愚者の末路
愚者の末路
勇者達が帰って、この会談場は閑散とした。
今残っているのは、俺とクレア、そして、カサードとイーライだ。
「じゃあ、クレア、皆を呼んできてくれ。」
「はい。」
「それでカサードさん、奴らの事は俺に任せてくれないか? 勇者の事は勇者でって意見に賛同してくれたよね?」
「勿論、それは構わん。しかし、どうするかだけは教えて欲しいのう。」
「うん、俺はあいつらを奴隷にするつもりだ。」
イーライが口を挟む。
「それは以前、無理だった事ですが。」
「ああ、聞いている。だが、多分可能だ。カサードさんも欲しかったんだろ? 勇者の奴隷。」
「むむ、アラタもイオリに似て来たようじゃな。あの件は儂の指示ではないのじゃが、反省はしておる。好きにするが良い。儂も彼等への処罰は、それが最善と思えるしのう。」
「うん、あの口振りじゃあ、10人以上は確実に殺している。それで、奴隷にできるスキルを持った人を一人貸して欲しい。後、彼等への罪状かな? 犯罪奴隷にするのが、一番だと俺は考えている。」
「ふむ、それならばイーライを連れて行くがよかろう。罪状は勇者を殺害しようとした事で充分じゃ。後で作らせよう。刑期はアラタに任せる。それでどうじゃ?」
「うん、ありがとう。」
と、言う事で、現在俺達はフルメンバーにイーライを加えた6人で60階層の小部屋に居る。
テレポートしてきて驚いたのが、部屋に居たのは二宮だけだったことだ。
色々聞きたかったが、取り敢えずはスリープで眠らせる。
このメンバーで二宮に勝ち目があるとは思えないが、用心するに越した事は無い。
イーライが襲われれば全てが台無しだ。
部屋を出て確認したが、近藤は何処にも居ない。
一人で下の階層にでも行ったのだろうか?
「じゃあ、始めるぞ。祭祀長、俺が合図したら急いで頼む。」
「かしこまりました。刑期は如何ほど?」
「う~ん、10年くらいでいいか? 本当は、反省さえしてくれれば、俺はどうでもいいんだが。」
「アラタさん! 甘すぎますわ! アラタさんへのあの暴言、奴隷等では生温いですわ! 死刑ですわ!」
クレアは横に居たから、いきさつを知っているが、他の連中は知らないので、困惑顔だ。
「まあまあクレア、あまり大声を出すと起きるかもしれない。ここは抑えろ。」
クレアはそれでも納得していないようだ。
「じゃあ、妥協案だ。俺は今からこいつの能力を完全に無力化する。それでこいつの話を聞いてから決めよう。近藤が何処に行ったのかも気になる。」
「それなら仕方ないですわね。」
「オールダウン!」
ステータスを確認すると、さっき同様、体力と気力以外は全て1だ。
ん? 体力は回復しているようだ。
近藤になけなしの気力で回復して貰ったか?
気力は100くらいしか無い。
ふむ、これなら一発だな。
「サイコドレイン!」
これでこいつの気力もカラだ。
体力以外は全て最低の木偶人形の完成だ。
「よし、じゃあ、起きろ!」
俺は軽く蹴飛ばす。
「てめぇ~! こんな事して只で済むと思ってんのか! 何だ? 仲間も連れてきたのか? お前の性奴隷か? いい趣味してんじゃねぇか? 詫びに俺が貰ってやるよ!」
ふむ、やはり救いようが無いアホだ。
二宮はふらふらと立ち上がる。
俺が軽く小突くとあっさりこける。
「う~ん、ここまでアホとは。効果が切れると暴れそうだ。縛ってくれ。」
「「「「はい!」」」」
二宮は彼女達によって、完全にぐるぐる巻きにされる。
ミノムシだな。
「馬鹿が! 俺は魔法が得意なんだよ! ファイアトルネード!」
何も起こらない。
奴は一瞬不思議そうな顔をしたが、その後うな垂れた。
まあ、気力がカラだから当然だな。
回復してきたら、また吸ってやろう。
「お前、この状況で立場分かってんのか? 答えろ! 近藤は何処だ?」
「あ~、あいつなら下の階だ。今頃魔物に食われてるんじゃねぇか?」
「ふむ、大体想像つくが答えろ。奴に何をした?」
二宮は状況を理解したのか、ぺらぺらと喋り出す。
内容を聞くうちに、全員の表情が険しくなる。
二宮は、まずは近藤に、なけなしの気力で回復させたらしい。
そこまでは普通だ。
その後、下の階から脱出しようという事になり、二人で降りたそうだ。
この時点ではこいつらも、ここは20階だと信じていたようなので、これも当然だ。
しかし、そこからが酷かった。
二宮はまだ気力があったので、気力の無い近藤を脅し、奴らの言うところの奴隷の使い方、要は一人で未知の魔物がうろつく部屋に放り込んだらしい。
しかし、予想外の魔物の強さに、二宮は近藤を置いて、逃げ帰って来たと。
「気力切れの奴に価値はねぇ! ヨウジも、俺の偵察に役立てて嬉しかったろうよ。」
普段はポーカーフェイスのイーライまでが眉を顰める。
「アラタさん、こいつ、殺しちゃったほうがいいっすよ。あたいもここまで酷いのは初めて見たっす。ダンジョンでの奴隷の使い方は、あたいも聞いた事あるっす。でも、普通は回復役を数人用意して、絶対に死なないようにしてからっす。リーダーは、断腸の思いで奴隷に命令するらしいっす。」
「だが、殺しても、誰も喜ばないぞ?」
「そうっすね。」
「ということで、やっぱり奴隷だな。それも終身奴隷でいいだろう。同じ苦しみを味わって貰おう。」
「へ! 俺を奴隷になんか出来るもんか! 俺は勇者様だぞ! それに俺をそんな目に合わせたら、それこそ戦争だ! カサードにそんな度胸ねぇだろ!」
「お前、本当に救いようが無いな。今までの経緯で普通は気付くはずだが。」
「ふ~ん、じゃあ、やれるもんならやってみな! できたら奴隷にでもなんでもなってやるよ!」
「そうか。じゃあ、行くぞ! オールダウン! 祭祀長、頼む。」
「かしこまりました。」
イーライが二宮の首に手を当て、何やら呪文を呟く。
「完了しました。しかし、本当に成功するとは私も驚きです。」
「祭祀長、この事は絶対に口外しないで欲しい。真似する奴が出たら大変だ。」
「かしこまりました。」
「それで、今こいつの所有権は誰のだ?」
「近衛様でございます。近衛様を殺害しようとしたのですから、当然でございます。」
「て、てめぇ! 本当にやっちまったのかよ? ぶっ殺してやる!」
「黙れ! 俺に従え! 誰にも攻撃するな! 呪文を唱えるな! 命令だ!」
ふむ、こいつでもちゃんと効くようだ。
大人しくなった。
「あと、戦争にはなりようが無いと思うぞ。お前の国に勇者が何人居たかは知らないが、現在帝国はお前を合わせて4人だ。まともな王なら仕掛けられないし、あの会談場でのことはもはや周知だ。大義名分も無い。」
二宮は完全に諦めたのか、頭を垂れた。
「じゃあ、帰ろう。近藤は、こいつじゃないが、諦めたほうが良さそうだ。俺もそこまでお人好しじゃない。」
カサードはあの後、すぐに城に帰り、現在はいつもの会議室だ。
「本当にやりおったか。儂も半信半疑じゃったが。流石はアラタと言うことじゃの。」
「まあ、方法は秘密だ。それで、カサードさん、こいつ買わないか?」
「ふむ、それよりも、お主の盾にしてダンジョンの攻略に役立てれば良いのではないか?」
「いや、さっきの話で分かると思うが、こいつをパーティーに入れると俺が困る。こいつと信頼関係は絶対に結べそうにない。」
「それはそうじゃのう。しかし、この男、扱い難そうじゃ。もう少し賢ければとも思うのじゃが。」
「ふ~ん、じゃあ、他国の王に売ろうかな? 腐っても元勇者、オークションに出すのも面白そうだ。」
「ぬお! アラタ、お主! ますますイオリに似て来たようじゃ! 仕方ないの、いくらじゃ?」
「いや、金は要らない。約束してくれるだけでいい。こいつを現在のフラッド帝国の国境から出さない。それだけだ。」
「ふむ、戦争には使わせないということじゃな。」
「うん、防衛時なら使っても構わない。自国内限定だが、それくらいは認めないと意味が無いし。」
「よし、それで良かろう。但し、流石に只では貰えぬ。そうじゃな、白金貨100枚でどうじゃ?」
日本円なら1億か。
まあ、人間兵器と考えれば、それくらいの価値はあるのかもしれない。
しかし、なんだかな~。
俺としては、カサードに押し付けたいだけなんだが。
その後、俺とカサードで値下げ合戦をした結果、白金貨50枚でけりがついた。
ただ、このやり取りを見ていた二宮の心情が、如何なるものだったのかは、俺も想像できない。
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