ヤットンの報告
ヤットンの報告
外に出ると、野営テントの中から、ヤットンが飛び出してきた。
「遂に40階層まで行かれたのですね! それもたった2週間で!」
ヤットンは興奮気味だ。
「ああ、名前のついていない階層主だったから、このダンジョンでの記録だろうな。」
「それはいったいどのような魔物だったのでしょうか? 詳しくお聞かせ下さい!」
ヤットンは目を輝かせて食いついて来る。
「うん、教えるが、それよりもヤットン、何かあるのじゃないのか?」
俺はついて来たヤットンの仲間を見る。
「申し訳ありません。そうでございました。例の冒険者の件なのですが。」
「見つかったのか?! それで、どうだった?!」
「それが少し厄介な事になっておりまして・・・。」
ヤットンはそう言いながら、周りを見回す。
「分かった。じゃあ、二人でワープの小部屋で話そう。あそこならまず大丈夫だ。」
「お察し頂き、ありがとうございます。」
小部屋に着くと、ヤットンが話し始めた。
「知り合いの冒険者、名前は、カレン・ロールと申しまして、亜人でございます。それ故、亜人への迫害の無い、サラサ自治領からはあまり出ないのです。」
カレン・・・亜人・・・ひょっとして!
「多分、俺はそいつに会ったことがあると思う。」
「そうでございますか。ならば話は早いです。彼女、勇者橘様の案内役としてダンジョンに潜りまして。」
ああ、間違いない。ミツルと戦った後、出てきた冒険者だ。ウルベンさんに頼まれたとか言っていった。
「ミツル絡みか?」
「はい、共和国は橘様を失ったのが、かなり応えたようで、『案内役を引き受けたくせに、勇者を見捨てるとは何事だ。』と難癖をつけ、彼女に責任を取らせたのございます。」
「チッ! 極力ミツル以外の奴には、迷惑がかからないようにと思っていたのだが。スケープゴートまでは想定していなかった!」
「そうでしたか。しかし、ギルド長の計らいもあったらしく、そこまで重い罪にはなりませんでした。」
「それで、彼女はどうなった?!」
「奴隷落ちの刑でございます。3年間奴隷として勤めあげれば解放されます。」
「では、今、誰が所有者なんだ?」
俺は彼女を買い取る気、満々である。
奴隷の相場がいくらか知らないが、こちらにはツインサイクロプスよりも価値があると思われる、ダブルジャイアンの魔核と素材がある。
少し話しただけだが、彼女なら信用できそうだ。
そんな仲間が増えるなら、魔核なんか惜しくはない。
何よりも俺とミツルのいざこざで彼女に迷惑をかけてしまったのが申し訳ない。
「まだ所有者はおりません。サラサの奴隷商の管理でございます。」
俺は少し意外だった。彼女はウルベンさんから、ミツルの案内を頼まれたと言っていた。
ならば、ウルベンさんが彼女の身請けをすると思ったからだ。
「不幸中の幸いかもな。では、いくら出せば彼女を買い取れる?」
「金貨70枚でございます。ですが、彼女の意思は確認されなくて宜しいのですか?」
日本円なら700万というところか。人間の相場としてはどうなんだか。
「う~ん、俺とミツルが彼女を巻き込んだようなものなのでな。彼女がダンジョンに潜らないと言っても、身請けはするつもりだ。今、手持ちは無いが、売れる魔核ならある。それで彼女を買い取れないか?」
「それならば良かったです。仲間にはまだサラサに待機させております。奴隷商に彼女を押さえておくように言っておきます。」
ん? スコットの仲間はまだ戻っていないのか?
どうやって、その情報を得たのだろう?
それに『押さえておくように言っておく』って?
この世界に携帯電話なんかは無いはずだ。
「ありがとう。ところで、お前はどうやって仲間と連絡を取っているんだ?」
「テレフォンの魔法でございます。遠くの仲間でも、意思の疎通を図れます。」
なるほど、便利な魔法があるものだ。
ついでだし、聞いておこう。
「俺にも使えるか?」
「次元魔法の初歩でございます。魔法書があれば、素質のある者なら簡単かと。」
次元魔法・・・。そう言えばいつの間にかスキルを取得していた奴だ。使える魔法が無くて、リムと悩んでいた代物だった。
俺は気を内側に集中させる。
テレフォン! と念じ、同時にクレアを思い浮かべる。
『きゃ! 誰ですの?!』
ふむ、成功したようだ。
『驚かせて済まない。俺だ。アラタだ。少し魔法の実験をしている。成功したか確かめたいので、3人で小部屋まで来てくれ。』
『かしこまりましたわ。』
「ふむ、俺にも使えるようだ。ヤットン、ありがとう。」
「え? もう会得されたのですか?」
ヤットンが目を丸くしている。
「元々、次元魔法の素質はあったようなのでな。」
3人が小部屋に入って来た。
「うん、成功したようだ。クレア、ありがとう。」
「なんて素晴らしい魔法なのですの! これで、いつでもアラタさんとお話できますわ!」
「何か良く分りませんが、またチートなことをされたようですね。」
「いきなりクレア姐さんが、ついて来いって言うですにゃ。変な電波を受信したっぽいですにゃ!」
「あ~、後で詳しく話すから、それは置いておいてくれ。それより、これからサラサに行くぞ。」
ヤットンがやっと落ち着いたのか、続きを話し出した。
「そう仰ると思われましたが、流石にそれを陛下のお耳に入れる訳には参りません。」
なるほど、だからヤットンは人に見られない場所を探していたのだろう。
彼以外に俺を監視している者が居ないとも限らない状況で、こういった話はし辛い。
彼のバイトも公にはしたくないのだろう。
「確かに俺がサラサに行く等と言えば、騒ぎを起こしに行くようなものだからな~。」
「左様でございます。」
「ところで、奴隷商って言う連中の口は堅いか?」
「信用商売ですから、顧客の情報は洩らさないでしょう。」
「なら問題無いな。俺は一度サラサの奴隷商に行ったことがある。そこに直接テレポートするよ。」
「確かにテレポートの石があるなら人目につかず行けましょう。」
「うん、それで残った問題は現金の獲得と、40階層で拾った勇者と思われる人達の亡骸だ。」
「え? 勇者様のご遺体を持ち帰られたのですか?」
「確証は無いが、多分勇者だと思う。ヤットンは確認できるか?」
「いえ、私共も以前の勇者様とは面識がございません。」
「そうか、ならば城に行くのが最善だろうな。祭祀長のイーライなら確認できるだろう。」
「そうでございますね。ついでに魔核も私から直接帝国に買い取らせましょう。」
「ふむ。時間が惜しいが、それが手順のようだ。一度帝都に戻ろう。勇者の遺体を持ち帰ったと言えば、怪しまれることも無いだろう。」
まあ、特に後ろめたいことをする訳では無いのだが、サラサに行くことはやはり伏せたい。
仲間を増やしたいとか言い出せば、面倒なことになりそうだし。
「じゃあ、帝都に帰るか。」
「「「はい。」」ですにゃ。」
「それならば、馬車がありますので、どうぞ。宜しければ道中、ダンジョンのことをお聞かせ下さい。」
ふむ、こいつも引退したとは言っても、まだ冒険者なんだな。
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