厄介なスキル
厄介なスキル
俺は冒険者ギルドを出て、馬車に向かう途中、気になることがあったので、尋ねてみた。
「ところで、カレン、俺達がまだ取得していない耐性で、厄介なものはあるか?」
「そうっすね~。あたいの経験したものでは、もうないっすかね。」
「ヤットンはどうだ? 毒、沈黙、暗闇、麻痺、それ以外に何かあるか?」
「私もそれ以上は思いつきません。ただ、ダークウルフの毛皮の火耐性のように、魔物にしか無いものはありますが。」
「そうか。いや、俺の世界のゲームじゃ、これら以外にも、睡眠とか、混乱とかがあったんだよ。それで気になったんだが、カレンもヤットンも知らないとなると、そういう効果はこの世界には無いのかな?」
「まだ私達はダンジョンの半分も潜れていません。そんな効果、聞いたことありませんが、これから出現する可能性はあるかと。あと、そのアラタさんの世界のゲームとやらの話をもっと聞かせて下さい。」
「そうだな、ミレア。俺の世界で良くあった厄介なのは、これ以外にも石化とか、酷いのは即死なんてのもあった。もっとも、ゲームでは、全滅さえしなければ、死人は生き返ることが可能という設定が大半だったな。現実ではありえないけどな。」
「確かに、完全に空想世界ですね。人は死んだら生き返りません。」
「その通りだ。しかし、俺には一概に空想だと馬鹿にできないんだよ。今俺が直面している状況は、まさにそのゲームの世界そのものに近い。現に、魂の召喚儀式で死体が生き返り、勇者と呼ばれているだろう。」
「そ、それは・・・。しかし、言われてみれば確かにそうですね。魂が別人なのはともかく、身体が再び動き出したことは事実です。」
リムのこともあるし、この話はここらで切るのがいいかもな。
「まあ、何しろこの世界は俺にとっては分からないことだらけだ。まだ知らない特殊効果も本当にあるかもしれん。そう思って用心するに越した事は無さそうだ。」
「そんなもんなんすかね~?」
カレンとクレアは今一つ理解できていないようだが、ミレアとヤットン、そしてスコットは俺が言ったことの意味について、深く考えている感じだった。
「変な話をして悪かったな。じゃあ、ヤットン、済まないがまたダンジョンまで頼む。」
「かしこまりました。」
俺達は現在41階層への通路だ。
今までのパターンだと、魔物の種類が変わるので、想定外の攻撃に備え、俺が先頭に立って進む。
カレンの盾が便利だとは言っても、実際の防御力は俺のほうがある。
「降りてすぐの部屋に3匹居るな。今まで通り、カレンが【挑発】して、俺が【ハイスタン】で先頭を足止めするから、お前らは臨機応変に頼む。ミレア、レッドウィッチの反射の件もあるので、範囲魔法はまだ使うな。」
「「「「はい!」」」ですにゃ!」
自分でもちゃんとした指示になっていないのは分かっているが、ご新規さんには、出たとこ勝負なので仕方が無い。
皆もそれを理解しているから、返事してくれるのだろう。
部屋に入ると、体中が無数の目で覆われた、直径2mほどの、真っ赤な風船のようなものが3体、俺の目の高さに漂っていた。
目以外には、口だけついている。
耳は無いが、耳まで裂けているという表現が合うでかい口だ。
真っ先にカレンが飛び込んで行く!
「挑発!」
「ハイスタン!」
「ファイアショット!」
「アクアダーツ!」
「5連乱れ撃ち!」
どんな攻撃をしてくるか分からないので、とにかく先手必勝だ!
クレアとミレアは俺の言った事を理解して、まずは単体魔法で牽制する。
動きを止めた先頭の赤風船に魔法が炸裂し、3体同時にスコットの矢が突き刺さる!
しかし、やはりそれぐらいでは倒れない。
後ろの2体がブルっと身体を震わせた。
一瞬、何か身体を包むような、妙な感覚がする。
これは・・・、あの時の感覚だ。
初めて俺達が敵の【暗闇】効果のスキルを浴びた時に酷似している!
慌てて俺は自分のステータスを確認する。
うん、俺には効いてない!
だが、一体どういうスキルだ?
何か喰らったのは間違いない。
俺は何か耐性を得ていないか、更にステータスを確認しようとした、その時だ。
カレンが俺に向かってくる。
おい、戦闘中だぞ!
何かあるなら、まずそいつをやっつけてからだろ!
「カレン! 後にしろ!」
俺が叫ぶと、カレンは小剣を抜いて、俺に振りかぶってきやがった!
なるほど。
俺は事態が呑み込めた。
人物鑑定スキルでカレンを見ると、【混乱】となっている。
俺が変なフラグ立てたからか?
カレンは無言で剣を俺に振るう!
流石の速さだが、俺は軽く避ける。
さて、どうしたものか?
そうだ! あの剣だ!
幸いなことに、あの、【解除】の効果がある小太刀はカレンの腰にぶら下がっている。
アイテムボックスに入れられていたら、ヤバかったな。
「ハイスタン!」
俺は迷わずカレンに唱えた!
そして、腰の小太刀に手を伸ばす。
「!」
いきなり後ろから刺された!
かろうじて直撃は逃れたようだが、鎧を貫通し、脇腹から血が噴き出す!
顔だけ振り返ると、クレアが背後から俺を槍で突き刺していた!
ちなみに、俺が血を流したのは、この世界ではこれが初めてである。
「お前もか!」
激しい痛みの中、俺は刺さった槍はそのままに、必死にカレンの小太刀を奪い取る!
そこでカレンの硬直が切れたようだ。
再び俺に剣を振るう!
俺は脇腹の槍のせいで、満足に動けない。
かろうじて、小手でその剣を弾く。
「まずはカレン!」
小太刀の背で、魔力を込めながらカレンに振るった!
カレンは【解除】が効いたと見えて、呆けた顔をしている。
また喰らうかもしれないが、今はこれでいい。
次はクレア! と後ろに注意を向けると、刺さっていた槍が抜かれた。
ヤバい! 再び突かれる!
俺は慌てて横に飛んだ!
「お姉様! しっかりして!」
ここでようやく俺は全体を見れた。
何と、クレアをミレアが羽交い絞めにしている!
ミレアにあの攻撃は効かなかったのだろう。
スコットは後ろで滅多やたらに矢を放っている。
照準をつけていないようで、誰にも当たっていないのが御の字だ。
「ミレア! これで頼む! 俺は元を断つ! カレン、お前はじっとしていろ!」
そう言って、俺は【解除】の小太刀をミレアに投げる。
そして、口を開けて襲い掛かって来る風船の化物に突進した!
怒りのせいか、脇腹の痛みを感じない。
「てめぇ~!」
先頭の奴に全力で蹴りを入れる!
蹴りを喰らった風船は、そのまま壁に直撃し、潰れてべったりと張り付いた。
後ろの一体が再び身体を震えさせ始める!
「させるか! ハイスタン!」
俺は一気に間合いを詰め、渾身の正拳を叩き込む!
奴の背中?から、魔核と思しき球が弾け出る!
「アラタさん! 最後の奴は残して下さい! 耐性つけましょう!」
ミレアの声だ。
確かにここで耐性を獲得しておかないと、後々かなり困る。
指摘が無ければ、怒りに任せて全部狩ってしまうところだった。
振り返ると、全員正気に戻っているようで、お互いの距離を取りながら身構えている。
「分かった! 取り敢えず、ヒール!」
俺は全員を選択して回復魔法をかける。
脇腹の痛みが和らいだ。
残した奴が大口を開ける!
「ふむ。効くかな? ブラインド!」
奴がくるくる回り出す。
「効いたな。ミレア、お前は耐性ついたか?」
「はい。弱ですが。」
「多分、最初に喰らったのは、全体に効果が出る、混乱のスキルだ。目標を失ったこいつは必ずまた使うはずだ。」
俺も自分のステータスを確認する。
やはりな。
【混乱耐性弱】
しっかりついていた。
奴がまた身体を震えさせ始めた。
俺は人物鑑定で全員のステータスを確認する。
「ミレア! スコットとカレンが喰らった! クレアはスコットを抑えろ!」
「「はい!」」
俺も【縮地】を使って、カレンを背後から羽交い絞めにする。
ミレアが二人を解除の小太刀の背で小突くと、二人は呆けた顔に戻る。
後は簡単だった。
風船の化物は直接攻撃か、その混乱させるスキルしか無いようで、【ブラインド】が切れたら俺がかけ直す。
身体を震えさせると混乱スキルの合図なので、全員のステータスを見る。
ほどなくクレアが、続いて、スコット、カレンの順に耐性を得る。
かなり時間はかかったが、俺達は全員の耐性が中以上になるまでそこで粘った。
「ここは上から敵が来ることもないし、行き止まりみたいなものだな。今日はここで休もう。」
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