帝都の冒険者ギルド
帝都の冒険者ギルド
俺達は武器屋を出た後、道具屋と食材を専門に扱う店で、今後の補給を済ませた。
この世界の野菜はカラフルな物が多く、イメージとしては、形や大きさの違うパプリカがいっぱい並んでいるといったところだ。
「それで、次は冒険者ギルドで魔核の処分だな。」
「近衛様達は、この街のギルドは初めてでしょう。ご案内致します。」
「頼む。」
冒険者ギルドはサラサのと一緒の感じだった。
違っていたのは、中で簡単な飲み食いができる、食堂のようなものが併設されていたことくらいか。
無骨な石造りの建物に入る。
「あちらのカウンターで魔核や素材を引き取ってくれます。」
ヤットンが先頭に立って案内してくれる。
「おや、デルークさんじゃねえかよ。久しぶりだな。えらい綺麗どころを引き連れて羨ましいねぇ。俺達にも紹介してくれよ。」
どうやら、ヤットンの知り合いのようだ。
ギルド内の飲食用のブースから下卑た声が飛んで来た。
数人でジョッキを片手に飲み食いしている。
「貴様らには関係無い。大体、このお方達を・・・」
俺はヤットンの前に出て制した。
このままどうするか見ていても良かったのだが、こいつらに俺の正体がばらされるのが嫌だった。
多分、『勇者』って肩書で黙るだろうが、何か看板に頼ってしまうような気がしたのだ。
「おうおう、お嬢ちゃん、勇ましそうでちゅね~。冒険者ごっこでちゅか? 俺達が本当の冒険って奴を教えてやるぜ?」
「そう、ベッドの中で大冒険だ!」
そいつの仲間と思える奴が割り込み、更に嘲笑が続く。
「今日は魔核と素材を引き取って貰いに来ただけだ。ヤットンはただの付き添いだ。」
俺はそいつらの野次を流し、買い取りカウンターへ向かう。
「ふ~ん、魔核を売りに来たって訳だ。何なら俺達が買い取ってやるよ。ついでに下着もな。」
ふむ、何処の世界にもこういう人種は居るようだ。
装備の見た感じは冒険者だな。
ただ、ヤットンの仲間や、カレンが着けていた物のほうが洗練された感がある。
「じゃあ、買い取ってくれ。全部な。スコット、頼む。」
俺がスコットを見ると、彼も俺の考えを察知してくれたようだ。
笑みを浮かべながら、そいつらのテーブルに歩み寄る。
「じゃあ、お願いしますにゃ。」
奴らはスコットが何をするのかと黙って見ている。
彼らのテーブルに魔核の山が出来ていく。
その山の高さが増えるごとに、彼らの顔色が青ざめていく。
クレアとミレア、そして、ヤットンまでもが笑いを抑えるのに苦労しているようだ。
「まだありますが、これ以上は載らないですにゃ。」
「で、いくらで買い取ってくれるんだ?」
俺が嫌味ったらしく言うと、最初に野次を飛ばしてきた奴が頭を下げた。
「わ、悪かった。俺達じゃ見た事も無い魔核まである。からかった事は謝る。この通りだ。勘弁してくれ。」
「分かってくれたならそれでいい。悪いがそれ全部、買い取りカウンターまで頼む。」
彼らは、慌てて魔核を手分けしながら買い取りカウンターへ運び出す。
カウンターの受付のお姉さんも、かなりびびっていた。
奥から増援の職員が出てきて、机を運んで来る。
カウンターに載り切らない分を、そこにも積み上げて行く。
これでも、武器屋の教えの結果、利用できそうな物が増えたので、売り払う量を減らしてある。
「量が量なものですから、少し待って下さいね。あと、買い取り時の決まりなので、冒険者の確認をさせて下さい。」
俺は黙って、職業欄の【勇者】と【貴族】を外し、【冒険者】だけの表示にしてから、腕を出して彼女に見せる。
「冒険者、アタラ・コノエさんですね。レベルは45。ところで、この魔核や素材は何処で手に入れられたのですか? 見た事のない物がありますが?」
受付嬢も、野次って来た連中も興味深々だ。
皆、食い入るようにカウンターとテーブルを見る。
俺の名前もこの国じゃ知られているかもしれないと、少し覚悟していたが、皆、そんなことには気付いていないようだ。
「トロワのダンジョンの40階までの物だ。」
隠してもしょうがないので、素直に答える。
「「「「「40階・・・。」」」」」
俺達以外の全員が絶句した。
「も、申し訳ないのですが、買い取り価格が分からない物がありますので、お時間を下さい。」
受付嬢がそう言って頭を下げる。
増援の職員が鑑定しながらメモを走らせる。
ふむ、確かに普通の武器屋や道具屋では、これらは処理できなかっただろう。
ヤットンがここを勧めたのに納得だ。
「どれくらいかかる?」
「小一時間もあればできるかと。」
「じゃあ、他にも寄りたいところがあるので、ヤットン、悪いがここで確認しておいてくれ。後でまた来る。」
「かしこまりました。」
俺は懸念事項を思い出したので、それを先に片づけることにした。
ギルドを出ながら、俺はミレアにテレフォンで会話をする。
『ミレア、悪いがお前らの所有権を、俺とリムの共同に書き換えたいので、構わないか? それで、この街の奴隷商は分かるか?』
『と、突然ですね。勿論構いません。場所も知っています。』
クレアにも同様に許可を取り、ミレアについて行く。
「もう大丈夫かな。これは、俺かリムにもしもの時があった時の保険だ。」
「保険って何ですの? それ以前にアラタさんにもしもの時があったら、先に私が死んでいますわ!」
「クレア、盾になってくれる気持ちは嬉しいが、それは止めて欲しい。奴隷は物扱いで、所有者が居ない場合は、発見者の拾得物だと聞いている。この魂は不安定な状態だと認識しているんで、そういったリスクを少しでも減らしたいんだ。最悪、俺かリム、どっちかが生き残っていれば大丈夫なようにな。」
「納得はできませんが、アラタさんが私達を思って下さっていることは理解しました。そ、その、嬉しいです。」
ミレアが顔を真っ赤にした。
これは、俺とリム、どちらかの魂があれば、引き続き『貴族と奴隷に関する恩恵』を受けられるようにする為でもある。
そして、俺はスコットにもそのことを説明するか、ここでも迷ったが、やはり言い出せなかった。
実は共同所有するのには、これらの理由だけでは少し苦しく、もう一つ真意がある。
だが、その時がいつになるか、そしてその時はどういう状態なのかも分からないから、まだ伏せておく。
奴隷商で簡単に手続きを済ませる。
ここでも口止め料はしっかり払っておいた。
少し時間が余っていたが、特にすることも無かったので、冒険者ギルドに帰ることにする。
待たされるなら、あのブースで皆と飯でもと思っていた。
ギルドに帰ると、先程の受付嬢が飛んで来た。
「勇者様だったのですね! お人が悪いです! 先に言って下さいよ!」
ばれたか。彼女はお冠のようだ。
ヤットンを見ると、ばつの悪そうな顔をしている。
大方、ここの連中に問い詰められ、隠し切れなかったのだろう。
まあ、名前ですぐにばれると思っていたので、特に気にしてはいない。
「まあ、なんだ、済まん。騙すつもりは無かったのだが、あいつらをからかってやりたくてな。先に勇者とばらすと、その、面白みがな。」
絡んで来た連中はまだそこに居て、こちらから視線を逸らす。
かなり懲りているようなので、これ以上は止めてやろう。
やはりまだ時間がかかるようだったので、昼食とした。
大した物は無かったが、日本の屋台のようなメニューだ。味付けが濃い。
「大変お待たせ致しました。全部で白金貨7枚と金貨6枚です。端数は切り上げています。ご確認下さい。」
俺達が食べ終わる頃に声が掛かった。
受付嬢が金を置いたトレーと、明細を持ってくる。
俺は特に確認もせずに無造作にアイテムボックスに放り込んだ。
「ありがとう。じゃあ、またな。」
「こちらこそ。次も是非私が居る時にお願いしますね。あと、攻略頑張って下さい!」
ふむ、彼女も新しい魔核とかには興味があるのだろう。
「さて、帝都での要件はこれで済んだ。ダンジョンに戻るか。」
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