勇者抜き
勇者抜き
問題無いとは言っても、流石にこの階層にもなると、戦闘は激しい。
危機感知レーダーのおかげで、団体さんは極力避けて通るのだが、どうしてもやり合わないといけない時がある。
そうなると、カレン一人で敵を引き付けるのが厳しくなるので、そういう時だけ、俺が手を貸すという具合だ。
そして、俺達は再度40階層の扉の前に立っていた。
「さて、前回はカレン抜きで倒せた相手だが、今回はどうする?」
すぐに俺の意図を察したミレアが答える。
「できれば、アラタさんは回復役に専念して頂ければと思います。」
「分かった。皆はそれでいいのか? 以前、クレアはツインサイクロプスに手痛い目に遭っている。ダブルジャイアンの方が明らかに格上だぞ? 前回は攻撃を喰らわなかったが、もし喰らえば大ダメージは必至だろう。」
クレアが珍しく悩んでいるようだ。
彼女は割とイケイケなので、即座に賛成すると思っていたのだが。
俺が余計な事を言ったので、過去のダメージを思い出してしまったのかもしれない。
「問題は、あたいがその主の攻撃を受け切れるかっすね。うまく弾ければ相手にダメージを与えれるんすけど。」
今朝、カレンにはダブルジャイアンの特徴を伝えてあるので、奴が半端ないパワーだということを理解している。
「こればかりは、やってみないと分からないだろうな。ただ、俺抜きという前提の折衷案もある。」
「ひょっとして・・・、リムさん・・?」
「流石はミレア、鋭いな。今からリムに起きて貰って、支援魔法要員として参戦して貰うのはどうだ? リムの強化魔法を受ければ、カレンも間違いなく耐えられるだろう。」
皆が押し黙った。
仲間達の本音は勇者抜きで強敵を倒したい、というのは間違いない。
しかし、一歩間違えれば殺されるかもしれない相手である。
迷って当然だ。
「中途半端は良くにゃいですにゃ! 僕達だけでやらせて欲しいですにゃ!」
今まで黙っていたスコットのいきなりの発言に皆驚く。
俺はほくそ笑んだ。
そう、リムの支援魔法であっても、意味としては、俺が参戦するのと同じなのである。
「スコットちゃんがやるなら、私もやりますわ! お姉さんの意地ですわ!」
「そういう事なら仕方ないっす。あたいも勇者様抜きでやってみたいっす。」
「元々、私が言い出したことですから。スコット君に言われるまでもありません。」
うん、いい感じだ。
「皆、いい覚悟だな。じゃあ、俺は見ているだけだ。しかし、これだけは言っておく。少しでも危ないと思ったら、俺は遠慮なく手を出す。俺に手を出させないように頑張ってくれ。」
「「「「はい!」」」ですにゃ!」
指示役は前回と同じくスコット。
お手並み拝見だな。
口ではああ脅したものの、俺はカレンが主の攻撃に耐えられないとは思っていない。
俺は今回の戦闘の鍵がクレアだと思っている。
彼女の攻撃力は、この面子では単体相手では最強だ。
しかし、奴の弱点である目の位置が地上3mと高すぎる。
クレアならジャンプすれば十分に届く高さだが、ジャンプしている間は敵の攻撃を躱せない。
俺の場合は格闘術で奴を転がすことに成功したが、どうするつもりだろう?
「ところで、スコット、奴の弱点である目の位置は高い。どうするつもりだ?」
「ミレア姐さんに聞きましたにゃ。クレア姐さんは、足首の裏を狙って欲しいですにゃ。」
「そういうことですのね。分かりましたわ。」
ふむ、俺達がツインサイクロプスとやった時のことか。
あの時俺は、足首の腱を切ることに成功し、奴を跪かせた。
なるほど、それならうまく行きそうだ。
「ミレア姐さんは、お引きのファイアウルフを倒したあと、暗闇効果の【イビルファイア】をお願いしますにゃ。」
「前回効いたかは微妙ですが、やってみます。」
「カレンさんには申し訳にゃいですが、ひたすら耐えて欲しいですにゃ。カレンさんが無理なら、アラタさんにお願いするしか無いですにゃ。」
「了解っす。あたいはそれが役目っすから。任せろっす!」
カレンが扉を開けた。
敵は前回と全く同じ布陣。
階層主である双頭の単眼巨人、ダブルジャイアン。
そしてその両脇にファイアウルフ。
皆が一斉に飛び込んで行く!
俺は、回復魔法をいつでも唱えられるように気を込めながら、その後ろから付き従う。
「挑発! あたいのほうだけ見るっす!」
「フリーズダスト!」
「5連乱れ撃ち!」
ファイアウルフも火球を放ってきたが、それをカレンがあっさりと盾で防ぐ。
そして、奴の攻撃はそれまでだった。
無数の氷の礫と矢に串刺しにされ、息絶える。
そして、ダブルジャイアンが、あの巨大な棍棒を振りかざして、カレンに迫る!
頼む! 受け切ってくれよ!
俺は必死に願う。
「ムンッ!」
棍棒が振り下ろされた!
カレンは盾をかざし、膝を折りながらも凌いだようだ。
振り下ろされた棍棒が大きく弾かれ、階層主が痛そうに目を細めた。
ふむ、うまく弾くと相手にダメージを与えられるという盾スキルだな。
カレン! 期待以上だぞ!
「こっちの番ですわ! 四方突き!」
巨人の後ろに一気に回り込んだクレアが4連撃を喰らわせる!
凄い速さだが、俺には見えた。
奴の両足首と両膝の裏に見事に決まっている!
しかし、奴は倒れない!
再び棍棒を振りかざす!
浅かったのだろうか?
いや、あの耐久力のせいだな。
「これはどうですか?! イビルファイア!」
「精密三連射撃!」
巨人の右の眼には火球が、左の眼には3本の矢が突き刺さる!
残念ながら、盲目効果は付与されなかったようだ。
刺さった矢を左手で何事も無かったように引き抜く。
そして、右手の棍棒で薙ぎ払う!
「グヘッ!」
流石のカレンも完全には受け切れなかったようだ。
今度は盾ごと吹き飛ばされた!
そして更にカレンを追いかける!
「カレンさん、早く立て直して! クレア姐さん、隙ありです!」
スコットが指示を飛ばす!
かなり興奮しているようだ。
「大丈夫っす!」
「もう一度ですわ!」
巨人がカレンを追って、向きを変えたところを、再びクレアが襲う!
「まだ倒れないですの?!」
やはり奴の耐久力も半端ない。
「ミレア姐さん、膝にボルケイノです!」
スコットは指示しながらも、今度は足首に向けて矢を射ている。
少し精度が落ちたのか、一本外していた。
だが、この状況で当てられるだけでも凄いと思う。
彼は全体を見ながら指示をしているのである。
「フンッ!」
「ボルケイノ!」
巨人が棍棒を、盾でしっかりと身構えたカレンに振り下ろす!
しかし、その瞬間に特大の火球が奴の膝の裏に命中した!
振り下ろされた棍棒は僅かに軌道を変え、盾で弾かれた。
そして、さしもの巨人も片膝を折った!
「何度でもですわ! これで倒れなさい!」
クレアも完全に戦闘モードだ。
まだ踏ん張っている方の足目掛けて、槍を突き刺していく!
3・・4・5! 何と5連撃だ!
また成長しやがったな。
仲間の命が懸かっている局面なのだが、思わず笑みがこぼれる。
遂に奴はうつ伏せに倒れた!
それでも奴は片手をついて立ち上がろうとする。
左目がギロリと俺を睨んだ気がした。
俺は思わず叫んでしまった。
「挑発が切れている!」
「カレンさん、掛け直しですにゃ!」
すかさずスコットが反応する。
「挑発! こっちこっち~!」
奴が倒れたせいか、皆に余裕が出たようだ。
「精密三連!」
俺を睨んだ目に矢が突き刺さる!
「ボルケイノ!」
そして逆の頭には特大の火球!
こうなれば時間の問題かと思いきや、奴は棍棒を支えに立ち上がる!
だが、片足は完全に死んでいるようで、俯いたまま、何とか立ち上がっただけという状況だ。
そして、片手でカレンの盾を掴み取ろうとする!
しかし、そこを逃すクレアでは無かった。
「昇天三連!」
懐に潜りこんだクレアが、矢の刺さっていない方の目に正確に3回。
ジャンプしながら突き入れる!
奴は慌ててカレンを狙った手で防ごうとするが、間に合う訳も無く、もろに喰らう!
「こっちって言ったっす!」
カレンが奴の支えにしている棍棒を蹴り飛ばした!
これが決定打になったようだ。
巨人は完全に倒れた。
そこを全員でフルボッコにする。
遂に扉が開いた。
「カレン、大丈夫か?!」
俺は真っ先にカレンを回復させる。
戦闘中、人物鑑定スキルで体力をチェックしていたので、それほど減っていないとは知っていたが、身体が勝手に動いてしまう。
しかし、盾の上からでもダメージを与えられる、階層主の攻撃力の高さには畏れ入る。
まともに喰らっていたらと思うとぞっとした。
「えへへ。どうもっす。」
「や、やりましたわ!」
「私達でも出来るのです!」
「僕も役に立てたですかにゃ?」
スコット、何を言う!
今回の立役者は間違いなくお前だ!
仲間の士気を高め、且つ正確な作戦と指示。
まあ、スコットもどや顔だし、何も言うまい。
皆も分かってくれていると信じているしな。
だけど・・・。
俺ってやっぱいらなくね?
今回は、現在最弱ステのスコットに活躍して貰いました。
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