勇者VS勇者
勇者VS勇者
もはやお定まりのダークウルフの肉を頬張りながら、ミレアの話を聞く。
「まずいですね。そろそろ結界石が尽きそうです。」
「後、何個ある?」
「アラタさんのを含めて2個です。」
「確かに町では高くて5個しか買えなかったからな~。」
「はい。ですので、危険ですが一旦町へ戻って補給したいのですが。」
「うん、魔核や魔物素材を売れば金になるだろうし、補給はしたい。それに、スコットの武器作成もさせたいな。ならば明日、20階層を頑張ってクリアして、一旦出よう。」
「それがいいかと。」
「問題は、追手だよな。テレポートの石で逃げるか?」
「それが最善だと思いますが、1個しかありませんし、敵の近くでは使えません。」
「敵の近くでは使えない?」
「敵と認識している者の近く、距離にして10mくらいでしょうか? 魔力の干渉を受けてしまいます。当然、ダンジョン内でも使えません。」
「ふむ、万能では無い訳か。」
「最悪、私とお姉様を置いて逃げてください。今のアラタさんなら、追い付ける人はまず居ません。ウルベン様に会えれば何とかしてくださいます。」
「それは絶対にできない選択だな。」
クレアとミレアが期せずして茹で上がった。
「ところで、この世界の冒険者や兵士の平均的な能力ってどのくらいなんだ?」
「そうですわね。兵隊や冒険者なら、レベルにして40、ステータスは高くて120平均くらいが限度ですわね。」
「僕の盗賊仲間だと、平均ステータスが100もあれば最強でしたにゃ。」
「ふむ、なら、今のお前らでも十分に相手になる訳だ。」
「確かに一対一なら、私達でも勝負になると思いますわ。」
「ですが、数で来られたらどうしようもありません。」
「そうなったら、無双でも何でもするよ。これ以上考えても仕方無い。なるようになるさ。」
その晩は火の魔法書を読んだ。思った通り適性があったようで、【ファイアショット】と【アイスランス】を覚えることが出来た。ミレアと被るが、覚えないよりはいいだろう。
翌日、階層を降りると、また新しい敵が出てきた。
キラービー。こいつは攻撃力こそさほど無いのだが、攻撃を喰らうと30秒程麻痺してしまう。
おまけに素早く飛ぶので、攻撃を当てにくい。魔法でもスコットの矢でも一撃で死ぬのだが、複数で出てくることが多いので誠に厄介である。
麻痺を喰らっている所をスケルトンなんかに囲まれたら軽く死ねるだろう。
幸い、俺にはすぐに耐性がついたので、少々時間がかかったが、昨日と同様の戦法で全員に耐性を付ける。
具体的には、一匹だけ残した奴を俺が捕まえて、尻の針を全員にぶっ刺していくという野蛮な方法だ。漫画なんかで出てくる巨大注射器を振り回す看護師のイメージだ。
手法はどうあれ、麻痺を解除する術を持たない俺達には絶対に必要なことなので、皆、怯えながらも耐えてくれた。
そして俺達は当初の目的である20階層に辿り着いた。
マッピングで確かめると、前回同様、奥の方に3匹固まっている。
「前回同様お引きが2体居る。俺は階層主を引き付けるから、お前らはお引きから頼む!」
「「「はい!」」ですにゃ!」
戦闘は思ったよりあっけなかった。
階層主は情報通り、2mはある、宙に浮いたでっかい蜂の化物だった。
お引きの2体はスケルトンLv5
スケルトン2体は、俺が突っ込むと同時に、ミレアがファイアウォールで纏めて体力を削り、そこにクレアの回復魔法とスコットの矢の連射で瞬殺。
俺に飛び掛かってきた階層主には【ハイスタン】を唱えると、なんと、床に落ちた。
飛び立つ前に皆で寄って集って凹る!
「思ったより楽勝だったな。」
「そうですわね。」
魔核やらを回収しようと思ったら、奥の扉が開く。
ああ、階層主を倒したからだなと特に気にしなかったが、いきなり俺の危機感知に5個の点が映る。
「やっと、出て来たよ。クレア・ハミストとミレア・ハミストだな? そして、君がアラタちゃんだね?」
慌てて扉を見ると、真ん中に銀色の鎧に身を包んだ、金髪でハンサムなんだが、何とも派手な男。
左右にいかにも兵士という装備の男を二人ずつ従えている。
チッ、追手か!
俺は理解した。こいつらは多分20階のワープの小部屋から来て、扉の前で待機していたに違いない。
俺達が階層主を倒したので自動的に開いた扉から入って来たと。
今まで危機感知に反応しなかったのは、俺達が目的の人間かどうかが、顔を見るまで分からなかったからだろう。
しかし、今反応しているという事は、殺すか拘束するかどちらかのつもりの筈だ。
「え~っと、あんた誰?」
「あ~、言い遅れたね。僕の名前は、橘 充、気軽にミツル様と呼んでいいよ。」
そう言いながら、ミツルは俺の5mくらいのところまで歩み寄ってきた。
何、こいつ? 名前からして多分勇者だろうが、何故に偉そう?
3人が俺の後ろで武器を構えた。
「あ~、待ってくれ。君達に危害を加えるつもりは無い。僕はアラタちゃんを保護しに来ただけだから。でも、君みたいな子にアラタなんて名前は似合わないな。」
「ん~、ミツル様とやら、さっぱり分からないんですが。魔核とか回収したいんで、後にして貰えますかね?」
「そんなことは必要無いさ。アラタちゃんは今から僕と帰るんだから。」
「だから、さっぱり分からんって言ってるだろうが! それに、アラタちゃんなんて気安く呼ばれる覚えもない!」
付き従っていた兵士が武器を構える。今にも飛び掛かって来そうだ。
ミツルはそれを軽く手で制する。
「可愛い顔して乱暴な喋り方だね~。僕と同じ転生者なんだから、仲良くしようよ。」
「ふ~ん。ってことはあんたも勇者か?」
「あんたじゃなく、ミツル様だよ! み・つ・る・さ・ま! 今度無礼な呼び方したら保護せず殺すよ?」
「あ~、分かった。『ミツル君』、これが最大限の譲歩だ。」
「我儘だな~。でも僕は寛大だし、君みたいな可愛い子を殺したくもない。我慢するよ。ああ、言い忘れていたね。僕はシュール共和国の勇者だ。1年前、僕が15歳の時に召喚されたんだ。」
シュール共和国と言えば、このダンジョンのあるサラサ自治領を、名目上だけだが統治している国家だ。どっから情報を仕入れたか知らないが、いち早くここに来られた理由は納得できた。
「で、その勇者ミツル君が俺に何の用だ?」
「だから、保護だよ、保護。君は騙されているんだよ。」
またもや後ろで武器を構え直す音がしたので、俺は振り返って諭す。
「うん、お前ら、ここは話だけでも聞こう。」
「流石は転生者、冷静だね。もっとも君達が束になっても僕には敵わないけどね。」
確かに、俺は召喚されてからまだ1週間も経っていない。こいつが鍛えているなら俺では太刀打ちできないだろう。
「で、俺は誰にどう騙されているんだ?」
「うん、君の従者の赤髪と青髪のおばさんに、こう言われたんだろう。『ダンジョンに潜れ』って。」
なんか、後ろに凄まじい殺気を感じる。俺みたいな素人にも十分伝わる。
「彼女達はおばさんではないが、確かにそう言われたな。」
「そこなんだよ。この世界は今やダンジョンと共存している。僕らのような転生者がわざわざ潜る必要無いんだよ。」
「そこは、ある程度は同感だな。」
「じゃあ、何故、今潜っているんだい?」
「自分の身を守る為だ。」
「そんなことしなくたって、僕が守ってあげるよ。君、可愛いし。僕の嫁にしてあげてもいいよ。」
「いや、それは断る!」
22歳の青年が16歳の男子にプロポーズされちゃいました。
そんな事より、こいつ、俺の中身を知らないな。
まあ、他国だしそこまでの情報は無いってことか。
面倒だし、ここは黙っていよう。
「大体、俺の自由だろう? 何故ミツル君に守られなくちゃならん?」
「転生者は転生者同士で暮らすのが自然じゃないか。今年召喚された大葉君だって納得していたよ。僕はこの世界の転生者全員を保護して、転生者の為の国を作りたいんだよ。」
「ふむ、それはミツル君の保護者も承知しているのか?」
「保護者? ああ、僕を召喚した国王のことかい? 現状では僕が保護しているようなものだね。僕は強くなり過ぎた。ステータスだって、こいつらの3倍くらいあるよ。」
そう言って、ミツルはお付きの兵士を見渡す。
なるほど、おおよそ分った気がする。
「で、その国王は何か言っていたか?」
「ああ、もし戦争になったら僕の力でこの国を守って欲しいってさ。勇者を保護したいって言ったら、それはもう大喜びだったよ。」
「では、何故ミツル君がこの国を守らないといけないんだ?」
「当たり前じゃないか。僕はこの国、いや、この世界で神のような存在だよ? 自分の国くらい守れなくてどうするのさ? 僕は何れこの世界の国全てを統べないといけないんだよ。」
うん、分かった。こいつ、あれだ。完全な厨二だ。
国王とやらにどれだけおだてられたか知らないが、天高く舞い上がっている。
「じゃあ、訊くけどさ、それなら、先ずはミツル君が国王になればいいんじゃないかな?」
俺はわざと口調を変えた。
「え~っ、政治とかそんな面倒な事したくないよ。そういうのは、あいつらに全部やらせればいいんだよ。」
こいつ最低だ。
「いや、でも、ミツル君はこの世界の神様なんでしょ? やっぱり責任とかあるんじゃないかな?」
「何でだよ。僕がしたいようにするだけだよ。と言うか、君、五月蠅いね。本当に殺すよ? あ、でも僕の奴隷になるなら勘弁してあげるよ。」
やはりそう来る訳ですか。
「これは失礼しました。ところで、ミツル様はどれくらいお強いのでしょうか? 無知な私めにお教えください。」
「今更媚びても許さないよ。今日からお前は僕の奴隷だ。毎晩可愛がってやるよ。ちなみに僕のレベルは40! ステータスは平均300だ! 分かったら、さっさとついて来い!」
やはりな。昨晩聞いておいて良かった。
兵士の3倍って聞いた時点でおおよそ見当はついていたが、予想より低いな。
ちなみに、今の俺のステータスは、さっき階層主を倒した事もあり、最低でも360はある。高いのは400超えだ。
途中から戦わないといけないとは思っていたが、これなら何とかなりそうだ。
「お前、レベル40、ステ300って低すぎないか?」
「へ?」
「お前、1年間何やっていた? それに、たかだかパンピーの3倍くらいの能力で、国家に勝てると思っているのか?」
「おまえ~っ! 何をこの僕に向かって無礼な口を! 召喚されて1週間も経ってないガキが!」
「ん~、人生経験だけならお前よりあると思うぞ?」
「訳の分からない事を! お前ら、構わない、殺せ! 命令だ!」
「仕方無い。」
その言葉と共に俺の後ろの仲間も、ミツルのお付きの兵士も、一斉に飛び出した!
「ハイスタン!」
「ファイアウォール!」
「3連射!」
「アクアダーツ!」
向かってきた兵士4人が一瞬で倒れた。
ミツルには効かないかも知れないと思っていた【ハイスタン】だが、見事に決まってしまい、奴は硬直している。
「縮地!」
俺は瞬時にミツルとの間合いを詰める!
格闘術レベルが4になって新に会得した技だ。
10mくらいの距離なら一歩踏み出す感覚で無にできる。
相手の手の内が分からない以上は先手必勝!
俺は躊躇わず、膝蹴りを鳩尾に入れ、そのまま顔面に左右の連打を叩き込む!
鎧が割れた感触があり、端正な顔立ちが無残に変形する!
更に着地と同時に足払いを掛けて転がした!
ここで硬直が切れたのか、ミツルは剣を握って立ち上がろうとした。
怒り過ぎたせいか、目が泳いでいる。
続けて頭を蹴飛ばす!
そこまでしても、まだ目を見開いて俺を睨む。
流石は勇者! 渋太い!
口を動かそうとしたので、俺は迷わず喉に膝を落とした!
呪文なんか唱えさせてたまるか!
気管を流れるかすれた音と共に、ミツルは意識を失ったようだ。
全員が駆け寄って来る。
三人とも、こんな奴でも勇者に手を出す事は咎めるようで、黙って見下ろしている。
「安心してくれ。殺してはいない、本気なら多分首の骨を折れた。」
「し、しかし勇者様を・・・。」
クレアがおろおろしている。
「ところで、兵士は殺したのか?」
「いえ、重症の人も居ますが、誰も死んではいないかと。」
「じゃあ、取り敢えず、全員縛り上げろ! 猿轡とアイテムボックスのチェックを忘れるな! 縛り終えたら回復してやれ。」
「「「は、はい!」」ですにゃ!」
「え~っと、お取込み中悪いんすけど。」
ミツルたちが出てきた扉からもう一人湧いてきた。
全員が振りむいた。
氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男
職業:冒険者 勇者 貴族 レベル:20
体力:365/365
気力:395/395 +20
攻撃力:380 +15
素早さ:400 素早さ+1
命中:400
防御:365 +28
知力:440
魔力:400 +1
魔法防御:380
スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知4 格闘術4 剣術2 人物鑑定2 特殊性癖1 回復魔法3 火魔法1 水魔法0 土魔法0 光魔法0 家事2 社交術2 マッピング アイテムボックス800
毒無効 麻痺耐性中 暗闇無効
氏名:クレア 年齢:20歳 性別:女
職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:39
体力:147/147
気力:137/137 +22
攻撃力:161
素早さ:156 +1
命中:147
防御:133 +32
知力:103
魔力:132 +1
魔法防御:136
スキル:言語理解3 棍棒4 格闘術1 水魔法2 回復魔法3 家事4 社交術2 特殊性癖2 マッピング アイテムボックス515
毒耐性中 麻痺耐性小 暗闇耐性中
氏名:ミレア 年齢:19歳 性別:女
職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:37
体力:120/120
気力:145/145 +20
攻撃力:118
素早さ:136 +1
命中:120
防御:119 +16
知力:140
魔力:141 +5
魔法防御:132
スキル:言語理解4 剣術1 ガード1 火魔法3 風魔法2 家事3 社交術2 特殊性癖2 マッピング アイテムボックス522
毒耐性中 麻痺耐性小 暗闇耐性中
氏名:スコット・オルガン 年齢:18歳 性別:男
職業:冒険者 鍛冶師 レベル:30
体力:108/108
気力:95/95 +20
攻撃力:106
素早さ:100 +1
命中:120 +1
防御:92 +11
知力:96
魔力:106
魔法防御:103
スキル:言語理解3 弓術4 武器作成2 防具作成1 道具鑑定2 鉱石鑑定2 魔核合成2 風魔法2 マッピング
毒耐性大 麻痺耐性中 暗闇耐性中
ここまでのステータスです。
お気付きの方も多いと思いますが、この世界の人間の、経年によるレベルアップと、経験によるレベルアップは別物です。ステータスには合算で表示されます。
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