第二十七章 超常アソシエーション
「はぁ、はぁ......」
背後でレイラの荒い呼吸が聴こえる。
無理もない。彼はさっき、死ぬ気無しで飛び降り自殺同然のことをやってのけたのだから。
カウントダウンの後、私も全速力でダイブしてレイラの体をキャッチした。結構地面ギリギリだった。
少しでも休憩したいものだが、そうはいかない。あの爆弾魔の追跡から逃れないと。
「大丈夫? 悪いけど急ぐわよ」
「急ぐって、どこ行くんだ?」
少し考える。
今から行こうとしているのは私の家だ。正確には、家の地下研究所。そこに行って一つ確かめなければならない。
「えー、空は使えないとして......」
飛行することも出来るには出来るが、注目を集めるのは避けたい。となると素直に地を行けばいいのだが、残念ながらそれもダメそうだ。何せ、人が多い。
「それにしても、すごい人だな......」
「軽いパニックね......」
突然ホテルが大爆発したのだから無理もない。地上は混乱する人々で溢れ、私とレイラは離れ離れにならないようにするので精一杯だ。走ることもままならない。
地道に進んでいくしかない。
「ていうか、さっきのアレはなんだったんだ? この世界に魔法はないんじゃなかったのか」
「ええ、魔法なんてファンタジーなものはないわ。あるのはそれよりずっと真っ黒い不純物。例えば私みたいにね」
「ふん......」
それにしても、あの爆弾魔は何者なのだろうか。私と同じ人体改造された常識はずれのデタラメなのはわかる。そうではなく、彼女が果たして芹将二によって造られたのかどうかだ。そうでなかった場合、状況はかなりヤバいと言っていいだろう。
何故なら、私は芹将二以外の科学者を知らないからだ。
父以外に、本物のマッドサイエンティストを知らないからだ。
だから、彼女がどこまで外れてしまっているのかがわからない。私は四肢を変形させ、生態エネルギーを馬鹿みたいに増幅させてプラズマ砲を射つに留まっているが、彼女は更なる次元に進んでいるのかもしれない。
文字通り、次元を越えているのかもしれない。
「地下鉄は......使える訳ないか」
「このまま進んでも大丈夫なんだろうな! 苦労して辿り着いたと思ったら待ち伏せでしたー、なんてオチは嫌だぞ!!」
「わかんないわよ、そんな事!」
タイミング良く人ごみを脱せられたので、出来る限りのスピードで走る。私はその気になれば脚を使って加速できるんだけど、レイラは着いてこれないし、目立つし。
残念ながら、世界記録以上のスピードで走っている人間を普通とは思わないだろう。
▼▼
「だ~、疲れた......」
「ホントよ、もう......」
一つ先の駅からバスに乗った。一駅離れれば意外にも人は少なく、混乱に陥っている人間もいなかった。
さてと。
目的地は自宅。おそらく勝負はそこからだ。
「なぁ芹、君は何か狙われるようなことをしたのか?」
「んー、別に彼女に恨みを買われるような事をした覚えはないけど、私の存在そのものが狙わてる、って感じね」
「ふん......」
全然興味なさそうだった。なんだコイツ。私が折角国家機密レベルの情報を教えてあげてるってのに......。
まぁ、変に詮索されても困るんだけど。
「ねぇ、レイラ」
ふと、『向こうの世界』について訊きたくなった。異世界というワードには嫌でも興味が沸く。
「ねぇ、あなたのいた世界ってどんな所だったの?」
「ふん......」
レイラは、あからさまに嫌な顔をした。訊いちゃ駄目なことだったか。
「あの世界は」
「?」
教えてくれるんだ......。
「あの世界を一言で形容するならば、『悲惨』だ」
「『悲惨』......?」
「ああ、あの世界は悲惨で、狂っていて、壊れていて、誰も幸せにはなれない」
誰もが不幸で始まり、不幸で終わる。
そう言った。
一体、どういう事なのだろうか。
「魔法なんて物は誰も幸せにはしない。魔法に頼って、依存して、気付いた時には堕ちている。取り返しのつかない所まで人は不幸になる」
「......」
「俺はそれが嫌で、嫌で仕方なかった。だからこの世界に来たんだよ。俺はこの世界に逃げてきたんだよ。今まで守ってきたものを全て捨ててな」
彼はそう言ったきり、一言も喋らなかった。俯いていて、その表情を知ることはできない。
レイラは何も思ったのだろうか。黒瀬君鳥の姿をした彼は、本当はどんな人間なのだろうか。
どれだけ考えても、答えは出なかった。
そんな事を考える私とレイラを乗せながら、地下鉄は東京の地下を行く。
行きつく終着駅は理想郷か、それとも戦場か。
だが心配はいらない。
おそらく、いや確実に、後者だ。
▼▼
「......っ」
真っ赤。
夜空が真っ赤に染まっていた。炎で真っ赤に染まっていた。
「何があった......?」
私たちの目の前で燃えているのは、私の家だ。
地下研究所が派手に爆発したらしい。まだ消防車両は着いていないようだ。
「やられた......」
「誰にだ?」
「決まってるでしょ、あの爆弾魔よ」
アイツの方が少しここにたどり着いたというだけのこと。
それはともかく、これからどうするか。
あまりレイラを危険な所に連れまわしたくないが、こればっかりは仕方ない。
私はレイラの視線に割り込み、言う。
「ファーストミッション」
「あ?」
意味なんてわからなくて良い。カッコつけてるだけ。
「加賀隼を捜せ」
「誰だ、その加賀ナントカって」
加賀隼。
私や水城、黒瀬君鳥のクラスメイトであり、クラス委員長。真面目で成績優秀、その上スポーツ万能で、顔もそれなりに良い。クラスの女子からは一定の票を集めている。
そして。
「加賀は、私と一緒なの。私と同じ、人間モドキよ」
「ふん......。で、そいつは今どこにいる?」
「わからない。でもここにいることは確かなの」
手分けして捜す訳にはいかないので、私の後ろにレイラが付いて行くことにした。
どうしても加賀を見つけないといけない。彼の協力がどうしても必要なのだ。私と彼の仲ははっきり言って犬猿の仲そのものなのだが、昔のよしみで協力してくれるかもしれないし、最悪脅す。
「左眼、リミットレベル2、解放」
透視能力。瓦礫に埋もれているなんて事はないだろうが、壁の向こう側まで見ることができるので、一応使っておく。
「芹、その加賀ってヤツは本当にこんな所にいるのか?」
「うん、発信機付けてたから」
「発信機......?」
と、その時だった。
「芹、か......?」
加賀隼。服のところどころは焼かれて破けていて、まさしくボロボロだった。
良かった。とりあえずは生きていたか。
「やっぱりしぶといわね、加賀」
「芹、お前、知ってるのか......」
何がよ。意味ありげに意味わかんないこと言わないでほしいわね。だけどまぁ、答えてあげるわ。
「......爆弾魔ね」
「ああ、あの女が、一瞬でやったんだ......」
一瞬、ね。
やはり彼女には『虚空爆破』以外の能力があると考えて間違いない。
エリーとか言う爆弾魔。彼女はおそらく『空間移動』を扱える。本当に次元を超えているのだ。
「で、加賀。わかってるわよね?」
「っく......、ああ、わかってる。俺とお前であいつらをぶっ潰す」
「わかってるなら大丈夫よね」
まずはあの爆弾魔を倒す。父を殺すのはその後でいい。
......。
......あれ?
あいつ、ら?
「ねぇ加賀、爆弾魔の他に誰かいたの?」
彼はらしくなく、息を切らしながら言った。
「あいつらの名は『AS』。Another Striker」
柱の残骸に手を着き、なんとか立ち上がって、こちらを見据えて告げる。
「芹将二とは違うルートを通じて造られた、人間モドキ共だ」




