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異世界転生者の殺戮救済記  作者: 刻々 刻
村を救いたい魔法使い
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プロローグ

あぁ、現実とはなんと無情で酷いのだろうか。

あぁ、正義とはなんと無力で脆いのだろうか。


このような気持ちを持っている人は決して俺だけではないだろう。今の世の中、多くの人達が抱え込んでいると言っても過言ではないはずだ。


どれだけ良心に目覚めても、どれだけ善行を行っても、一体何になるというのだろう。


むかつく、腹が立つ。


あぁ、幻想とはなんと有情で憂いのだろうか。

あぁ、悪業とはなんと有力で厚いのだろうか。


俺は、どうなりたいのだろうか………。










『坂口 優斗』は至って普通な男子高校生だ。何か特別な力や才能を持っているわけではない。顔もフツメン、成績や運動神経も普通。得意なことも何もない。


どこにもいるような、そんな奴だ。ただ少し他の人と違うとすれば………正義感の強いところだろうか。いや、それでは似たような人も多くいることだ。やはり普通の人間なのだろうと思うが、しかし行動力は人以上にある。


「はい、おばちゃん。家に終わったよ」


「いつもありがとうね、若い男の子が手伝ってくれると助かるよ」


「お気になさらず、好きでやってるんだからさ」


彼は困っている人がいたらできるだけ助けることを心がけている。今日はいつも学校の帰り道の途中に住んでいるおばさんが育てている野菜を家まで運ぶのを手伝ってきた。


「じゃあね、また頼むよ」


「おう、じゃあ」


優斗は気さくに手を振って自分の家の帰り道に向かう。彼が何故正義に目覚めたか。理由は実に単純、特撮ヒーローものを見た影響である。いつか自分もこんなヒーローになりたいという小さな子どもなら誰もが憧れるものだ。


しかし人は成長するたびにその心を忘れていく。ヒーローなんてものは存在しない。あれはただのドラマに過ぎないのだと。だが彼はその心を忘れようとはしなかった。いつの世の中に誰もが救いを求めている、そんな人達を助けてあげたいと。そう、強く願った。


だが現実は彼には優しくはなかった。


「あれ〜、優斗くんじゃん?こんなところでボランティアですか?」


「優斗くんは優しいね〜、実は僕らも今困っててさ。ちょっとお金貸してくれない?」


優斗の前に二人の男が立ちふさがる。世で言う不良だ。二人はニヤニヤ笑いながら優斗に金を貸すように要求する。優斗は嫌悪感を出しながらもなるべく口調を和らげながら話す。


「悪いけど、今は財布持っててなくてさ。貸すお金なんてない………」


「うるせぇんだよ!」


いきなり不良の一人が怒鳴り優斗の顔面を殴り飛ばす。突然のことでろくに反応することができず優斗は倒れこんでしまう。


「いがぁ……!」


口の中から鉄の味が広がり、血が頬に伝い流れる。どうやらさっきの一撃で口が切れたらしい。


「正義気取ってんじゃねぇよ、なんもできないくせに」


「ヒーローにそんなになりたいの?むりむり、ヒーローは強くてイケメンなヤツしかなれないの!一回鏡見てみたら?」


「ハハハ!それは言えてらぁ!」


「………黙れよ」


「あ?」


流れ出る頬を拭い、口の中に残る血を飲み干す。上から睨みつけられながらもそれに負けじと睨み返す。


「鏡を見直すのはお前らのほうだ。深海魚のほうがまだ見つめがいがあるぞ。そうやって悪さばかりしていたら社会で生きていけるわけ………」


「だまれよ!このゴミが!」


「ザコがいきがってんしゃねぇぞ!!」


倒れこんでいる優斗にさらに追いうちをかけ、蹴りつけまくる。腹や顔など全身を蹴りつけまくり、体が血と泥で汚れていく。


「たくっ、調子づきやがって」


「あーあ、本当に生ゴミになっちゃったな!ちゃんと燃えるゴミの日にでてけよ!」


「おっ、上手いこと言うねぇ」


「「ギャハハハハハハハハ!!」」


不良だ二人は散々優斗を蹴り飛ばしたあげく、そのまま笑いながら立ち去っていく。優斗は痛む全身をこらえながらなんとか壁に伝って立ち上がる。


「くそっ……………クソッ!!」


優斗は壁を思いっきり殴りつける。そしてその目からは涙が溢れ出してきたが、その表情は怒りで包まれていた。


「なんでだ、なんでだよ!なんであんなクズなヤツらにこんな目にあわされなくちゃならないんだよ!なんで勝てねぇんだよ!!」


全身の痛みが気にならなくなってしまうほど壁を殴り続ける。周りが気にならなくなってしまうほど叫ぶ。涙とともに溢れる感情、それは『憎悪』。


「人助けをやったって誰も俺に賛同してくれない。誰も俺の味方になってくれない!」


今までの優斗の人生はずっとそうだった。いかに正しい行動を取ろうとも、いかに人助けをしようとも、彼の周りに味方は存在しなかった。むしろ敵………というより先ほどの不良が彼に突っかかるようになったのだ。


もちろん彼の助けで感謝をする者もいた。しかし校内で彼がいじめられている時、誰一人として彼を助けようとはしなかった。みんなが見て見ぬふりをした。


「顔が地味だからか?平凡だから誰も認めてくれないのか!ふざけんな!」


優斗は今とても冷静ではなかった。そして先ほどの不良から受けた傷が痛み、動ける状態ではなかった。


だから、彼は最後まで自分に何もできず、何もされなかった。


彼に迫る車に気づくことなく、なすこともなく、そのまま跳ねられた。


ドン、と鈍い音響きわたり体が宙に浮いた感覚が一瞬感じ、次の瞬間には地面に叩きつけられていた。肺の中にある空気が血とともに吐き出され、呼吸がまともにできない。


「がぁ………!」


さっきとは比べものにならないくらいの痛みが優斗を襲う。キュアアア、とタイヤの方向転換する音が聞こえ、その音はだんだんと小さくなっていく。


(逃げやがったのか!)


優斗は車の方を見ようと体を動かそうとする。うまく動かない上に全身に激痛が走る。骨が折れ、砕けているのだろう。しかしなんとか体を動かしたが、車はもう完全に消えていた。


(なんでだよ………。俺なんかしたかよ!なんで俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよ!)


涙が溢れ出す血とぐちゃぐちゃに混ざり、顔から流れ出る。体が寒い。まるで極寒の地にいるみたいに寒くなり体が震える。そして震えでまた全身に激痛が走る。


(痛い、痛い痛いいたいいたいいたイいタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!サムイサムイサムイサムイサムイサムイサムイサムイ!)


彼はもうなにがなんだかわからなくなった。自分は今までなにをやっていたのか。しかし一つはっきりとした感情が生まれた。


(憎い、憎い憎い!ニクイニクイニクイ!!ふざけるなふざけるなフザケルナ!)


彼はヒーローとはまるで間逆の憎悪を持ちながら、静かに誰にも見守られることなく、その生命を落とした。こうして、優斗はこの世界での人生を終えた。

ご指摘、アドバイスがあればよろしくお願いします。

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