会談への準備
会談への準備
その日は、俺、カレン、リムで新しい工房に籠る。
基本的な使い方はミニ工房と全く一緒だ。
ただ、炉が大きくなったことにより、以前よりも、多様な物が作れるようになっている。
購入時、炉の熱源を火力式にするか、気力式にするか悩んだが、俺達の気力量は常人の比では無いので、気力式にした。
気力の注入係は専らリムである。
「ふむ、ドリルモグは素早さ10%アップと。これは使えるな。」
現在、俺達はカレンが作ってくれた鉄製品に、魔核を付与し、魔核の性質を見極める作業をしている。
「ダガー出来たっす。鉄の盾はこっちに置いとくっす。」
「おう。」
「アラタ、次はマイティーカレンよ。」
「う~ん、これは微妙だな。命中+5か。」
やっているうちに、俺もカレンもいつの間にか、スコットが持っていたスキル、道具鑑定を習得し、いちいちアイテムボックスで確認しなくても良くなったのが、本日最大の収穫だ。
「よし、主以外の魔核の効果は確認できたと思う。現在、使えそうなのは、ラージスケルトンの攻撃力10%アップ、レッドサイクロプスの防御10%アップ、ノイジーバットの魔力10%アップ、ドリルモグの素早さ10%アップ、ユニコーンデビルの睡眠効果、メニメニアイの混乱効果、ジャイアントトードの暗闇効果、メイジゴブリンの沈黙効果、キラービーの麻痺効果、くらいだな。」
どうやら、特殊スキルや魔法を使う魔物の魔核は、その効果が付くものが多いようだ。
「はいっす。おかげであたいの盾は、効果の付かない聖銀よりも、鉄のほうが高性能になったっす。」
そう、10%アップ系統の魔核は、2個合成させ、20%アップにすると、素晴らしい効果になる。
ただし、割合系の効果は、別々の装備では重複しない。
例えば、防御20%アップをつけた盾と鎧を装備しても、40%アップとかにはならない。
しかし、防御+10の盾と鎧なら、併せて+20となる。
なので、装備の組み合わせ方を計画的にしないと、無駄が出そうだ。
「よし、そろそろ晩飯だろう。カレンもリムもご苦労様。カレンは明日、いよいよ特殊素材での作成にチャレンジだな。」
「はいっす! お疲れ様っす!」
「あたしも、かろうじて武器作成スキルがついたわ。カレン姉様、ありがとう。」
今日の晩飯は、クレアとミレアの力作らしい。
マリンの特訓?の成果を期待しよう。
「ん? 何だこのスープ! このとろみが絶妙の食感だぞ!」
「このお肉、元は分からないけど、脂が乗っていて美味しいわ。流石はお姉様方ね。」
「スープはメニメニアイの目玉、お肉はレッドサイクロプスですわ。」
「あれがこんな料理になるなんて、まさに魔法っすね。」
元を想像すると、食欲が失せそうだが、これを食べればそんなのは吹っ飛ぶ。
皆の評価にクレアとミレアはどや顔である。
マリンも満足そうだ。
教えた甲斐があったというものだろう。
食後は、もはや恒例の一家団欒での風呂だ。
例によって、サラを排除してから皆で浸かる。
しかし、あの娘・・・、めげんな。
風呂でゆっくりと寛いだ後は、これまた恒例になりつつある、マリンによる、ティータイムだ。
今日はコーヒーだった。
本当にこの世界、何でもあるな。
そのうちコーラとか出そうだ。
その晩は、続きをとかせがまれたので、リムと寝る。
翌日は特に邪魔も入らず、午前中は全員で耐性を上げる特訓をする。
特訓と言っても、俺が効果を付与した武器で小突いていくだけだが。
おかげで、全員、現時点で得られる耐性は全て【無効】になった。
午後は、いよいよ特殊素材を用いてのカレン工房だ。
まずはスコットが作っていたスケルトンLv5の素材に挑戦する。
「う~ん、鉄は簡単だったっすけど、特殊素材で一から形を作るのは、やっぱ難しいっすね。」
「リム、温度の調整に注意してくれ。一定の温度じゃないと、ひびが入るようだ。」
「はい!」
それでもカレンは、スコットに追いついたようだ。
「できたっす!」
スケルトンの槍:攻撃力+10
「カレン、おめでとう!」
「やりましたね、カレン姉様!」
「いや~、アラタさんとリムちゃんが居なかったら、多分出来なかったっす。あたいも感謝っす!」
その日の夕食時、明日の予定を発表する。
「さっき、城から使いが来て、明日の会談の段取りを伝えて来た。」
「全部で何人来るのですか?」
「勇者は俺を含めて7人、シュール共和国から一人、サンタル王国から二人、イスリーン王国から二人、そしてナガノさんだ。」
「思ったより少ないですね。」
「そうだな、ミレア。他国も帝国同様、勇者の育成に失敗しているのかもしれないし、出し惜しみしているだけなのかもしれない。そこは不明だ。」
「それで、アラタ、予定は?」
「朝一に城で簡単な打ち合わせ。その後、冒険者ギルドの地下、あのオークション会場で会談だ。ちなみに、会談に参加できるのは勇者とそのお付きが一人まで。俺はクレアを連れて行くつもりだ。」
「あら? 意外ですわ。てっきりアラタさんは、リムちゃんを連れて行くかと思いましたわ。」
「理由は簡単だ。俺達が会談をしている間、従者は上の冒険者ギルドで待機だ。そこで何かあった場合のことを考えると、現時点で俺に次ぐ能力の、リムを置いておくのが最善と判断したからだ。」
「分かったわ、アラタ。任せて。」
クレアを連れて行く理由は他にもある。
防御の要であるカレン、範囲攻撃の要であるミレア、それに万能のリムが加われば、ミツルのパーティー程度なら勝てるだろうとの算段だ。
もっとも、明日来る勇者達が、ミツル程度とは思えないが。
「それで、クレア、明日、周りは全員人間兵器と思っていいだろう。俺もそんな連中相手に勝てる自信はあまり無い。何が起こるかも予測がつかない。なので、何があっても俺の指示に従って欲しい。逃げろと言ったら、俺を置いて即座に逃げろ。これは命令だ。」
何しろ俺はまだ召喚されて1月も経っていない、ど新人だ。
今年召喚された奴以外は大先輩である。
俺が一番弱いと思っておかないといけない。
「命令なら仕方ありませんわ。でも、そんな指示は出させないように頑張りますわ。」
「うん、ありがとう。次、リム、ミレア、カレン、何かあったらリムの指示に従ってくれ。それで、ヤバそうだと思ったら、即座に建物から出ろ。連中がその気になったら、ギルドホールごと吹っ飛ぶかもしれん。」
「「「はい。」」」
もっとも、そんな事態になったら、間違いなく戦争になるだろう。
ナガノさんだって黙っては居ないはずだ。
しかし、ミツルの例もある。
どんだけのアホがいるかは未知数だ。
恒例のサラ排除の儀式を終えて、風呂から上がり、リビングで寛ぐ。
カレンとリムは、風呂の後も工房でまた頑張っているようだ。
明日の事を考えると、落ち着かない。
そこへ、クレアとミレアが紅茶を淹れに来てくれた。
二人は俺の両脇に座る。
「明日のこと、心配なされていますの?」
「まあ、そんなところだ。」
「心配する必要は無いと思います。アラタさんは勇者様の中でも、一際チートです。」
「そうならいいんだが。ところで、二人共、聞いておきたいことがある。嫌なら答えなくていい。」
「何ですの?」
「聞かなければ分かりません。」
「俺がこの世界に召喚されてから、お前達はリムと一緒にずっと側に居てくれた。お互い、好きでもなきゃ、ここまで続いてなかったはずだ。それで、お前達、いつから俺を好きになってくれたのかなと。俺の場合は、お前達が俺の奴隷になってくれた時だと思う。」
「そうですわね。私はアラタさんがフォートウルフを撃退した時ですわ。」
「ん? 奴隷になる前か。だが、あの時、俺はまだこの世界に来たばかりで、混乱してたと思うぞ? それに、お前達が居なければ、俺は多分死んでいた。」
「あの時、私はこの勇者様ならと確信しましたわ。どれだけの能力を持った人でも、普通、素手で魔物に立ち向かえませんわ。しかも、初めての魔物に対してなんて、それこそありえませんわ。」
「ふむ。俺は無我夢中なだけだったと思うが。」
「そうかもしれませんわね。でも、私にはそれで充分でしたわ。」
「そうか、クレア、ありがとう。」
俺はクレアを見つめる。
クレアは俺にしなだれかかる。
すると、ミレアが割って入ってきた。
「私の事も聞いてからにして下さい。」
「あ、ミレア、済まん。つい。」
「いい雰囲気でしたが、お預けです。私はツインサイクロプスとの時でした。」
「う~ん、俺もあの時は、それこそ必死であまり覚えていないんだよな~。」
「あの時アラタさんは、未知の魔物相手に、最善と思える戦闘をこなし、且つ、初めての魔法でお姉様を助けてくれました。」
「そうだったかな~?」
「はい。私はあの時ですね。この方は強いだけじゃない、と実感しました。」
「なんかくすぐったいな。でも、ありがとう、ミレア。」
「いえ、とんでもないです。では、続きを、その、私にも・・・。」
「ああ、なんか不謹慎かもしれないが、我慢できない。二人共、うん・・、抱かせて欲しい。」
俺は二人の手を取り、寝室に向かった。
その晩、二人が寝入った後、俺は妙に寝付けない。
そうだ! あれをやっておかないと! あれが気になっていたんだ!
どうせ失敗しても、またダンジョンに潜ればいいだけだ!
俺は、横で寝息を立てるクレアとミレアを置いて、工房に向かう。
「おや? アラタさん、絶妙のタイミングっすね。」
「そうね、アラタ、間に合って良かったわ。」
「ん? なんだ、お前達、こんな時間まで何をやってたんだ?」
「えへへ。これ見て欲しいっす。本当は武器とかにしたかったんすけど、今のあたい達じゃ、これが精一杯だったっす。」
「でも、凄いのよ、アラタ。カレン姉様が遂にやったわ!」
「どれ、見せてくれ。」
俺はカレンが差し出す、ネックレスというか、首輪を受け取る。
レッドウィッチの首輪:防御+1 ?? ?? ??
俺の道具鑑定スキルは上がっていて、装備品に、あと何個特殊能力を付与できるかまで分かるようになっている。
ふむ、武器屋の主人の情報通りだな。
後、3個付与できるようだ。
しかし、これはまさにダイヤの原石だ!
「カレン! リム! 本当にやっちまったようだな! うん、ありがとう。後は俺が付与するだけと言う事だよな。」
「はいっす。後は任せたっす。あたいは寝るっす。」
「ええ、まだ素材はあるから、失敗してもいいわよ。じゃあ、あたしも寝るわね。おやすみなさい、アラタ。」
「おう、任せろ! しかし、失敗したらすまん。じゃあ、二人共、おやすみ。」
俺は前々から、もしこれに成功したら付与する効果はこれ、と決めていた。
左手に首輪、右手に魔核を持ち、意識を集中し、気力を込める。
一つ目、攻撃力20%アップ、うん、成功だ。
二つ目、ふむ、空いている隙間に流し込む感じだな。
魔力20%アップ、これもいけたようだ。
三つ目、空いている隙間が狭い!
慎重に流し込む。
素早さ20%アップ、よし! 完璧だ!
ちょっとしたチート装備の完成だ。
???:防御+1 攻撃力20%アップ 魔力20%アップ 素早さ20%アップ
ふむ、この世界で全く新しい物のようだ。
命名タイムだな。
まあ、これはカレンに付けさせよう。
これこそ彼女の権利だ。
早速着けてみる。
「ぶっ!」
分かっていたことだが、凄い事になった。
しかし、俺がここに来た目的はこれじゃない。
俺は実行に移す。
左手には鉄の盾、右手にはレッドウィッチの魔核。
レッドウィッチの魔核は、現在2個しか持っていない貴重品だ。
そして、俺の勘が合っていれば、あの効果がつくはずだ。
やっぱりな。
リフレクトシールド:防御+15 特殊効果【反射】
ふむ、これは名前がついているということは、既に持っている奴が居るということだ。
確かに、レッドウィッチは30階層の主だから、そこまでレアという訳では無いのだろう。
しかし、これは少し癖のある防具だ。
こいつを装備したら、如何なる魔法も反射して受け付けないが、同時に魔法で回復も出来ないと言う事だ。
だが、魔法メインの奴相手には、絶大な効果だろう。
そして、明日来る人間兵器には、そんなのも居そうだ。
俺は気がかりを解消し、更に素晴らしい宝を手に入れたせいで、一気に気が緩んだようだ。
その場で寝てしまったらしい。
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