第二十八章 少年の刃
「あのさー」
「ん、何ですか?」
「いや、やっぱり俺、認識されてないよな、この国の王子だって」
「そうですね......。まぁ、あなたは表舞台に出たことが全くと言っていいほどなかったですし」
そんな会話をだらだらとしながら、レイラ=ストラテスこと黒瀬君鳥と、俺の付き人であるレイチェル=アトラスは城のかなり大きな武器庫を周っていた。
あれからちょうど一日が経った。
俺とガブリエルが激突したのは昨日の朝の事だ。死闘の末、俺はガブリエルに打ち勝ち、共に意識を失った。だからその後の事は全てレイチェルに聞いた。
どうやら、彼女は俺より先に意識を取り戻したらしく、まだ俺とガブリエルは地に倒れていたという。
そして彼女がガブリエルを捕縛しようとした時だった。
メタトロン。
そいつはそう名乗ったそうだ。メタトロンと言えば、『七天使』の一員だ。しかも彼女の話によるとその天使はガブリエルよりも上位に位置するらしい。あの水色の天使よりも強い。彼女はそう言った。
ともかく。
メタトロンはレイチェルがガブリエルを縛る前に、ヤツを抱え上げ、どこかへ消えてしまったそうだ。
ガブリエル確保はならなかった訳だ。
そして俺は昨日の夜に目を覚ました。
目を覚ました時には城に運ばれていて、枕元でレイチェルが半泣きだった。
城の最高ランクの治癒系統魔法を扱う魔術師によって体の傷は綺麗サッパリ消えていた。
以上が俺の『前回までのあらすじ』だ。
もう一つ。ガブリエルのとの戦いで俺が守れなかった少女。
ローズ。
彼女のことについても話しておくべきだろう。
彼女は死に際に言っていた。
私は誰かの役に立てたのかな。
結論。
彼女はきちんと守り切っていた。勿論、俺やレイチェルも助けられたが、それだけではなかったのだ。
俺はローズが『聖樹の苗木』の最後の生き残りだと思っていたが、そうではなかった。
もう一人、残っていた。
ガブリエルが殺しそびれた少年がいたのだ。
彼は俺より一つ下の新入りらしかったのだが、ローズの話を泣くのを必死で我慢しながら聞いてくれた。なんでも、呪いの技術に関するあれやこれやをローズから教わっていたらしい。
彼は、自分が『聖樹の苗木』を立て直すと言った。そして『アスカルトの神』に認められるような人間になると。
まぁ、彼の決意に満ちた表情を見る限り、大丈夫だろう。彼は俺よりもよっぽど強い。きっと簡単に逃げて、諦めるような人間ではない。
あなたの立場上、あまり長話はできないと、少年は言って城を去って行った。
俺はその後ろ姿を見送りながら思う。
ローズ、やっぱりお前は大事なものをちゃんと守り抜いたよ。
▼▼
で、時は現在に至り、城の武器庫。
何故俺たちはそんな所にいるのかというと、これまた少し時間を遡る。
今朝の作戦会合で司会役のラインヘルツが言ったのだ。
「王子殿には足りないものが三つありますぞ!」
「?」
「一つ目は経験です。身体で覚えている、のかもしれませんが、やはり記憶が物を言いますな。その点、王子殿はほぼほぼ経験がないに等しいのです」
言われてみれば確かに。素人ながらガブリエルを倒した俺はスゴいと思う。
「二つ目ですが、これは武器ですな。いくらなんでも支給品のナイフだけでは心許ない」
まぁ、そうだよな。支給品でガブリエルを倒した俺はスゴいと思う。
「三つ目ですが、これが一番厄介ですな。王子殿は今現在まったくと言って良い程、魔法が使えない。魔法がなくてはどうにもならないこともありますぞ?」
わかってるよ。魔法の才能なしでガブリエルを倒した俺はスゴいと思う。
で、一番手っ取り早いのが二つ目の武器ということになったので、早速武器庫でなにか良い物はないか探しにきた訳だが......。
「どーですかー? 何かありました?」
「いや、あんまり......」
なんかこう、パッとしない。別に聖剣とかそんな大層なものは求めていないが、全部が全部、アイアンソードっぽくて嫌だ。
「そうですか。やっぱり外で新しく作って貰う方がいいですかね」
「そうだな.....」
脳内で毎度お馴染みRPGの合成シーンを思い浮かべながら応える。それなら少しはましだろう。
「じゃ、飛びますよ」
「え」
直後、視界が歪んだ。歪んだと思った時にはもう元に戻っていた。レイチェルの専売特許『空間移動』だ。
「で、ここはどこだ?」
くるくる周りを見回すが、勿論俺が知っている訳がない。
「聖クロイツェフ帝国のアシュランドという街です。ここはクロイツェフで一番武器が集まる街で有名ですよ」
なるほど。
それにしても、こう何度も敵国を訪れても大丈夫なのか? 俺が王子として認知されていないとはいえ、不安だ。
「じゃ、行きましょうか」
「......お、おう」
ま、大丈夫だろ。万が一何かあれば『空間移動』で脱出すればいいだけのことだ。ポニーテールちゃん、マジ有能。
▼▼
「にーちゃん、これなんかどうだ!!」
俺は威勢良く提示された一本の剣を見て首を振った。これは武器庫で見たのと同じだ。多分。
「うーむ、悪いな、これが今一番人気なんだがな......」
「人気なんですか、この剣」
レイチェルが聞いた。そう言えば、彼女は武器を使うのだろうか。
「おうよ! 『ネバーフレイ』っつうんだぜ? なんだ、知らなかったのか?」
『ネバーフレイ』か。フレイって言ったら北欧神話に出てくる神様のことか?
「こいつはなぁ、精霊力を吸収させて強化できるんだぜ?」
なるほど。自分の精霊力を使って強化できるって訳か。注目を浴びそうなアビリティだ。
しかし俺は精霊力を持っているのかわからないので使えない。
店長に『ネバーフレイ』を返し、武器屋を出た。
「ないですねー。もうこれで四軒目ですよ?」
「仕方ないだろ? どれもしっくりこないんだから。ていうか、あんな流行の物なんて使っても意味ないだろ」
他人と同じ物を使っていては他人より上には出られないだろ。
「ほんっと、武器屋だらけだな」
武器屋の隣が武器屋である。その隣も武器屋だ。競争ハンパない。
どの店も客引きに必死である。
「でもこの前、どこかの店で聖剣が出回ってたらしいんですよ!」
「聖剣が? ていうか良いのかよ、そんな物売ってて......」
勿論、即売られてしまったそうだ。
「っと、ポニーテールちゃん、ちょっと鹿を狩ってくるね」
「???」
お嬢様でいう、『お花を摘んでくる』の男バージョンだ。そんなのない。
路地裏の方に『トイレ』と書いてあったので、そちらの方へ。
と、そこで。変な物を目撃した。
「なんだ、これ?」
壁が、ぐにゃりと歪んでいた。
紋様がとか、造りが、ではなく、そこの空間自体が歪んでいたのだ。
なんかめっちゃ3/4番ホームとかありそうか感じだ。
どうする? とりあえず触ってみるか?
「......と」
歪みの中心に触れる。
その瞬間。
ふっ、と風が吹いたような気がした。
そして、目の前の壁が消えていた。
「おおっ! なんだ!?」
思わず声をあげてしまう。なんか感動的だ。これぞまさしくファンタジー。
「いらっしゃいませ」
奥から声がした。
段々と光が当たり、奥にいた人間が照らされる。
そいつは言った。
「ようこそ。どういった武器をお望みですか?」
「え、あ......」
そいつは俺と同じくらいの、銀髪の少年。カウンター上で腕を組んでいる。
ていうか、気付けば俺は建物の中にいた。
なんだ? 何が起こった?
とりあえず訊いてみる。
「えと、あのー? 武器売ってるんですか、ここ」
「ええ。腕によりをかけて、お客様の注文に応えさせていただいております。世界に一つだけの物ですから」
なるほど、オーダーメイドか。
「どんな剣があるんだ?」
「お客様に一番合う物をお作りいたします」
「じゃあ一つ頼んでいいか?」
俺がそう言うと、少年は頷いてかしこまりました、と言った。
すると、少年はカウンターの下から紙とペンを取り出して、
「では、あなたの情報を教えていただきます。お名前と、これまでの扱っていた武器。それから一番使う魔法」
「......」
少し迷った。
ここでレイラの名を出すかどうか。この銀髪、少し特異な雰囲気を纏っているように感じる。まるで、全てを悟られているような......。
警戒すべき、と脳内で警鐘が鳴る。
ならば。
「俺は、キミドリ=クロセだ。今までは......短刀を使ってたけど、別に剣の種類は気にしない。あと魔法なんだが、俺は基本的な魔法は使えないんだ。使えるのは、相手のステイタスを視る能力だけだ」
「ステイタスを視る能力、ですか?」
俺が今言ったことをメモしながら訊いてきた。
まぁ、オリジナル魔法だからな。聞いたことないだろう。
「わかりました。では、それでお請けいたします。少しお時間頂きますが、どうでしょう、我が工房をご覧になりますか?」
剣がどうやって作られるのかが見れるということか。
めっちゃ面白そうじゃねぇか!
「ぜひ! ぜひ見せてください!」
「わかりました、どうぞこちらへ」
おおーっ、異世界で行ってみたい場所ランキング入りスポットだぜ!
一体、どんな所なのだろうか。
カウンターの裏にあった階段下る。
長い階段だった。とても、長い長い階段。いつかの教会ダンジョンを彷彿とさせる。
やがて。
「ここです」
「おおーっ! スゲェな!」
地下深くに広がっていた工房には、いかにもといった設備や工具があり、二十人ほどの人間が作業をしていた。まさしくファンタジーな景色だ。
銀髪の少年は俺を残して工房まで下り、そこで作業をしていた誰かに何かを言った。
「......?」
なんだ、何か揉めているのか?
しばらくして、少年は俺の下に戻ってきた。
やはり何かあったらしい。
「すみません、一つ重大なことがわかりまして......。武器の製作に必要な素材を一部切らしてしまっていたようなんです」
素材? 剣を造るのに金属以外に何かいるのか? マジでファンタジーワールドだな......。
銀髪の少年は続ける。
「手に入れようと思えば今日中に手配できるのですが、人手が足りないのです......」
「その、素材? をゲットするのに人手が必要なのか?」
「はい。具体的に何が必要なのかと言いますと、『雷獣の牙』という、このあたりではあまり手に入らない物なのですが」
「『雷獣の牙』ねぇ......。で、それはどこで手に入れられるんだ? 悪いが俺には時間がないんだ。急がないと全てが手遅れになってしまう。だから俺にできることなら協力するよ」
言うと、銀髪の少年は少しだけ考える仕草を見せ、
「わかりました。本来お客様に迷惑を掛けるようなことは言語道断なのですが、特別にお力添え頂くということで」
「ああ、よろしくな。......そう言えば、名前聞いてなかったな」
銀髪の少年は真っ直ぐ俺の瞳を見据え、言う。
「私はパーロット=クエーサー。この街の一角で武器屋を営ませていただいている者です。以後、お見知りおきを」
俺とパーロットは握手をする。
最初は少し変なヤツだと思っていたが、普通に良いヤツだと思う。人はよく見てから判断しないとな、本当に。




