60階層の主
60階層の主
「ということで、今日は魔核付与にチャレンジっす!」
「カレン師匠、最初は余っている鉄製品、ダガーでいいか?」
「はいっす! ゴブリンの魔核からいくっす!」
現在俺達は56階層で野営中だ。
昨日の修理で気を良くしたカレンと俺は、魔核の付与に挑戦中である。
他の女性陣は食事の準備とかしてくれている。
「う~ん、また失敗っす。」
「師匠、武器屋の話では、鉄製品なら最低一個は付与出来るはずなんだが。」
スコットの場合、無理に2個付与しようとしたら、失敗して武器が壊れたと言っていた。
カレンの場合は、武器も魔核もそのままだ。
つまり、根本的に間違っている可能性がある。
「でも、本に書いてある通り、気力を込めているんすけど・・・。」
ふむ、ひょっとしたら、亜人は魔法の扱いは苦手と聞いているので、気力の操作そのものが苦手なのかもしれない。
「気力の込め方が違うのかもしれない。俺も試してみよう。」
俺は、ゴブリンの魔核とダガーをそれぞれ手に持ち、魔核の中身をダガーに流れ込ませるようにイメージして、気力を込める。
「ん? 師匠! これ見てくれ!」
「えっ? これって、もしかしてって奴っすか?」
カレンが俺の作ったダガーをアイテムボックスで確認する。
続いて俺も確認する。
「ふっふ、遂に俺は師匠を超えたようだな。」
ダガー:攻撃力+6
ダガーの基本攻撃力は+5。
なので、ゴブリンの魔核の効果、攻撃力+1が付与され、+6となったのだ。
「アラタさん、凄いっす! でも、なんか悔しいっす!」
「多分、コツと言うか、魔核の中身がダガーに入り込むイメージだ。」
「そういう感じなんすかね~? でも、もう少しやってみるっす。」
「うん、その意気だ。俺は今度は合成をやってみよう。」
俺は調子に乗って、ゴブリンの魔核を2つ手に取り、先程と同様に気力を込める。
うん、中身が移動した感触がある。
早速、アイテムボックスに入れて確認する。
ゴブリンの魔核改×1
魔核×1
ふむ、成功したな。
中身が無くなったほうは、『魔核』としか表示されないようだ。
アイテムボックスから取り出し、今度はダガーを片手に試す。
この感触はさっきと同じだ! 成功だ!
アイテムボックスで確認すると、
ダガー:攻撃力+7
よしっ!
一歩だが、スコットに近づけたはずだ!
俺が笑みを浮かべていると、カレンがやって来た。
「ひょっとして、また成功っすか?」
「師匠、済まんな。どうやらそのようだ。」
カレンはむきになって再挑戦しようとしているが、クレアの呼ぶ声が聞こえる。
「アラタさん、カレン、食事の準備が出来ましたわ。」
「うん、カレン、一旦休憩にしよう。気分を変えてから試したほうがいい。」
「はいっす! あたいも腹減ったっす!」
だが、カレンは未練があるようで、食事をしながらも、目線がミニ工房に泳いでいる。
「カレン、俺はカレンの武器作成スキルには及ばない。そして、カレンは魔核の付与は苦手のようだ。これは素質というか、タイプだと思う。お前が武器を作って、俺が魔核を付与する。それがベストかもしれんぞ。」
「え? そんな考え方はなかったっす! なんか、2人3脚みたいでいいっすね。」
「なんか、私達、疎外感が半端ないのですが。」
「悔しいですけど、いい雰囲気ですわ。」
「あ、あたしも頑張るわ! カレン姉様、後で教えて下さい!」
結局、食後はカレンと俺で、鍛冶師講座となったが、残念ながら3人共、そう簡単には習得できなかったようだ。
俺としては、スコットの作業を見ていたリムくらいは、ひょっとしたらと期待していたのだが。
その晩は約束通り、カレンとミレアを抱く。
俺は鍛冶修行で疲れていたが、満足させられたようだ。
江戸時代の将軍とかはこんな感じだったのだろうか?
「ふむ、これは、パターンが変わっているどころではないな。」
「そうね。凄いことになっているわね。主部屋が赤点だらけよ。」
「あたいもこの数は無理っす。」
俺達は現在、60階層の主部屋の前に居る。
ちなみに、【シースルー】は、ミレアとリムも使えるのだが、気力が勿体ないので、使わせない。
専ら俺の役目だ。
なので、彼女達は危機感知レーダーで様子を見ている。
そして、俺の【シースルー】で部屋の中を確認すると、部屋の奥、主の定位置には、女性の上半身をくっつけた巨大な蜘蛛。
更に、部屋の中には無数の体長50cm程の子蜘蛛と思われる魔物で溢れていた。
また、今回は前回と違って、魔物の死体では無く、骨と魔核が散乱していた。
何となく想像がつく。
この主はお引きを食べて子供を産んだに違いない。
「主と思われるのは人間の上半身に、蜘蛛の胴体をくっつけた化物だ。他の赤点はそれの子供だろう。子犬くらいのが、うじゃうじゃいやがる。おまけに、部屋中、蜘蛛の巣だらけで真っ白だ。」
「それで、アラタ、いつも通りでいいの?」
「前回の二の舞は踏みたくない。危険は承知だが、範囲魔法で一気に子蜘蛛を蹴散らしたい。」
「分かったわ。指示をお願い。」
俺は少し迷った。
この数だ。今回は撤退も視野に入れてやるべきだ。
しかし、前回のように、回復が間に合わなければ犬死する。
防御と攻撃を同時に行わないといけないだろう。
「よし、扉を開けたら、カレンは【挑発】、リムは土魔法、【サンドウォール】で、入り口に壁を築け。ミレアはその壁に沿って【ファイアウォール】、俺は部屋の中心に【ファイアトルネード】をぶち込んで、巣ごと焼き払う。クレアはカレンの護衛と回復役。これでどうだ?」
「恐らく、現時点での最高の作戦ですね。流石はアラタさんです。」
「ミレア、褒めてくれるのは嬉しいが、何も出んぞ。後、念の為に、解除効果の小太刀は俺が持っていよう。それと、ミレアとリムは最初の魔法を唱えたら、すぐに次弾の用意だ。残った奴を頼む。」
「「「「はい!」」」」
扉を開ける前に、リムに全員強化して貰う。
全員に強化となると、結構気力を消費するらしいので、未知の魔物限定だ。
そして、ミレアと俺で、【アイスガード】をカレンとクレアにかける。
「いいか、ヤバいと思ったら、すぐに撤退するから、必ず従ってくれ! じゃあ、カレン、開けろ!」
扉が開くと同時に、無数の子蜘蛛が糸を吐きながら殺到してくる!
「挑発!」
「サンドウォール!」
「ファイアウォール!」
「ファイアトルネード!」
一瞬でかなりの子蜘蛛が燃え上がる!
カレンの挑発に惹かれた奴は、土の壁にぶち当たり、更に炎の壁に焙られる!
よし!
初撃は成功だ!
壁を乗り越えた奴も、クレアに突き殺される!
「ミレアはもう一発! リムも撃ち洩らしを頼む!」
「はい! ファイアウォール!」
「ええ! サンダーラッシュ!」
俺も、もう一度部屋の中央目掛けてぶち込む!
「ファイアトルネード!」
うん、かなり片付いた!
蜘蛛の巣が焼き払われ、階層主がようやく見えた!
これなら、もう1~2発でほぼ子蜘蛛は全滅させられそうだ。
そう思った矢先、大きな影が入り口の上から突入して来た!
「不味い! カレン! 上だ!」
何ともう一体、主と同じ奴がいやがった!
恐らく、扉の上の天井に潜んでいたのだろう。
蜘蛛の巣に隠れていて見えなかったのと、主は一体という思い込みで、見落としていた!
奴は炎の壁を掻い潜り、口から大量の糸を吐きながらカレンに襲い掛かる!
「ハイスタン!」
チッ、流石にこのクラスには効かないか!
「サンダーラッシュ!」
これは少し効いたようで、足が一本取れた!
しかし、カレンは既に糸に覆われて見えなくなっている!
「ファイアショット!」
ミレアが唱えるが、奴は既にそこには居ない!
かなり素早い!
クレアが必死に糸を断ち切ろうとするが、意外と丈夫なようで、あまり切れていない。
「カレン!」
俺が駆け寄ると同時に、糸で真っ白にされたカレンが扉の内側に連れ去られる!
俺のミスだ!
初撃が決まった時点で、一旦撤退するべきだった!
しかし、こうなってしまってはやる事は一つしかない!
もうあんな思いはしたくない!
俺も一気に土壁を乗り越えて、部屋の中に躍り込む!
「ミレアは魔法で燃やせ! リム、ついて来い! クレアはカレンに回復!」
「「「はい!」」」
奴が消え去った方向を探す!
天井を見ると、・・・いやがった!
側の大きな白い塊がカレンのはずだ!
「ファイアトルネード!」
俺は迷わずその塊目掛けて魔法を放つ!
範囲魔法は仲間には効かないので、こういう時は本当に便利だ。
糸が焼き尽くされ、カレンが落ちて来る!
「あたしが拾う!」
「リム、任せた!」
「ファイアトルネード!」
「ヒール!」
ミレアとクレアの魔法だ。
天井の巣が焼き尽くされ、奴も落ちて来た!
俺が落ちてきた奴に気を向けた瞬間、部屋の奥、もう一体の主から糸が飛んでくる!
「クレア! リム! そいつは任せた! 俺は奥の奴を黙らせる! 縮地!」
俺は身を屈めながら、一気に部屋の奥に陣取る主に肉迫する!
子蜘蛛が俺に群がろうとしていたようだが、それを置き去りにする!
支援魔法の効果は既に切れていて、俺達の身体はもはや明滅していない。
やられる前に、一気にけりをつけねば!
俺は手刀を奴の胸に叩き込む!
狙いは魔核!
しかし、そこに硬い感触は無かった。
チッ! 蜘蛛の胴体の方か!
奴も、胸から真っ青な血を流しながらも反撃してくる!
糸を吐きながら、8本の足のうち、4本を使って俺を捕らえに来た!
避けることは充分に可能だったが、俺はあえて捕まる。
4本の足で俺を胸の前に固定し、糸を絡めて来る!
「しっかり押さえていろよ! ボルケイノ!」
至近距離で発射された特大の火球は糸を燃やし尽くし、奴の上半身に大穴を開けた!
やったか?
だが、まだ俺を掴んでいる足の力が抜けない!
上半身の人間部分は完全に死んで、だらりとしているのに、胴体の蜘蛛部分はまだ生きていやがる!
俺は力任せに振りほどこうとしたが、外れない!
ダメージは受けないが、こんな奴に抱かれたままは趣味じゃない!
抱かれるのなら、彼女達がいい。
「ブースト!」
ナイスだリム!
俺の身体がほの赤く明滅する。
身体に力が漲る!
「挑発!」
よし! カレンも復帰したな。
蜘蛛の注意が削がれたのか、足の力が弱まる。
俺は足をへし折って脱出し、胴に渾身の蹴りを放つ!
人型の上半身が千切れ、蜘蛛の胴体だけが宙を舞う!
地面に落ちると、動かなくなった。
「リム、そっちは?!」
「もう片が付くわ! 混乱が効いてる!」
振り返ると、カレンを襲った奴は、あろうことか子蜘蛛を攻撃している。
どうやら、スコットの最後の作品、混乱効果の杖で殴られたようだ。
「ファイアトルネード!」
そして、カレンに群がろうとした子蜘蛛と一緒に、ミレアの魔法で纏めて焼かれる!
「五点連穿!」
更に、クレアの槍が、頭、喉、両胸、腹と完全に決まる!
「仕返しっす! 剣の舞!」
カレンが、蜘蛛の周りを踊るように無数の斬撃を放つ!
扉が開いた。
「ふむ、まだ子蜘蛛は残っているが、こいつらはカウントされていないようだな。」
「そうですね。階層主としては認められていないようです。」
俺達は、ちょろちょろ走り回る子蜘蛛を仕留めながら、そこらに転がっている魔核を回収する。
そして、全ての子蜘蛛を駆逐し、階層主の魔核を回収しようとして気付いた。
「なるほど、カレンを襲ったのは雄だな。こっちの上半身は男だ。全く、子供を産むなら普通、2匹必要だよな。」
「魔物も繁殖できるってことっすかね?」
「こいつらを見る限りはそうだな。しかし、気付かなかった俺が間抜けだ。おかげでカレンを失いかけた。済まん!」
「アラタ、あの状況では無理よ。あたしもてっきり主は奥の一体だけだと思っていたわ。」
「とにかく全員無事で良かったですわ! それで、この後はどうなさいますの?」
「そうだな、まだ外は暗くなっていないはずだ。一旦屋敷に帰ろう。風呂も気になるしな。」
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