新種
やっと戦闘シーンです。
新種
冒険者に関する一通りの説明を受けて、次は魔法書だなと思った瞬間、俺の危機感知に何かが引っかかった。
俺は立ちあがって、感知した方向に目を向ける。
二人もすぐさま立ち上がり、俺の見る方向を睨む。
クレアは腰からチェーンフレイルを、ミレアはアイテムボックスから大楯を取り出す。
林の奥から3mはあるだろうか? 赤褐色の人型の一つ目の巨体が姿を現す。
右手には巨大な棍棒を握っている。
ん? 木の陰から一つ目の頭が増えた。
双頭の一つ目巨人?
「知っている魔物か?!」
「見たことないですわ!」
「サイクロプスの亜種でしょうが、こんなの初めてです!」
俺は魔法を覚えて、役割分担とか準備が整ってからと思っていたが、パーティーを組めただけでも幸いと思うことにした。
逃げるか?
俺のステータスは高いとはいえ素人だ。足手纏いが居ては彼女達に負担を強いる。
得体の知れない魔物相手じゃ危険すぎる。
ここは逃げるべきだ!
そう思った瞬間、再び俺の危機感知スキルが街道に多数の気配を感じた。
チッ!
冒険者の一団だろうか? もしクエストのことを知っていれば、目の色を変えて追って来るだろう。
魔物の一団だとしたら、もっとまずい。挟み撃ちにされる。
しかし、この距離なら、林の中の俺達はまだ発見されていないだろう。
街道に出ずに、この林を逃げ切れるだろうか?
俺は一瞬悩んでから指示を出した。
「街道は塞がれている! 近くにはこいつ一体だけだ。やるぞ!」
「「はい!」」
いざとなれば、テレポートの石だ!
「二人とも普段通りに戦ってくれ。俺は遊撃に徹する!」
「「はい!」」
言うが否や俺は一度左に飛び、彼女達の射線を確保してから突進する。
横を見ると、クレアも俺とは反対側から魔物に突進していた。
後ろから声とともに、バレーボールくらいの火球が俺の横をかすめる。
「ファイアショット!」
火球が巨人の腹に直撃する!
あの距離からでも当たるということは、敵の素早さはそれ程でもないのだろう。
しかし、あまり効いているようには見えない。
巨人は一瞬ミレアを睨んだが、そのまま俺に向かって歩を進める。
しめた! ロッタの帽子の認識阻害が効いているのかもしれない!
とにかく、今のところあいつらは狙われていないようだ。
巨人の棍棒が俺目掛けて振り下ろされる!
ヤバイ! と思った瞬間、自分でも信じられない速さで身を屈めながら、奴の足元に入り込んだ。
俺を踏みつけようと片足が上がる!
「させませんわ!」
横から声がすると同時に巨人の脇腹に鉄球がめり込む!
巨人の動きが一瞬止まる。
クレアナイス! と思いながら、渾身の一撃を目の前の巨人の股間に叩き込んだ!
♂の感触は無かったが、効いたはずだ!
普通の男なら間違いなく気絶するだろう。
巨人が片膝をつく。
その隙を逃さず、クレアが巨人の腹に鉄球をめり込ませる!
俺はとどめとばかりに、そのめり込んだ痕に蹴りを入れる!
が、俺は吹き飛んでいた。
「ぐぇ・・へ・・」
脇腹に激痛が走る! 息が出来ない!
宙を舞いながら振り返ると巨人の棍棒が背後にあった。
油断した!
蹴りを放つ瞬間に殴られたのだろう。
無意識に体を丸め込み、そのまま地面を転がる。
まだ大丈夫だ! 意識もある!
俺が体を起こそうとすると、クレアが凄い形相で駆け寄って来た。
「ファイアウォール!」
目の前に炎の壁が形成され、巨人と俺達を分断する。
「ヒール!」
クレアの回復呪文だな。痛みが少しだが和らぎ、息も楽にできるようになった。
巨人は体勢を立て直し、炎の壁越しに俺を睨んでいる。
「グハッ! もう大丈夫だ! クレア! ミレア! 奴の目を狙ってみてくれ!」
「「はい!」」
言っては見たものの、3m近い位置にある目を狙うのは俺にはきつい。
魔法なら何とかなるだろうが、俺は覚えていない。
ここは彼女達に任せるしかないだろう。
「ウィンドカッター!」
「アクアダーツ!」
立て続けに魔法が飛び、巨人が両手で両の目を押さえる。
「効いてるようだ! ミレア! 盲目効果の奴も頼む!」
「はい!」
俺も立ちあがって炎越しに巨人を睨む。
味方には効かないんだよな?
俺は頭を抱えなら炎の壁を突き破る。
うん、熱くない。
俺は腰に差していたダガーを抜いた。
目を押さえてうろうろしている巨人の脛を斬りつけた。
再び巨人が片膝をつく。
「イビルファイア!」
巨人の頭に小さな火球が命中すると、両手を闇雲に振り回し、両の瞳を左右に移動させ始めた。
「よし、見えていない! クレア、叩き込め!」
クレアも炎を突き破ってジャンプし、がら空きの目玉に鉄球を叩きつける!
俺も後ろから回り込み、もう片方の脛も斬る。
ドッ! と音を立てて巨人は両手を地面について四つん這いになる。
「ファイアショット!」
鉄球で窪んだ頭が燃え上がる!
「これで終わりですわ!」
クレアが燃えている頭を目掛けて、チェーンフレイルを振りかぶる!
鈍い音がして、鉄球が頭部にめり込んだ。
しかしまだ終わらない。
奴はまだ無事な方の目を見開き、片手で着地寸前のクレアの腰を鷲掴む!
チッ! 認識阻害は効いていなかった!
「ヴッ・・・!」
「クレア!」
俺は巨人の生きている方の目にダガーを突き立てた!
奴は慌ててクレアを投げ飛ばし、両手で目を庇おうとする。
「しぶとい!」
俺は巨人の両手首を掴み、目を露出させる。
そのまま突き刺さったダガー目掛けて、渾身の膝蹴りを叩き込む!
ダガーが奥まで食い込んだ感触が伝わる。
再び大きな音を立てて巨人が倒れた。
「クレア!」
「お姉様!」
俺がぐったりしているクレアに駆け寄ろうとすると、ミレアが先に飛び掛かる。
ミレアは右手でクレアの頭を支え、左手を虚空に突っ込み、回復薬を取り出した。
「飲んで!」
ミレアが強引にクレアの口に回復薬を押し込み、口を閉じさせる。
「ゲッ・・ゴホッ!」
ようやくクレアが目を開けた。
俺は巨人を一瞥してから、再び危機感知しようと集中する。
目の前で突っ伏している魔物からは何も感じられない。
また、街道の集団は移動していないようだ。
冒険者の集団なら流石にこの騒ぎに気付かないはずはない。何らかの反応があるだろう。
という事は魔物の集団であった可能性が濃厚だろう。
念の為、もう一度集中してみると、今度は、はっきりした数が感じられた。
10・・、12匹か。こっちには気づいていないのか、無視しているのか・・・。
どっちにしろ、暫くは街道に戻らないほうが得策だろう。
「暫くは大丈夫そうだ。クレア、動けるか?」
クレアは返事の代わりに黙って立ち上がろうとする。慌ててミレアが手を貸した。
「いや、そのままでいい! じっとしてろ!」
クレアは自分で回復できるはずだが、これ以上負担はかけたくない。
回復薬も後々を考えると、景気良くは使えない。
現状、クレアが死ぬことは回避できたようだし。
そう言えば、確かさっき見たステータスでは回復魔法1があった。俺にも使えるはずだ!
夢の中でリムがやっていたことを思い出す。
俺は意識を内側に集中し、「ヒール!」と唱えてみた。
すると、自分とクレアの名前が目の前に浮かんだ。
俺は迷わず自分を選択する。クレアで試す気なんて当然無い。
すると、柔らかい空気が脇腹を撫でる感触。
さっきクレアにして貰った感覚だ。
「ヒール!」
今度はクレアを選択した。
「これは・・・。」
クレアが俺を見る。その顔は朱が射したように見えた。
「大丈夫か?!」
「凄いですわ! 一度で完全に回復しましたわ! ありがとうございます!」
「いや、ぶっつけだったが・・・良かった・・・。チート能力貰って舐めてたようだ。危うくクレアを失うところだった。」
「「そんなことありません!」わ!」
「まあ、何とか生き残れた。ところで、ミレア、あれ、どうする?」
俺は顎で魔物の死体を指す。
「う~ん、肉は食えそう・・いや、食べたくないですね。頭は何かに使えるかもしれません。取り敢えず魔核だけは取りましょう。」
「じゃあ、ミレア、剣を貸してくれ。」
「はい。」
ミレアは腰のショートソードを俺に渡した。
俺はその剣を巨人の首に押し当てる。
「ンッ!」
力を込めると、ゴロンと巨人の首が転がった。
更にもう片方の首も刈り取る。
魔核も取ろうと思ったが、何処にあるのか分からなかったので、俺は巨人の目からダガーを回収し、剣をミレアに返す。
「魔核はミレア、頼む。」
ミレアは死体に駆け寄り、器用に剣を使って胸の辺りから魔核を取り出した。
魔核はフォートウルフの物の倍近くあり、色も鮮やかだった。
「高く売れそうです。」
俺も魔物の両首をアイテムボックスに放り込んだ。
確認の為、ステータスを見る。
HPは完全に回復していた。思ったよりダメージはなかったようだ。
しかし、その後が凄いことになっていた。
【ステータス表示】
氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男
職業:冒険者 勇者 貴族 レベル:8
体力:210/210
気力:234/240
攻撃力:225 +5
素早さ:245 素早さ+1
命中:245
防御:210 +21
知力:285
魔力:245 +1
魔法防御:225
スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知2 格闘術2 剣術1 人物鑑定2 特殊性癖1 回復魔法1 水魔法0 土魔法0 光魔法0 家事2 社交術2 アイテムボックス196
危機感知と格闘術のスキルがレベルアップしていて、剣術まで取っている。
ステータスは50~70も増えている。彼女達の能力と比べると、最低でも倍はありそうだ。
ついでにアイテムボックスの中も確認したところ、
???の頭×2
というのが増えていた。
不思議に思って、ミレアを見ると目が合った。
「ミレア。」
「アラタさん。」
「「この???って?」」
見事にはもった。
「未知の魔物ってことですかね?」
「わからん。不便だし、俺達で呼び名をつけるか?」
「う~ん、アラタさん、お願いします。」
「俺に振るのか?! まあいい。『ツインサイクロプス』で、どうだ?」
俺はサイクロプスの亜種と言われたことを思い出し、適当に言ってみた。
すると・・・
ツインサイクロプスの頭×2
表示が変更された。
この世界、良くも悪くも適当だな。
二人が笑いを堪えている。
はい、どうせネーミングセンスありませんよ!
作中、チートを連呼していますが、設定としては、スキルの成長速度は確かにそうですが、ステータスの伸び自体は常人の倍くらいのつもりです。(それでも凄いか)
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