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異世界からの多重人格者  作者: ますむ君
黒瀬の世界
9/30

第八章  最強の魔術師たち、現る。

 「やぁ王子。よく来てくれたね」


 そこにいたのは、たださえ小さい俺の妹よりもさらに小さい一人の少女だった。

 ていうかもう、幼女だった。

 

 「......どなた?」


 思わず迷子に尋ねるように訊いてしまった。


 「し、失礼ね! 私が、イルス=クロイツェフよ」


 「......誰?」


 「ぶっちぃ! 私が『冥神の帝王』(ネフティス)よ!」

 

 『冥神の帝王』、だとっ!? こんな幼女が?

 いやいやいや待て、ふざけてんのか?

 だが、よく見れば、『そういう雰囲気』がある。

 紅のその瞳が要因だろうか。

 

 「えーと、」


 「ふん、めんどくせいわね。さっさと話を進めましょうよ」


 「わかりました、クロイツェフ。お話、との事ですが、どういったご用件でしょう」

 

 いまだ戸惑っている俺の代わりに赤毛ポニーテールちゃんが進行してくれる。ありがたい。

 いやね、だってさぁ......ね?

 話は進む。


 「そうそう、ご用件ね。どーしよっかなぁー」


 「あなたは、講和をお望みなんですか?」


 「講和? ふふっ、そぉね......。ちょっと違うかな?」


 「ご要望を」


 「そうね。条件付きで手を引いてやってもいい」


 彼女らはたんたんと話を進める。

 これはチャンスだ。素直に条件を了承すればまだ希望はある。俺のファンタジーライフが帰ってくる見込みがある!


 だが、この幼女、一体何を考えてる?

 ウィリアのハッタリを見破ったから攻めてきたんじゃねえのか。


 俺はぎょっとした。

 隣国の帝王は笑みを浮かべていたのだ。

 その笑みは見てるだけでも震える上がるほど黒かった。

 

 「まぁ、条件って言っても簡単なモノよ?とーってもかんたーん」


 「何を......」


 「選択制ね。どっちか選んでちょーだーい」


 怖い。何かが来る。想像以上想定外の悪意が。

 『冥神の帝王』が口を開く。ニヤァ、と悪意を顔に浮かべて。


 「民を奴隷に堕とすか、姫を処刑にかけるか」


 「......今、なんて言った?」


 「だぁーかぁーらぁー。姫を殺すか全ての民を奴隷にするか、選べ」

 

 悪意が、舞い降りた。


 姫か民。どちらかを選べだと?

 最悪だ。

 赤毛ポニーテールちゃんも絶句していた。

 

 「それは......、今答えないといけませんでしょうか」


 「うーん、そうね。期限は三週間。私もいろいろする事あるし、三週間の間楽しませてもらうわ」


 「......わかりました。ご厚意、感謝します」


 「ふふっ、感謝しなさぁい」


 帝王は席を立ち、そのまま向こうにいる「七天使」たちの方へ向かう。

 こいつらがコスト7の魔法を扱う、最強軍隊か。

 なら、チェックしておくに越した事はないな。

 せめて名前だけでも。


 俺の唯一使える魔法はステイタス可視化魔法『状態透視』だ。

 戦闘能力は皆無だが、ある程度の情報は引き出せる。

 

 手始めに、一番手前にいる『冥神の帝王』を「凝視」する。

 最強とされるステイタスが視える。


   イルス=クロイツェフ (156)

   残命値 99%

   損傷状態 nothing

   精霊力 800%

   稼働率 10%


 ......。

 突っ込むべき点はいろいろある!

 だがまぁ、それは仕方ないか。

 さすが、最強のチート魔導師。

 

 「ねぇ、王子」


 突然、『冥神の帝王』が振り向いた。凶の笑みと共に。


 「ねぇ、王子。オマエのその力がどんなモノかまでは興味はないけど」


 まさか!?

 俺の『状態透視』がバレてるのか!?


 「アドバイスしてやろう。私レベルの魔導師にもなれば、どんな事でもわかっちゃうの」


 「俺の力がわかるのか?」


 「ええ、もちろんわかってるわよ」

 

 よく考えれば確かに、そういう魔法があってもおかしくはない。相手の考えを読む魔法。

 しかし。

 俺の『状態透視』では、そんなモノは視えなかった。

 もし魔法を使っていれば感知できるはずだ。

 じゃあ、どうやって?


 「どうやって?そんな事はどうでもいいでしょ?」


 「なっ!?」


 読まれている。

 もう完全に俺の思考が読まれてしまっている。

 

 「ふふふ、私、なんでもできるのよ。そこら辺の馬鹿共と違ってね」

 

 イルスは一方を指さしながら言う。

 そっちに何があるって言うんだ?

 

 「ふふっ、本当はわかってるわよねぇ」


 コイツは本当の外道だ。

 だって、コイツは兵たちの死体を指さしながら、笑ったのだから。


 「オマエっ!」

 

 本当に悪意の塊だなコイツは!

 思わず俺は帝王に掴みかかる。

 だが、それは叶わなかった。

 

 ズダンッ!


 思い切り地面に叩きつけられたからだ。

 見えない何かによって。


 「レイラ王子!」


 赤毛ポニーテールちゃんが魔法で対抗しようとする。

 だが、それじゃだめだ!

 俺を縛ってる魔法は!

 

 「ぎゅあぁぁっ!」


 赤毛ポニーテールちゃんが遠くへ吹き飛ばされる。

 

 「オマエ!!」


 くそっ!俺が考えず動いたから!

 後ろで『七天使』(セブンス)が構えてるっていうのに。


 「まぁまぁ、ガブリエル。そんなに乱暴にしなさんな」


 「いやいや帝王、このクソ野郎を殺すには十分な理由だろ?」


 くっ、コイツがガブリエルか!

 身長は多分俺くらい。蒼の髪に蒼の眼。

 そして、両足に無数に巻きつけているのはベルトか。


 「えー、私もうちょっと楽しみたいわ。抑えて抑えて!」


 「チッ、そぉかよ」


 くそっ!いい加減解放しやがれ!

 そう願う。おそらくこれで帝王には伝わっているはずだ。


 「あー、悪い悪い。ガブリエル、放してあげて」


 途端に、俺を縛っていた力が消えた。

 赤毛ポニーテールちゃんは気絶していた。

 これがコスト7の実力なのか!?

 いや、こんなモノじゃ済まされない。

 きっと、彼らはまだ力の1割も使っちゃいない!!。


 「ま、どっちを選ぶかはオマエ次第。せいぜいその馬鹿な脳味噌を酷使しなさいよ」


 屈辱的だった。

 だけど、俺にはどうする事もできなかった。  

   

   ▼▼


 赤毛ポニーテールちゃんをおんぶしてお城に帰ってきた。女の子って思った以上に軽いんだな。


 外から入る時初めて気づいたのだが、この城、結構大きい。

 改めてここが異世界である事を実感させられる。


 ウィリアやロッズ司教たちを集めて、さっきの事を報告した。

 講和を結ぶには、姫を殺すか民を奴隷にするかを選ばないといけない。この事はもちろん言った。

 

 俺の話を聞いてすぐ、ウィリアは部屋に戻ってしまった。

 当然だろう。

 かわいそうだけど、自分の命と民の命を天秤にかけられてしまったのだから。

 ウィリアの事はそっとしておくことにした。


 「さて、これからどするか......」


 俺は王子になったからには、その役目は果たすと誓った身だ。

 この問題を投げ出す事はできない。

 

 「そうですね。時間けっこう余ってますし」


 という訳で、俺と赤毛ポニーテールちゃんは城下町を視察がてら散歩することにした。

 これも大事な仕事らしい。

 まあ、今回は主に俺の情報収集のためだけどな。


 「結構賑わってるな」


 「ええ、そうでもしないとやってられないですからね......」


 俺の言ったとおり、この街は結構賑わってる。

 商店街のような通りは人で溢れ、さっきまで他国と戦争をしてたとは思えない風景だ。

 だけど。

 赤毛ポニーテールちゃんが言ったとおり、どこか「無理矢理明るく振る舞ってる」感じがした。


 「思ったんだけどさ」


 「何ですか?」


 「俺って王子として認識されてんの?」


 人はたくさんいるのに、さっきから誰も話しかけてこない。

 一応王子だぞ、俺は。

 

 「いやぁ、多分されてないでしょうね」


 「な、なんで?」


 「レイラ様、あまり表に出ませんでしたから。今までは国王かレイラ様のお兄様がそういった役割でした」


 「あ、兄がいるのか!?」


 は、初耳だぞ......。

 だが、なぜか赤毛ポニーテールちゃんは浮かない顔だった。


 「いえ、もうここにはいません」


 「は......?」

 

 いない、ってまさか......。

 死んだ、のか?


 「戦争初期、つまり二年前くらいの時に、突然行方不明になったんです」


 「ゆ、行方不明?」


 「はい。レイラ様と同じように突然いなくなったんです」


 なるほど、家出か。

 てか、そんな簡単に家出できちゃっていいのか?

 レイラも家出してたみたいだし。


 「にしても......、魔法って便利なんだな。皆使ってるし」

 

 さっきからいろいろな店を見て回っているが、どの店でも例外なく、どこかしらで魔法が使われていた。

 

 「そりゃそうですよ。魔法は生きるのに必要なモノですからね」


 「ふうん、じゃあ俺もなにかしら使えるんだよな?」


 「えっ!?もしかして魔法使えないんですか!?」


 「あはは......、あれだ、記憶と一緒に忘れちゃったみたいだ」


 俺が今使える魔法は『状態透視』たった一つ。

 しかも大した役には立たない。

 早く手から炎出してみたいなぁ......。


 「魔法は『この魔法は自分に絶対に必要だ!』って思うことで発現するんです。だからほぼ皆火炎魔法や水流魔法は使えますよ」


 「なるほど。じゃあ俺、今すぐ火炎魔法使える?」

 

 この世界来て一番の興奮だ。

 だって、魔法だよ?

 手から黒炎竜召喚できちゃうかもだよ?


 「生肉があればできます」


 「生肉?」


 「はい。生肉を食べれるようにするには焼かないといけないですよね? この時に、『炎が必要』なんです」


 「あー、なるほど。そうやって出すのか」


 「じゃあわたし、ちょっと買って来ますねー」


 そう言って、赤毛ポニーテールちゃんはどこかへ消えてしまった。


 ......、どうしようか。

 まぁ、テキトウに見て回るか。


 「らっしゃーい! 今日も元気なヤツがいるぞ!!」


 と、一軒目で面白いモノを見つけた。

 なんかフワフワでポヨンポヨン跳ねてるスライム的な魔法生物っぽいのを見つけた。

 ......か、かわいい!

 なんかよくわからんがすっげえかわいいんですけど!? 目ついてるし!

 フワフワポフポフでムニュムニュ......。

 お菓子の宣伝かよ。

 

 「おっ!兄ちゃん、ポイズネスグミが欲しいのか!? いいねぇ、今日は特別安くするぜ!」


 すごいハイテンションな兄ちゃんがポニョポニョスライムをすすめてきた。

 ポイズネスグミって言うのか。食べれんのか? いや、ポイズネスだから無理か......。


 「あの、これはどういうヤツなんですか?」


 名前からしてペットじゃなさそうなので、興味本意で訊いてみた。

 

 「おおっ! ポイズネスグミ見るのは初めてか!? おうおう、コイツは敵に投げて使うアイテムの一つだ。異常誘発魔法生物(キラード)って言うんだぜ?」

 「異常誘発魔法生物(キラード)?」

 「ああ。敵にブチ当てたらコイツはそれを認識して爆発すんだぜ?そしたら一面毒ガスって訳だ。ウッゼェ魔法生物や害虫どもも一発だ!」


 「ふーん、面白いなコイツ。一個ください」


 という訳で、有毒ポニョポニョスライムを一個買う。通貨は赤毛ポニーテールちゃんに貰ったものを使った。


 「まいどありー!また来いよ!!」


 コイツ、勝手に爆発とかしないだろうな......。

 ポイズネスグミのポイズンくんは相変わらずポニョポニョ跳ねていた。


 「あ、レイラ王子! 買って来ましたよ」

 

 振り返ると、赤毛ポニーテールちゃんが、ビニール袋(本当にビニールかどうかは確かではない)を持って立っていた。


 「ああ、悪いな。で、どうやったらいいんだ?」

 

 ゴソゴソと何かの肉を取り出す。

 ホントなんの肉だろ......。

 

 「レイラ王子、ステーキ食べたいですか?」


 「え、食べたいけど?」


 最近美味しい肉食ってないし。


 「わかりました。じゃあその思いをこの肉にぶつけてください!」


 「お、おう」

 

 ステーキ......、ステーキが食べたい。

 ステーキが食べたいステーキが食べたいステーキが食べたいステーキが食べたい......。

 ......。

 ......。


 「......なんも起きないけど?」

 

 生肉は生肉のままだった。

 なんだか、トランプマジックをミスった時みたいな雰囲気。

 

 「あ、あれ? おかしいですね......もう一回やってみてください?」

 

 俺はステーキが食べたい俺はステーキが食べたいステーキが食べたいステーキが食べたい.......。


 「.......ステーキ出てこないぞ」

 

 やっぱり生肉は生肉だった。


 「あ、あれぇ? おかしい、二歳児でもできるのに......」


 怪訝な目で俺を見る赤毛ポニーテールちゃん。

 そんな目でこっち見ないでください! 俺は二歳児じゃないです!

 

 その後、肉を変えてみたり、赤毛ポニーテールちゃんが試してみたりしたが、どうやら原因は俺にあるらしかった。

 ヤバい、俺もしかして二歳児以下なのか?


 「ね、ねえレイラ君、もしかして記憶と一緒に精霊力も失くしちゃったんじゃないですか?」


 「んな!?」


 本当は記憶喪失になどなっていないので、それはあり得ないが、精霊力が無いってのはあるかもしれない。

 という訳で、一回視てみる。

 傍にある鏡に映った俺を「凝視」する。

 鏡の中で、瞳が水色に染まり、ステイタスが見えてくる。


   キミドリ=クロセ (16)

   残命値 77%

   損傷状態 nothing

   精霊力 100%

   稼働率 65%

   特殊魔法 状態透視


 精霊力はMAX溜まっていた。

 ということは、俺が魔法を使えない原因は他にあるのか?

 それとも、もともと精霊力が0なのか?

 0の100%は0だ。

 

 「ね、ねぇレイラ君? その目どうしたの?」

 

 赤毛ポニーテールちゃんが俺の目に気付いたようだった。

 もしかして、あの帝王も俺の水色の眼を見て気付いたのか?

 

 「あ、いや......。これ、多分魔法だと思うんだけど」


 「ま、魔法?どういう?」


 「あー、多分ステイタス可視化魔法だ」


 「えええっ! それってオリジナル魔法じゃないの、ですか!?」


 彼女はそう素っ頓狂な声を上げた。

 やっべぇ、赤毛ポニーテールちゃん、超かわいい......。

 にしてもオリジナル魔法か。これそんなに大層なモノだったのか。


 「なんだ? オリジナル魔法って」


 「ええ、オリジナル魔法はその名の通り、限られた極一部の人間だけが使える魔法よ」


 「ふぅん、あんま使い道ないんだけどな」


 「記憶を無くす前はそんな魔法使えなかったのに......」


 ついでにいろいろな人を視てみる。

 おお、意外と面白いなコレ。

 いやそんな事より。


 「で、なんで俺は魔法使えないんだ?」


 「なんでかしら.....やっぱり先代の『呪縛』ですか......」


 『呪縛』。先代国王が死に際に放った最後の抵抗だ。このおかげでウィリアは力を失った。

 もし本当に俺にも『呪縛』が働いていれば魔法が使えないかもしれない。

 なにそれ......。

 すっごい困るんですけど。

 魔法の世界で魔法を使えないとか、不便すぎて逆にもうテンプレなんですけど!


 あとやっぱどうでもいいけど、赤毛ポニーテールちゃんの敬語甘くね?


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