第二話 模擬戦
あれから1年が経ってしまいました。中々書けてなくて申し訳ありません。><
「さぁ、どこからでもかかってらっしゃい」
朝無さんはそう言って手に持つ黒い長剣を深く刺し白い短剣を正面に向けた。
「それじゃあ、手筈通り行くよ!」
私が地面に手をついて扇状に土柱をまばらに生やしていく。ヒイラギとヒナタは、左右に弧を描くように駆け抜けるように進み、レンカは自身の武器、二丁銃[エルモ]を構え、牽制しながら土柱を縫うように進んでいく。私はその間にせり上がる土柱と一緒に高く上っていく。
「よし!ここまでは順調!一気に前戦まで行くよ!」
そうして柱の上を伝って前に進む中、前戦の方でも戦況が変わっていっていた。
「随分広く造ったわね?でも、逆に利用されるという危険性は思いつかなかったかしら?」
そう言いながらレンカの銃弾を弾きながら躱しながら土柱で盾にしながらと徐々に距離を詰めていった。
「こっちのことも忘れないでくださいよっと!!」
すると、ヒナタが柱の反対側から砲塔のついた大剣[ゴライアス]を突き刺し、引き金を引き朝無さんごと爆炎に飲み込んでいく。同時に煙が一気に周囲を巻き込み浸食していっていた。
「あれで終わってくれたら世話ないんだけどねぇ……」
それでもヒナタは油断せず剣を構えたまま周囲の気配を探っていく。すると煙が盛り上がり一瞬何かが出てきたと視覚で捉えた途端ヒナタの首に圧がかかり持ち上げられた。
「つーかまーえた♪」
「うそ!?早すぎるでしょ……」
そのまま反撃を許さないように振り回し柱を崩しながら投げ飛ばされ、意識なく崩れ倒れていった。
「フッ!!!」
「惜しい、もうちょっと入れ替わるのが早かったらいい線いってたかもね」
ヒナタと入れ替わるようにして振り上げられたヒイラギの刀を朝無さんはしっかり捉えて白い短剣で受け止め、動きが止まった。視覚と獲物を持った手の方に集中している今なら奇襲が可能なのではないだろうか?
思い立ったらすぐ行動!そう自分に言い聞かせ身体強化の魔法を唱え、駆けていった。
「<ブースト>!!」
柱を伝い、真上から背後を狙い垂直に落下し勢いよくかかと落としを振るう私を、少し遅れて朝無さんが反応したけどもう遅い。そのまま勢い任せに振り下ろした。
「っ!?なっ!?」
「残念でした、もう少し気配を殺す訓練をしようね」
これは決まった!!そう思った束の間、視界から朝無さんの姿が消え一瞬にして背後を取られ、逆に回し蹴りを横腹にくらう。
「ぐぅっ……!!」
すぐさま体勢を立て直し朝無さんを正面に見据え、再び構え直し、気を引き締め直し様子を伺う。
「さっきのは、惜しかったねぇ、もう少し気配を消す訓練を心がけた方がいいね。戦い慣れしていないのが目に見えて目立つよ」
初見から本番だったから上手くいくかは、半々だったけどこうも容易く看破されるとなると、流石は朝無さんというべきか……。ここからは、ヒイラギ達とのアドルブ連携だ、合わせてもらうより、実力的に高いヒイラギ達に合わせて戦闘に参加する方法の方が上手くいきそうな気がするので、とりあえず次の指示を飛ばそう。
『ごめん失敗した。ここからは、私は、前衛でサポートに回るからヒイラギがメインで立ち回って。』
ヒイラギは頷き、刀を構え直すと一瞬にして朝無さんの背後から横薙ぎに振るった。しかし、朝無さんは短剣に氷をまとわせて長剣に変質させ受け止めた。
「……っ!!」
「また、剣筋が鋭くなったね、気配も完全に消せていたし意識してなかったら危なかったよ」
間髪入れず朝無さんからの掌打が放たれ、ヒイラギは直ぐさま右の籠手を盾にして吹き飛ばされる。正直二人とも速過ぎてこっちが動きについてこれないんですけど。どうしよう……。
「それじゃ、そろそろおひらきにしよっか!」
「サクヤ!」
レンカの声に我にかえるが、朝無さんが一瞬にして私との間を詰めて鳩尾に掌打をくらい、土柱に背中を勢いよく打ち付けゆっくりと意識を手放した。その時、頭の中に聞き覚えのない笑い声が聞こえた気がした。
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朝無視点
今日の試合は、正直いい線いっていたと思う。以前と比べたらだいぶ戦闘に慣れてきた感じがする。まだ粗が目立つけど、正直合格ラインだ。サクヤの前線入りは、予想外だったけど、初見であれだけ動けたら十分やっていけるだろう。これなら今後の成長でなんとかやっていけるんじゃないかな?
「ふぅ、あとはお二人さんだけ……っ!?」
そう言いかけたところで背後から凄まじい殺気を感じ振り向いたら気絶しているはずのサクヤが立っていた。肌を刺激されてると錯覚するほど凄まじく、それでいてどこか懐かしく感じさせるのは気のせいではないだろう。恐らく彼女が起きたのだろう。
「久しぶり、といった方がいいかしら?」
「………」
最悪だ。空気が読めない。動きが見えない。今覚醒しているのは、間違いなく彼女のはずだ。だが以前とは比べ物にならないくらいに空気が、存在が薄く感じる。
「確認なんだけど……有効打を一度でも与える事が出来たら合格なんだよね?」
なんだろう……。私の知っている彼女とは雰囲気が違う。でも立ち居振る舞いは、私の知っている彼女のものだ。とりあえず気を引き締め直して全力であたろう。
「そうだよぉ、その分全力で当たるけどねぇ」
「そう……じゃあさっさと終わらせてあげましょうか、『ナルカミ』」
「っ!?」
サクヤ両腕足が白銀の武装へと変貌する。彼女たち四人には特殊な武装を持っている。レンカは二丁銃[エルモ]。ヒナタは大銃剣[ゴライアス]。ヒイラギは二本の刀で白刀[白夜]と黒刀[黒姫]だったかな?そして、目の前で纏っているサクヤの両腕足の甲冑型の[ナルカミ]か、それぞれの武器に特殊な能力が備わっているみたいだけどどんな能力かは、聞いてないから正直わかんないな。初見だけどサクヤの武装から電気のようなものが纏わりついてるからそれらを操る系かな?どちらにせよ厄介そうだな。
「<迅雷><双竜脚>!ふぅっはっ!<獅子穿孔>!!」
「っ!?ぐぅっ!?」
サクヤが纏っていた電気が激しくなったと思ったら、一瞬に間を詰められ回し飛び蹴りが飛んできた。紙一重のところ避けたは、よかったものの距離が詰められたまま接戦状態になってしまい最後の円を絵がくように放たれたら両腕の突きが避けきれず短剣[シヴァ]で直接受け切った。そのまま勢いに任せ後方に下がり、[シヴァ]を触媒に魔法を放つ。
「<アイシクルランス><フロストジェベリン>!」
直線に何重もの氷の騎馬槍と弧を描くように氷の槍を飛ばしていく。しかしどれも簡単に回避されて少しずつ間を詰められていく。
「っ!!」
「せやぁ!」
サクヤに気を取られすぎてヒイラギの存在に気がつかなかった。さっき結構なダメージを与えたはずなんだけどどうして?
「とぉっ!あぶない!!」
なんとか受け止める事ができたけど、これは詰みだろう。衝撃を緩和する準備に切り替えよう。即時に[シヴァ]を介して氷塊を上半身に纏わせる。
「お返し」
「ぐぅっ!!!」
鳩尾目掛けて放たれたサクヤの正拳突きは纏った氷塊を砕き確かな一撃を私に与え吹き飛ばした。
「っくぅ〜〜〜!効いたぁ!!!」
自ら白旗を掲げ敗北の意思表示を出した。彼女たちはようやく届かせたのだ。イレギュラーはあったものの結果が全てだ。反省点は多いけれどもこれからは外の世界でどんどん強くなっていくだろう。
「ふぅ…、[アグニ]が使えたらもっと楽だったろうなぁ……」
そう言うとサクヤは、力なく仰向けに気絶した。[アグニ]……サクヤの中に入る彼女の武装だ。今後またどこかで彼女が介入することがあるだろうけどそこは皆に頑張ってもらおう。これからやってくるであろう過酷な未来を案じて今は、全力で彼女たちを祝おう。
「おめでとう、これでようやく話が進められるよ」
「「…………」」
皆疲れ切ってぐったりしているなぁ。今日は私が、食料の調達と料理どちらも担当しよう。皆の門出になるんだし、お祝いとして八咫烏の串焼きがいいかな?そうと決まれば黒の長剣を腰に納め狩りに向かった。