その後の会談
その後の会談
「お帰りなさい、アラタさん。」
オークション会場の会談の場に戻ると、クレアが満面の笑みで俺を出迎える。
ちなみに長野さんは、テーブルに突っ伏して寝ていた。
他の勇者は驚いた顔をしている。
カサードはほっとした表情だが、すぐに曇る。
「おう、アラタ、無事なようじゃな。まあ、心配はしていなかったがの。それで、あの者達は? まさか殺してはおらんじゃろうな?」
「う~ん、殺してはないけど。ほっとけば死ぬだろうな。でも、1週間くらいなら?」
会場がざわつく。
まあ、普通は驚くよな。
一か月の勇者が、一年と二年の勇者の喧嘩を買って、何食わぬ顔で戻ってきたのだ。
「そ、それで近衛さん! 彼らは一体?」
ふむ、イスリーンの山野か。
「カサードさんには既に伝えたが、彼らは俺を殺そうとした。自国のダンジョンの探索をしようとしている勇者を他国の勇者が襲った訳だ。これ、どうなりますかね?」
二宮と近藤の従者は青ざめて震えている。
そう、彼等も下手をすれば、生きて帰れない可能性がある。
「せ、戦争になってもおかしくない・・・。」
「まあ、仕掛ける口実を持ったのは帝国な訳だが。」
「アラタ、それは儂が決めることじゃ! それで、彼らはどうなっておる?」
「ん~、連中、トロワの60階層で、武器とアイテムボックスを落としてどっか行ったので、俺はそれを拾って帰ってきただけなんだ。誰か届けてやってくれるかな?」
「キャハハハハ! 近衛君、最っ高~! ねえ、そこの従者君達、届けてあげればきっと感謝されるよ? 爵位とか貰えちゃうかもよ?」
長野さんが、やっと起きたようだ。
しかし、第一声がこれかよ!
この人、傷口に塩を塗り込むタイプだな。
あいつら、完全にびびってるぞ。
「イオリもその辺でよかろう。それで、アラタはどうするつもりじゃ?」
「いや、交番、って言ってもこの世界には無さそうだな。拾得物を正規の機関に届け出ようかと。この場合は、サンタル王国かな?」
「ギャハハハハ!」
う~ん、長野さん、受けすぎ。
振り返ると、クレアも必死に笑いを堪えている。
「いや、済まん。冗談はこれくらいにして、実際どうしようか? 今はワープの小部屋なので、安全だ。だが、俺を殺そうとした連中を許す気は全く無い。ダンジョンで朽ち果てて貰っていい、というつもりで置いて来た。」
「ふむ、確かに帝国としても、自国の勇者を手にかけようとした者を放って置く訳にはいかぬ。しかし本当にどうしたものかのう。大切な会談中に、こんなことになるとは。」
「い、いえ、事情が事情ですから、僕達、イスリーン王国の勇者としては何も。」
「お、同じく、シュール共和国の僕も。し、仕方ありませんよね。」
「じゃあさ、あいつらのことは、僕達の問題じゃないし~、近衛君の話だと、すぐには死なないようだし~、カサードさんさえ良ければ、進めちゃったら?」
ふむ、長野さんの意見はもっともだな。
俺とカサード以外の奴は、会談を中断されて、迷惑しているだけである。
「アホの安易な挑発に乗ってしまい、皆さん、ご迷惑をおかけしました。宜しければ続けて下さい。」
俺も、そうは言ったものの、もはやこの場はそんな雰囲気では無くなっている。
「そ、そうじゃな。彼らの処分は今すぐで無くても良いの。そうじゃ、ここは情報交換の為の場じゃ、どなたか、何かございますかな?」
「では、いいでしょうか?」
山野が立ち上がった。
彼は、この場の帝国以外の勇者では、唯一1年経っている。
「彼等ではないが、ダンジョンは甘く無い。なので、召喚されて僅か一月で60階まで到達したという、近衛さん。できれば、その、僕達の知らないような秘密を知っているのなら、教えて欲しい。」
うん、当然の質問だ。
あのアホ共も、こういう聞き方をしてくれれば、何も問題は無かったのだ。
「う~ん、どこから話せばいいだろう?」
「近衛君、君の場合は、素直に最初からでいいと思うよ。」
長野さん、この人、何処まで知っているんだろう?
なんか、完全に見透かされている気がする。
「では。俺はこの世界に、イレギュラーな状態で召喚されました。召喚された身体は女性でした。おまけに、まだ魂が残っていて、二重魂な状態です。その結果、これは多分ですが、他の人の倍のステータスと成長速度だったと思われます。色々あって、その問題は解消し、今はこの身体になれました。そんな訳で、貴方達とは比べ物にならない能力値だと思います。」
素直にと言われたが、魂転移のことは伏せたい。
悪用される可能性が非常に高い。
「え、そんな事が? じゃあ、近衛さんが強いのは当たり前? チートの中のチートって訳ですか?」
「まあ、そうだよね~。でも、君達も普通にダンジョンに潜っていれば、時間はかかるかもしれないけど、攻略は充分に可能だと思うよ~。その証拠がこの僕だよ。僕は近衛君のようなイレギュラーでは無かったけど、それでも2年でクリアできた。確かに犠牲は払ったけどね。」
「じゃ、じゃあ、その普通の方法を教えて下さい! 大体、長野さんは僕に潜れって言っただけで、何も教えてくれないじゃないですか!」
今度は共和国の大葉が立ち上がった。
ふむ、大葉にも接触していたのか。
「君も、放っておいたら、潜りそうになかったからね。何度も言うけど、この世界の真実を知りたいのなら、ダンジョンに潜るのが一番の近道だと思うよ~。幸い、僕達はチートな勇者だよね? この特権を活かさないのは勿体無いと思うんだ。」
確かに俺は、ダンジョンに潜ることで、この世界の魔法について、常人より理解できたと思う。
そして、この世界の真実ってのは、魔法だけじゃないはずだ。
だが、この答え方は大葉の質問をはぐらかしている。
大葉が知りたいのは、もっと具体的な事のはずだ。
「じゃあ、その真実って何よ?! あたしにも分かるように説明して!」
じれたのか、イスリーンの長谷が長野さんに喰ってかかる。
「長谷君、君はダンジョンに潜ってもいない人に、エンディングを教える意味があると思うかい?」
「え? それは・・・。」
「この4人の中で、僕に質問できる資格があるのは、今のところ、近衛君だけだね。でも、近衛君にはもう必要無いよね。」
「はい、もう充分に教えて貰えた気がします。確かにその真実とやらには凄く興味がある。でも、多分、俺の場合、もう少しで手が届きそうです。」
「うんうん、いい返事だよね~。」
俺は回想する。
ウルベンさん、あの人は俺にヒントをくれたり、援助をしてくれたりした。
武器屋の主人もそうだ。
あの【解除】効果のついた小太刀は、おそらく金貨数枚の価値では無いはずだ。
俺の考えでは、あの二人は、長野さんの息のかかった人達だ。
ひょっとしたら、ヤットンとカサードも含まれるかもしれない。
もう必要無いというのは、これから後は自力でやれという意味だろう。
だが、依然、長野さんがダンジョンに潜らそうとする真意は測りかねている。
今の感じでは、俺達の勇者スキルを活かす為、と言うのは口実に聞こえる。
長野さんの、資格云々の話で、皆、黙り込んでしまった。
俺は長野さんの言う資格とは、リスクを背負ってダンジョンに潜ったかどうか、ではないかと思う。
奴隷を盾にしてとか、護衛に守られてとかは、リスクを背負っているとは言えないだろう。
「ふむ、じゃあ、これからは新米の独り言です。先程、サンタルのアホが奴隷を犠牲にして、盾や偵察に利用するのは当たり前だと言っていたが、俺は、その方法はこの世界では間違っていると思っている。」
山野が俯く。
彼もその手法を用いていたのだろう。
長野さんは、にこにこしながら聞いてくれている。
大葉と長谷は理解できていない感じだ。
「俺は信頼補正と呼んでいるが、パーティー内の奴隷と貴族の仲がいいと、レベルアップ時の、能力の上昇値が良くなると見ている。逆に仲が悪いと、さっきのアホみたくなる。」
「じゃ、じゃあ、僕達のやっていた事は逆効果だったんですね?」
「独り言なんで。続けてもいいですか?」
「は、はい、どうぞ。」
「俺の奴隷は最強だ! アホ共にはその意味が理解できなかったようだが。最後に、この世界の魔法とかスキルについて真剣に考えて欲しい。すると、何か見えるかもしれない。だがそれは、潜らないと分かり難いと思う。」
「うんうん、いい独り言だったよ~。僕は、君達の中でダンジョンに潜ったと言えるのは、近衛君だけだと思うね~。」
「ふむ、アラタ、興味深い独り言じゃった。それでは各々方、まだ何かありますかな?」
全員、首を振る。
まあ、ああいう言い方をされれば、俺と長野さん以外は、ここでは発言権が無いも同然だ。
「ふむ、では、会談は終了じゃな。皆様、国に戻られてから、一層励まれることを期待しますぞ。」
「じゃあ、僕も帰るね~。あっそうだ、近衛君!」
「はい?」
「君の事、アラタって呼んでいい? 君も僕の事はイオリでいい。いや、そう呼んで。」
「長野さんがそう呼びたいなら、俺も構わないが。」
「だから、イオリだって!」
「わ、分かった。イ、イオリ。」
「うんうん、ありがとう。じゃあ、アラタ、待ってるね~! 早くおいでよ~!」
「え、何処に?」
イオリはいきなり目の前から姿を消した。
テレポートしたのだと思うのだが、待ってるとは?
う~ん、最後まで謎の人だな。
だが、何となく分かる。
彼女が待っているのは、ダンジョンの100階だろう。
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