新パーティー
新パーティー
翌日は道を覚えていることもあり、さくっと10階まで行く。
階層主の扉の前で俺は今回の戦闘方針について説明した。
「今回も、俺は回復役に徹っして手は出さない。主は範囲魔法【ファイアウォール】を使ってくるから気をつけろ。」
「「「「はい。」」」ですにゃ。」
「指示は、・・・そうだな。ミレアと言いたいところだが、呪文の詠唱に困るだろうから、後ろから全体が見えるスコットに任せる。」
「頑張りますにゃ!」
ここまでの雑魚戦で、おおよそのスタイルは確立されつつあった。
カレンが盾を構えて敵を【挑発】し、引き付ける。
そこを、クレアが横からと、スコットが後方から仕留める。
カレンも敵を引き付けるだけでなく、盾で相手の攻撃を受け止めながら、小剣で敵に攻撃していた。
そして、遠くの敵はミレアが魔法でというパターンだ。
また、この階層でミレアに範囲魔法を唱えさせると、一撃で全滅させてしまうので、封印させている。
「じゃあ、今まで通りで行きますにゃ。お引きのペインスコーピオンは僕とミレア姐さんで一体ずつですにゃ。主は前衛お二人で頼みますにゃ。お引きが片付いたら僕達も援護しますにゃ。」
「了解っす。あたいは敵を引き付けるっす。」
「そこを私が横から行きますわ。」
「じゃあ、私は右から行きますね。」
スコットは気弱そうな性格なのに、堂々と、しかも的確な作戦を立てた。
皆もスコットの意外な面を見た感じだ。
「よし、行くぞ!」
クレアが扉を開けた。
敵は前回と全く同じ布陣だ。
カレンが盾を構えながら突進し、クレアがそれに続く!
「挑発! こっちに来るっす!」
「アイスランス!」
「4連射!」
主のファイアナーガはてっきり範囲魔法を唱えるかと思いきや、個別魔法の【ファイアショット】をカレンに唱えてきた。
なるほど、【挑発】にはそんな利点、範囲魔法を唱えさせない効果もあるのか。
カレンがその魔法を盾で受け止める!
この盾も勇者達の遺品の一つで、聖銀製の一品だ。
お引きのサソリ2体はあっさりと息絶える。
「隙ありですわ! 四方突き!」
クレアがカレンを注視している主の側面から、凄まじい速度で槍を突き入れて行く!
「とどめっす! あれ? 終わってるっす。」
カレンが小剣を振りかざした瞬間、ファイアナーガは突っ伏した。
奥の扉が開く。
「お前等凄いな。階層主を瞬殺って。うん、いい感じだ。」
「えへへ。照れるっす。」
「アラタさんの従者なら、これくらい当然ですわ。」
「範囲魔法を解禁して下されば、もっと楽できます。」
「と、とにかく全員無傷で良かったですにゃ。」
10階とはいえ、階層主を速攻で葬れた俺達は気を良くして、そのまま地上に戻ることなく進んだ。
10階から20階までの目的は、前回同様、パーティーの熟成と、沈黙耐性の獲得だ。
カレンは魔法を唱えないが、それでもスキルは使うので、耐性は取っておくべきだろう。
もっとも、俺の魔法、【サイレン】を使うのが手っ取り早いのだが、威力が強すぎるので使わない。
以前、スコットに試したところ、呼吸をすることさえ困難になってしまい、慌ててクレアが解除したという経緯があったからだ。
雑魚に唱えさせて鍛えるのが、丁度いいようだ。
道順を覚えているせいもあり、耐性を獲得しながらどんどん降りて行く。
その日は15階層で休憩だ。
野営セットを広げると眠気に襲われる。
「おはよう、リム。どうした? 今日は少し早いじゃないか?」
「おはよう、アラタ。カレンさんも加わったし、あたしも少し試したいの。」
「そうか、うん、それがいいな。見ていたと思うが彼女は優秀だよ。リムの時でも、それを活かして戦えるように連携を取っておくべきだろうな。」
「ええ、そのつもりよ。彼女のおかげで前衛がしっかりしたわ。なので、あたしは魔法をメインにしてみるつもりよ。」
「ふむ、具体的には?」
「光魔法は支援系統が多いの。だから、あたしがクレア姉さんとカレンさんを強化できればいいかと思って。」
「それはいい考えだな。是非とも試してくれ。」
「ええ。じゃあ、おやすみなさい、アラタ。」
「おやすみ、リム。」
うん、リムもちゃんと考えてくれている。
しかし、なんか俺よりもリムの方がパーティーのバランス良くないか?
まあ、深く考えるのはよそう。
「皆、おはよう。」
「「「リムさん、おはようございます。」」にゃ。」
カレン以外が挨拶を返す。
まだ慣れていないのだろう。
「今日はあたしもカレンさんと少し狩をしてみたいわ。」
「あら、それで今日は早いのですね。喜んで御供しますわ。」
「え~っと、リムさんでいいんすよね? おはようございます。あたいも嬉しいっす。近衛さんだと、強すぎて連携にならないっすから。」
褒めてるいのか、けなしているのか微妙だな。
「あたしも基本能力はアラタと同じよ? それで、あたしは支援魔法をメインで戦いたいのだけど。」
「了解っす。このまま行くんすか?」
「そうね、食後でいいんじゃないかしら。スコットさんは武器とかいじりたいでしょうし、女性陣だけで。」
「またぼっちですにゃ。」
しかし、スコットは喜々としてミニ工房を広げていく。
最近あまりできなかったから、うずうずしていたのだろう。
結果としては、雑魚相手とはいえ、大成功だったようだ。
リムの支援魔法、【プロテクト】は防御力を、【ブースト】は攻撃力を、リムの魔力に比例して飛躍的に上昇させたようだ。
今は個人にしかかけられないようだが、慣れれば一度に全員にかけられるかもしれない。
「リムさん、凄いっす! 攻撃喰らっても全然ダメージ喰らわないっす!」
「以前よりも攻撃力の上昇率が高いですわ。あたし一人で行けそうですわ。」
「魔法の強化呪文とかは無いんですか?」
「多分、上位の魔法にあると思うので、ミレア姉さんは我慢してね。」
俺が朝起きると、スコット以外は全員準備を整えていた。
スコットは昨晩遅くまで何やら頑張っていたようで、リムが気を利かせてまだ寝かせてある。
なので、スコットの朝食だけが残されている状態だ。
皆の耐性をチェックしていると、目覚めたようだ。
「皆さん、おはようございますにゃ。あれ? 僕寝坊ですかにゃ? すみませんですにゃ。」
「おはよう、スコット。気にするな。ゆっくり飯食ってから準備してくれ。」
「スコットちゃん、おはようですわ。」
「スコット君、おはよう。」
「スコットさん、おはようっす。」
スコットの呼び方は全員違うようだ。
分かり易くていいな。
「それでこれはクレア姐さんにですにゃ。」
スコットが朝食を食べながら、アイテムボックスから一本の槍を取り出した。
「まあ、嬉しいですわ。すぐに使ってみたいですわ。」
「攻撃力は、今のに劣りますにゃ。ベースが鉄の槍ですにゃ。ただ、メイジゴブリンの魔核を付与できたので、【沈黙】の効果がついたですにゃ。」
「おお、それはいいな。今日の予定の20階層は魔法がメインの奴だ。クレア、早速試してくれ。」
「そうさせて頂きますわ。スコットちゃん、ありがとう。」
「頑張った甲斐があったですにゃ。」
結果としては、スコットの作った槍は秀逸だった。
初撃こそ防げなかったものの、その後の20階層の主の魔法を完全に封じることに成功した。
今回も俺は見ているだけで、ほぼ手出しはしていない。
最初の範囲魔法を喰らった時に、全員に回復呪文をかけただけだ。
お引きのメイジゴブリンをスコットとミレアで瞬殺し、魔法を封じられた階層主を全員でフル凹にしていた。
楽勝だな。
もっとも、相手の攻撃方法を知っていたのがでかいが。
戦闘後に、クレアが感謝のキスをスコットに迫ったが、露骨に避けられていたのが見ていて笑えたぞ。
そんな調子でその日は23階層で休憩する。
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