寝室に入る時には許可を得なければならないので、この状態でも大丈夫だろう。
俺もなんか疲れてしまったので、早々に寝ることにした。
当然、リムがせがんで来たのだが、俺の疑念をぶつけると、大人しく俺の横で丸くなった。
ふむ、確信犯だな。
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