カレン
少しぶれていたので訂正しました。
カレン
俺とスコット、そしてヤットンは奴隷商の建物の中、カウンターから少し離れた場所に飛んだ。
「おいおい、驚かせるなよ。テレポートの石かよ? しかし、ここは結界張ってあったんだがな?」
少し薄暗い部屋の中で、小柄の男が愚痴った。
種族はリスだろうか?
茶色の可愛らしい耳と、ストライプの入ったふさふさした尻尾が特徴的だ。
相変わらず、ここの亜人は顔と言葉遣いが一致しない。
「驚かせてすまん。結界破りに関しては、ノーコメントだ。聞いていると思うが、カレン・ロールという奴隷を買いに来た。」
「まあいいよ。じゃあ、そこの兄さんの連れか? 聞いてるよ。」
リス男は俺達とは反対側の隅を顎で指した。
ヤットンの仲間だ。一度顔を見たことがある。
「じゃあ、彼女に会わせてくれ。」
「ほほ~。あの娘は人気者だね~。確かに犬人族じゃ相当な別嬪だ。もっと吹っ掛けても良かったな。先客が居るんでよ、少し待ちな。」
リス男はそう言って、カウンターの裏にある部屋に声をかけた。
「お~い、買う気が無いんだったら、そろそろ出て行ってくれないか? 予約の客が来ちまったんでよ。」
すると、奥から声が聞こえる。
「か、買わないとは言ってないのだ! ただ、少し高いのだ。もう少し勉強しろなのだ!」
聞き覚えのある声と口調だ。
「そんなこと言ったってよ、依頼主はその金額が最低だそうだ。俺も商売だからよ。」
「し、しかしなのだ。金貨50枚が限度なのだ。ほら、カレンも何か言うのだ!」
埒が開きそうに無いので、俺は口を挟んだ。
「良かったら、俺が金を貸そうか?」
「だ、誰かは知らないが助かるのだ! ほんの金貨20枚なのだ!」
金貨20枚、日本円にして200万が『ほんの』とは思えないが、焦っているのだろう。
奥の部屋から見覚えのある精悍な狼人族が出てきた
「お久しぶりです。その節はお世話になりました。ありがとうございます。」
「うぬ? な、何故、コノ・・・、貴殿がここに居るのだ? 早々に立ち去れと忠告したはずなのだ。」
その会話を聞いて、奴隷商が気を利かせてくれた。
「なんだよ。知り合いかよ。こっちも信用商売なんでよ。話があるなら、その部屋で頼むわ。声が漏れないように扉は締めてくれよ。」
俺達はウルベンが出て来た部屋に入る。
ヤットンの仲間は、俺達に会釈してから、入り口に陣取った。見張ってくれるのだろう。
部屋に入ると、カレンが驚いた顔で俺達を見る。
真っ白な折れた耳とふさふさした尻尾。
相変わらずキュートな亜人だ。
しかし、服装は軽快そうな冒険者の装備から、ぼろ布一枚になっていた。
おまけに、鎖のついた首輪まで嵌められている。
見ようによっては、かなり危ない姿だ。
モフモフしたい衝動を抑えるのに苦労する。
「おや? 勇者近衛様じゃないっすか? それにデルーク(ヤットン)さんまで! こんなところに何しに来たんすか?」
「そうなのだ! 貴殿がこの国に居ることがばれると、騒ぎになるのだ!」
「まあ、奴隷商って連中は口が堅そうだし、用が済んだらすぐにテレポートしますから。」
俺はカレンとウルベンに、ここに来た理由を、ヤットンを交えて説明した。
「それなら問題ないのだ。僕も責任を感じていたのだが、近衛殿が買い取ってくれるのならいいのだ。」
「うん、カレンさんを巻き込んでしまって申し訳ない。だから金は出す。それで、カレンさん、どうだろうか? 俺と一緒に潜ってくれないか? 嫌ならウルベンさんに身請けして貰うつもりですが。」
カレンは黙っている。迷っているのか?
そこをヤットンが後押ししてくれた。
「カレン、貴様も私と一緒で限界を感じて居たんじゃないのか? 近衛様は召喚されて2週間で40階層まで制覇なされた。本来ならば私が御同行したいところだが、伸びしろの少ない私では足手纏いになる。そこで、貴様に譲ってやると言っている。」
カレンはきょとんとしている。
「近衛さん、デルークさん、あたいは今じゃ只の奴隷っす。買い取った人の命令が絶対なんす。だから、あたいの意思なんかは関係ないっすよ。それこそ、ダンジョンだろうが夜の相手だろうがっす。」
なるほど、もっともだ。夜の相手はこの身じゃできないのが恨めしい。
しかし、俺は彼女の意思が聞きたかった。嫌々潜られても、絶対にいいことにはならないはずだ。
「それは理解している。その上で聞いている。カレンさんは俺と一緒に潜りたいか、そうでないか。」
「そ、それはできれば潜りたいっす。」
「じゃあ、決まりだな。ウルベンさん、カレンさんは俺が買い取るということでいいですか? ウルベンさんが身請けしたいのなら、足りない分は出しますが。」
「うむ。近衛殿に買い取って貰うのが最善なのだ。僕の財布も嬉しいのだ。」
「あと、一つだけ。ミツルの一件に巻き込まれ、奴隷にされた現状で、俺を恨んでないか?」
これは、俺からすると結構重要な事だ。
わだかまりがあるなら解いておくか、それが無理なら一緒には潜れない。
「え? それは近衛さんが気にすることじゃないっすよ。原因はギルド長の依頼っす。」
カレンはそう言って、ウルベンを睨む。
「そ、それは済まなかったある。僕にも立場があって断れなかったある。だからこうやって迎えにきたある。」
ウルベン、かなり動揺しているな。
またキャラがぶれてるぞ。
「ふ~ん。でも、金足りてなかったようっすね。」
このまま見ていたい気もしたが、この二人を喧嘩させても時間を食うだけだ。
「じゃあ、カレンさんは俺達と一緒に潜りたいという事でいいんだな?」
「はいっす。実は勇者さんと潜るのは憧れだったっす。」
部屋を出た俺は、奴隷商に俺が買い取る旨を告げ、金を支払った。
この金が共和国の、カレンをスケープゴートにした奴に流れることを考えると、かなり抵抗はあったが仕方無い。
俺は少し思うところがあって、カレンは俺とリムの共同所有ということにしておいた。
帝都に帰ったら、クレアとミレアも同様に変更するつもりだ。
一人で二人分の登録に、奴隷商は少し驚いていたが、『まあ、色んな奴が居るよ』と特に気にしなかった。
大丈夫だとは思ったが、金貨1枚を余分に支払い、口止めしておく。
「じゃあ、これでカレンさんは俺達の仲間だ。これからよろしく頼む。」
「ぼ、僕、スコットですにゃ。宜しくですにゃ。」
「カレン・ロールっす。改めて宜しくっす。近衛さん、あたいのことは呼び捨てがいいっす。一応奴隷っすから。」
「分かった、カレン。あと、ヤットン、ありがとう。おかげでいい仲間を得られたと思う。」
「いえいえ、私は何もしておりません。帰りもテレポートするのでしたら、魔結晶2個は貰い過ぎでした。一つお返し致します。」
「いや、いいよ。その代わりと言ってはなんだが・・・、まあ、なんだ、カサード(皇帝)には宜しく頼む。」
「ありがとうございます。既にその件は心得ております故。」
俺達はウルベンを残し、ヤットンの仲間も加えて帝都にテレポートした。
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