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22歳♂ 何故か女の体に転生しました。  作者: BrokenWing
第一章
19/99

敗者の価値

      敗者の価値



 お付きの兵士とは違う、動き易さを重視したような鎧で肌の露出が多い。

 若そうな亜人の女だった。何故亜人かと言うと、ふさふさした純白の尻尾が生えていて、頭にはこれまた真っ白な折れた耳が載っていた。

 クレアやミレアとはタイプが違うが、かなりの美人だ。胸もでかい。


「あ~っと、警戒しなくていいっす。あたいはカレン。カレン・ロール。初めまして、勇者近衛さんと、その従者さん方。」


 危機感知には引っかからないし、敵意は無さそうだ。

 なので、俺は手を止めず、ミツルの装備を引っぺがしていく。

 皆も俺の姿を見て、作業を続ける。


「えっ? まさかの無視、無視っすか? こんな美人をって、同性っすね。」

「悪い、用があるなら少し待ってくれ。こいつら縛り上げたり、魔核とか回収したいんで。」

「あ、それなら手伝うっす。こいつらの魔核でいいっすね?」

「ああ、助かる。後、こいつらの素材とか売れる?」

「う~ん、ヒュージビーの針と目はいい値で売れるっす。」

「ありがとう。」


 俺がミツルを完全に丸裸にし、猿轡を噛ませ、縛り上げたところで、他の奴も作業を終えたようだ。


「アラタさん、全員縛り上げましたわ。一人アイテムボックスと思われる指輪をしていましたので、外しておきましたわ。」

「そうか、ご苦労。」


「できたっすよ~。」


 見ると、魔核が3個と針と目がきれいに並べられていた。相当手慣れているな。


「早いな。ありがとう。」

「どういたしまてっす。で、本題なんすけど。」


 全員が俺の側に集まってきた。クレアとミレアがミツルの裸をちらちら見ている。


「ああ、待たせてすまん。」

「その、勇者さん、橘さんでしたっけ、剥ぐのはいいんすけど、殺すのだけは勘弁してやって欲しいっす。」

「ああ、そんな事か。俺も殺す気は無い。聞きたいことが山ほどあるし。」

「良かったっす。殺されちゃうと、流石にあたいも責任取らされそうで。」

「カレンさんがここに案内したから?」

「そうっす。ギルド長の頼みなら断れないっす。」

「ん? どういうこと? 聞いていい?」

「ちょっと待って下さいっす。」


 そう言うが早いか、カレンは虚空に手を伸ばし、布を取り出した。

 そして、ミツルに目隠しをし、耳に何か詰めた。耳栓だろう。

 兵隊にも同様にする。


「あ、こいつ、回復させないとヤバイかもっすね。」

「すまん。クレア、頼む。」

「はい。」


 幸いにも、まだ誰も意識を取り戻しては居ないようだった。


「じゃあ、いいっすね。」


 彼女の話はこうだった。


 サラサの町に、ミツルとその護衛が2日ほど前に着いた。

 彼らは、ダンジョンを探索したいので、冒険者を紹介してくれるように、ギルド長のウルベンさんに頼んだ。

 ウルベンさんも、こいつらの目的は気付いていたが、断れない。

 そこで、ウルベンさんと面識のあった、カレンが選ばれ、派遣されたと言う事だった。

 カレン達がダンジョンに着いた時、冒険者のパーティーが入り口で網を張っていたので、話を聞いた。 すると、二人出てきたが、すぐに消えたと。

 ミツルはそれを怪しんでワープを使って先回りしたとのことだ。


「なるほど。しかし、カレンさんだけが無事って疑われるだろ?」

「あ~、あたいは、計画を聞いたので、『勇者様には畏れ多くて手出し出来ないから、登録してあるワープの小部屋までだけ。』って念を押したっす。あいつらだけじゃ、ここに来れないっすからね。」

「納得した。あと、もう2ついい? ダンジョン前の冒険者と、俺の手配書は?」

「あ、忘れてたっす。これ、ウルベンさんから預かってたっす。近衛さんの手配書は出ていないっすね。」 


 そう言いながら彼女は2つの小石を俺に渡した。


「あら、テレポートの石ですわ! なんと感謝すればいいのやら。」

「そうか、重ね重ねありがとう。」

「ワープの小部屋は安全地帯なんで、そこからならテレポートできるっす。」

「うん、全て解決した。ウルベンさんに宜しく頼む。あ、何かお礼がしたい。」

「あたいは頼まれただけっす。礼ならウルベンさんにっす。」

「分かった。」

「しかし、近衛さん、強いっすね。勇者橘さんを瞬殺って、マジびびったっす。おかげで色々と・・・。あ、いや、本当にまだ1週間なんすか? 末恐ろしいっす。」

「たまたま初撃が決まっただけだよ。」

「そんなもんっすかねぇ~? じゃあ、あたいは席を外しますんで、殺さない程度にお願いするっす。」

「あ、ちょっと待って! 今気付いたのだけど。」


 俺はカレンの側に寄って耳打ちする。

 勇者VS勇者の結果の意味について、俺が理解したからだ。

 どう転んでもカレンに迷惑は掛かるのだが、それでもお互いに取って最善と思える案を提示してみた。


「それは考えてなかったっす。教えてくれて助かったっす。」


 しょうがないといった表情で、カレンはその場で胡坐を組んだ。


 ふむ、カレンはウルベンさんの寄こした援軍だな。

 もし俺が負けた場合は、というか勝てるとは思ってなかったはずだ。その時は彼女が俺達を逃がす手引きを任されていたと見ていい。

 彼女の『おかげで色々と・・・。』の後には『仕事が減った。』とでも続くのだろう。

 何にせよ、未だナガノさんの考えは分からないが、感謝しておくべきか。


 俺は念の為、縛った連中全員にヒールをかける。勿論ミツルにもだ。もし死なれたらカレンに悪い。

 カレンが取ってくれた魔核と素材、そしてミツル達の持ち物をアイテムバッグに放り込んで準備完了。


「始めるか。」


 何人か意識を取り戻したのか、嗚咽が聞こえる。

 ミツルの耳栓と猿轡を外す。目隠しはしたままだ。そこで、こいつも気付いたようだ。


「お前ら! こんなことして只で済むと思っているのか?!」


 お定まりの台詞が開口一番。


「確かに只じゃ済まないかもな。シュール共和国の勇者がダンジョンを攻略中のフラッド帝国の勇者を殺害しようとした。お前のせいで戦争になるかもしれんな。」

「僕が知ったことか!」

「ところでお前、立場分かってるのか? お前、言ったよな? 俺を奴隷にするって。殺すって。」

「それがどうした!」

「まだ分かってないようだから、はっきり言う。今からお前のナニを切り取る。」

「な!」

 

 この言葉には流石に皆引いたようだ。全員顔を背けた。


「心配するな。お前は俺を殺すつもりだったようだが、俺はそうはしない。『寛大だから』な。切り取った後はちゃんとヒールもかけてやる。生えるかどうかは知らないが。」

「お、おま・・。」

「じゃあ、行くぞ。痛いと思うが我慢しろ。何、俺みたいのが一人増えるだけだ。」


 思わず愚痴が混ざってしまった。


「そんなことするくらいなら殺せ!」

「絶対に殺さない! 死にそうになったら、何度でも回復してやる。」


 俺はミツルのナニに手をかける。

 

 おえぇぇ! 演技とは言え流石にこれはきつい。他人のを触ったのは初めてだ。


「ま、待ってくれ! お前等には何でもしてやる! ダンジョンにも一緒に潜ってやる!僕が守ってやる! 一緒にこの世界を治めよう! 何なら僕を婿にしてもいいぞ!」


 この期に及んでも全くブレないミツル君に、俺は頭を抱えた。

 周りを見る。

 ミレアが遂にキレたようだ。

 まあ、おばさんとか言われていたしな。


「貴方、アラタさんの婿って、死ねばいいです! いえ、私が殺します! 跡形もなく燃やし尽くしてやります!」

「いや、回復させるの面倒だから、やめてくれる?」

「あたしが回復しますわ! 構いません! ミレア! 先っぽからやりなさい!」


 ミレアが呪文を詠唱しようとしたので、慌てて止める。

 スコットは・・・呆れ切ったのか、脱力していた。


 クレアさん、先っぽって何?


「ん~、少し話をしよう。切るか燃やすかはそれまで保留だ。」

「わ、分かった! なんでも話してやる!」


「最初に。え~っと、タチバナ・ミツル様だっけ? で、俺は誰?」

「コノエ・アラタ・・・ちゃん?」


 少し仕返しをするつもりだけだったのだが・・・。

 ここまでアホとは・・・。

 閻魔、なんでこんなの転生させた?


 俺は諦めることにした。


「良く分った。話を変えよう。ナガノさんって知っているか?」

「ああ、あのおばさんか。僕が召喚されて、すぐに来た人だね。」


 クレア、ミレア、早まってくれるなよ!


「彼女、お前に何を話した?」

「え~っと、『国王を信用するな。この世界を知りたければダンジョンに潜れ』って。」

「それだけか?」

「う~ん、僕も召喚されたばかりで混乱していたしね。それ以外は覚えてないよ。」

「ところで、ナガノさんの噂とか何をした人とか知っているか?」

「誰も話さなかったし、僕も興味無かったし、知らないよ?」


 う~ん、あまり参考にならんな。ナガノさん、本当に謎だ。


「じゃあ、次だ。俺達の事をどうやって知った?」

「ああ、それは簡単だよ。国王が『勇者様が攫われた。これはすぐに保護して差し上げねば!』って、大騒ぎしていたので、場所を聞いたら多分ここだって。」

「なるほど、それでお前が率先して来たと。」

「うん。僕の役目だし、他の奴には任せられないよ。」


 うん、シュール国王、アホの使い方を良く分っている。

 俺が攫われたのはすぐに広まっただろうし、冒険者ギルドの依頼と、クレアとミレアのサラサ出現の報告。その線で読まれたのだろう。


「ふむ、では次。お前、どうやってレベルを上げていた?」

「最初は城で兵隊達と訓練して、ある程度スキルが増えたら、ダンジョンに潜ってレベルを上げたね。」

「どんな感じで?」

「護衛の兵士をつけて、最初は低い階層でひたすら雑魚を狩っていたよ。慣れたら毎週一回くらいかな? ひたすら10階の階層主を狩っていたね。」

「なるほど。もっと深い階層に潜ろうとは思わなかった?」

「僕はそうしたかったのだけど、護衛の連中が嫌がるんだよ。危ないって。」


 まあ確かにステ平均100くらいの奴なら、10階の階層主くらいが適度だろう。ミツルには物足りなかっただろうが。

 それでレベルも40とかで頭打ちしたのだろう。逆に、10階までだけで40まで上げたミツルは勤勉と言える。


「冒険者に登録はしなかったのか?」

「あ~、そう言えば長野さんが何か言っていたけど、勇者以上の職業なんて無いよね。」


「そうか。で、何処のダンジョンで鍛えていた?」

「シュールの都の近くにダンジョンがあったので、いつもそこだね。」


 良く飽きなかったな。

 まあ、国王が警戒して、他所には行かさなかったと見るべきか。

 しかし、シュール国王は有能だな。

 強くなり過ぎても厄介、弱すぎたら意味が無い。ここらの強さで留めておくのが無難だろう。


「あと、さっき言っていた、今年召喚された人、大葉君って?」

「ああ、大葉オオバ 佳史ケイジ君だね。僕もまだ一回しか会えてないんだよ。今は城で訓練とか忙しいらしい。でも、僕の考えには賛同してくれたから、いい後輩だよ。」


 同意したらいい奴なのか?

 なんか可哀想になってきた。


「わ、分かった。お前の国に他に勇者は居ないのか?」

「う~ん、3年前に一人召喚されたらしいけど、死んだみたいだよ。」


 そこで俺は一旦話を区切った。

 あまり有益な情報は得られなかったが、このアホじゃ仕方あるまい。


「お前ら、悪いが護衛の耳栓だけ取ってくれ。」

「「「はい。」」ですにゃ。」



「ところで、お前、これからどうするつもりだ?」

「何を聞くかと思えば。城に帰るだけだよ。」

「思ったとおりの反応、ありがとう。」

「え? 僕って今、馬鹿にされたのかな?」

「そういう所は分かるんだな。ああ、そうだ。お前、このまま帰ったら、最悪殺されるぞ?」

「何でだよ? 僕に命令できる奴なんていないよ!」


「お前な~、この世界に来て一週間経って無い奴に凹られて、今そいつに命令されてるだろうが! ここまでアホだと救いようが無いな。殺したほうが楽かな?」

「僕はアホじゃない!」

「アホじゃないなら、よく聞け!」


 俺はこいつの現在の境遇を説明してやった。


 共和国は、ミツルを戦争の為の駒としか見ていない事。

 その駒が帝国の新米勇者に敗れたことによって、無価値になった事。

 そして、自国の勇者が負けた事実をいかなる手段を持いてでも隠そうとする事。

 最後に、今のミツル程度では人海戦術には勝てない事。


「俺はお前の事なんかどうでもいいんだが、そこの護衛は口封じに殺される可能性が高い。で、どうする?」

「こ、この事がばれなきゃいいんだ!」

「うん、それもそうだ。それなら手段は? このダンジョンの周りには帝国の偵察と冒険者が居たぞ。今のお前の姿を見たら、中で何があったかは一目瞭然だ。遅かれ早かれ、噂は広まるだろう。」

「じゃあ、全員殺せばいい!」


「だそうだ。皆、護衛の猿轡だけ解いてやれ。油断するなよ。」


 俺はミツルの目隠しを取った。


「ミツル様、いや、このクソガキ! 俺達も殺す気だろう!」

「殺される前に殺さないとな!」

「勇者近衛様、どの道死ぬなら、このガキだけでも殺させて下さい!」


 ミツルの顔は恐怖に歪んだ。


「まあ待て。そうならない方法がある。」


 ミツルが期待のこもった眼差しを俺に向ける。


「中途半端に、少人数にしか知られないから問題なんだ。だったら、公にしてしまえばいい。」

「なるほど、そう言う事ですか! 共和国の勇者さんが負けた事を今から宣伝すればいいのですね。」

「お、ミレア流石だな。悪いが皆には今から一芝居打って貰うつもりだ。残念ながらミツルの状況だけはどう転んでも芳しく無い。だから選べ。」

「え? それはどういう事だよ?」


「俺はこれから、お前らを捕虜として引き連れ、目立つようにダンジョンを出るつもりだ。これで秘密は無くなり、ミツルの仲間はお咎めくらい受けるかも知れないが、口封じに殺されるまでは無いだろう。」

「そ、そんな事されたら、益々僕の立場が悪くなるじゃないか!」

「お前は負けた時点でもう終わってるんだよ! お前が国に帰ったら良くて軟禁、最悪は死だ。共和国の顔に泥を塗ったんだからな。」


「そ、そんな馬鹿な・・・。」

「それが人間兵器として召喚された者同士で戦う事の重さだ。だから選べ。このまま国に大人しく帰って犯した結果の責任を取るか、それとも一人逃げるか、俺の手土産になるか。3択だ。」


「じゃあ、逃げるよ!」

「お前、この世界でたった一人で生きていける覚悟があるのか? 即刻お尋ね者で、お前に協力してくれる奇特な奴はまず居ないぞ。」

「ミツルさんよ~、あんたを捕まえて、『負け犬が逃亡したので捕まえた』って事にしとけば、俺達の地位は安泰だな! うまくすれば昇進だ!」

「だそうだ。それでいいなら止めないが。」


 こいつらにミツルを捕まえられるとは思えないが、そこは黙っておこう。


「じゃ、じゃあ、最後の手土産ってなんだよ?」

「俺がお前を連行して帝国に帰れば、まあ、俺の交渉次第なんだが・・・、良くて客人。悪くても軟禁で済む。・・・と思う。」 


 結局ミツルは俺と同行することを選んだ。まあ、そうさせるように誘導した訳なのだが。



「ところで、お前は何故負けたと思う?」

「そ、そんなの決まってるじゃないか! アラタちゃんの不意打ちだよ!」

「仕掛けたのはそっちだぞ? まあいい。俺が思うに、お前の敗因は相手を舐めすぎだ。」

「そうなのかな? でも、城で僕と練習できる人なんて誰も居なかったよ?」

「それはお前がこの世界を知らないだけだ。多分だが、俺の仲間3人束になれば、今のお前といい勝負すると思うぞ。」


 そう言って俺は振り返る。

 お、照れてる照れてる。


 俺の言った事には結構自信がある。こいつは魔法とかも大した物は覚えさせて貰っていないはずだ。確かに身体能力は凄いだろうが、連携とか全く知らなさそうだ。


 ミツルが反論してきたので、軽く股間を蹴って黙らせた。 

 こいつと話す事はもう無いし、いいだろう。


 スコット、その眼はやめてくれ!


 打ち合わせをしてから、全員を見回す。


「じゃあ、行くか。カレンさん、後は任せたよ。」

「任されたっす。しかし、近衛さんは優しいっすね。あたいならこいつら見捨てるっす。」

「まあ、俺にも目的があるからね。」


 流石に素っ裸だと目のやり場に困るので、ミツルには目隠しと猿轡を再び着けて、コートを被せた。

当然、拘束は解かない。

 こいつのアホは俺の斜め上を行く可能が高いからだ。


 扉をくぐると、前回、10階層を出た時と全く同じ風景だ。

 全員で4つの光る魔法陣に触れる。

 これで登録された筈だ。


 ミツルをスコットに担がせて、4人で中央の魔法陣に乗る。


 ワープの小部屋を出ると、まだ像耳男が頑張っていた。

 前回なら関わりたくない奴だが、今回は違う。


「お、出て来たな。あんたのこと色々聞かれたけど、何やらかしたんだ? あ! 赤髪と青髪の女!」

「俺はフラッド帝国の勇者、近衛だ! こいつらは俺の従者だ! 文句あるなら相手になるが?」

「えっ! 勇者様だったなんて。道理で。」

「じゃあ、通してくれるな?」

「お、俺らも勇者様に歯向かう程馬鹿じゃない。どうぞ。」


 思った通り、こいつらにも勇者の看板は効くようだ。


 胸を張ってダンジョンを出る。

 刑期を終えた囚人のような気分だ。

 すぐさま冒険者達が集まって来る。


「皆、聞け! 俺はフラッド帝国の勇者、近衛だ! そしてこいつらは俺の従者だ! 文句あるなら相手になる! ダンジョン攻略中に、シュール共和国の勇者が無謀にも俺に挑んで来た。が、こうして返り討ちにした!」


 スコットが担いでいる男を指さしながら、俺は大声で叫んだ。

 俺の気迫に押されたのか、勇者の名前にか分からないが、冒険者達は立ち竦んでいる。

 すると、一人の真っ黒なローブを被った男が、何処からともなく進み出てきた。

 こいつ、できるな。以前追いかけてきた奴だろう。


「勇者近衛様、探しておりました。ささ、帰りましょう。そこの侍女二人! 貴様らはなんと言う事を!」

「え~っと、あんた誰?」


 まあ見当はついているのだが。


「これは申し遅れました。わたくし、フラッド帝国から参りました。ヤットン・デルークと申します。以後お見知りおきを。共和国の勇者を捕らえるとは流石でございます。しかし、この者達、どうしてくれようか!」

「デルークさん、さっき言った通り、今は俺の従者なので手出しすることは許さない。共和国の勇者にも同様だ。嫌なら俺にも覚悟があるが。」


 俺は毅然とデルークを睨みつける。

 ミレアとクレアも身構える。


「さ、左様でございますか。しかし、陛下にはきっちりと説明して頂きたい。後、私のことはヤットンと呼び捨て下さい。では、近衛様、帰りましょう。」


 そう言ってヤットンは俺の手を握ろうとする。一緒にテレポートさせるつもりだろう。


「ヤットン、俺はテレポートの石を持っている。俺達は先に帝都に帰るから、後からついて来てくれ。」


 ヤットンの手を躱しながら、俺はテレポートの石を取り出した。

 ここは主導権を取らなければならない。こいつにテレポートさせると、何処に飛ばされるか分かったものじゃない。


「それでしたら、私もご一緒させて下さい。」


 やはりそう簡単には引かないな。

 ここらが落としどころか。


「じゃあ、皆、俺に掴まれ。飛ぶぞ。」


 やり方は聞いているが、自分で使うのは初めてだ。

 俺は念の為、ミツルの手を握った。

 クレアとミレアは掴まると言うより抱き着いてきたが、まあいい。


 テレポートの石に気力を注ぐ。

 すると、頭に名前が浮かぶ。


 俺はクレア、ミレア、スコット、ミツルを選択した。

 ヤットンの名前もあったので、迷ったがそれも選択した。

 ここで外して、下手に警戒させても意味が無い。


「テレポート!」




「ミレア、最近私の戦闘シーンが地味ですわ! 全然活躍できていませんわ!」

「お姉様、そんなことありません。私が範囲魔法で削った後にですが、しっかりとどめを刺しています。」

「そう・・・ですわね。でも、このままではスコットちゃんにも負けてしまいますわ!」

「大丈夫ですお姉様、〇ゼロのレ〇と武器が一緒だとか、誰も思っていません!」

「・・・」

「回復魔法以外は影薄いだなんて、誰も思っていません! その回復魔法もアラタさんに負け・・・」

「ミレア! ちょっと、こっちにいらっしゃい!」

「ああ・・・お姉様、もっとお仕置きして下さい!」



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