蘇生1
蘇生1
49階に戻ると、ミレアとカレンが俺に詰め寄る。
どうせ怒られることは分かっていたので、先に謝ることにする。
しかし、本当はそれどころではないのだが。
「勝手な行動をして済まなかった。スコットを見せてくれ。」
皆は気落ちしているものの、何か言いたいことがあったはずだ。
と言うか、スコットの事とか、無いほうがおかしい。
しかし、先に謝られて、しかもスコットの容態を確かめると言われれば、何も言えなかったようだ。
俺は、クレアが膝枕しているスコットを覗き込む。
そして、再びステータスを確認する。
体力: 0/203
やはり間違いでは無かった。
スコットは死んでいる。
だが待てよ?
俺が以前、40階で亡くなっていた勇者達を鑑定したところ、名前も何も表示されなかった。
そして、アイテムボックスに入れると、ただ、人間の死体と表示された。
つまり、この状態は純粋な死体になる一歩手前の状態ではなかろうか?
え~い! ダメ元だ!
「レイズ! リボーン! ザオリク! リナベイト! リカーム!」
俺は生前、ゲームとかで知っていたすべての呪文を唱えてみる。
当然、死者の魂が復活するイメージをしながら、気力を込める。
やはり無理か・・・。
いや、ここで諦めるな!
ひょっとしたら気力が足りないのかもしれない!
俺の今の気力は先程の回復魔法や戦闘で200以上減っている。
600くらいはあるのだが、それでも足りないのかも!
皆は、スコットのこともあり、動揺を隠しきれていないが、俺の行動に気押されたのか、黙って見ているだけだった。
「ミレア! スコットの作った魔結晶を貸せ!」
「は、はい!」
ミレアが慌てて腰に結わえていた魔結晶を入れた革袋を俺に差し出す。
俺はその革袋から魔結晶を取り出し、握りしめる。
これ一つで気力が200増える。
「レイズ! リボーン! ザオリク! リナベイト! リカーム!」
再度試してみる。
しかし、何の反応も無い。
ならば!
俺はクレアからスコットを奪い取り、俺のアイテムボックスに入れる!
以前、まだ生きている魔物を入れようとして入らなかったが、スコットはすんなりと入った。
所持品を確認する。
人間:スコット・オルガン の死体
やはりだ!
今回は名前が表示されている!
明らかに只の死体ではないのだ!
そして、アイテムボックスの中でなら、時間は経過しない。
ひょっとしたら間に合うかもしれない!
「アラタさん、一体何を・・・。」
「ミレア! 帝都に、神殿に行くぞ! 可能性は薄いがまだあるかもしれない!」
俺は神殿のあの水晶を利用するつもりだった。
この世界に蘇生魔法が無いことは祭祀長からも聞いていた。
しかし、こんな魔法やスキルだらけのゲームみたいな世界だ。
無いはずが無い!
戸惑う彼女達の手を引き、強引に連れて行く。
50階に戻ると、先程の惨状のままだった。
そこら中にドリルモグの死体が散乱している。
全員、声には出さないが、かなり引いているのは間違いないようだ。
だが、俺は無言で彼女達を引っ張っていく。
途中で部屋の中央に倒れていた階層主の死体が目に入る。
ひょっとしたら、こいつも何かに使えるかもしれないな。
何しろ、死体を操っていた魔物だ。
俺は無造作に、丸ごとアイテムボックスに放り込む。
表示を見ると、???の死体と出た。
名前はもう決めていたが、今はどうでもいい。
ワープの小部屋に入ると、やはり俺しか登録できなかった。
それも、今はどうでもいい。
登録を済ませて、俺はテレポートの石を取り出す。
「よし、飛ぶぞ。掴まれ!」
全員、完全に圧倒されているようで、無言で俺に掴まる。
出た先は当然神殿だ。
運悪く、無人だった。
「ミレア、悪いが、誰でもいいから祭祀官を連れてきてくれ。」
「は、はい!」
うん、ミレアは完全では無いが、俺の意図を察してくれているようだ。
走って部屋を出ていく。
「そ、それで、アラタさんは何をしようとしてるんすか? ってか、ここ何処っすか?」
やっと喋れるようになったのか、カレンが聞いてくる。
「悪かった。俺もかなり動揺していた。ここは帝国の神殿だ。俺はここで召喚された。」
「で、一体何をっす?」
「当然スコットの蘇生だ。俺の考えでは不可能では無いはずだ。」
「蘇生・・・? できるんすか?!」
「死者の蘇生なんて、今まで誰も成功していませんわ。でも・・・、アラタさんが出来ると言うのなら・・、多分出来ますわ!」
そこへミレアが帰って来た。
運がいい。後ろにイーライを従えている。
「お帰りなさいませ。勇者近衛様。」
「祭祀長、いきなりで悪い。しかし、急を要する。挨拶は抜きだ。」
「は、はあ。」
「お前は俺の召喚の時に、当然立ち会っていたよな?」
「勿論でございます。」
「では、以前言っていた、回復魔法と闇魔法のレベルもクリアしているのか?」
「はい。」
イーライは胸を張る。
「じゃあ、手伝ってくれ! 今から死者の蘇生を試みる!」
ハードルが高いのも、異世界からの魂召喚とも違うことは重々承知している。
しかし、やるしかない!
イーライは最初戸惑っていたが、死者の蘇生と聞いて、好奇心を隠せないようだ。
「それは是非とも協力させて下さい。して、どの方を?」
イーライは周りを見回すが、当然ここには死体など無い。
「俺のアイテムボックスの中だ。だが、その前に、やることがある。」
俺はミレアとクレアの手を握った。
彼女達が赤くなる。何を勘違いしているんだか。
「済まん! 気力を吸わせて貰うぞ! サイコドレイン!」
俺は強引に彼女達の気力を吸収した。
いきなり気力を吸われて、二人はその場にへたり込む。
しかし、これで俺の気力は満タンだ。
彼女達の気力を確認したが、まだ半分以上あったので、問題あるまい。
「では祭祀長、俺を召喚した時の手順を教えてくれ。」
「はい。そこの水晶に私が手を添え、祭祀官全員が手を繋ぎ合い、呪文を詠唱しました。」
「ふむ。全員の気力を合わせたとも考えられるな。」
「そうかもしれません。しかし、今はあの時と違い、水晶に魔力が満ちておりません。」
イーライの話では、部屋の中央に祀ってある水晶が真っ赤になっている時に召喚したと言っていた。
今はまだ桜色だ。
しかし、今はこれしか使えない。
「よし、お前らの持っている魔結晶も俺に貸してくれ。」
俺は全員から魔結晶を回収する。
全部で60くらいしか増えないが、無いよりはマシだ。
俺のステータスを見ると、気力が1000を超えていた。
俺は意を決し、アイテムボックスからスコットの身体を取り出し、水晶の前に置く。
「じゃあ、祭祀長、ここに居る全員を、祭祀官に見立てて配置してくれ。俺が祭祀長の役だ。」
「かしこまりました。この方を蘇生させるのですね。」
「そうだ。全員、呪文とかは唱えなくていい。ただ、願ってくれ。スコットの蘇生を。」
俺の考えが正しければ、これで成功するはずだ。
問題は気力の量だが、そこは勇者チートに頼るしかあるまい。
俺の魔力は現時点で800近くある。
単純計算なら、常人の10倍くらいの威力だ。
イーライが全員の手を繋がせ、水晶とスコットを中心に輪になる。
そして、輪の両端のイーライとカレンが俺に触れる。
「後は近衛様が水晶に触れ、呪文を唱えるだけでございます。」
「分かった。その前にもう一つだけ。少し待ってくれ。」
俺は身体の内側に意識を集中する。
「リム! 見ているんだろ?! お前も手を貸してくれ!」
「ええ! でも、あたしが起きていいの?」
「目は瞑ったままで、念じてくれるだけでいい。頼む!」
「分かったわ! 絶対に成功させるわよ!」
「勿論だ!」
「よし、準備は整ったはずだ。やるぞ! 皆、頼む!」
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