蘇生2
蘇生2
俺は片膝をつき、気力を内側に込め、右手で水晶に触れる。
念の為に、左手でスコットの手を握る。
かなり冷たくなっている。
頭の中ではリムの声が響いている。
「スコットさん! お願い! 帰って来て!」
周りの皆も、何やらぶつぶつ唱えてくれている。
俺は生前ゲームとかで得た、あらん限りの蘇生魔法を唱える!
「レイズ! リカーム! ザオリク! リナベイト! リボーン! フェニックス!」
更に、最後に付け足す!
「スコット! この身体に戻って来い! おい閻魔! もし見ているなら手を貸せ!」
何も起こらなかった。
確かに難しいことは承知している。
俺自身、半信半疑だったのも事実だ。
しかし、今までの事を総合すると、出来ても不思議じゃなかったはずだ!
「スコット~ッ!!」
俺は再び思いを込めて叫ぶ!
何も起こらない。
スコットのステータスを確認する。
「!」
ステータスの表示が薄れだした!
「ヤバい! ヤバい! ヤバい! 間に合え! スコット! スコット! 帰って来い!」
何も起こらない。
遂にステータスが表示されなくなった。
俺は肩を落とした。
全員が俺に視線を注ぐ。
「済まない。できる限りのことはやった・・・はずだ。だが・・・。」
俺は再度確認の為に、スコットをアイテムボックスに入れる。
人間の死体×1
俺はもう一度スコットを取り出し、再び同様に呪文を唱えてみる。
やはり何も起こらない。
ステータスも表示されない。
「失敗した!」
俺はその場にへたり込む。
スコットの手は握ったままだ。
もう完全に冷たい。
「その、近衛様を疑う訳ではありませんが、今まで私共祭祀が、全力で研究してきた事でございます。やはり厳しかったのでは?」
イーライに他意の無いことは分かっていた。
「ダンジョンに潜ったことの無いお前に何が分かる! できるはずだったんだ! スコットは! スコットは!」
これは八つ当たりというものだな。
自分でも分かっている。
だが!
諦めきれない!
「アラタさん! 事実を受け止めるのですわ!」
「そうです! 人間は一度死んだら生き返りません!」
「多分っすけど、それが出来たら、世の中の仕組みが変わってしまう気がするっす。」
皆、俺の事を思って言ってくれているのだろう。
スコットが死んで悲しいのは、皆一緒のはずだ。
何も俺だけじゃない。
しかし、こいつらはきちんと受け止めている。
そう、この中で俺が一番弱かったのだ。
何が勇者だ!
これだけの力がありながら、俺が最低じゃないか!
「祭祀長、悪かった。手伝ってくれてありがとう。スコットと別れる気持ちを固めたい。済まないが、仲間だけにしてくれ。」
「いえ、お気になさらずに。私も力及ばず申し訳ございません。では、失礼させて頂きます。」
イーライは、俺達を残して部屋を出て行った。
先程から、部屋の入り口に警備の兵が来ていたが、そいつらも見えないところに退いたようだ。
「それで、お前達はどうする?」
全員、俺の質問の意図が読めず、戸惑っているようだ。
「俺はスコットを守り切れなかった。むしろ逆にスコットが俺を守ろうとして、そして死んだ。」
「私達が盾になるのは当たり前ですわ!」
「あの後、どうなったのか知りませんが、スコット君は立派に役目を果たしたのです。」
「あの『命令』さえ無ければ、あたいがやってたっす!」
「いや、そういう意味じゃない。お前達はあの後の主部屋を見ただろう。俺は一人で主を葬れた。それだけの力があったんだ! はっきり言って、スコットの気持ちは無駄だったんだよ!」
皆はまだ理解できていないようだったので、俺は続ける。
「こんな俺について来たら、お前達も死ぬぞ。クレアとミレアの奴隷契約は解除しよう。カレンはウルベンさんに預かって貰う。多分、それが最善だ。」
そう、俺はもうこのパーティーを解散させるつもりだ。
後はリムと2人3脚・・ではないな。二人一体で何とかするつもりだった。
俺はここで愛想を尽かせて貰いたかった。
これ以上俺の為に犠牲を出す事に耐えられそうに無い。
「例えアラタさんがどう思っていらっしゃっても、私の気持ちは変わりませんわ!」
おい! クレア、何を言い出す!
「私もです。私が惚れた『男』はこんなものでは無いはずです。」
おい! ミレア! 今の俺は女の身体だぞ!
「あたいの尻尾を辱めた責任は取って貰うっす! あたいの主人はアラタさんだけっす!」
え? カレン、尻尾触るって、そんな重い意味があるの?
やはり俺は甘かったようだな。
ここまで巻き込んで、はいさようならとは言えないか。
「お前達の気持ちは分かった。ありがとう。だが、本当にこんな俺でいいのか? 本当に死ぬかもしれないぞ? 何しろ俺は我儘だ。俺が男の身体になりたいが為だけに、お前達を危険に晒しているんだぞ?」
「そんな事、分かっていますわ! だから、その・・・、男性の身体になったら・・・、私を抱いて欲しいですわ。」
「何を今更です。お姉様! 抜け駆けは許さないですよ。」
「あたいも女同志の趣味は無いっす! だから、あたいに子供を作らせる身体になって欲しいっす!」
こいつら!
「なら決まりだ! もう礼は言わない! これからも俺は今まで通り振舞う! それでいいな!」
「「「はい!」」」
多分、俺は泣いているのだろう。
頬に違和感があって鬱陶しい。
「まずはスコットを弔ってやらないとな。」
俺はスコットの顔をアイテムボックスから出したタオルで拭う。
俺が主を退治している間に、ある程度は綺麗にしてくれたようだが、よく見ると、所々に血がついている。
そして、スコットのアイテムボックスを指から外した。
そのまま一緒に葬ってやりたかったが、俺は彼の研究を引き継ぎたかった。
気力を込めると、指輪のロックが解除され、中の物が溢れ出す。
武器、防具、魔核、素材、魔結晶、金貨、銀貨、そしてミニ工房セット。
明らかに作りかけのような物もある。
こいつ、頑張っていたんだな。
安心しろ。後は俺達でやってやる。
「ん? これ何っすかね?」
カレンがメモのような紙切れを俺に渡した。
「!」
これは・・・、遺言だ。
「カレン、読んだか?」
「いえ、まだっす。」
「そうか、じゃあ読み上げるぞ。多分俺宛てだが、お前達には証人になって貰おう。」
日本での遺言開封の手続きだな。
『この手紙が読まれているという事は、僕は死んでいるはずです。アラタさん、こんな盗賊の僕を拾ってくれてありがとうございました。おかげで僕の望みが半分叶いました。最下層までお付き合いしたかったのですが、ごめんなさい。もし、こんな冴えない僕の身体でも、良ければアラタさんに差し上げます。使って下さい。これが新しく出来た、僕のもう半分の望みです。あと、最後になりますが、リムさん、好きでした。では、さようなら。』
「「「「・・・・」」」」
皆、同様に固まる。
頭の中ではリムの泣き声が聞こえる。
「これは・・・。あいつは予期していたんだな。」
「それで、どうするつもりですの?」
「スコット君の遺志を尊重されますか?」
「スコットさん・・・男っす!」
どうもこうも無いだろう。
これがあいつの望んだ事ならやるだけだ!
「やる! 今度こそ成功させる! お前等も手伝え!」
「「「はい!」」」
俺は泣いているリムに声をかける。
「お前はどうだ? お前が好きだった、お前を好きだったスコットの身体を、俺が乗っ取っても構わないのか?」
「勿論よ! それがスコットさんの遺志なのでしょう! だったら叶えてあげて! 今度こそ失敗は許さないわよ! それに・・・。」
「ん? それに?」
「な、何でもないわ! さっさと出て行け! このおたんちん!」
おたんちん?
まあいい、リムもOKならそれでいい。
俺達は再び水晶とスコットを囲んで輪になっている。
イーライが欠けたので、皆、大きく手を広げる。
「じゃあ、やるぞ! 今回は俺の魂をスコットに飛ばすように念じてくれ!」
「「「はい!」」」
俺は再びスコットの手を取り、水晶に手を触れる。
俺は確信していた。
これは絶対に成功する!
何しろ当人の遺志だ!
気力の量が足りない?
そんなこと関係ないね。
今の俺を舐めるなよ。
俺が出来ると思ったら出来るんだよ!
「俺の魂よ、この身体に移れ! サモンソウル!!」
第一章 完
これで第一章終了です。
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