第四章 逃避行って基本的に、メインヒロインとするモノですよねぇ。
「はっ、くっ!」
あれから10分くらい経っただろうか。俺はまだ逃げきれずにいた。
先程電流が放たれた地点を「凝視」。視界に映るのは、次の攻撃の合図だ。
地力魔法 コスト3
思いっきり真横へ回避。体の節々が悲鳴を上げるが、そんなモノは気にしていられない。次の瞬間、
ズッゴォォォン!!
という轟音と共に、先程俺が立っていた地面が突き上がった。
地力魔法。おそらく地形を操る魔法だろう。
視ては避け、また視ては避ける。俺はずっとこんな事を繰り返している状態だ。今こうして生きていられるのは、「状態透視」に魔法を予知する機能があったからだ。ずっと先の事とか具体的な事はわからないが、例えば「火炎魔法 コスト3」などとどんな魔法がどんな強さで襲ってくるかはわかる。
それだけで十分。いや、十分過ぎるな。
おかげで反撃や防御はできなくとも、回避はできる。逃げるのに、反撃や防御は必要ない。回避ができればそれでいい。
それに、魔法が繰り出される頻度が段々少なくなっている。
俺の約30メートルくらい後ろの木を「凝視」。敵はそこに隠れている。おそらく攻撃頻度減少の原因は、
精霊力 22%
これだ。精霊力。たぶん、魔法を使うのに必要なMPみたいなモノだろう。
つまり、敵のMPは残り20%弱。相手も慎重に魔法を撃っているという訳だ。
それを乗り切れれば、俺の勝ちだ。
「あと、少し......!」
動こうとしない足を無理矢理動かす。こちらの稼働率もほとんどない。根性で持ちこたえている状態だ。
それでも、容赦なく襲いかかる殺意。ただ俺を殺そうとしてくるそれは、魔法自体よりも怖かった。殺意が自分に向けられているという事実が、怖かった。
「クソがッ!ふざけんじゃねよ!何で俺がこんな目にあわなくちゃならねえんだよ!!」
もう限界だ!ここまで頑張ったんだから、逃げる事から逃げたっていいじゃないか!
一瞬そう思ってしまう。負の考えは自分の思考に致命的な隙を与える。
ズドッ。
「ぐがっ!?」
全身に襲いかかる激痛。俺の背中に、巨大な岩石が激突していた。少し気を抜いたばかりに回避が間に合わなかった。
倒れ際に敵が、殺意の塊が見えた。もう赤毛ポニーテールちゃんに変装してはいなかった。ローブを羽織っていて、顔は見えない。だが、おそらく笑っている。俺の無様さを見て笑っている。
「く、そ......」
結局、追い付かれてしまった。無駄な逃避行に終わったか。
ザクザクと足音を立てながら近づいてくる影。俺は目を瞑る。俺は、ここで死ぬのか。ったく、異世界に来たばっかだっていうのに、何もせずに死ぬとは。本当に情けないな。
困った事に目を瞑った状態でも、「状態透視」は機能した。目蓋を通してでも、敵のいる方を「凝視」すれば、ステイタスは暗闇に表れた。
電流魔法 コスト4
感電死、か。できれば老衰で死にたかったな。ま、もうどうせ死ぬんだから関係ないか。でも、せっかくファンタジーワールドに来たんだからさ、お姫様の一人や二人、助けたかったっていうか、なんというか。
ぼっち脱却のために異世界まで来たっていうのに、結局死ぬ時まで一人。報われないな、俺。
そして、その時は待ってくれなかった。
ズバチィッ!!
電流の流れる音。さっきの逃避行で何度も聞いたモノだ。あんなの喰らったら痛いだろうなぁ。いや、痛いとか感じる前に死んでるか。
....................................................................................................................................................て、あれ?
なんで俺、生きてんの?
じゃあさっきの派手な効果音は何だったんだ?
瞳を開ける。視界に飛び込んできたのは、
地面に仰向けに転がりながらピクピク痙攣しているローブの男と。
それを踏みつけながらニヤニヤ笑っている、赤毛ポニーテールちゃんだった。
「もう、危機一髪でしたねぇ、レイラ王子」
開口一番、超笑顔でそう言った赤毛ポニーテールちゃん(本物)に、この状況でかわいいと感じてしまった俺は不純ですね。
「いや、マジで危機一髪......」
「はははっ、わたしがここに来たからにはもう大丈夫ですよ?王子の身は、責任持って王国へ送り届けますので!」
は、ははは。もう何だか笑えてくる。やっぱ平和が一番だなぁ......。
スゲェよ、赤毛ポニーテールちゃん、あんな強敵を一撃で葬っちゃうなんて......。本名は、レフィリア......だっけ?
まあいい、今はそんな事より、だ。
「あー、悪い。もう足が一歩も動かん......」
「あー、えー、す、すみません。助けるの遅くなっちゃて。大丈夫です、浮かべて運びますので」
ふわり、と体が宙に浮かぶ。なんだか幽体離脱してるみたいだな。
ともあれ、これでやっと俺のファンタジーワールドでのファンタジーライフが始まる。............い、一応確認しとくか。
という訳で、赤毛ポニーテールちゃんの横顔を「凝視」する。ステイタスは、
レイチェル=アトラス (16)
残命値 87%
損傷状態 nothing
精霊力 61%
稼働率 65%
念動魔法 コスト4
うっ、レイチェルだったっけ?レフィリアじゃなかったっけ?俺はどうも人の名前を覚えるのが苦手だ。
まあ、16歳だからたぶんあっているはず。
そう思うと、張り詰めていた集中が途切れ、自然と意識が薄れていった。
俺の異世界生活(戦争中の一国の王子などという謎設定付き)は、こんな感じで最悪なスタートを迎えたのだった。
ったくどうなるよ......、俺の第二の人生!!




