ツインサイクロプス再び
ツインサイクロプス再び
ワープの小部屋で登録を済ませて外に出ると、もう暗くなっていた。
今回はヤットンが待っていた。
「近衛様と、従者の皆様、お帰りなさいませ。」
ふむ、『従者の皆様』に格上げされている。以前は『従者の皆さん』だったので、俺の仲間もヤットンに認められたということだろう。
「ところで、あれは?」
俺が指さした先には少し大きめの野営テントが張ってあった。
「陛下よりの差し入れにございます。」
一瞬使うか躊躇ったが、カサード(皇帝)の厚意なら仕方無い。ありがたく使わせて貰おう。もっとも、何処で監視されているか分かった物じゃないのだが。
「そうか、カサードに宜しく言っておいてくれ。」
中に入ると、以前俺達が城で使っていた部屋の装備品がそっくり移してあった。
水道こそないが、バスタブまであったのは驚きだ。
水は魔法でどうにでもなることを知ってのことだろう
久しぶりに風呂に入れるなと思っていると、急激に眠気が襲ってきた。
「はい、交代よ! 寝てなさい!」
「リム、裸くらい今更って感じだが?」
しかし、よく考えてみると、俺が朝目覚めたら、必ず既に着替えてある。
また、夜に彼女が自分で体を拭いていたようで、汚れも落ちていた。
「分かっていても嫌なものは嫌なのよ!」
「はいはい、おやすみ、リム。おっと、監視付きかもしれないので、言葉遣いを頼むよ。」
「分かってるわ。スコットさんにも武器作成とかは自重して貰うわ。じゃあ、おやすみなさい。アラタ。」
翌朝、ヤットンに30階層の主のことを教えてから、そそくさとダンジョンに向かう。
30階のワープの小部屋で、
「う~ん、風呂とか嬉しいのだが、やはり監視されているかもと考えると、落ち着けないな。」
「そうですわね。スキンシップも取りづらいですわ。」
「アイテムボックスに、バスタブを入れておくという手もありますが。」
「いや、そこまでは流石に・・・。スコットが可哀想だし。」
昨晩の夢の中で、リムたちがスコットを追い出してから、風呂に入っていたのを思い出した。おかげで変態姉妹に襲われそうになっていた訳だが。
その3日後、俺達は40階層の主部屋の前に居た。
それまで敵では特に厄介なものは無く、スケルトンLv10とファイアウルフ。
スケルトンは以前のLv5よりは格段に攻撃力が上がっていたが、油断しなければ全て躱せる。
ファイアウルフも名前通り火を吐いて来るが、これはスコットが、以前倒したダークウルフの毛皮で作ってくれたコート(火耐性中)によって、ダメージを食うことも無い。
「お引きはいつも通り2体、多分ファイアウルフだな。」
「ファイアウルフには氷系統が効きますから、私が最初に【フリーズダスト】を唱えますね」
ミレアは30階で喰らった主の魔法、【フリーズダスト】を物にしていた。
「それでは私とスコット君が、ファイアウルフにとどめを刺すということで、よろしいですわね。」
「はいですにゃ。」
最近になると、全員慣れてきたというか、俺の指示が無くても自分で考え、判断してくれる。
頼もしい限りなのだが、これはこれで少し寂しい。
「じゃあ、行くぞ!」
俺は扉を開いた。
「こ、これは・・・。」
階層主は、一つ目の双頭、あのツインサイクロプスだった!
以前会った奴は赤褐色だったが、今回のは紫色。階層主ということを考えれば、多分攻撃力も前回の奴とは桁違いなはずだ。
それだけならば、俺も大して驚かなかったのだが、奴らの周りには、鎧を纏った白骨死体が散乱していたのだ。
こいつらに敗れた者のなれの果てだろう。
「奴の弱点は目だ! お引きを片づけたら目を狙え!」
「「「はい!」」ですにゃ!」
「ハイスタン!」
「フリーズダスト!」
「4連射!」
いつも通りの戦法だ。スコットの連射数が増えている。
主の動きが止まり、まだ固まっている敵全体に氷の礫が襲う!
「縮地!」
俺は一気に主との間合いを詰めるが、奴の弱点である目は俺の遥か上方、地上3mくらいのところだ。
ジャンプすれば十分に届く高さだが、着地の瞬間をあの巨大な棍棒で狙われる可能性が高い。
俺は奴の足に手を回した!
「ふん!」
膝関節に手をかけ、回り込む!
後ろから力を込め、膝を折らせると、奴の巨体が一気に傾いた!
しかし、まだ倒れない!
片足で踏ん張ってやがる!
俺は腰を落として、踏ん張っている足に足払いをかける!
支えを完全に無くした巨体がうつ伏せに倒れ始めた。
ここで奴の硬直が切れたようだ。
バランスが完全に崩れているにも関わらず、右手の棍棒を俺に振り下ろし、左手を地面につこうとする。
このまま棍棒を躱すのは容易いが、それだと、こいつはうつ伏せ状態。
つまり弱点である目が地面に接する形となり、そこに攻撃を入れにくい。
背後から攻撃を入れたほうがリスクは低いが、奴の強靭な肉体に効くだろうか?
仰向けに転がしたいな。
俺は咄嗟に判断し、棍棒を躱しながら、奴の左肩を蹴り上げた!
すると、右手を振り回していた勢いも加わって、奴は回転する!
そして、右肩から着地し、そのまま仰向けに転がった!
ここで周りを見回すと、既にファイアウルフは仕留められており、クレアが突進してきている!
「隙だらけですわ!」
クレアが宙を睨む目に槍を突き立てる!
「イビルファイア!」
クレアが狙ったのとは逆の右目に、ミレアの盲目付加効果のある魔法が飛ぶ!
奴は必死に手を振り回して、攻撃を払おうとするが、もう手遅れだ。
後ろから矢が飛んできて、クレアの突き刺した槍の周りに、綺麗に4本刺さる!
クレアも更に何度も槍を突き入れる!
俺はもう片方の目に手を添えて唱えた。
「ファイアショット!」
こいつはかなり効いた感じがあった。
それでも、奴は立ち上がろうとして来る!
既にクレアの攻撃している左目は完全に死に体で、固く閉じられている。
しかし、クレアは構わず奴の手を躱しながら執拗に追撃を入れている!
もはや、奴の左の頭は血まみれだ。
「流石の耐久力だな!」
俺は全力の貫手を奴の右目に突き入れた!
眼球の潰れる嫌な感触が伝わり、肘までめり込む!
ワープの小部屋に通ずる扉が開かれた。
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