ミツルと皇女
ミツルと皇女
朝、皆で朝食を取っていると、玄関を叩く音がする。
慌ててマリンが出て行く。
「アラタ様、勇者橘男爵様がお見えです。」
朝っぱらから、何の用だろう?
「ん~、ミツルだけ?」
「いえ、ヤットンさんと、従者と思われる方々、そして皇女殿下もご一緒です。」
ふむ、昨日のカサードの件でダンジョンに追いやられ、その前にという事だろう。
「分かった。応接室に通してくれ。リム、俺と一緒に来てくれ。」
俺は、面倒な事を言われたら、リムに頼る気が満々である。
「おはよう、アラタさん。朝早くから済まない。しかし、ダンジョンに入る前に、どうしてもお願いしたい事があったんだ。」
ここまでは予想通りのようだ。
「お願いとは魔法書か?」
「うん、その通りだよ。流石はアラタさんだ。益々僕の・・・」
「あ~それはいい。狭いが、全員掛けてくれ。」
サラとマリンが慌ててリビングのソファーを持ってくる。
俺が一人用のソファーに座ると、リムが俺の膝に座りやがった。
ミツルへの牽制のつもりだろうが、正直、かなり恥ずかしい。
3人掛けのソファーの真ん中にミツルが座り、その両脇に皇女とヤットン。
侍女が持って来てくれたソファーには、見知らぬ3人が腰掛ける。
「うん、仲間を作れたようだな。先ずは紹介してくれ。俺はアラタ・コノエ。今年召喚された勇者で、ミツルの友人だ。そして、こいつがリム。俺の従者であり、許婚者の一人だ。」
「そうだね。じゃあ、フロン、君からだ。」
ミツルの隣の女性には面識がある。
向こうはこの身体の俺を知らないと思うが、リムとの同居時代に紹介されている。
カサードの娘だ。
「そのお身体の近衛殿とは初めてね。そして、元近衛殿のリムさん、でしたか、貴女も。私は、フロン・ミスト・ドルトムンク。フラッド帝国第二皇女にして、勇者橘男爵の従者よ。以後、お見知りおきを。」
フロンが立ち上がって、貴族風の挨拶をする。
年は16、7くらいだろうか?
リムと似た印象だ。
ただ、リムよりも少し大人びた感じ。
見事な金髪をツインテールに纏めている。
「改めて、初めまして、皇女殿下。こちらこそよろしく。」
俺とリムも立ち上がって、挨拶を返す。
「それで、こちらがミツルの仲間か?」
「はい、僕はケルンと申します。橘様の奴隷です。よろしくお願いします。」
ケルンは中学生くらいか? かなり幼さが残る。
身長は160cmくらい。茶髪で人懐っこそうな印象だ。
背中に弓を背負っている。
「ぼ、僕はボウマンです。人狼族の奴隷で20歳です。よ、よろしくお願いします。勇者様。」
ふむ、ウルベンさんと同じ種族か。
精悍な顔つきなのだが、かなり気弱そうな感じだ。
大きな盾を持っているので、カレンのような前衛だろう。
「ノーラ。エルフ族。25歳。宜しく。」
25歳のエルフは、見た目はリムより若く、サラといい勝負だ。
銀髪の美少女。
年齢はともかく、見た目だけなら、スコットのストライクゾーンだったかもしれない。
魔法の得意なエルフ族らしく、彼女は杖を持っていた。
「では、ミツルの従者さん、宜しくな。じゃあ、ミツル、これが魔法書だ。全部持って行っていい。必要が無くなってから返してくれればいい。」
「アラタさん、ありがとう。じゃあ、ノーラ頼むよ。しかし、アラタさんには本当に感謝しても仕切れない。あの魔核を売って、僕はやっと仲間を手に入れたよ。」
「ん? 今まで、共和国の兵隊とか居ただろう? あれは違うのか?」
「う~ん、今思えば、彼らは名誉とかお金の為にダンジョンに潜っていたんだと思う。」
「え? それが普通なんじゃないか?」
「うん、それはそうなんだけど、僕は奴隷を手に入れて気付いたんだ。この人達は基本的に、自分の命を最優先に守ろうとする。だから、決して無茶しない。でも、仲間を庇うことによって勝率が上がるのなら、喜んで盾になってくれるんだ。そう、パーティーの生存=自分の生存、ということが分かっている。けど、兵隊は、自分の命が軽いんだ。だから、名誉欲に駆られて無茶をする。そして、お金目的の人は、自分だけ生き残ればいいという感じだったよ。」
なるほど、何となくだが分かる気がする。
しかし、あのミツルがこんな事を言うとは!
「ふむ、俺もそこまで考えた事は無かったな。そして、そう考えることが出来るお前と知り合えて、何か嬉しいよ。それで、ミツル、要件はこれだけじゃないのだろう?」
「アラタさん、何で分かるんだい? 益々僕の愛が・・」
「あ~、だからそれはいい。で?」
ミツルは全員を見渡す。
なるほど、メンバーの話か。
「どうだろう? ミツル、俺とリビングで話そう。ヤットンも一緒が良さそうだな。」
「助かるよ。じゃあ、君達はここで待っててね。」
うん、以前のミツルでは考えられない進歩だ。
部下に対しての傲慢な態度が完全に無くなっている。
これなら、いい関係を築けていそうだが?
俺はリムと一緒にリビングに移動する。
ミツルとヤットンもマリンに案内される。
4人がテーブルにつくと、クレアが紅茶を淹れてくれる。
「実は、皇女、フロンのことなんだ。」
「うん、色々と聞いている。お前にぞっこんなんだろう?」
「ああ、気持ちは嬉しいんだけど、僕には今の所無理だ。アラタさんが・・・」
「あ~、だからそれはいい! で、どうなんだ?」
彼女は回復役として、今のメンバーには不可欠らしい。
ただ、彼女だけ、ステータスの伸びが悪いそうだ。
最初のうちは全員、差は無かったのだが、最近は彼女だけあまり伸びないらしい。
もっとも、ミツルの能力上昇値だけはかなり上がったようだ。
原因は当然あれだろう。
奴隷と貴族の関係、俺が信頼補正と呼んでいる奴だ。
「皇女だけ、伸びが悪くなったのか?」
「うん、そうなんだ。」
「ヤットン、お前から見て、皇女とミツルの奴隷との関係はどうだ?」
「顕著なのは、身分の違いによる壁ですね。あと、僅かですが、人種の壁もあるようでございます。亜人のボウマンとエルフのノーラは、ケルンより少し苦手にされているように見えます。」
「じゃあ、ミツルと奴隷は?」
「近衛様の従者様とは比べ物になりませんが、全員、そろそろ仲間と呼べる関係かと。」
ふむ、やはり皇女に原因があるようだ。
「彼女に抜けて頂く、という選択肢は取れないのか?」
皇女には悪いが、ミツルにその気が無いのなら、一緒にいても可哀想なだけだし、長期的に見ると、足を引っ張ることになる。
「陛下の手前、厳しいと思うよ。」
「リム、お前なら何とかできるか?」
「このままなら、あたしでも無理ね。」
「ん? このままなら?」
「ええ。皇女様のミツルさんへの気持ち次第ね。」
ふむ、何か分かった気がする。
ここはリムに任せてみよう。
「じゃあ、頼めるか?」
「奴隷のあたしじゃ無理よ。皇女様は私の話を聞いて下さらないわ。」
「ふむ、続けてくれ。」
「説得はアラタ、あなたの役目よ。それでは、ミツルさん、ヤットンさん、外して下さる?」
ヤットンは大人しく、ミツルは首を傾げながら、部屋を出る。
二人が出た後、リムは俺に策を説明する。
「しかし、それは強引すぎないか? 皇女はともかく、カサードさんは納得しないだろう。」
「でも、それしかないわね。陛下へは、皇女様が言えば何とかなるわ。」
「う~む。まあ、試してみるか。ダメ元だ。」
「でも、何でアラタがそこまでしなきゃならないの? お人好しにも程があるわ!」
「まあ、そう言うな。じゃあ、始めるか。」
リムが部屋を出ると、暫くして皇女が入って来た。
「私に話って何かしら? 勇者近衛子爵殿。」
「そう堅苦しいのは苦手だ。カサードさんと一緒でアラタでいい。俺も貴女のことはフロンさんと呼ぶが、構わないか?」
「分かったわ。私のことはフロンでいいわ。アラタさん。」
「じゃあ、フロン、いきなりだが、君はミツルのことが好き、でいいのか?」
「え、ええ。お慕いしています・・。」
「うん、だが、ミツルには今はその気が無いようだ。まあ、原因の俺が言うのも何だが、一緒に居ても辛いだろう?」
「そ、それは諦めろと?」
「もし君にそれが出来るのなら、そういう事になる。」
「無理です!」
「では、もう一つ。これは俺が確認した訳じゃないので、間違いがあったら先に謝るが、君は以前の勇者に毒を盛ったとか。幸い命には関わらなかったようだが、結果は深刻だったと聞いている。」
「は、はい。それはパパにも厳しく叱れました。私も反省しています。二度とあんなことはしません!」
なんか、しおらしくなってきたな。
思ったより悪い娘じゃなさそうだ。
しかし、依然のミツルを知っている俺からすると、何処がいいんだかと思ってしまう。
彼女のような美人、しかも皇女なら、貰い手はいくらでも居るだろうに。
だが、さっきのミツルを見れば、それもありかなとも思う。
「じゃあ、これから話すことを良く聞いてくれ。」
「はい。」
「俺の今までの経験から、奴隷と貴族の関係がいいと、ステータスの上昇値が高くなることが分かった。そして、どうも君がその逆を証明してしまったようだ。」
「それは一体どういう?」
「はっきり言う。今の君の奴隷への苦手意識が消えないなら、ミツルの足を引っ張る。君がパーティーから抜ければ、ミツルの奴隷の能力の上昇値は、今以上になるだろう。」
「そ、そんな! で、でも・・・。私はどうすれば・・・。」
「そこでだ。いきなり奴隷に対しての意識を変えろなんて、俺も無理だと思う。なので、皇女、君がミツルの奴隷になればいい。勿論、その覚悟があればだが。」
彼女は俯いてしまった。
俺も、酷い事を言っているのは理解している。
王族がいきなり奴隷だなんて、悪夢以外の何物でも無いだろう。
だが、フロンにそれだけの覚悟があれば、逆に二人の上昇値は凄い事になるだろう。
「私・・・、やります! 奴隷になります! ミツルさんの側に居られる方法が、それしかないのなら!」
思わず、俺がぐっと来てしまった。
ミツル、お前は幸せ者だよ。
「分かった。それでフロン、君はカサードさん、父親も説得できるか? 下手すると、ミツルは軟禁時代に逆戻りだ。娘を奴隷にするくらいなら、城から出さずに、と普通は考える。」
「あら、それは簡単よ。私は第二皇女だし。パパも、あの件での私の処罰に困っていたようだわ。私が罰として奴隷になって、勇者様にお仕えすると言えば、パパの顔も立つわ。」
いきなり喋り方が元に戻ったな。
覚悟が決まった女ってところだろうか?
カサードの娘だけあって、頭の回転もいいようだ。
実は、この言い訳はリムも用意していたのだが。
「じゃあ、決まりだな。うん、フロンなら大丈夫だ。ミツルだって、俺みたいな男よりは、君みたいな可愛い子がいいはずだ。頑張れよ。後、これは未確認だが、当然奴隷同志の仲も重要だと思う。」
「はい! 多分、同じ奴隷になったら、大丈夫だと思うわ。」
ミツルを呼んで、経緯を話す。
「そう言う事だ、ミツル。後はフロンの覚悟にお前がどう応えるかだ。彼女が重いなら逃げてもいいが、この娘のことだ。ダンジョンの奥まででも追って来るだろうな。」
「ええ、ミツルさん! 逃がさないわよ!」
「わ、分かったよ。でも、僕は・・・。その・・・、アラタさんが・・・。」
「お前、こんな娘を振るなら、俺も減滅するぞ。お前には、はっきり言って勿体無い。男なら腹を括れ。」
「そう・・・だね! ありがとう、フロン! 僕は君の覚悟に応えられる男になるように努力するよ!」
ミツル達は帰って行った。
フロンが纏わりつくミツルは、少しだけ大きく見える気がする。
しかし、とんだことで時間を食った。
なんか、昨日もだが、どっと疲れが出た気がする。
「うまく行ったようね、アラタ。」
「ああ、ありがとう、リム。まあ、後はあいつら次第だけどな。しかし、よく協力してくれたな。お前はミツルには興味なかったろうに。」
「そうね。それは、あたしもアラタについた変な虫を掃除する、という目的があったからよ。」
「なるほど。お前らしいな。では、これは俺の感謝の気持ちだ。」
俺はリムを抱きしめて、キスをしてやる。
彼女も抱きしめ返してきたが、周囲の視線に気づく。
「続きはまた今度だ。」
「その気にさせてお預けは酷いわ!」
「アホ! 周りを見ろ!」
「続きの時はご一緒しますわ。」
「今回は仕方無いですね。多めに見ます。」
「あたいは昨日・・・、あ、何でもないっす!」
「私も感謝の気持ちが欲しいですにゃ!」
ん? なんか変なのも混じっていた気がするが、いつものことか。
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