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異世界転生者の殺戮救済記  作者: 刻々 刻
村を救いたい魔法使い
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第一話 気がつけば森の中

(ここは………どこだろう?)


優斗が目を覚ますと知らない所にいた………わけではない。むしろ意識は覚醒したが、なぜか目を開けることができない。体も動かない。いや、体がとてもふわふわし、そもそも体があるのかもわからない。不思議な気分に包まれていた。


『話をしていればちょうど良いものが来たな。どれ、こいつの人生は………ほほう、これはぴったりだ』


『まさか、この彼を選ぶのですか!無茶です、彼はこれといってなにもなかった普通の学生だったのですよ!?』


(一体なにを言っている。よく、わからない。俺は死んだのか?)


何も見えないなか、二人ほどの話声が聞こえてくる。片方はとても優しく穏やかな女性の声、もう片方は冷たく不気味な男性の声だった。


『だからこそだろう?ただの凡人かつこいつの人格、歩んできた人生はまさにぴったりだ。どちらに転んでもおかしくない、そうだろう?』


『それはそうかもしれませんが………いくらなんでも危険過ぎます!』


『まったく貴様は文句が多いな。ならばどうする?我々は武力を行使しても構わんのだぞ?』


『っ!それは………』


『どうやら決まりのようだな、まずは俺からだ。まぁ、賭けは最初から目に見えている。光栄に思え人間。貴様に俺の力を与えよう。しっかりと殺せよ?』


(なんだ?なにかが、俺の中に入ってくる)


優斗の体によくわからないがなにかが入っていく感覚がわかる。それはドス黒い感情を胸の奥から湧き出させる。


『そんなわけありません。彼は正義のヒーローを目指した者なのですから。この力で全てを救ってあげてください』


(まただ、また別のなにかが入ってくる)


優斗の中にまた別のなにかが入っていく。それは先ほどのものとは間逆でとても穏やかで綺麗な感情が湧き上がり、先ほどの感情と相殺されていく。


『さぁ、行くが良い。そしてお前は全ての殺戮者になれ』


『さぁ、行きなさい。そしてあなたは全ての救済者となるのです』


(だからなんだって………あぁ、だめだ。また意識が………)


優斗の意識はまた静かに飛んでいく。結局ここがどこかは今の優斗にはわからなかった。

























「ハァ、ハァ、ハァ………!」


ある場所の森の中。時刻は夕暮れとなり辺りはオレンジ色に包まれている。そこに一人の少女がいた。彼女の後ろに束ねたポニーテールの髪とその瞳は夕暮れと同化しているかのようなオレンジ色をしている。


しかし服装が少し独特である。基本は黒色の布とした半袖半ズボン。そしてその上から革でできた軽めの防具を体の所々に身につけ、靴も長めの革靴を履いている。そしてその右手には短剣が握られている。


「あと少し、よし!」


少女は短剣を強く握りしめ、気を引き締める。何故こんなことをしているのか。それは彼女前に1mもあるオタマジャクシがいるからだ。いや、厳密にはオタマジャクシに似ている生き物だ。その体はタンポポの綿みたいなものに包まれており、尻尾は丸い葉のような生き物だ。その生き物が三匹少女の前に立ちふさがっている。


「ハァァァァァァァ!!」


少女は生き物の一匹に突っ込んでいく。生き物はその葉のような尻尾を少女に向かって振り回す。少女はそれをしゃがむことでかわし、そのまま短剣を振り抜く。


「タァァ!」


少女が振り抜いた短剣は生き物の一匹を真っ二つに切り裂く。そして残った二匹に向かって左手をかざす。するとその左手の先から火が出現する。


「『火の息』(フレイム)!」


火は二匹に向かっていき、その姿を覆い尽くし燃え上がる。最初はのたうちまわっていた二匹も次第に動かなくなった。


「ふぅー、終わった」


少女は警戒を解き、体の力を抜く。うーん、と体を伸ばしあちこちをほぐしていき灰になった生き物の方を見る。


「まだまだよね、ワタオタでこんなに苦戦してちゃ………せめてもう一人仲間がいてくれれば」


そこまで言って少女は自身の頬を叩く。悲観していても仕方ないと自分に訴える。もうそろそろ暗くなるので帰ろうと歩き出す。


「うん、なにあれ?」


その時少女は森の中で何かを見つける。木の一本の根から人の足が見える。そろりそろりと近づき木の裏側を覗くと、一人の少年が倒れこんでいた。


「う、うそ!ちょっと、しっかりしなさい!」
























『………と。…………て』


(なんだ。今度はまた別の声が聞こえてくる)


優斗はまた意識を少しずつ取り戻していく。先ほどの変な感覚はない。しかし眠気が酷く、目を開ける気にならない。この声の正体が気にはなるが、脳が起きろと体に命令するが心がそれを拒絶する。


『………て。………きて!」


(ダメだ、人間の最強の部位は心なのか。すまんがもう少しだけ眠らせ………)


「起きなさいよ!」


ベチン!!


「いってえええええええええ!!」


突然大きな何かを叩いた音が聞こえたのと同時に右頬から激痛がはしる。痛む右頬を抑え、涙が滲み出しているが、眠気が吹っ飛び体を起こして目をしっかりと開ける。


「あ〜、よかった。ちゃんと生きてて。全然起きないから心配したのよ」


目を開けると一人の少女がいた。どうやら本気で心配してくれていたらしく、ほぉと安心したような一息をついていた。とても可愛らしい。間違いなく美人に分類されるだろうが、優斗は当然疑問をもつ。


(髪と瞳の色がオレンジ。外国人なのか?それに格好もずいぶん変わっている)


優斗は焦りながら辺りを見渡す。空は少女と同じオレンジ色から紫が混じり、夜が近づいていることを示している。そして辺りは樹々に囲まれ、道路が整備されている跡は見当たらない。


(なんだここ。俺は一体どうしてこんなところに………車に轢かれたんだよな。その後は………くそっ!全然わからねぇ!)


「あなた大丈夫?さっきから頭抑えて、頭が痛いの?」


頭を抱えて悩んでいると少女がまた心配したような表情をしてこちらの顔を覗き込んでくる。距離が近くなり、少女の顔と甘い匂いが鼻を刺激し、鼓動が自然と早くなる感覚と自分の顔が赤くなっていくのがわかる。


「い、いや大丈夫!!大丈夫だから!」


優斗は慌てて少女と距離をとり、大丈夫なことを伝える。少女は不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐに真面目な顔になる。


「あなた、ここら辺りじゃ見かけないわね。よそからきたの?こんな時間に一人で寝ているなんて自殺行為よ。魔物に襲われたらどうするの?」


魔物、という言葉に優斗はピクッと耳を凝らす。


「えっ、魔物?魔物ってあの魔物?」


「あの魔物って魔物は魔物でしょ。あなた本当に大丈夫?水でも飲む?」


少女は気遣うように優斗に水筒の蓋を取り、水を入れさしだす。


「あ、ありがとう」


優斗は戸惑いながらも水を受け取る。その水を飲もうとし、顔を覗き込んだ時信じられないものが映る。


本来なら自分の顔が水の反射で映るはずだが、そこには髪は白く、黄色の瞳。明らかにイケメンであろうな美形の顔。そして右頬は紅葉型の痕がくっきりとある。


(あっ、これさっき叩かれた痕か。じゃなくて………)


「なんじゃこりゃあああああああああああああ!!」


この時、一人の少年の叫び声が森の中で響いた。

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