覚醒の予兆
覚醒の予兆
俺は城を出ながら考える。
何やら動き出した。
俺達はダンジョンの攻略に専念したいのだが、そうも行かないようだ。
しかし、その会談で有用な話が聞ければ、攻略もかなり楽になる。
何よりもナガノさんに会えるかもしれないのは大きい。
だが、相手がもし、以前のミツルのような奴だったら、最悪戦闘だ。
契約により、ナガノさんも戦ってくれるだろうが、自分の身は自分で守りたい。
その為にダンジョンに潜ったのだし。
うん、これは準備を整えておいたほうが良さそうだ。
昨晩の魔法の件はすぐに皆に伝えるべきだ。
「リム、急いで帰ろう。俺に掴まれ。」
「え? この距離でテレポートの石は勿体無いわ!」
「もう必要無い。飛ぶぞ。」
俺は強引にリムの手を取り、気力を込める。
「飛べ!」
着いた先は、屋敷の玄関だ。
幸い誰も居なかった。
まあ、誰かに見られたとしても、既に隠す気はないが。
「ちょ、ちょっとアラタ、説明して!」
「リム、時間が惜しい。急いで全員をフル装備で玄関に集合だ。俺はカレンを呼んでくる。」
「わ、分かったわ! でも、後できっとよ!」
「カレン! 居るか?」
俺は地下室に駆け込んだ。
「はいっす。工房道具一式、配置完了っす!」
「お~、間に合ったか。では、今からダンジョンに行く。急いで準備をして玄関に集合だ。」
「は、はいっす! でもいきなりっすね?」
「まあな。とにかく頼む。」
俺はマリンを捕まえて、晩飯くらいには戻ると言い残し、玄関に走る。
既に全員揃っていた。
「じゃあ、俺に掴まれ! 新魔法のお披露目だ。」
俺達は、トロワのダンジョン50階層のワープの小部屋に飛んだ。
「まずは説明からだ。昨晩、色々考えていて、何というか、魔法の本質のようなものに気付いたんだ。そして、その結果が今のテレポートの魔法だ。当然、石は使っていない。」
「流石はアラタさんですわ。凄いですわ。」
「これまたチートに拍車をかけたようですね。」
「へ? あたい、会話について行けてないっす!」
「なるほど、そう言う事ね。もっと早く教えて欲しかったわ。」
そして、俺は今日のカサードとの話を伝えた。
「と言う事で、下手すると、以前のミツルのようなアホ勇者が来るかもしれん。ナガノさんも来るだろうから、大丈夫だとは思うが、準備だけはしておきたい。それでその魔法の本質だ。」
「じゃあ、あたいは魔法使えないから、お邪魔っすか?」
「いや、多分カレンにも為になるはずだ。新技の一つくらいは物にできると思う。」
「え! 早く教えて欲しいっす!」
俺は昨晩考えたことを丁寧に話す。
「大体こんな概念だ。理解できたか?」
全員、無言で頷く。
「じゃあ、先ずはクレア、お前は水魔法が得意だ。それで、津波って知っているか?」
「は、はい。私は海は知りませんが、聞いたことはありますわ。巨大な波ですわね?」
「そうだ。それをイメージして、そこの51階への通路に放ってみろ。ここなら誰の迷惑にもならないし、多分お前ならできると思う。」
「はい、アラタさんが仰るのなら、きっと出来ますわ。呪文は何でもいいのですわね?」
「うん、クレアのイメージに合ったのでいいと思う。」
「行きますわ! アラタさんへの愛!」
「「「「へ?」」」」
変な詠唱と同時に、通路には巨大な津波が発生し、通路を丸ごと呑み込む!
そして、濁流が駆け降りて行った!
「せ、成功ですわ! 流石はアラタさんですわ!」
「お、おう、クレア、おめでとう。し、しかし、その呪文は?」
「大波をイメージしましたら、勝手に出た言葉ですわ。」
「そ、そうか。まあ、使えれば何でもいい。・・・か?」
皆が興奮覚めやらぬうちに続けて行く。
「次、ミレア、これは俺と一緒に試そう。火魔法だ。」
「はい。どんなイメージですか?」
「先ずは俺が試してみる。成功したら真似してくれ。ん~、ここじゃ狭いか。通路を降りた小部屋で試そう。」
「はい!」
「地獄の業火!」
部屋全体が一瞬にして炎に包まれる!
運悪く中に居た魔物がウェルダンになった。
「「「「すご・・・。」」」」
皆が呆然と立ち尽くす。
「まあ、イメージできる範囲でいい。試してくれ。」
「は・・・、はあ。これも呪文は何でもいいのですね?」
「そうだ。クレアを見ただろう。」
「そうですね。では・・・、お姉様のお仕置き!」
俺のより規模は小さかったが、それでも、かなりの火力だ!
部屋の半分程が炎で満たされる!
「で、出来たようです!」
「うん、これも呪文は意味不明だったが、おめでとう。」
「ミレア! 後で話がありますわ!」
「そうです! このイメージです!」
「「「「はぁ~。」」」」
「次はリムだが、さっきのクレアの魔法を真似てみるか?」
「いいえ、アラタ、あたしは光魔法で試したいわ。勿論、後でクレア姉様のも真似するけど。」
「ふむ。どんな感じだ?」
「う~ん、ステータスアップね。アラタ、実験台になって。」
「よし。立っているだけでいいか?」
「ええ。じゃあ、行くわよ! オールアップ!」
俺の身体が真っ白に光る!
「成功したっぽいわね。ステータスはどう?」
「おう、今確認する。」
・・・なんじゃこりゃ?
「やっぱ、リムのは半端ないな。全ての能力値に200以上プラスされていたぞ!」
「やっぱり! あたしとアラタは相性がいいのかも!」
「多分、相性は関係ないと思うぞ。」
他の3人も頷く。
「じゃあ、最後はカレンだ。お前は武術系スキルで試そう。剣、盾、どっちがいい?」
「そうっすね~。うん、思いついたっす。アラタさんとクレア、あたいに連続攻撃を同時にお願いするっす! あ、威力は手加減して欲しいっす。」
「分かった、準備出来たら言ってくれ。」
「カレン、遠慮しませんわ!」
「いいっす! 無敵!」
「行くぞ、10連掌打!」
「5点連穿!」
俺は相撲で言うところの、突っ張りをかます!
クレアは槍を逆に持ち、神速の5連続突きを放つ!
「むむ・・・。」
「当たっているのですけど、届いていませんわね。」
「成功みたいっすね。ノーダメージっす!」
「うん、これは凄いな。これなら群れのど真ん中に放り込んでも大丈夫そうだ。」
「そ、それは勘弁っす。後、これ、気力の消費が結構きついんで、回数は使えないっす。時間も10秒くらいみたいっす。」
「ふむ、でも、これは主相手に使えるな。その調子で色々試してくれ。」
「はいっす!」
その後は暫く皆で試し打ちをする。
リムは津波を成功させていた。
ミレアは風魔法で竜巻を起こしている。
クレアも槍で何か試しているようだ。
「よし、全員いい感じだ! マリンに叱られないうちに一旦帰ろう。後、この事は誰にも内緒だ。広まると、この世界の魔法とかの体系が、多分崩壊する。試し打ちしたい奴は俺に言ってくれ。ここに連れて来てやる。」
「「「「はい!」」」」
「じゃあ、アラタ、今度はあたしの番よ。全員あたしに掴まって。」
「よし、リム、頼む。」
「テレポート!」
屋敷に戻ると、マリンが何も聞かずに出迎えてくれた。
「皆さん、お帰りなさい。食事の用意が出来ているざます。さあ、席に着くざます。」
その日の夕食は、皆、興奮していたせいか、黙々と食べる。
サラが不思議そうな顔をしていたが、皆の皿を見てにっこりする。
うん、今日も美味かったぞ!
食後、今日届いた工房セットも気になっていたのだが、最大の懸念事項が成功したので、何か気が抜けてしまった。
こういう時は風呂で寛ぐに限る!
「サラちゃん、風呂は入れる?」
「帰ったら、先にお風呂かと思って沸かしていましたにゃ。少し冷めているはずにゃので、私が温め直すにゃ。」
「あ~、いいよ、自分でやるよ。」
「でも、私の仕事ですにゃ!」
「お前達、頼む!」
これ、毎回やってるな。
自分で気力湯沸かし器を操作し、温めていると、皆が入って来る。
ミレアが湯を編んでくれる。
うん、適温だな。
「なんか、今日は疲れたな。しかし、ここは極楽だ~。」
「そうですわ~。」
「寝てしまいそうです~。」
「あの魔法、気持ちよかった~。」
「やっぱ、飯の後が最高っす~。」
皆、目が糸になっている。
充分に寛いだ後、身体を洗っていると、皆に囲まれる。
抵抗する気力も無く、されるがままだ。
妙な気分にもならん。
その後ものんびりとした後、リビングに戻ると、マリンがお茶を淹れてくれる。
「今日はお疲れのようざますね。」
「うん、なんか、今日は色々とあったからね。」
「でも、あの娘達のこともちゃんと構うのが殿方の務めざます。今日はカレンちゃんらしいざます。」
げ! そんな事まで! 侍女長、恐るべし!
その晩はカレンの部屋で寝た。
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