カレン工房
カレン工房
「その感じでいいっす。そのまま押さえていて欲しいっす!」
「分かった! あっ! 熱っ!」
今、俺は鍛冶師の修行中だ。
本を片手に、カレンをサポートしている。
カレンは、魔法はダメだが、この手のスキルは相性がいいらしく、すぐに武器と防具の作成スキルを獲得した。
そう言えば、帝都の工房は亜人がやっていたな。
亜人は鍛冶師に向いているのかもしれない。
ちなみに、俺はまだ取得できていない。
確かに、スコットがやっていたのを、リム目線での記憶があり、難しそうだなとは感じていたが。
まあ、まだ修行が足りないのだろう。
ということで、現在はカレン師匠の助手だ。
「じゃあ、これであたいの盾と、クレアの槍はOKっすね。」
「うん、カレン、ご苦労様。しかし凄いな。やり始めてまだ半日も経って無いぞ?」
「これ、あたいに向いてるかもっす! 皆、直して欲しい武器と防具を出すっす!」
「カレン、乗って居るところ悪いけど、食事ができましたわ。」
「うん、一旦休憩しよう。続きは食後だ。」
「はいっす。確かに腹減ったっす。」
今日の食卓は、いつもより少し豪勢に見える。
充分な時間が取れたこともあるだろうが、クレアがマリンに張り合ったのかもしれない。
味は甲乙つけ難いのだが、限られた食材と調理器具で作ったことを考えると、クレアの勝ちかな?
リムの話だと、魔法書で覚えられる、使えそうな魔法は習得したとのことだ。
土魔法は、地面に穴を開けたり、逆に盛り上がらせて盾にしたりと、結構便利なようだ。
ミレアも、魔法の試し打ちは成功したようでご機嫌だ。
「しかし、残念だな。スコットの身体なのに、俺にはできないとは。」
「だから、カレンさんの言った通り、別人なのです。アラタさんにしかできない物もあるはずです。」
「うん、ミレア、それは分かっているつもりだ。だが、もう少し頑張ってみる。カレン、後でまた手伝わせてくれ。」
「はいっす!」
食後、再びカレンと装備の修理に励む。
勇者の遺品で予備はあるのだが、直せる時に直しておくのがいいだろう。
「よし、カレン、今日はもういいだろう。そろそろ寝よう。」
「そうっすね。修理する物も、あまりなさそうっす。本格的な作成は明日からやるっす!」
「うん、明日は魔核の付与とかをやってみよう。」
「楽しみっす!」
この時点で、俺も何とかスキルを獲得し、かろうじて鍛冶師の職業を得られた。
しかし、カレンは既にスキルレベルが2になっている。
やはり、カレンには素質があるな。先が楽しみだ。
俺達が槌を振るっている間、他の連中は既に寝る準備を整えていた。
終わるのを待ってくれていたようだ。
「う~ん、流石にダンジョンではちとな~。」
「そ、それはアラタ次第よ。でも、あたし達はいつでも応えられる準備をしておく必要があるわ!」
今までは離して並べられていたベッドが、足の部分をロープで固定されて、一つの巨大なベッドになっている。
まあ、無理に襲ってくるようなら、俺の【スリープ】で寝かしてしまおう。
【睡眠耐性中】くらいでは、俺の魔力の勝ちなはずだ。
俺がベッドの真ん中に横たわると、彼女達は何やら相談している。
「昨日はリムちゃんとミレアちゃんが隣だったっす!」
「そうですわ! 今日は私とカレンが隣ですわ!」
はい、そういうことね。
でも、今日は初めての鍛冶師で疲れたし、さっさと寝てしまおう。
しかし!
寝る前にキスとかせがまれたので、全員にすると、想定通り乱戦になりそうになる。
なので、俺が【スリープ】を唱えたのだが、クレアとリムには効かなかったのだ!
試しに自分にも唱えてみたが、当然効く訳も無く。
クレアの濃厚な接吻に、俺の理性が破壊される!
結局、その晩は二人を相手に頑張ってしまった。
翌朝、目覚めると、カレンとミレアが既に起きていて、何故か俺を睨む。
ん? あいつらは先に寝かせてしまったので、知らないはずだが?
しかし、すぐに気づいた。
ま、この状態ならアホでも分かる。
クレアとリムが素っ裸で俺に抱き着いて寝ている。
当然俺も裸だ。
「いや、その、なんだ。こいつらには俺の魔法が効かなくてな。」
「あたいらにも耐性はあったはずっす。」
「多分、魔法防御の違いだろう。」
「リムちゃんはともかく、私とお姉様は殆ど一緒のはずです。」
「そこは、クレアの執着がミレアに勝っていたのかもしれん。」
「納得できないっす。」
「納得できません。」
「じゃ、じゃあ、次はお前達を優先する。それでどうだ?」
「それならいいっす。今晩はクレアとリムちゃんは別のベッドっす!」
「絶対ですよ!」
これで一件落着かと思いきや、会話を聞いて、クレアとリムが目覚めたようだ。
「いいえ、先に寝てしまったお姉様達が悪いのよ。」
「あらあら、貴女達の愛が足りないのですわ。」
う~ん、面倒臭い事になりそうだ。
原因は明らかに俺にもあるので、少々ばつが悪い。
「しかし、俺も流石に全員とは無理だ。クレアの魔法は無しだぞ。あれは反則だ。なので、さっき言った通りので勘弁して欲しい。」
「まあ、アラタがそう言うのなら仕方ないわ。あ、あたしも、その、したい訳じゃないから!」
「でも、ベッドは一緒ですわ。これだけは譲れませんわ。」
まあ、ここらが落としどころだろう。
俺も誤魔化す為に、起き上がってミレアとカレンにキスしてやる。
皆で朝食を取りながら、今日の方針を相談する。
「しかし、本当に睡眠の魔法を唱える奴が出るとはな。この調子じゃ、石化とか即死とかもあるかもしれんな~。」
「アラタさん、変なフラグを立てないで欲しいです。即死とかは流石に無理です。」
「う~ん、確かに即死は無理だが、石化なら【アブノーマルキャンセル】で何とかなりそうだ。」
「どちらにしても、出ない事を願うのみね。」
「まあ、それに関しては向こうさん次第なんで、どうしようもないだろう。でも、もし出ても俺のせいにするなよ。」
「もし出たら改めて尊敬しますわ。」
「クレア、そこ、多分違うっす。」
「それで、今のところは相手の攻撃方法も対処方法も分かっている。なので、少し俺のレベルアップに付き合って欲しい。具体的にはこの51階層の魔物、全て狩ろうと思うのだが。」
「それはいい考えね、アラタ。今のレベルじゃアイテムボックスも満足に使えないはずよね。」
「うむ、お前に荷物持ちをさせているようで、気が引けて居るのも事実だ。」
現状、最もアイテムボックスの容量が大きいのはリムである。
2トン以上持てる。
「う~ん、やっぱり新顔が二種、追加されたな。」
現在、俺達は53階層、【シースルー】と【ファーサイト】のおかげで、この階層全ての魔物を見れる。
ちなみに、51階で頑張った結果、俺のレベルは一気に20くらい上がったので、リムと分離前のステに回復しつつある。
彼女達も、少しだがレベルアップできたようだ。
「先ずは、相手の攻撃方法を探ることだな。幸い、次の小部屋はラージスケルトン2体と、新顔の1体。でっかい蝙蝠みたいな奴だ。天井にぶら下がっている。」
「なら、骸骨を瞬殺させる方向ですね。」
「そうだな、ミレア。最初に【ハイスタン】で新顔の攻撃をずらす。お前と俺の【ファイアトルネード】と、リムの【サンダーラッシュ】で骸骨は死ぬはずだ。カレンはいつも通りの【挑発】を頼む。クレアはカレンと一緒に新顔の相手だ。余裕があれば、新顔は残そう。」
「じゃあ、前衛3人に強化魔法ね?」
「うん、リム、頼む。ミレアもカレンに【アイスガード】だ。」
「「「「はい!」」」」
これで準備はほぼ完璧なはずだ。
俺達は満を持して突入する!
「ハイ・・・」
「ちょ・・・」
「ファイ・・・」
「サン・・・」
頭の中に雑音が鳴り響く!
これでは魔法を唱える為に集中できない!
新顔の攻撃だろうが、これは不味い!
上を見ると、蝙蝠の化物が丸く口を開けている。
先に蝙蝠を仕留めたくても、天井に居るので届かない。
俺かリムが思いっきりジャンプすれば届くとは思うが、骸骨が邪魔だ。
魔法なら届くのだが、その魔法が使えない。
スコットの弓があればと思うが、それは無理な相談だ。
「チッ! 仕方ない! 予定は狂ったが、とにかく骸骨からだ! ミレアは蝙蝠の行動を報告しろ!」
「「「「はい!」」」」
骸骨2体は俺に狙いを定めたようだ。
大剣を振りかざし、俺に迫って来る!
しめた! 後衛を狙われるよりは遥かにマシだ!
こいつらの攻撃は大振りなので、俺相手ならまず当たらない。
一体目の攻撃を軽く躱して足払いをかける!
こかした骸骨には、カレン、クレア、リムが殺到する!
あれなら瞬殺だな。
2体目の攻撃はあえて小手で受け止める!
下手に躱すと、後ろで凹っている味方に当たりそうだったからだ。
「じゃあ、こっちの番だ!」
俺はジャンプして、骸骨の首に手を回しながら背後に組み付く!
骨の折れた感触が伝わるが、これくらいじゃ倒れてくれない。
「もう一周!」
俺は首を極めたまま、更に身体を回転させる!
ゴキンッ! と派手な音がして、首が捩じ切れた!
「こっちは済んだ! カレン! そっちは?!」
「終わったっす!」
俺が振り返ると、胸に槍が刺さった骸骨が倒れている。
クレアの、魔核への一撃が止めになったようだ。
「ミレア!」
「蝙蝠、動きません!」
奴を天井から引き剥がすのは簡単だ。
俺が思いっきりジャンプすればいい。
しかし、出来るならば、この得体の知れないスキルの耐性を獲得したい。
俺は自分のステータスを確認する。
状態が、詠唱阻害と表示されている。
上を見ると、相変わらず丸く口を開けて、僅かに体を震わせている。
どうやら、あの丸い口から何らかの攻撃を発しているようだ。
「取り敢えず様子見だ。他の攻撃があるかもしれん。散開して待機!」
「「「「はい!」」」」
俺がもう一度ステータスを確認すると、詠唱阻害の表示がまだ出ている。
しかし、スキルを確認すると、【音波耐性弱】と出て、点滅している。
最近気づいたのだが、耐性スキルが点滅すると、その攻撃を現在喰らっているということのようだ。
ふむ、耐性小じゃ、まだ防げないのか。
「よし、これは耐性が得られる攻撃だ! 皆、耐性つくまで我慢してくれ!」
「「「「はい!」」」」
待つこと数分、全員に小だが耐性がついたと報告がある。
このまま粘って、最大である無効まで獲得したかったが、蝙蝠が天井から飛び立って襲ってきた!
「カレン、挑発して引き付けろ!」
「はいっす! ちょう・・・、まだ無理っす!」
「なら、ハイスタン!」
俺の耐性は既に中までになっていて、詠唱阻害の表示が消えていた。
化物蝙蝠は、無様に落下する。
そこを、リムの暗闇効果の杖で殴られる。
「リム、いい判断だ! カレン、クレア、そのまま押さえつけろ!」
「「はい!」」
現在、蝙蝠は縄で縛られ、地面でもがいている。
「さて、どうしよう? これ以上スキルを使ってくれないなら、止めを刺すか?」
「ねえ、アラタ、これって気力切れじゃない?」
「うん、リム、俺もそう思う。」
「じゃあ、これでどうかしら? 少し贅沢だけど。」
リムは、アイテムボックスから魔結晶を取り出して、蝙蝠の口にねじ込んだ!
「そんなのありか?」
しかし、蝙蝠はまたスキルを使い出したようで、皆、不快そうな顔になる。
だが、すぐに気力が切れたのか、使わなくなったようだ。
「どうだ? 耐性上がったか?」
「あたしはこれで中になったわ!」
「私も中です。」
「うん、魔法が中心のミレアとリムについたのなら、最低限と言えるだろう。これ以上は流石に勿体無い。」
「じゃ、やるっす!」
魔核を回収すると、名前が表示された。
【ノイジーバット】
ふむ、騒がしい蝙蝠ね。
呪文に集中できない状況を名付けたようだ。
その後、もう一種類の新顔にも遭遇するが、こいつは力押しタイプで、見かけより素早かったが、それ程苦労しなかった。
ツインサイクロプスの頭が一個バージョンだ。
こいつには名前が無かったので、クレアが命名した。
命名:レッドサイクロプス
命名で思い出したが、以前オークションに出した50階層の主には、名前が表示されるようになった。
カサードが付けたのだろうが、恥ずかしい。
【コノエノホマレ】
競走馬ですか?
その日は耐性を獲得しながら進み、56階層で休憩した。
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