トロワのダンジョン
今回は少し短めです。
トロワのダンジョン
その後は衣料品や食料など細々としたものを買い揃え、今日の目的、ダンジョンへの準備は達成できたはずだ。
「ミレア、これでいつでもダンジョンに行けるな?」
「はい、前回と違って、準備は万全でしょう。それで何処に潜りますか? 帝国領内には2つありますが。」
「本音を言えば、サラサのダンジョンの続きからやりたいところだが。」
俺はヤットンを見る。
「建前上、帝国内のをお願いしたいです。前回のように無用なトラブルもありますし。」
当然な反応だ。
「ああ、無理は言わない。ところで、ナガノさんが攻略したのは、どこのダンジョンだ?」
「長野様が最深部まで到達されたのは、この国のシスのダンジョンでございます。」
「ナガノさん、そこのマップとか公表してるいのか?」
「いえ、特には何もなされていません。それもあってか、彼女が本当に最深部まで行ったのか怪しむ者まで出る始末です。」
「何か証拠とか無いのか?」
「最深部の階層主の素材を持ち帰ったという話がありますが、それを確認したのは陛下を含めた一部の人間だけなのです。」
「確かに、連れて行くとかできないだろうな。最低限、自分の身を守れる奴って、要はそこまで行ける人しかいない訳だから。」
「仰る通りでございます。」
「うん、やはり、直接話を聞いてみたい。ナガノさんは帝都に家があるって話だけど、会えないか? 彼女の関わる話は謎ばかりだし。」
「一応家はあるのですが、現在は居られないようです。お戻りになられた時には、家の管理を任されている者が、私共に報告してくれるのですが。」
ヤットンはそう言って、街の賑っている場所から少し離れた高台にある家を指さした。
「ここ数年は殆ど戻って居られません。おかげで執事がぼやいておりました。『私は別荘の管理を任されたのか?』と。」
俺が持つナガノさんのイメージなら十分にありえそうな話だ。誰にも知られていない本宅とかありそうだ。どうしても帝都に寄らなければならないときだけ、利用しているのかもしれない。
行くだけ行ってみるのも手だが、今までの彼女の行動パターンからすると、もし居たとしても、俺には会ってくれない気がする。
「分かった。じゃあ、話は戻るが、攻略されたのはシスだけで、もう一つのダンジョンは手付かずなのか?」
「手付かずではないのですが、トロワのダンジョンはサラサやシスのダンジョンとは違い、街からかなり離れた場所にあります。ですので、冒険者は行きたがらないのです。」
「そうか、帝国としては既に攻略されたシスのダンジョンに入るよりも、そのトロワに潜って欲しいのではないのか?」
「過去、二人の帝国の勇者様がトロワに潜られ、帰られておりません。ですので、あまりお薦めできないのです。」
確かに帝国としては、ダンジョン云々よりも、兵器としての勇者が欲しいはずだ。
従って、帰って来れない可能性のある所よりも、レベルアップだけに絞った情報の多いところに潜って欲しいのだろう。
共和国のミツルが典型的な例だ。
危険を冒さず、ぬるい魔物を狩って強くなるのが理想なのだろう。
しかし、俺の目的は男の身体に転生するのが第一だ。
ウルベンさんは、ダンジョンに潜ればヒントがあると言い切った。
サラサでも良かったとなると、むしろ、攻略された所じゃないほうがいいのかもしれない。
ナガノさんに会えないなら、どっちも情報は無いに等しい。
むしろ、誰も潜ったことが無いようなところに何かありそうだ。
「うん、ヤットンの言っている意味は理解できるが、俺は攻略されていないトロワに潜るよ。」
三人を振り返ると、大きく頷いてくれた。
クレアとミレアはウルベンさんの話を聞いているから、俺と同意見なのだろう。
スコットは単純に前人未到のダンジョンを攻略するのに憧れているだけかもしれない
「かしこまりました。しかし、今からとなると、日が暮れるまでに辿り着けません。一度城に戻られて、明日になされるのが、よろしいでしょう。」
翌日、城で朝食を取って身支度を整えていると、ヤットンがノックしてきた。
「近衛様、従者の皆さん、おはようございます。」
「おはよう、ヤットン。もう出るぞ。」
「ならば入り口までご案内致します。」
「いや、クレアとミレアが知っているし、大丈夫だ。街で馬車を借りて行くよ。2時間くらいと聞いている。」
「それならば、既に馬車は手配してあります。」
なるほど、どうしてもついて来るつもりだな。
もし、逃げられたら堪らないということか。また、ダンジョンから出てこない=死んだとしても、報告する義務があるのだろう。
「なら任せるよ。」
馬車は帝都の門に待機していた。
ヤットンが御者となり、走らせる。
途中、廃墟のような所を通ってから、そのトロワのダンジョンの入り口についた。
「ここでございます。くれぐれも無理はなさらないで下さい。私はここで待って居りますので、絶対に生きてお戻りください。」
「ありがとう。ところでヤットンは中まではついて来ないのか?」
俺は少しカマをかけて見た。
俺の見立てではヤットンは元高レベルの冒険者だ。見た感じの年齢は30代といったところか。第一線を引退したのかもしれない。
少しだけだが、彼が一緒ならと思わないでも無かったのも事実だ。
「私では足手纏いになります故。」
お定まりの台詞か。
「いや、言ってみただけだ。1週間程で一旦補給に戻る予定なので、それを過ぎたら申し訳ないが諦めてくれ。」
「1週間ですね。かしこまりました。しつこいようですが、待って居りますので、必ずお帰り下さい。」
「ああ、ではまた。」
俺は顔を引き締め、用心しながら入り口をくぐった。振り返ると、3人共緊張した面持ちでついてくる。
これから死の危険のある場所に入るのだ。緊張しない方がおかしい。
ただ、ヤットンだけは、言葉とは裏腹ににこやかに手を振って見送っていた。
ここの魔物はサラサとは違ってゴブリンは出ず、代わりに直径1m程の半透明のスライムがメインだった。
物理耐性が高く、と言うよりも殴っても威力を柔らかい体に吸収されるので、俺には相性が悪い。
とは言っても、魔核が目で見えるので、そこを力任せにどつくと魔核が弾き出されて即死させられる。
ただ、殴った感触が何とも妙な感じなので好きになれない。
奴の攻撃は毒を飛ばしてくるのだが、耐性のある俺達には効かないので、全く脅威では無い。
クレアは、槍に装備を変えてからの初めての戦闘だったので心配したが、正確に魔核を狙って突き出し、死体の山を築いて行った。
武器屋の主人の言葉を借りるなら、基礎が出来ているのだろう。
「クレア、良い感じだ。もう慣れたのか?」
「はい、確かにこっちのほうが動き易いですわ。以前はアラタさんの邪魔をしないか心配でしたが、これなら問題ありませんわ。」
「うんうん、数も今の所は少ないし、お前の独壇場だな。」
「お姉様、私の分も残してください!」
「う~ん、矢があまり効かないにゃ。ウィンドカッター!」
結局その日はさくさく進めて7階層まで到達したところで休憩となった。
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