スコットの報酬
スコットの報酬
朝起きると、リムが何かあるようだ。
昨日の件でお叱りを受けるかと思ったが、違うようだ。
「スコットさんが、あたしにって杖を作ってくれたのよ。アイテムボックスに入れてあるから、後で確認しといてね。」
俺の夢は、昨日のことのようなのはあまり覚えていないが、こういうのはしっかりと覚えている。
彼女はあんなことにも関わらず、かなり上機嫌だ。
「ああ、見ていたから大丈夫だ。えっと、混乱効果の奴だったな。スコットも早速頑張ったてくれたな。」
「ええ、次はレッドウィッチの素材で複数効果に挑戦するって張り切っていたわ。」
「うんうん、武器屋の主人のおかげだな。いい投資だった。」
まあ、あの状況から目を逸らしたくて頑張っただけなのかもしれないが、スコットには感謝だな。
「それじゃ、交代ね。くれぐれも昨日のようなのは勘弁してね。アラタが彼女達にどういう気持ちを持とうが、あたしは知らないけど・・・。でも、この身体はあたしのでもあるから。」
「ああ、分かっている。その為にもさっさと魂の移転方法を見つけないとな。」
「そう・・・よね。あたしはなんかもう慣れちゃったけど、やっぱり不自由よね。あたしも頑張るわ。」
「ありがとう。じゃあ、おやすみ、リム。」
「おやすみなさい、アラタ。」
俺が目を開けると、既に全員装備を整えていた。
カレンもクレアも、下を向いていない。
うん、結果としてはいい気分転換?になったな。
「皆、おはよう。」
「「「「アラタさん、おはようございます。」」」にゃ。」
「ところで、スコット、工房のほうはどうだ? リムにまた面白そうなのを作ってくれたようだが。」
「まだまだ知識がにゃいので大変ですにゃ。でも、いい感じですにゃ。これ見て欲しいですにゃ。」
スコットは握った拳くらいの大きさの、真っ赤な水晶のような物を出した。
「ん? これは魔核・・・、では無いよな? ひょっとして・・・、魔結晶? いや、それにしてはでかいな。」
そう、スコットが拾ってくる魔結晶は、いつも100円ライターくらいの大きさだ。
「流石ですにゃ。正解ですにゃ! 魔結晶の合成に成功したですにゃ!」
「それは凄い! で、どんな効果だ?!」
俺は興奮を隠さずに、どや顔のスコットから、その魔結晶を奪い取る。
魔結晶自体はそれ程大した性能では無い。
大きさにもよるが、所持していると、一個で気力を15~25くらい底上げしてくれる。
気力が尽きた時に、その魔結晶が自動的に補充してくれるのだ。
一度の魔法で気力を3~30くらい消費するので、非常用にと、全員に1個ずつ配ってある。
「それは10個合成したものですにゃ。気力を200くらい上げますにゃ。」
「200・・・。改めて凄いな! しかし、そこまで気力を消費する魔法を俺達はまだ知らないから宝の持ち腐れかもな。」
俺は自分のステータスをチェックすると、俺が今まで持っていたのと合わせて、気力が+230されている。これ一つで気力が+205の計算だ。
ちなみに、今の俺は【サイコドレイン】で敵から気力を吸収できるから、気力に関してはほぼ無尽蔵なので、俺には必要無いかもしれない。
しかし、スコット、10個って。
ちょくちょく拾っているのは知っていたが、それ程貯まっていたとは。
「でも、これから深い階層の敵から、そういった魔法を習得できるかもしれませんわ。スコットちゃん、お手柄ですわ。」
「うん、クレアの言う通りだな。取り敢えずはミレアに持っていて貰うか。」
「はい、ありがとうございます。」
ミレアは、財布代りに使っている皮袋にそれをしまい、腰に結わえた。
「何にしても、いいことだ。その感じで魔核は合成できないのか?」
ゴブリンの魔核は1つで攻撃力が+1される。100個合成できれば+100になるのでは?と俺は淡い期待をした。
「それは試してみたのですにゃ。でも、2個が限度だったのですにゃ。また、違う効果の奴は、そもそも合成できなかったですにゃ。」
ふむ、そうそう旨い話は無いと言う事か。
「だが、武器屋の主人の話には無かったことまでやってくれている。そうだな。その魔結晶は、元はスコットが全部拾ったものだし、俺が買い取ると言う事でどうだ? 魔結晶1個で金貨2枚ということらしいから、10個相当のそれを25枚で買い取ろう。そして、これは今までの報酬も合わせてある。」
俺はアイテムボックスから、白金貨4枚を取り出して、スコットに押し付けた。
「多すぎですにゃ! それにアラタさんと一緒に潜れなかったらそもそも拾えなかったですにゃ! それに、前にも頂いていますにゃ!」
「だが、スコットが居なければ、ここまで来れたかも疑問だ。昨日の鎧も、お前が修理してくれたことは知っている。俺は、正当な代価は貰っておくべきだと思うぞ。」
「あたいが言うのもっすけど、スコットさんは奴隷じゃないのだから、貰っておくべきっす。冒険者なら当たり前のことっす。揉めないだけマシっす。」
「そこまで言われたら仕方無いですにゃ。ありがとうございますにゃ。でも、このお金はこのアラタさんのパーティーの為に使いたいですにゃ。」
「うん、その気持ちだけで充分だ。だが、それはお前自身の為に使って欲しい。」
冒険者のパーティーはいつ解散してもおかしく無いと聞く。
俺のパーティーも例外ではないだろう。
現在は俺が経費を全額負担しているから、今のスコットに金の価値はほぼ無い。
しかし、その時に無一文で放り出す訳には行かない。
「じゃあ、潜るか! もうあの敵に対する耐性は得たから、暫くは大丈夫だろう。しかし、43階くらいからまた新顔が出るはずだ。注意して行くぞ。」
「「「「はい!」」」ですにゃ!」
ちなみに、混乱させてくる赤風船には既に名前がついていた。
メニメニアイ。
多分、ナガノさん達がシスのダンジョンで遭遇したのだろう。
やはり43階からルーキーが出てきやがった。
次の部屋の中に3体、レーダーには一体だけ大きさの違う点が表示されている。
全員、危機感知とマッピングは既に習得しているから、皆にも分かっているはずだ。
「できれば新顔とは単体でやりたかったが、そうも言っていられないようだ。対階層主の要領でやるぞ!」
「「「「はい!」」」ですにゃ!」
部屋に入ると、今までの魔物、メニメニアイ2体と、それとは違うのが1体居た。
体長は1mくらい、少し小型だ。
すらっとした体格で2本足で立っている。
例えるならイタチかな?
しかし、頭は全く違って、ドリルのような大きな角が鼻の辺りから突き出している。
何となくこいつの攻撃スタイルは予想がつくな。
「挑発!」
「ハイスタン!」
「アイスランス!」
「乱れ撃ち!」
カレンがいつも通りに盾を構えて飛び出して行き、俺とクレアがそれに続く。
メニメニアイは身体を震わせたが、今の俺達には効かない。
ドリル鼬には、ハイスタンが効いたようで、立ち止まっている。
「先に風船を片づけろ! ドリルの攻撃方法を知りたいから、残せ!」
「「「「はい!」」」」
俺はカレンに群がろうとする風船1体に蹴りを入れると、スコットの矢の援護もあり、あっさり倒れる。
クレアもミレアの援護もあって、一突きで仕留める。
カレンは油断なく盾を構えてドリルに対峙する。
【ハイスタン】の効果が切れたようだ。
予想はついていたが、そいつは身体ごと回転させて、カレンに飛んで来た!
それをカレンがきっちりと盾で弾く!
ドリル鼬は着地後すぐに体制を立て直し、一度横に飛んでから、再びカレンに特攻する!
動きがかなり素早い!
カレンは横からの攻撃をかろうじて盾で防ぐが、今度は完全とは行かなかったようで、体勢を崩される!
「ふむ。素早さは半端ないが、直接攻撃だけのようだな。」
「そうですね。これ以上放置しても無意味でしょう。」
「だな。じゃ、やっちまうか。」
「縮地!」
俺は再びカレンに回転しながら飛び込むドリルの真横に移動し、頭に手刀を喰らわせる。
ドリルは軌道を変えさせられて、地面に突き刺さった。
思った通りの反応、ありがとうだな。
「後は任せた。」
小さな手を使って、必死に刺さった角を引き抜こうとする魔物だが、当然フルボッコにされ、瞬殺だ。
魔核を回収すると???と表示された。
「意外とあっさりだったな。しかし、こいつは複数で来られると厄介そうだ。カレン、纏めて防げそうか?」
「う~ん、別方向から同時に来られるときついっす。」
「そうか。じゃあ、複数の場合は、俺は側面の奴に【ハイスタン】を唱えるから、カレンは正面の奴に集中してくれ。」
「了解っす!」
「ところで、こいつの名前だが、今回はミレアに頼むか。」
俺は、こいつら姉妹が、以前俺とスコットが命名した時に、笑いを堪えていたのを覚えている。
「え? 私ですか?」
スコットがにやにやしている。
こいつも根に持っていたようだ。
命名:ドリルモグ
確かに痩せたモグラに見えないことも無い。
まあ、誰がつけてもこんなもんだろ。
階層を重ねると、途中から複数で襲ってきたが、まだ数も多く無く、楽に撃退できた。
その日は46階層で休憩する。
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