スワレンファミリー
マリーヌ・スワレン
サラ・スワレン
仲のいい母娘です。
スワレンファミリー
屋敷に戻ると、あの数時間程で見違えるように屋敷は綺麗になっていた。
昨日も皆、結構頑張ってくれて、かなり良くなったと思っていたのだが。
やはり、マリンとサラが加わった事が大きいのだろう。
大工達は既に帰ったようだ。
シャワー室に入ると、作りかけの浴槽があり、隅に申し訳程度にバスタブが残されていた。
この状態では、今日はシャワーで我慢するしかないな。
リビングに入ると、テーブルには、既に食事の準備がしてある。
「皆、只今。ご苦労様、凄いな、新築のようだ。」
「「「お帰りなさい、アラタさん、リムちゃん。」」」
「ん? マリンとサラちゃんは?」
「まだ、食事の準備をして下さっていますわ。」
「え? まだあるのか?」
「はい、『私達が来たからには完璧な物をお出ししたい。』と。それに、『クレアちゃんの鼻を折る。』とか、仰っていました。」
確か、クレアの家事スキルは5だ。
元侍女長としてのプライドが許さないのか?
そこに台所から、料理を盛りつけた皿を持ったマリンが出て来た。
「お帰りなさい。アラタ様、リムちゃん。お目当ての物はございましたざますか?」
「ああ、いい物が手に入ったと思う。」
「それは良かったざます。では、皆さん、席について欲しいざます。今日は腕によりをかけたざます。」
「ああ、楽しみにしているよ。ところで、まだ5人分しか用意されていないようだが?」
「私達は別に頂くざます。使用人は見えないところでが常識ざます。」
う~ん、意味は分かるが、それは俺が嫌だ。
「俺の世界では、食事は皆で楽しくが『常識』だ。ここは俺の屋敷だから、俺の常識に従って欲しい。」
「その、『皆』に、使用人は含まれないざます!」
ふむ、これはカサードも大変だっただろう。
俺は、カサードが本当に厄介払いしたのじゃないかと、心配になって来た。
「いや、『皆』とはこの屋敷に居る全員だ。当然使用人も含まれる! そもそも、俺は今日初めてのマリンとサラちゃんとも、話しながら食事をしたいんだ。」
「マリンちゃんの負けですにゃ。マリンちゃんも席に着くですにゃ。」
サラが、二人分の食事と食器をトレーに乗せて入って来た。
ふむ、娘のほうが物分かりがいいと。
しかし、娘にまでちゃん付けで呼ばせているとは。
マリン、ぶれないな。
「アラタ様がそこまで言うなら仕方ないざます。でも、これはアラタ様だけの特例ざます!貴女達もそれを忘れてはならないざます! そして、その、ありがとうございます。」
う~ん、素直なんだか素直じゃないんだか。
まあいい、これでやっと皆で食事できる。
料理は確かに絶品だった。クレアも唸っている。
鼻が折れたかどうかは知らないが、元侍女長の腕を再認識させられているのは、間違いないだろう。
驚いたのは、食材は俺達で獲った魔物の肉がメインだった事だ。
城ではこんなものはあまり使わないはずである。
そして、これは財布に非常に優しい配慮と言えよう。
俺がべた褒めすると、言葉には出さないが、仕草を見る限り、かなり照れている様子だ。
サラは既に皆と打ち解けているようだ。
ここには亜人を差別する者は居ない。
もし居たとしても、あの愛くるしい表情に嫌悪を抱く奴は居ないだろう。
皆と談笑するサラを俺が魅入っていると、向こうも気付いたようだ。
「え、アラタ様、そんなに見られると、その、恥ずかしいですにゃ。でも、嬉しいですにゃ。」
恥じらう仕草がまた何とも可愛い!
ぱっちりした目。
ちょっと低めの鼻。
少しそばかすをつけているのも、幼さを強調する。
本当に将来が楽しみだ。
等と考えていると、隣に座っていたミレアが俺の腕を取る。
「やはり、スコット君の体質が抜けていないようですね。ですが、これ以上分け前が減るのは我慢なりません。」
「待て、ミレア。俺はそういう目でサラちゃんを見ている訳じゃない! それに分け前ってなんだ?」
「それは今晩教えます。」
周りを見渡すと、他の3人も俺を睨んでいる。
こいつら、段々、初々しさというか、遠慮が無くなってきたな。
俺はそこで気付いた。
マリンの口元が微妙にせりあがっている。
ミレアの時に思ったのだが、あれは嬉しい時の顔ではなかろうか?
とすると・・・。
そもそも俺はこの母娘に、今日初めて会ったばかりだ。
スコットには悪いが、俺はごく普通の見かけだ。
そういう感情を俺に持つはずが無い。
うん、穿った考えはよそう。
あれは決してマリンの仕込みじゃない。
玉の輿とか、誘っているとかじゃない。断じてない!
単に皆と楽しく食事ができて、機嫌がいいだけだ!
食事を済ませ、皆で片づけをする。
俺も手伝おうとしたが、当然のごとく拒否される。
完全に浮いてしまったので、俺は先にシャワーを浴びることにした。
作りかけの浴槽の隅で、冷たいシャワーを浴びていると、人影を感じる。
ふむ、マリンも居るし、ちょっかい出す奴は居ないだろうと思っていたのだが。
「ん? その身長はリムか? まだ風呂は使えないからシャワーだけだぞ?」
「いえ、サラですにゃ。お背中流しますにゃ。」
スワレンファミリー、恐るべし!
侍女の教育は完全のようだ。
「お~い、誰か、この子を頼む。つまみ出してくれ!」
俺の悲鳴に4人が駆け付け、事無きを得る。
それからは邪魔される事も無く、リビングに戻ると、皆、ソファーに座っていた。
一人だけサラが正座させられている。
必死にマリンが取り成しているので、俺も少し気の毒になって、援護する。
「まあまあ、あれも侍女の仕事って奴なのだろう。サラちゃんも反省しているようだし、その辺で勘弁してやれ。大体、お前達も同じことしたじゃないか?」
「そ、そうざます! これは侍女として不可抗力ざます! 貴女達もしていたのなら、文句は言えないざます!」
だが、彼女達は納得していないようだ。
長引くと可哀想なので、ここは強引に救出しよう。
俺はサラを抱きかかえ、ソファーに腰掛け、膝の上に乗せる。
思わず耳をモフってしまうが、これこそ不可抗力だ。
「そもそも、俺がこんな子供を相手にする訳が無いだろう。お前達、そんなに自信が無いのか?」
「じゃあ、その手はなんですの? 私もされたいですわ!」
「そうっす! モフられるのは、あたいの特権っす!」
「アラタの膝はあたしの指定席よ!」
「やはり危険です。早めに排除すべきです。」
う~ん、藪蛇だったか。
訳の分からん権利や所有権を主張する奴まで出ている。
「じゃあ、こうしよう。お前達が以前やっていた淑女協定だ。サラちゃんは俺が裸で居るところには入らない。夜、俺の寝室に入る時は必ず俺の許可を得る。それならいいだろ?」
4人は少し悩んでいたようだが、その中からリムが答える。
「ええ、あたしはそれでいいわ。でも、アラタもサラちゃんに対して同じ条件よ。」
「うむ、俺に問題は無い。」
「あと、そのルールはマリンちゃんにも適用よ! お姉様方もそれでいいかしら?」
こいう時のリムの発言力はでかい。
3人は同時に頭を前に倒す。
しかし、マリンまで警戒するとは!
だが、これは裏を返せば、こういう意味になる。
そう、彼女達に自信はあっても、俺に信用が無いという事だ!
俺はそんなに見境が無い男に見えるのだろうか?
確かに昨晩の俺は野獣だったが。
少し凹むな。
「じゃあ、マリン、サラちゃん、そういう事で宜しく頼む。」
「承知したざます。でも、貴女達もアラタ様には、節度を持って接するざますよ。まだ嫁入り前の身体ざます。」
「かしこまりましたですにゃ。ごめんなさいですにゃ。」
「「「「は~い。」」」」
「じゃあ、皆、これが今日買って来た魔法書だ。カレンも読めそうなら試してくれ。」
俺はサラを隣にどけて、テーブルに魔法書を広げる。
クレアは回復魔法、ミレアは火魔法、リムは土魔法、俺は次元魔法を手に取る。
カレンは残った鍛冶師の本に手を伸ばす。
「それで、明日から再びダンジョンだ。ヤットンにも既に連絡してあるので、朝迎えに来てくれるはずだ。マリンとサラちゃんは留守を頼む。」
安易に使ってしまいましたが、ざます語、難しいですね。
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