1ヶ月 VS 1年&2年
1ヶ月 VS 1年&2年
現在、俺は、以前のミツルを大幅に上回るアホ勇者二人と、60階層のワープの小部屋に居る。
う~ん、こいつらの場合は、アホという言葉は合わないか?
馬鹿・・・、でもないな。
適切な表現方法があれば、誰か教えて欲しいものだ。
「へ~、ここがお前の60階層なんだ。じゃあ、早速案内しろよ!」
「どうせ、20階層あたりでしょう。でも、こいつを途中で一人にしちゃえば・・・。」
「あっはっは! そいつは面白れぇ~! ヨウジも鬼だなぁ~。」
まあ、やろうとしていることは想像がつく。
さっきから、なんかチクチクするような違和感があったので、ステータスを見ると、暗闇と沈黙、そして毒の耐性の表示が明滅している。
攻撃を受けている証拠だろう。
ちなみに、60階層に飛んでから、カサードにテレフォンで連絡を取り、こいつらの会話をダイジェストで送っている。
その目的は言わずとも知れよう。
「じゃあ、行きますよ。先輩方、但し、こっから先は俺も行った事ないんで、どんな魔物が出るか知りませんけど。」
「お前はアホかよ! それを調べるのがお前の役割じゃねぇか! おら、さっさと行けよ!」
ふむ、こいつらの奴隷と同じ扱いのようだ。
「ってか、先輩方、さっきからちくちくうざいんで、下手な魔法使うのやめてくれませんかね?」
「なんだよ、耐性持ってたのかよ! あ~、こいつは冗談だ。お前の実力を知りたくてな!」
「だから言ってるじゃないですか。先輩の半分以下のレベルだって。」
能力値は倍以上だがな。
ん? 部屋を出た瞬間、ついて来なくなったな。
俺が振り返ると、小部屋の入り口で、二人が何やらにやにやしている。
なるほど、入り口を塞いだつもりと。
「よし、部屋から出たな! これでおめぇ~はもう帰れねぇ! ヨウジ! やっちまうぞ! こいつ、うざいんだよ!」
確かに、小部屋に入れなければ、一階へのショートカットもテレポートも使えない。
「二宮さんも仕方ないですね~。でも、ここなら証拠も残らないしいいですね。死体を持って帰って報告すれば、また爵位が上がっちゃいますよ。」
確かには証拠は残らないかも知れないが、カサードには聞かれているぞ。
「そういうこった! 喰らえ! ボルケイノ!」
「殺しちゃってもいいですよね。サンダーラッシュ!」
俺は両方、あっさり躱す。
そして、カサードに話しかける。
「カサードさん、こんな感じだ。殺してもいいか?」
「事情は分かるし、儂には止める権限も無いのう。じゃが、できれば生かしておいて欲しいのう。何かに使えるかもしれんでの。」
「分かった。努力する。」
俺はここでテレフォンを切った。
俺も当然、簡単に殺すつもりははなから無い。
しかし、不測の事態が起これば保証は出来ない。
「なんだこいつ! ちょこまかとうざいぞ! こうなりゃ範囲魔法だ! ファイアトルネード!」
「じゃあ、これは? ウィンドカッター!」
ふむ、これは面倒だ。
喰らっても、大した事ないだろうが、やはりダメージは極力避けたい。
俺は、この時の為に作ったと言っても過言ではない、【リフレクトシールド】をアイテムボックスから取り出した。
俺に迫ってきた炎の渦と、無数の空気の歪みが、見事に反射される!
ふむ、範囲魔法を反射すると、こうなるのか。
反射された炎の渦は、二宮、近藤、両方を包み込む!
近藤のほうは、自分の放った【ウィンドカッター】も相まって、苦痛の悲鳴を上げる!
「うぎゃ!」
「な、なんだよ? え? 反射?」
「二宮さん、ここは引きましょう! 僕ら魔法タイプには相性が悪いです!」
「そうだな、ヨウジ! よし、小部屋に入れ!」
まあ、そうなるわな。
「縮地!」
俺は二人を追い越して、小部屋の中央に陣取る。
「へ! 馬鹿か! テレポートしちまえば終わりだよ! ヨウジ!」
「はい! テレポート!」
何も起こらない。
「え? テレポート! テレポート!」
石を握りしめながら、何度も叫ぶ近藤が凄く滑稽だ。
しかし、本当にアホだな。
敵意を持つ者が近くに居る場合は、テレポートは成功しない。
そして、ダンジョン内でテレポートが出来る場所は、ワープの小部屋しか無い。
つまり、こいつらが帰るには、この部屋の俺を排除するか、ここを出て、70階層まで潜って主を倒し、ワープの小部屋に行くしかない。
ちなみに、主部屋は、逆からは開かない。
この階にある扉の向こうでは、今も子蜘蛛が増殖しているのだろうが。
「おい、もう帰るのか? 俺はまだ案内できていないんだ。お前等から頼んできたんじゃないか。ほら、行くぞ。」
「へ! 反射できるからって、図に乗るんじゃねぇよ! 俺は剣も得意なんだよ!」
「支援します! ブースト!」
ふむ、雑魚でも、能力値が上がれば厄介だ。
光魔法、【ブースト】は対象の攻撃力を一時的に上げる。
ならば、闇魔法なら、逆が出来るのではなかろうか?
「オールダウン!」
ん? えらく動きが鈍くなった?
必死に剣を振り回そうとするが、逆に剣に振り回されているように見える。
二宮のステータスを確認する。
全部見れた。
「ぶっ!」
体力と気力以外のステータスが全部1になっている!
更に確認する。
なるほど、耐性の穴は睡眠か。魔法の属性は火と闇と土。
「え? 二宮さん、しっかりしてください!」
剣を持ちながら、ふらふらと踊る二宮に近藤が慌てて駆け寄る。
「とりあえず、ヒール!」
ふむ、賢明な判断だ。
しかし、ここでの最善は、多分【アブノーマルキャンセル】だろう。
試したことないので、効くかは分からんが。
「そのまま暫く踊ってて欲しいんでな。スリープ!」
近藤がどさっと崩れ落ちる。
あっけない。
「お前も寝てろ! スリープ!」
二宮も倒れる。
「さて、どうしたものか。」
俺は寝息を立てる二人を前に悩んだ。
「あ、そうか、案内しないといけないんだった! だが、その前に。」
俺はしゃがんで、二人のアイテムボックスを指から外した。
やはり近藤は、手にテレポートの石を握っていたので、それも回収しておく。
用心に、ポケットとかもまさぐってみたが、特に何も無かった。
当然、武器は真っ先に回収済みだ。
「じゃあ、次は俺の回復だな。」
初めての魔法、【オールダウン】が結構気力を食ったようで、全部で200近く減っていた。
「ソウルドレイン!」
うん、全回復。
鑑定スキルで確認すると、吸われた近藤の気力は、哀れ100を切っていた。
魔法の無駄撃ちをしてカラにするのも手か。
「オールダウン! ソウルドレイン!」
これで近藤の気力はカラだ。
回復役を潰しておけば、かなり安全だろう。
「いい加減、起きろ! このアホ共!」
俺は二人を蹴飛ばす!
勿論手加減はしている。
防御が殆ど無い状態で、俺が本気で蹴れば、間違いなく即死だろう。
「ようやく起きたか。じゃあ、行くぞ。」
ステータスを確認すると、もうオールダウンの効果が切れていた。
やはり、30秒くらいか。
二人は一瞬戸惑っていたが、すぐに正気に戻ったようだ。
「てめぇ~! 何舐めたことしてくれてんだよ!」
「そうです! やはり、さっさと殺すべきでした!」
いや、近藤、お前殺そうとしてたろ?
しかし、その後の二人の行動がまた笑える。
武器が無いのに気付いたらしく、必死に腕を振り回している。
アイテムボックスを使おうとしているのだろう。
「て、てめぇ~! 何してくれやがるんだ! アイテムボックスを何処にやった!」
「お前、本当にアホだな。俺はこの小部屋から普通に一階に帰れる。登録しているからな。」
「え? ということは?」
「お、アホ2号、気付いたか! そう、今、俺がここから帰ると、お前達は10階降りて、70階で登録しないと出られない! さあ、どうする?!」
「ぐだぐだ言ってねぇで、返せよ! お前を殺せば全部解決なんだよ!」
「それ以前に、ここ、まだ20階でしょ? 僕達だけでも30階までなら行けますよ。」
二宮は蹴りを放って来るが、俺には丸見えだ。
足を取って、くじいてやる。
「ててっ! おい、ヨウジ、早く回復しやがれ!」
「は、はい! ヒール! あれ?」
近藤は不思議そうな顔をしている。
ふむ、気力が無いのに気付いたようだ。
「じゃあ、俺は行っていいか? それともやっぱり案内居るか?」
「へ! だから、お前を殺せば!」
「無理だな!」
今度は、殴りかかってきたので、腕を極める。
骨が折れる嫌な感触が伝わる。
「案内は必要無さそうだな。じゃあな!」
「え、ちょ、ちょっと待って!」
俺は振り返らず、一階へワープした。
一階の小部屋で更にテレポートを唱える。
ブックマーク登録ありがとうございます!
評価や感想なんぞも頂けると励みになります。m(_ _"m)




