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22歳♂ 何故か女の体に転生しました。  作者: BrokenWing
第一章
16/99

ワープの部屋


       ワープの部屋



「ん? これは何だ?」


 扉をくぐると、下に通じると思われる通路の横に、今までとは違った一際明るい小部屋があった。危機感知には特に反応が無い。


「これはワープの部屋ですわ! 長野様に助けられた時、ここから直接ダンジョンの入り口に移動しましたわ!」

「はい。そこに魔法陣のような模様があって、認められた者が触れると、登録されると聞きました。」

「ふむ、とにかく入ってみよう。」


 入ると部屋の中央の地面に大きな魔法陣のような模様があり、壁にも同様の小さな模様が沢山あって、そのうち4つが光っている。


「その光っている所に触れるらしいです。あの時は、私達が光に触れても反応しませんでした。」

「なんかドキドキするな。大丈夫だろうか?」

「それなら、先ずは私から試しますわ!」


 クレアが光っている模様の一つに触れると、その光が消えて、部屋の中央の魔法陣が一瞬光った。


「なるほど、これが登録されたってことなのだろう。皆、触れてみよう。」


 全員がそれぞれ触れると、光が消えて、その都度部屋の中央が明滅する。


「後はその中央の魔法陣のようなのに乗ると、入り口に飛ばされる訳だな。」

「はい、私達が長野様と乗ったら、ダンジョンの入り口でした。」


「これは推測だが、これはこの階層と入り口を結ぶショートカットだろう。クレアとミレアは、その時はダンジョンに認められていなかったと言う事だな。だが、今回は全員反応した。つまり全員認められたと考えていいはずだ。」

「きっとそうに違いありませんわ!」

「そう考えると辻褄が合います。乗ってみますか?」

「ちょっと待ってくれ。少し考える。」


 恐らく入り口にも同様の仕掛けがあって、すぐにまたここに戻れるはずだ。

 しかし、今は追われる身。俺がカサード(皇帝)ならダンジョンの入り口に見張りを置く。

 俺達が入った時は、他国領だし、まだ配置が間に合っていなかったと考えるべきだ。

 また、クレアとミレアの件もある。下手すれば、出た瞬間に冒険者に囲まれかねない。

 

「リスクは避けたいが、これは絶対に確かめておきたい事でもある。出てきたところを襲われる可能性が高いだけに迷う。」

「えっ、勇者様を襲おうなんて連中は居ないですにゃ?」

「あ~、スコットにはまだ言ってなかったな。しかし・・・そうか、やるなら今か。」


 スコットはきょとんとしている。


「先ず、スコット、俺達は訳あって追われている。追っているのは勇者を利用したい奴らと、世界中の冒険者だ。多分俺達には結構な額の懸賞金が懸かっているはずだ。」

「そ、そうなんですかにゃ?!」

「ああ。だから、ダンジョンを出た瞬間に御用って可能性も高い。こんなお尋ね者と一緒に居ると、いつかとばっちりを喰らうぞ?」

「勇者様と一緒にダンジョンに潜れるのなら構わないですにゃ!」

「嬉しいが、今ならお前一人で戻ればまだ無関係を装える。また、俺達を売れば金になるぞ?」

「ぼ、僕は言ったはずです! 勇者様に忠誠を誓うと! 僕は確かにアラタさんと会って日が浅いですし、何より元盗賊です。信用できないのは分かりますが、信じて下さい!」


 余程興奮したのか、スコットの言葉遣いがまともになった。

 クレアもミレアもそんなスコットに気圧されしたのか、俺の後ろに後退ってきた。


「うん、スコット、ありがとう。疑って悪かった。」


 スコットはまだ興奮しているのか、肩で息をしている。顔が真っ赤だ。


「じゃあ、スコット! 俺達は今からこの魔法陣に乗って、地上に戻れるか、また、ここに帰って来られるかを確かめに行く! クレアとミレアはここで待機してくれ!」

「そんな! 私達はどこまでもアラタさんに付いていきますわ!」

「危険です! 私達はどうなっても構いませんから一緒に居させて下さい!」


「そう言うと思ったよ。しかし、お前達を連れて行くことはできない。これは命令だ。」


 俺は躊躇いなく切り札、『奴隷に対する絶対命令』を使った。


 彼女達を連れて行くのは余りに危険だ。町で見かけた者も多いだろう。これだけの美人だし、覚えられていると見た方がいい。

 クエストが出た以上、サラサの冒険者がここいらで張っている可能性が高い。


 一方の俺はどうだろう? 

 町では基本、ロッタの帽子の認識阻害の下で行動していたので、余り面は割れていないはずだ。

 帝国の追手なら俺が分かるだろうが、連中なら俺をすぐに殺そうとはしないはずだ。

 スコットに至っては誰からもノーマークのはず。


 また、これはあまり考えたくないことだが、もしスコットが俺達を裏切るつもりなら、入り口に戻った時、特に冒険者達に見つかった場合に、何らかの行動を起こすのではなかろうか? 

 例えそうなったとしても、俺一人だけなら逃げおおせる自信はある。


「後、クレア、ミレア、もし俺が2日以内に戻って来ないようなら、お前達の判断で動いてくれ。無責任なことは承知しているが、許して欲しい。」


 2日と言ったのは、この装置がここに戻してくれなかった時の為だ。2日もあれば今の俺ならば一人でもここに戻って来れる。


「分かりましたわ! 絶対に帰ってきてくださいね!」

「そんな放置プレイは好みじゃないですが、信じています。お気をつけて。」


 俺はクレアとミレアからロッタの帽子を貸してもらい、一つをスコットに渡す。

 帽子を被りながら、


「スコット、もし出た先に人が居た場合、俺はただの冒険者で、『モーテルさん』と呼んでくれ。」

「分かりましたにゃ!」


 そうして、俺とスコットは魔法陣に飛び乗った。



 出た先の足元には先程と同様の魔法陣が描いてある。

 急いで周りを見回したが誰も居ない。半径5m程の円形の小部屋だ。

 前方に靄のかかったカーテンのようなものがある。


「これは・・・くぐるしかないよな。」


 横を見ると、スコットも頷いている。


ゆっくりと靄のカーテンをくぐる。

視界が開けた瞬間、やたらでかい耳、象のような耳をした亜人と鉢合わせした。


「うわ! びっくりした! お前達何処から湧いて来た?」

「あら、驚かせてごめんなさい。今まで探索をしていて、少し外の空気を吸おうかと。」


 俺は咄嗟に用意してあった台詞を吐く。

 少し声が裏返ったもしれない。

 どうやらこいつには認識阻害が効いていないようだ。

 そいつはさして不審がる様子も無く、俺達を通した。

 右手から陽の光が差し込む。

 うん、思った通りダンジョンの入り口に出られたようだ。

 少し危険だが、外の様子も確かめておかないといけないだろう。もし追手なら人数も把握するに越した事はない。


 ダンジョンから出て辺りを見回すと、5人くらいの亜人の集団が居た。

 危機感知には何も感じない。

 

 うん、気付かれてないようだ。


 俺は回れ右をしてダンジョンに戻る。

 その時! 遠く離れたところに1つ、危機感知に反応が出現した!


 チッ、やはり斥候が居たようだ。かなりのスピードで近づいて来る。


 足早に引き返す。スコットも無言でついて来る。

 さっきの像耳男とまた目が合った。


「もう戻るのかい? 熱心だねぇ~。俺らのキャンプで休憩していかないか?」


 全く、どいつもこいつも!


「いえ、仲間が待っていますので。」


 俺は必死に言い訳する。

 横を見るとスコットが像耳男を睨んでいる。

 ここで事を起こせばかなりまずい。俺は後ろ手でスコットを制する。


 あ~、面倒臭い!


「そりゃ残念だ。ところで、赤髪と青髪の女に会わなかったか?」

「いえ、誰にも会いませんでしたよ。」

「そうか、もし見かけたら教えてくれ。教えてくれたら金を払うぞ。俺達はここに居るから宜しくな。」

「分かりましたわ。」


 そう言って俺は一気に靄のカーテンをくぐる。背後から声が聞こえる。


「い、今の奴、いや、女の子、知り合いか?」


 もう一刻の猶予も無い!

 俺は魔法陣に飛び乗った!

 スコットを心配したが、彼もちゃんと俺と一緒に魔法陣に飛び乗っていた。


 いきなり頭に選択肢が出る。


 『そのまま ・ 10階』


 俺はスコットの手を握り、迷わず『10階』を選択した。



 目の前にミレアが映る。その横でクレアが満面の笑みに変化した。


「ふぅ~、心配しました! それで、どうでしたか?」

「説明は後だ! 追手が来るかも知れない! すぐに下の階に行こう!」


 部屋を出て後ろを振り返るが、誰も追って来る様子は無い。

 ワープの小部屋が発見されなかったか、追手はここに飛べなかったかのどちらかだろう。


 さっきの危機感知に引っかかった奴は、間違いなく俺の事を知っていた。

 恐らくは帝国の偵察兵。あの距離で認識阻害が効かないのなら、高レベルかもしれない。

 もし実力のある奴なら、正攻法でも2日あればここに辿り着けるだろう。

 冒険者を雇う可能性も高い。


 とにかく急ぐに越した事はない。


 俺は全力で通路を駆け降りる。

 後ろを見ると3人共、少し離れたが、ちゃんとついて来る。

 通路を降り切った瞬間、危機感知に反応があった。次の小部屋に3体、中型だ。


「小部屋に3匹! 突っ込むぞ!」

「「「はい!」」ですにゃ!」


 小部屋に入ると、牛程の大きさの蛙の化物が3体居た。

 真ん中の奴と目が合った瞬間、俺は呪文を唱える。


「ハイスタン!」

「ファイアウォール!」

「風の加護!」


 蛙が3匹火達磨になり、そこに矢が3本、それぞれに突き刺さる!

 オーガならこれで終わりなのだが、まだ倒れない。

 その時、不思議な感覚が俺を纏った。

 周りを見ると、左右の2匹が大口を開けている。

 

 しかし、特に何も無かったので、俺はそのまま真ん中の無防備な奴に飛び蹴りを入れる。

 骨の折れた感触が伝わり、そいつは突っ伏した。


 次はどいつだ? と思い横を見ると、クレアが蹲っている。


 ??? 

 普段ならここでクレアが他の奴に鉄球をめり込ませているところだ。


 攻撃を喰らったのかと周りを見ると、俺の左右前方に一匹ずつ、さっきの位置に魔物が居る。

 クレアとの距離はそれ程近くは無い。


 事態が呑み込めていないが、とにかく敵を殲滅するのが最善だろう。


 俺はクレアに近い方の蛙に狙いを定める。

 目と目の間に正拳を叩き込むと、あっさり倒れた。

 

 もう一匹は?!


 振り返ると、まだ一匹生きていた。普段ならここまで長引かない。ミレアやスコットの追撃で片付いているはずだ。


 そいつを睨みつけると、いきなり大口を開けた。

 俺は理解した。こいつらは何らかの魔法、スキルを発動したのだ。

 前回の不思議な感覚は、俺も何らかの攻撃を喰らっていたのだろうが、効かなかったということか?

 しかし、今回は何も感じない。


「ブラインカット!」


 声に振り返るとクレアが立ち上がった。

 ミレアとスコットは頭を抱えて蹲っている。


「気を付けて下さい! こいつらのスキルは盲目化ですわ!」

「分かった! あいつらの回復を頼む!」


 俺が最後の一匹を仕留めようとダッシュすると、口から舌を伸ばしてきた。

 躱せたのだが、なんかムカついていたので、その舌を掴み取る。


 蛙の化物はその舌を引き戻そうとしたがそうはさせない!

 逆に踏ん張って力任せに引っ張る!


 ブッ! という音ともに舌が根本から千切れた。


 蛙の化物はそれで力尽きたようで、横に倒れ込んだ。


「「ブラインカット!」」


 俺とクレアで、ミレアとスコットを回復させる。


「厄介な奴だったな。俺には効かなかったようだが。あの一瞬で3人喰らったということは、全体に対して効果のあるスキルのようだ。」

「いきなり真っ暗になったですにゃ!」

「そのようですね。でも、アラタさんとお姉様が回復できたのが幸いです。」

「多分、目を見えなくしてから、あの舌で絡めとって食べるつもりだったのですわ!」

「そうだな。取り敢えず、この騒動でも追手は来なかった。俺の危機感知でも後方の気配は無い。援軍を呼んでからか、地道に1階から来ているのか分からんが、今のところは大丈夫のようだ。」

「そうですにゃ。」


 クレアとミレアが不思議そうな顔をしている。


「ああ、言い忘れた。魔法陣に乗ったら、ダンジョンの入り口、来た時には見えなかった小部屋に着いた。」

「え? 私もここに入る時に探したのですが、うろ覚えでしたし、見付けられませんでした。」


 ミレアが申し訳なさそうに俯く。


「いや、これは推測だが、あの小部屋は、認められてワープできた奴しか入れないんじゃないかな?」

「そう言えば、僕もあの入り口の部屋は知らなかったですにゃ。ちょっと注意したら気付きそうなはずですにゃ!」

「と言う事は、追手はこのダンジョンに潜った事が無いと見ていいだろう。もっとも、冒険者を雇われたらどうしようもないが。あ、これもまだだったか。」


「はい、詳しくお願いしますわ。」

「うん、ワープの小部屋を出たら、冒険者のパーティーと鉢合わせした。1パーティーだけだったが、お前ら目当ての冒険者のようだ。そこは誤魔化せたのだが、明らかに俺を知っている奴が1人居た。危機感知に反応したから、拘束する気満々だったのだろう。」

「それはまずいですわ!」

「まあ、それで急いで戻ったという事だ。後、スコットには謝らなければならない。」


「え? ぼ、僕にですかにゃ?」

「お前を試すような事をした。あの場でお前が裏切るかどうか、怪しんでいたのは事実だ。すまん!」

「そ、そんな事、あり得ないです!」

「とにかく、これで俺の気は済んだ。これからもよろしく頼む。」


 俺が頭を下げると、スコットも慌てて頭を下げた。


「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


 スコットの顔がまた赤くなった。

 なるほど、興奮すると語尾がまともになる・・・と。

 

 それを見ていたクレアとミレアに殺気を感じたのは気のせいだろう。


 皆、落ち着いたので、魔核を回収することにした。蛙の化物の肉も美味いと聞いたので、一体だけ丸ごとアイテムボックスに突っ込む。


ジャイアントトードの魔核×3

ジャイアントトードの死体×1


 ふむ、解体しないと『死体』と表示される訳ね。


「ところで、蛙対策なんだが、良い手は無いかな? 俺の世界のパターンだと、この手の魔物には氷系統の魔法が良く効くんだが。」

「あ! それなら多分何とかなると思います! 火の魔法書に確か載っていました!」


 ミレアが喜々として答えた。


「え? 火なのに、氷って?」

「はい、私も間違いじゃないのかと思って無視していましたので・・・。」

「じゃあ、それを最優先で覚えるべきかもな。先ずは安全な場所を探そう。」


「はいですにゃ! しかしここから先は僕も知らないですにゃ。」

「うん、下への通路も探さないといけないし、マッピングしながら進もう。何か目印・・・。」

「それなら壁の光る石を集めましょう。それを通ったところに落として行けばいいです。良く使う方法です。」

「お~、ミレアありがとう。早速集めよう。」


 ミレアがスレンダーな胸を張る。


「ぼ、僕も知ってたですにゃ!」



 光る石を集め終わったので、1つを部屋の中央に置いて見た。


「うん、これなら良く分る。光っているのは何故か壁だけだしな。」

「では行きましょう!」


 俺は危機感知を頼りになるべく敵の数の少ない道を選んで進む。


 蛙対策としては、単純に考えた。つまり、一匹ずつ確実に、スキルを使われる前に仕留める。

 俺が【ハイスタン】を唱えたら、そいつをクレアが叩く。

 スコットは一匹に集中して三連射。

 残った奴には俺が突っ込み、ミレアが援護に【ウィンドカッター】

 盲目化は俺には効かないようなので、こんなところだろう。


 どうやらこの戦法で良かったらしく、問題無く3グループ程倒したところで、運良く下に降りる通路に辿り着いた。この階層はどうやらジャイアントトードだけのようだった。


「降りられるなら降りてしまおう、先を急ぎたい。」

「「「はい。」」ですにゃ。」


 通路を降りながら自分のステータスを確認すると、新にスキルが2個追加されていた。

 【暗闇耐性中】、【マッピング】

 

 簡単に覚えたな。


 3人にも聞いてみると、クレアが【暗闇耐性小】というのを獲得し、ミレアが【マッピング】を覚えたようだ。

 スコットが少し悔しそうだ。


 通った道が頭の中で自動的に地図になる。これは便利だ。

 クレアとスコットにも取らそうと思い、二人には石を撒き続けさせる。


 そうして進んでいると、お目当ての行き止まりの小部屋が見つかった。


「よし、ここで休憩だ。準備が出来たら俺とミレアは魔法書。クレアは食事の用意、スコットは魔核の実験を頼む。」

「「「はい。」」ですにゃ。」


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