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 枯草ばかりが続く街道を、数台の馬車が進む。

 規則正しい馬の蹄の音と、馬車の揺れは風情があってなかなか楽しめる。

 一見どこまでも変わらないような枯草ばかりの光景も、日の浮き沈みとともに少しづつ表情を変えて、それもまた趣深い。

 夜は屋根に遮られずに満点の冬空を堪能でき、温かいスープを手に見る星々は絶景の一言だった。

 初めての村の外は新鮮で、いずれ旅にも慣れてしまうのだろうが、初めての旅路は思い出補正とともに記憶の宝箱にしまわれるのだろう。

 俺は初めての旅を満喫していた。

 ……が、とても楽しむどころじゃないやつもいるようで。


「うぇ~~……ロベルトぉ、気持ち悪いよ~……」


 レリは馬車の揺れに完全にグロッキーとなっていた。

 

「背中……さすって」

「はいはい……水飲むか?」

「うん……うぇっ」

「吐くなよ……頼むから吐くなよ」


 ここで吐いたらお前そういう方面のキャラで決まっちまうぞ。


「吐かないよ……あ~、それにしても乗馬じゃ酔わないのになんで馬車にはこんなに酔うんだろ」

「さぁ……」

「なんか、もう帰りたい……」

「ええっ……あれほど行きたがってたのに?」

「だって……もっと楽しいことだけだと思ってたんだもん」

「いや、出稼ぎなんだから楽しいことだけなわけないだろ」

「そりゃ、……そーだけどさ」

「ハハハ、お嬢はすっかりグロッキーのようだな」

「カール兄」


 同じ馬車に乗る同年代の村人たちと話していたカール兄がいつの間にかこっちにやってきていた。


「お嬢、そういう時はちょっと歩いた方がいいぞ。どうせそんなに進みは早くねぇんだしさ。十分追いつけるさ」


 確かに、馬車の進みはゆっくりで人の足でも十分並走できる。


「ん、そうする」


 そういうとレリはひらりと荷台から飛び降りて馬車と並んで歩きだした。


「そういえば、ロベルト。お前がゴブリンを5体倒したってホントか?」

「ん……まぁ」

「マジかよ。俺、壁外警邏の仕事でゴブリンと戦ったことがあるけど、相当強かったぞ。ダチと三人でやっとだった。結構傷だらけになったしさぁ」


 カール兄は俺をじろじろ眺めると、


「……特に傷もないみたいだし。マジで戦ったのか?」

「ああ」

「はぁ~……人間見掛けによらないってことかね。まぁ、街にはどう見ても可憐な乙女なのに信じられないくらい強い娘とかいるし、世の中そういうもんなのかね」


 たぶん、それは俺と同じ紅玉士なのかも、と思ったが口には出さなかった。


「ま、腕が建つなら街の中で荷物運びとか建設の仕事しなくても、警備隊の仕事をすりゃあ実入りがいいと思うぞ」

「そうなのか?」

「ああ。警備隊つっても傭兵ギルド派遣の壁外警邏の任務だけどな。詳しくは傭兵ギルドに行ってみりゃあわかる」

「わかった」


 ……といってもその仕事をするかはわからんが。

 いまいち自分が戦いの世界に身を置くというのがピンと来ない。

 俺が物思いに沈んでいると、突然レリが声を張り上げた。


「あ、ロベルト! 街だ! 街が見えてきた!」


 その言葉に道の先へと目を凝らし、息を呑んだ。

 そこには巨大な石の建造物が建っていた。一体一辺何キロあるのか。石の壁がぐるりと街を取り囲んでいる。壁は高く、頑丈そうで、あれを打ち壊せる魔物の姿など俺には想像もできなかった。少なくとも先日のゴブリンごときでは千体至って無理だろう。

 カール兄がどこか誇らしげに言った。


「あれが西方最大の都市アルトリンゲンさ」


 


 門に近づくにつれ、そこに並ぶ人々の列とそれを相手にしているのだろう屋台やら行商人らしき姿が見えてきた。

 村にもたまに行商人が来るが、こんな規模で市が開かれているのは見たことがない。

 しかもこれで門の前、本格的な市場ではないのだ。

 俺は村と街の違いに、入る前から圧倒されていた。


「んじゃ、俺らは馬車を預けてくるから。ロベルトはあっちの方の受付で滞在許可証をもらって来い」

「え? 俺だけですか?」

「ああ。俺らはもう何度か出稼ぎに来てるからな。前の許可証にハンコついてもらうだけで良いんだよ。お前は初めてだから許可証を発行するのに時間がかかる。列にも並ばないといけないしな」


 そういわれ辺りを見回してみると、馬車が並んだ列と徒歩の人の列が二列あるのに気付いた。徒歩の列は片方はスムーズに進んでいくが、もう片方はゆっくりと進んでいる。あの遅い方が初めて街に来る者たちの列なのだろう。


「なーなー、あたしは?」


 先ほどからずっと位置を覗きたがっていたレリがうずうずしながらそう聞いた。


「お嬢は、まぁ適当に市でも見て回ってこい。どうせご領主様にお小遣いもらってんだろ?」

「ヤッター、んじゃロベルトまた後でな!」


 そういって市の方へと駆け出していくレリを見ながら俺はカール兄に聞いた。


「あれ? レリはいいのか?」

「ああ。レリはご領主様のお孫さんだからな。貴族の3親等内の親族は国内中の街のすべてに市民権を持ってるし、市民税も免除されてる」

「はぁ~、なるほど」


 さすが貴族、色々と特権があるらしい。


「じゃ、わかったらおとなしく並んで来い」

「わかった」


 俺は頷き、列へと並んだ。

 そうして待ちながら人々を観察する。

 列に並んでいる人たちは、俺のみたいな村人のような人から、徒歩の行商人らしき人々、傭兵と思わしき厳つい武装した人など様々な人種がいた。

 同じ出稼ぎと思われる人々でも、なんだか暗い顔をしているやせ細った人たちや、逆に明るく稼いだ金の使い道について話している者たちもいる。

 両者の違いは恐らく出身地、ひいては領主の違いだろう。

 前者の領地の税は重く、おそらく稼いだ金のほとんどを送っても冬を越せるか、といった貧窮具合。対して後者はうちの村のようにご領主様が善政を敷き、稼いだ金のいくらかを自由に使える余裕のある村だ。

 この不平等な世界では、幸せに生きられるかどうかは本人の資質以上に運の要素が強いのだ。


「次!」


 俺が自分の村のご領主がアードリアン様であることに感謝していると、いつの間にか俺の番が来ていた。

 

「名前と出身地は?」


 二人並んだ門番のうち、どこか狐っぽい顔をした門番が言う。


「アードリアン村、ロベルトです」


 俺が答えると、机に座ったもう一人の豚鼻の門番が羊皮紙へと何かを書き込んだ。おそらくあれが滞在許可証なのだろう。


「目的は?」

「出稼ぎです」


 そう答えると、狐顔の門番は「ふむ……」と俺を観察しだした。

 そしてやおら机に座る門番とこそこそと話をし始めた。


「若いな……」

「それに健康そうだ」

「田舎出身……世間知らずに違いない」

「そして何より女っ気がなさそうだ」


 やがて二人、顔を見合わせるとこちらに向かって猛然と話し始めた。


「なぁ、出稼ぎに来たんだろう?」

「え、あ、はい」

「もし、腕に自信があるなら警備隊はどうだ?」

「うむ。警備隊では随時、委託隊員を募集していてな。壁外で街道などに出没する魔物を退治する仕事なのだが、給料は悪くないはずなんだが不思議と人が集まらんでな」

「こうして見どころ! のありそうな若者を見つけると声をかけているのだ」

「どうだ。警備隊で働いてみないか? 気さくな者たちばかりの、アットホームで笑いの絶えない職場だぞ」

「警備隊は良いぞ~、なんといっても女にモテる」

「めちゃくちゃモテる」

「なんせコイツみたいな不細工でもモテる位だ」

「おい!」


 豚鼻の門番が狐顔の門番の脇をド突いた。


「スマン。……まぁ、とにかく女にモテる。確かにちょっと危険な仕事だがな、それは街を守ってるってことだ。それが街の女たちにもよくわかっているのだろうな」


 狐顔の門番の言葉はどこか自分に言い聞かせるようだった。


「そうだぞ。確かに魔物と戦うのだから危険で、一日中動き回るからキツイし、魔物の血で汚れるから臭くて汚いしと……」

「おい、余計な事言うな!」


 今度は狐顔の門番がド突き返した。


「ス、スマン。……ごほん。とにかく、この世に楽な仕事なんてないんだ。女にモテる分、警備隊の仕事は良いぞ」

「は、はぁ……」


 ここまでモテるモテる言われると逆に疑わしい。

 と、その時市を覗いていたレリが戻ってきた。


「ロベルト~、見てくれよこれー。暗闇で光る石だってさ! 夜になったら一緒に見ような!」


 レリはなにか塗料が塗られた石を片手に持っている。


「ああ、じゃあ夜お前の部屋に行くわ」

「え? 別の部屋なん?」

「そりゃ……そうだろ」


 俺たちもいい年だ。一緒に寝泊まりするような歳じゃない。


「いいじゃん、一緒の部屋でさ」

「いや、そういうわけには……」

「な~な~、そんなことよりまだ時間かかりそうならアタシ、市見てきていいかな。さすが街だよな~、面白いものがたくさんある。ニハハ」


 レリはそう言ってまたまた市の方へとかけて行ってしまった。


「まったく……」


 アイツ、騙されて変なもん買ってこないだろうな。


「おい」

「あ、すいません」


 すっかり門番たちを放置してしまっていた。さすがに失礼だ。

 俺は頭を上げるも門番たちの目はレリを向いていた。


「あの美少女はお前の知り合いか?」

「あ、はい。幼馴染ですけど」

「「幼馴染!」」


 なぜか門番たちは声をそろえて驚愕する。


「クソ! これだから村育ちは! ライバルが少ないってだけであんな美少女と簡単にお近づきになりやがる!」


 狐顔の門番が血を吐くような叫びをあげた。

 

「ええい! とっとと失せろ! 間違っても警備隊には来るなよ! ここはお前のような恵まれし者が来るところじゃねぇ!」


 豚鼻の門番はそういうと俺に滞在許可証を押し付けるように寄越した。


「ええー……」


 困惑する俺をよそに、門番たちはもう顔も見たくないとばかりにシッシ、と失せろのジェスチャー。

 後に待つ人々の圧力もあり、その場を後にする。

 何が何だかさっぱりだったが、なんとなく一つだけ理解した。


(どうも警備隊は女にもモテないらしい)


 俺は頭を掻きながらレリの元へと向かったのだった。



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