第三章 異世界ならば、チート能力が基本だと思いますが。
ふん、まあまあだな。まあ、俺の方が断然上だ。
何が上なのかと言うと、俺の今の容姿である。
それなりに整った顔立ち。カテゴリー[イケメン]に属せるだろう。(俺の方がイケメン)
体格は、俺と同じくらい。(俺の方が筋肉あるよ)
髪の色は俗に言うアッシュブラウン。(いや、俺一般的な黒だし。比べようねえし)
まあ、ようはそれなりにカッコいいということだ。(だが俺の方がry)
......一つ気に入らない点があるとすれば、目だ。
色は黒。死んだような目、とまではいかないが、なんというか、覇気がない。もとの俺のそれとそっくりだ。
さて、なぜ俺が今の体の容姿を見ることができたかだが、単純に、大きな湖を見つけたからだ。
水面に写った俺の顔は、もとの俺とは似てるようで似てない、兄弟のような感じだ。
「......、もう一回やってみるか」
俺の魔法。ステイタス可視能力。
やり方が正しいかどうかはわからない。だがやってみる価値はある。
さっきの赤毛ポニーテールちゃん(たしか、レイチェル=アトラスだったか)の時と同じように、水面に写る俺の顔を「凝視」する。
すると、
「おっ! でた!!」
水面の瞳は水色に染まっていた。そして、
幾つかの文字と数字。
キミドリ=クロセ (15)
残命値 91%
損傷状態 擦り傷 切り傷
精霊力 100%
稼働率 32%
そして最後に、俺の望むデータがあった。
特殊魔法 状態透視
「状態、透視......か」
どうやらこれが、俺のこの世界での魔法らしい。にしてもステイタス可視能力かー。なんか微妙だなぁ。ほら、異世界来たらチート能力って相場が決まってるじゃん?
ステイタス見れるだけじゃ相手に攻撃することも、相手の攻撃をガードすることもできないのだ。
あれ......、もしかしてこの能力、かなり雑魚いんじゃないの?
しかもこの能力、『状態透視』とか言ってるけど、透視できないんじゃ......。
透視できるのは相手のステイタスだけ、という訳か。
ま、まあ、まだ諦めるには早すぎるぞ、俺!
だってほら、さっきの兵隊さんたちは炎と電気とかいろいろな魔法使っていた訳だし。まだ違う魔法を使える可能性もある訳で。
うん、この魔法の使い道については後々考えるとしよう。
それより、だ。
「一体どこまで歩かなければならんのか......」
この湖は赤毛ポニーテールちゃんの居た所から歩いて10分くらいで見つけた。しかし、全くもってここから脱するビジョンが見えない。湖があったのだが、やっぱり周りは木ばっかり。くそう、ファンタジーワールドならファンタジーらしく転移魔法とか使わせろよ!
危うく世の理不尽に叫びそうになる。赤毛ポニーテールちゃんに見つかると厄介だ。
別に赤毛ポニーテールちゃんに「道に迷ったんだけど......」って尋ねてもよかったのだが、敵か味方かもわからない、見た目不審者な俺が言えばどうなるか。痴漢か何かと勘違いされ話も聞かずに瞬殺! もありえるのだ。痴漢はないと思うけど。
取り敢えず、進み続けるしかないのだろう。はっきり言って、目的地と方角も定めずに森を歩くのは危険極まりないと思うのだが。
ったくー、ファンタジーワールドに来たんだからファンタジーさせろよぉ、と俺がブツブツ言っていた時だった。
「ちょっと、き、貴様! 何でこんな所にいる!!」
ぬあっ!? 見つかった!
叫び声は背後から。性別は女だ。
どうする、俺。振り返るか? その後何て言う? 素直に迷子です、で通るか?
「何でここにいるのか訊いている!!」
仕方ない、何とか説得して人のいる所に連れて行ってもらおう。
空気を吸う。ゆっくりと振り向く。
「い、いやごめん、ちょっと迷っちゃって.....」
そこにいたのは赤毛ポニーテールちゃんだった。ていうか、何でそんな驚いた顔をしていらっしゃるのですか。高校生が迷子になるのはそんなにおかしいですか。
「な、何で、こんな所にいらっしゃるのですか!?」
......は? 何を言っているんだコイツは。迷子だって言ったろうが。
じゃなくて。なんだコイツの口調の変わりようは。
「いや、だから......迷子......」
恥ずかしい! 遭難者も迷子に分類されるなんて!!
しかしまだきょとんとしている赤毛ポニーテールちゃん。
「そうではなくて。なぜこんな所に来ているのですか、王子」
.....................................うん? 王子? 俺のことか??
たっぷり10秒の沈黙。破ったのは彼女の方だった。
「あれ、もしかして、覚えてないんですか?」
「お、覚えてない......」
よし、いいぞ。赤毛ポニーテールちゃん、記憶喪失を疑っているな?そうだ、俺は記憶喪失なのだ!
「王子、もしかして、記憶喪失ですか!?」
よっし、『異世界来たら記憶喪失設定』は基本だな。
「悪い。俺、記憶無いみたいだ......」
「えええ! ど、どうしよう......王室からそんな連絡なかったし......。まあ、連れて帰ったらいいよね」
まあって何だよ、まあって。一応俺って王子様でしょう?
「という訳で、さっさと帰りましょう。レイラ王子」
「お、おう」
赤毛ポニーテールちゃんははにかみながら言った。うっ、かわいい......。
レイラ王子。どうやら、それが俺のこの世界での名前らしい。
▼▼
ひとまず、人のいる所に行けることになった王子様こと、黒瀬君鳥だった、のだが。
「っく、いつまで歩き続ければいいんだ......」
「うーん、あと一時間くらいじゃないですか?」
ぶっちゃけ、もう体力が限界である。マジで足がパンパン。
俺が自分の太股を「凝視」していると、例のステイタスが視界に映る。
稼働率 19%
なるほど、稼働率ってのは体力とかそんな感じのデータなのか。
はぁ、てか速いな赤毛ポニーテールちゃん。体力どんだけあるんだよ......。視てみるか。
そのまま、赤毛ポニーテールちゃんを「凝視」する。ステイタスが現れる。しかし、
「え?」
「どうかしましたか王子」
「いや、何でもない」
おかしい。そう思った時にはもう、体が動いていた。否、止まっていた。
息を殺して5秒間立ち止まる。そして音を立てないように、木の陰に隠れる。
赤毛ポニーテールちゃんは気付かずそのまま歩き続けている。
いけるか? いや、こっちから逃げるべきか。
俺はそのまま森の中を進み続ける。
くそう、あんまりだろ。いきなり偽者かよ!!
あの時、俺の視界に現れたステイタスは、予想外のモノだった。
エルビィ=アルデン (36)
残命値 78%
損傷状態 右肘 肩
精霊力 68%
稼働率 70%
誰だよ! エルビィって! 30越えてるじゃねえか。
そして、最後の行。
念動魔法 コスト3
念動魔法。おそらく、俺の脳におかしな認識をさせてるのだろう。完全に騙された。最初に透視すればよかった。
エルビィとやらが赤毛ポニーテールちゃんに変装しているということは、おそらく本物の赤毛ポニーテールちゃんは俺の味方なのだろう。
俺は一応王子だ。つまり俺の死は、どこにあるのかどんなのかもわからない王国の存亡に関わっているのだ。
このまま死んでたまるか。何も知らずに死ぬのは嫌だ。
ゴォォォ!
「くそっ、気付かれたか!」
俺の背後20メートルくらいの所で木が燃えていた。
行けるか? 使えるか、『状態透視』。
豪々と燃え盛る木の近くを「凝視」する。
「見えた!」
現れたステイタスにはさっきは無かった新たな文字列が。
火炎魔法 コスト3
くそっ、やっぱり魔法か。
おそらく火炎弾か何かを飛ばしているのだろう。俺が現状を打開する方法を考えている間も、火炎弾は容赦なく降ってくる。軽く山火事状態だ。
対して俺の能力はステイタスを視る能力だ。反撃することはもちろん、防御することすらできない。変に便利な事はできるのに、当たり前のことができない。 まるで俺のような魔法だな。
ズドォォォォォォ!!
「くそっ、次は水か!!」
激流、とまではいかないが、足元を取られるくらいの水流が俺を襲う。水流に呑まれないよう、近くの木に掴まり、足を取られないようやり過ごす。
くそっ、今ので大分距離を縮められちゃったか!?
水源を「凝視」する。表示されたステイタスには......、
電流魔法 コスト4
......電流魔法? いや、アイツはまだ何も......まさか!!
限界寸前の足を必死に動かし、水流から脱する。そのままの勢いでできるだけ遠くまで転がる。
ゴンッ、と嫌な音が響いた。転がった拍子に、頭と背中を木の幹に打ちつけてしまったのだ。
痛ッてぇ!思わず叫んでしまう。
その直後。
バリリリリリリッ!!
迸る電流が水流を伝い、バリバリという死の音を鳴らす。
危なかった。あと少し遅れていれば確実にやられるところだった。ヤバい。アイツ、マジで俺を殺す気だ。今になってそう実感した。
ファンタジーのクソ野郎。俺は現在一国の王子だ。つまり、俺の死は国の存亡に関わっているのだ。俺は王子という位の重要性を理解していなかった。自分が王子、とわかった時から自分に近づいてくる人間に細心の注意をしなければならなかったのだ。それ故の今の状況。
押し寄せてくる後悔。だが今はそんな事を考えている場合ではない。敵は目前まで迫っているのだ。おそらく、火炎弾で直接焼き殺せる距離まで。
もう、逃げ場は無い。
「最悪だな......」
ボソリと呟く。もし、黒炎竜を召喚できるとか、極太ビーム砲ぶっ放せるチート能力者がこの現状に陥ったのならば、俺みたいに惨めにボロボロになりながら逃げ続ける必要なんて無いのだろう。
隠れもせず敵と正面からぶつかり、相手をフルボッコにしてやる。ついでに女の子の一人や二人助けられれば最高だ。
正義のヒーローとは、悪の敵と真正面からぶつかり合うモノだ。それが模範回答で、一番褒められたやり方なのだろう。正々堂々と、逃げず隠れず戦え。よく言う事だ。
だが、じゃあ逃げる事は、隠れてラスボスをやり過ごすことは悪い事なのか?
今の俺のように何の力も持たない無力者が、異能バンバン使ってくるチート野郎相手に正々堂々と、真正面から、拳を握って戦うことは正解だと言うのか。
自分や他人の力を理解せず、見栄を張り、上から見下ろしてきやがる。そんなもとの世界と同じじゃないか。
自分の非力さを理解しない事は悪で、罪だ。
だから、俺は戦わない。ただ俺は逃げ続ける。俺は非力だからな。
惨めだろうが見苦しかろうが、そんな事はどうでもいい。今の状況を打開できるのならプライドなんか捨ててやる。尻尾振りながらでも、背後から焼かれようとも、俺は逃げ続ける。
この状況で『状態透視』は意味を成さない。わかるのは、俺の残り体力ぐらいか。




