帝都
帝都
「リム、おはよ~。」
「丁度いいところに、アラタ、おはよう。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「ん? なんだ?」
「新しくスキルが手に入ってるのよ。」
「お~、リム、やったな!」
「いや、取ったの多分アラタよ。【時空魔法1】って、心当たりある?」
「ん~、考えられるとしたら、テレポートの石くらいだな。ミツル戦が終わった時にもそんなのなかったぞ。」
「でしょ? あたしもそう思って試してみたのだけど、テレポートは使えなかったのよ。」
「城の中だからじゃないか? ヤットンが結界がどうのとか言ってたぞ。」
「うん、死角のお手洗いで試しても無理。」
「あそこ、まだ死角なんだ。まあいい、俺も色々試してみるよ。」
「うん、頼んだわよ。じゃ、おやすみ、アラタ。」
「おやすみ、リム。」
「皆、おはよう。」
「「「おはようございます。」」にゃ。」
「おわ! なんだこの山は?」
「昨晩、リムさんがお馬鹿勇者の護衛が持っていたアイテムボックスを開けたら、出てきたのですわ。」
「あ~、なんかやってたな。しかし、アイテムボックスは登録がどうのとかお前ら言ってなかったっけ?」
「強引に魔力でリセットしたようです。」
「ふむ。多分登録者より桁違いの魔力でこじ開けたってとこだな。」
「それで、現在そのアイテムボックスは僕が貰って登録させて貰いましたにゃ。」
「お~、それは良かった。俺も気になってたんだ。スコットだけアイテムボックス無かったから。まさに渡りに船だな。」
「ですにゃ!」
「しかし、ミツルは持って無くて、護衛が持ってたってのが笑えるな。なんとなく理由が想像できる。」
「「ですね。」」「ですにゃ。」
その山の大半は武器防具と魔核だった。
目ぼしい物はこの金貨5枚とテレポートの石2個くらいしか無かったので、この際に少し整理することにした。
まず、スコットに合成とかで使いたい装備や魔核を入れさせる。
次にダンジョンでの野営関連をクレアに。
魔道具、その他必需品とクレアが持ちきれない物はミレアへ
最後に食材と余った装備と魔核は俺が持ち、テレポートの石は各自1個ずつ持たせた。
整理をしながら考える。
今まで連戦続きだったので、皆で休息を取りたかったのだが、この城には1秒たりとも長居はしたくない。
なので、早速動き出すことにした。
「祭祀長のイーライに会いたいのだが。」
俺は部屋の扉を出たところで頑張っている兵士に声をかけた。
暫くすると、イーライが駆けてきた。
「イーライ、俺の魂転移の研究のことなのだが。」
「はい、近衛様、目下全力で研究中でございます。」
「うん、それは嬉しいのだが、出来れば犠牲者を全く出さない方向で頑張って欲しい。」
「仰っている意味は分かるのですが、それだと時間がかかるかと思いますが。」
「それは承知している。しかし、自分の為に犠牲が出るのはやはり耐えられない。甘いのかもしれないが、よろしく頼む。」
「かしこまりました。しかし勇者様はお優しい。侍女や共和国の勇者様の処遇に関しても。」
「う~ん、後々の事を考えると、そうせざるを得ないと言うか。とにかくその方向で頼む。」
「かしこまりました。」
次は装備の充実だ。帝都で冒険者が使うような装備を買い揃えたい。
カサードに頼めば、それなりの物を用意してくれるのは分かっているのだが、やはり借りを作ると言うか、頼りたくない。
「よし、皆、帝都で装備を買い揃えよう。魔核とか素材とかを売れば何とかなるだろう。」
「そうですね。しかし、私達にはまだ拠点がありません。装備に関してはスコット君の能力を頼りたいところです。それも拠点があってこそ可能でしょう。城の中は流石に。」
「確かにミレアの言う通りだ。しかし、スコットの能力を当てにして拠点で装備を作ってからとなると、ダンジョンに潜るのが遅れる。スコットを町に残してとなると、当然スコットをダンジョンに連れて行けなくなる。」
「ぼ、僕はアラタさんの役に立てるのなら、街に残って、頑張って作りますにゃ!」
「お前、本当にそれでいいのか? 勇者と一緒にダンジョンを攻略するのが、お前の望みじゃなかったのか?」
「そ、それは・・・その、出来れば・・・。」
「うん、なので妥協案だ。」
俺は城の兵士に今から皆で街に出る旨を伝えた。
特に妨害されることもなく、城の門まで案内してくれる。
が、門をくぐろうとした時、背後からヤットンがすっ飛んで来た。
「近衛様、城下に出られるのであれば、是非とも私に一声おかけください。しかし、大抵のことならば城内で事足りるかと思いますが。」
「うん、しかし、やはり自分の目で見てみたいし、街にも興味があるのでな。」
「それならば、私がご案内致しましょう。」
断っても、どうせついて来るに違いない。
なら、こいつに案内させた方が余計なトラブルにも巻き込まれないだろう。
「そうか、じゃあ頼む。」
皆でぞろぞろと城を出る。
帝都の街並みは、一言で言えば、城下町だ。堀に囲まれた城を中心に発展している。
日本のそれと違うのは、街全体が城壁に囲まれているということだろう。
スコットと俺は初めての街にお上りさん気分できょろきょろしている。
「まずは資金の確保だな。魔核や素材が売れるところに行こう。ミレア、クレア、知っているか?」
「はい、それならあそこの店がいいですわ。買取りだけでなく、魔道具とかも売っていますし、良心的でしたわ。」
ミレアも頷く。ヤットンは特に口を出さなかった。
魔核は各種10個くらいを残して、素材はスコットに聞いてから、余りそうな分だけ売ることにした。
装備関連もミツルの護衛が結構持っていたので、被っているのは全部売った。
雑魚魔物のが殆どだったが、それでも金貨30枚くらいになった。日本円なら300万くらいか?
代わりに結界石やら、必要そうなものを買い込む。
テレポートの石は一般では売られてないようだ。犯罪とかにも使えそうだし、当然か。
「次は家具屋に寄りたい。ダンジョン内で、ベッドで寝るというのは乙なものだったな。スコットも加わったし、買い足そう。」
「やっぱり、そうですわね! でも、スコットちゃんのベッドだけで十分ですわ!」
何を考えているか、分かり易すぎだろ!
クレアが俺達を先導して家具屋に入る。
「普通のサイズのベッドを2つくれ。できるだけ軽いのがいい。後、3人掛けのソファーとテーブル。クレアとミレアは一緒に寝るからそれでいいよな?」
二人は不満そうだが渋々頷く。
ヤットンはダンジョン内でベッドを使うという発想に目を丸くしていた。
「じゃあ、次は装備だな。どこか知っているか?」
「私達はこの街では侍女として働いていたので、そういうのはあまり知らないです。」
「それならば私が存じております。どうぞこちらへ。」
ヤットンに連れられて店に入る。
店に入ると、所狭しと武器や防具が並べられている。
その奥にはなんとも気怠そうな表情をした、店の主人と思われる男が俺達を値踏みする。
ふむ、ヤットンを連れてきて正解だったか。
残念ながら俺の目利きじゃ何がいいのかさっぱり分からない。
スコットの鑑定に頼るのも手だが、それでも、装備の強さ等は分かるが適性とかまでは無理だ。
もしヤットンに俺達を騙す気が無ければ、かなり頼りになると思っていいだろう。
何故なら、サラサのダンジョンで見たこいつの身のこなしは、少ししか見れなかったが、常人とは明らかに違っていた。
俺は、元々はかなり高レベルの冒険者と見ている。
「ヤットン、俺では良く分らない。済まないが、お前ならどれがいいと思う?」
「現在装備されているものをメインにされているのですね?」
アドバイスを求める立場なので、ヤットンに隠してもしょうがない。素直に頷く。
「それならば、近衛様には運動性を重視して、防具はこちらとこちら。武器はそうですね。このグローブ一体型の小手がいいでしょう。クレアさんには・・・」
ヤットンはまたたく間に全員の武器と防具を選んだ。
俺は驚いた。
チョイスの基準が完全に俺達の戦闘スタイルの的を得ていると思ったからだ。
こいつには俺達が戦っている所を見られたことは無いはずだ。
装備を見ればある程度は分かるのだろうが、それにしても凄い。
「ヤットン、ありがとう。しかし、それらを全部買うには全く手持ちが足りない。これ程するとは思っていなかった。最優先すべきものを教えてくれないか?」
「そのような些事はお気になさらなくて結構です。代金は城に回します。何しろ勇者様とその従者の装備です。帝国が用意するのは当たり前です。流石に寝具などは厳しかったもので、失礼致しました。」
俺は皆を見回したが、誰も答えられない。
当然だろう。俺が帝国に借りを作りたくない意図を皆理解している。
しかし、ダンジョン内では命のやり取りだ。可能な限り妥協をしてはいけない。
俺が迷っていると、店の主人が俺の考えを察したのか、
「おや、勇者さんだったのかい。俺はてっきりどこぞの貴族の娘っ子のダンジョンごっこかと思っちまったよ。しかしよく見るといい面構えだ。死線を潜っている顔だ。あんた、国なんかに頼らずに、自分達だけの力で、攻略したいんだろ?」
「ああ、そのつもりだ。しかし、仲間の命が懸かっている。使える物は使わないといけない。」
俺がヤットンに振り向こうとすると、主人が更に続ける。
「当然だな。黒ローブのお連れさんの選択は、俺から見ても間違っていないと思うぜ。この街で手に入る最高のものだ。正規の値段なら、総額で金貨200枚は下らない。そうだな、勇者様サービスってとこで金貨150枚だ。あんたらが着けてくれれば店の宣伝にもなるしな。」
「残念ながら今出せる金額は、全員のを合わせても金貨30枚が限度だ。」
「ふ~ん、そうかい。ところであんた、レアな魔核とか素材とか持ってないかい? いい物なら足しにはなるだろうよ。」
「あるにはあるが俺達では価値が分からない。」
俺はアイテムバッグから、ツインサイクロプスの魔核と頭2つを取り出した。
それを見た主人とヤットンの顔つきが変わる。
「なんだ、あるじゃねえか・・って・・・しかし・・・、こいつはちょっと値段が付けられねえ! 俺も初めて見る!」
「そ、そのような物があったとは・・・、帝国が言い値で買い取ります! 近衛様が自力でというお気持ちは分かりますので、それでここの支払いを済ませるといことでどうでしょう?」
主人とヤットンの言い方からすると、かなりの価値があるのだろう。
しかし、ここまでの反応とは。帝国が金貨150枚で買ってくれるというのなら、俺の懸念も無くなるし、いいことづくめだ。
「お連れさん、ちょっと待った! どうだ? 勇者さん、こいつを俺に預けてくれないか? 必ず金貨150枚以上で売ってやる! 足りなきゃ俺の責任だ!」
俺としてはどっちに売ってもいい訳だからかなり迷う。アドバイスをしてくれたヤットン、こっちの意を察して値引きまでしてくれた店の主人。
「こいつにそんなに価値があるかはさっぱり分からんぞ。何しろ俺が名前を付けた魔物だ。合成させるにしても、どんな効果かも分からん。」
「「尚更だ!」です!」
まあ、この世界初ってことだから、確かにレアだ。
「俺としてはどっちに引き取って貰ってもいい訳だが・・・。」
「だから言い値でと申したでしょう! 金貨200枚です! 近衛様は帝国に借りを作らずに50枚の儲け、これ以上の選択はないはずです!」
「ケッ、これだから国って奴は! 足元見やがって! じゃあ、俺は金貨60枚出す! これでどうだ! もう赤字覚悟だ!」
これには参った。
このまま吊り上げさせれば俺の懐はほっかほかだ。
しかし、かなり後ろめたいものがある。
「ま、待ってくれ! 俺はここの代金が支払えればそれでいい。こいつは俺にとっては猫に小判だ。二人で決めてくれ! って言っても穏便に済みそうにないな。少し考えさせてくれ。できるだけ二人が納得できるようにしたい。」
睨み合う二人を前に俺は考え込む。
「そうだな。じゃあ一つ、二人に武器を選んで貰いたい。選んで貰うのはクレアの武器だ。さっきヤットンが選んでくれたのは、そこにある、先に棘のついた柄の長い棍棒だった。店の主人ならお勧めはどれだ? クレアがどっちを気に入るかで決めよう。」
「いいでしょう。私も冒険者を見る目には自信があります。彼女にはあれが最適です。」
「ほほ~。赤髪の嬢ちゃんの武器だな。俺も商売してるんだ。目利きには自信あるぜ。そうだな、俺なら嬢ちゃんにはこれだ。」
店の主人は並んでいる武器の中から一本の槍を取り出した。
俺は意外だった。クレアの棍棒レベルは4 槍スキルは持っていない。
クレアが今腰につけているのは、チェーンフレイル。種別では棍棒に分類される。
それが分からない主人ではあるまい。
「お前ら、不思議そうな顔してるな。確かに今の嬢ちゃんは棍棒系統が得意と見たぜ。しかし、俺が選んだ基準はパーティーのバランスだ。勇者さんは多分なんでもできちまう。今のところは力押しの前衛だ。青髪の嬢ちゃんは魔法タイプだ。銀髪の彼は弓で遠距離からの援護。じゃあ、赤髪の嬢ちゃんは、勇者さんのすぐ後ろから攻撃するのが仕事だろう。だったら、棍棒のように振り幅が大きいのは邪魔になりかねん。ということで、リーチも長くて隙間から突ける、この槍がおすすめだぜ。なに、武器レベルなんて、基本が出来てりゃすぐに上がる。」
主人は雄弁に語り出した。
「だそうだ。クレア、感情は抜きにして、どっちがいい?」
「本当に私の判断でよろしいのですか? 困りましたわ・・・。」
クレアは店の主人とヤットン、そして棍棒と槍を交互に見る。
「お前の武器だ。お前が決めろ。俺は口出ししない。」
「そうですね。ならば、私はこちらですわ!」
クレアは槍を手に取った。
「ということだ。ヤットン、諦めてくれ。アドバイスは本当に助かった。感謝している。」
「いえ、お気になさる必要はありません。私は個人を、店の主人はパーティーを。視ているものが違いました。」
「そう言ってくれると助かる。」
俺達はその場で装備を交換し、主人に礼を言ってから店を出た。
しかし、装備がこんなに高いとは思わなかった。あの魔物を苦労して仕留めた甲斐があったと言うものだ。おかげで全員の装備を妥協することなく揃えることができた。
次はスコットの工房だ。俺は簡単な持ち運びができる、要はダンジョン内で使えるような物が欲しかった。
「スコット、武器や防具を作るのには最低限、何が必要だ?」
「そうですにゃ。素材や金属を溶かす為の炉と、後は道具ですにゃ。」
「それはアイテムボックスに入るか?」
「小型の簡単な奴なら、気力を消費することで使えるにゃ。それならアイテムボックスにも入りますにゃ。」
本当はさっきの武器屋で聞きたかったのだが、商売敵みたいに思われそうで、遠慮していたのだ。
「それで、何処で手に入るか誰か分かるか?」
「そうですね。あちらの一角は工房が多かったはずです。そこなら入手できると思います。」
今度はミレアに引かれて歩く。
着いたのは金属を叩く音が散乱する、小汚い路地だ。日本なら小規模な工場が密集した工場街というところか?
「少し聞いてみますね。」
ミレアはそう言って、手当たり次第に入って行く。
「ここで売ってくれるそうです。」
一軒のこれまた小さな工房に案内される。
入るとこの街では珍しい、大きな耳をつけた亜人が居た。可愛い耳とは不釣り合いのいかついおっさん。サラサの宿の主人と同族だろうか?
「いらっしゃいませ。持ち運びできる小型の工房一式をお探しと伺いました。」
この種族はこういう丁寧な口調が標準なのだろうか? 2度目とは言えギャップに苦しむな。
「そうだ。アイテムボックスに・・・そう、200kgくらいまでかな? そういったのあるか?」
俺はスコットのアイテムボックスの空き容量を考えて尋ねる。
「そうですね。こちら等は如何でしょうか? 気力消費型ですが軽くて小型です。」
「スコット、どうだ?」
「はい、今はそれで充分ですにゃ!」
「うん、それではいくらだ? あ、道具も一式つけてくれ。」
「はい、セットでとならばお安く出来ますので、金貨10枚で如何でしょう?」
うん、十分予算内だ。
スコットの工房用具一式を買い揃え、店を後にした。
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