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異世界からの多重人格者  作者: ますむ君
紫咲の擬態
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第二十二章  序章

 まずは自己紹介をしよう。


 私の名前は芹紫咲。ピッチピチの女子高生。市内でまあまあなレベルの高校に通っていて、友達も結構多い。好きな事、というか趣味は人間観察で、嫌いな事は、まあ、勉強かな。


 人間観察、なんて言うとコイツ変なヤツだな、って思われてしまうけど、別に四六時中誰かに怪しげな目線を送っている訳ではない。

 ま、自己紹介って言われて思い浮かぶ事はこれくらいかしら。

 勿論、趣味は人間観察だー、なんて口が裂けても言えないけど。


 「ねぇさっきー、次の時間割なんだっけ?」


 「次? 次は確か数学だったはずよ」


 今私に話しかけてきたのが、私の唯一無二の親友、戍亥水城(いぬいみずき)。学校内では一番の美少女で通っていて、実際その容姿とかプロポーションは、女子の目線で見ても羨ましいモノだ。


 まだ入学して一カ月とちょっとしか経っていないが、もう四回も告られたらしい。

 高校生になれば彼女ができるなんて馬鹿な考えをしているヤツが多すぎるのよ。

 

 「えー、数学かぁ......。私嫌いなんだよねー、数学」


 「水城、あんたそれ全教科で言ってるわよね」


 「びくっ!?」


 びくっ!? とか声に出すんじゃないわよ。こんなかわいらしい事ばっかやってるから男子が群がってくるのよ。

 これが彼女の自然体だから恐ろしい。そこら辺のブリっ子とは格が違うのだ。


 「そう言えばさぁ、この前のテストどうだったの?」


 「ああ、あの『習得率調査テスト』とか言う意味わかんないヤツ? 国語以外は全然ダメだったわよ。入試勉強で頭に入ってるはずなんだけど」

 

 『習得率調査テスト』とは、中学での勉強がどれだけ頭に入っているかを調べるためのテストらしいが、それだとなんのための入試をだったのか、ということになる。

 まあ、お偉いさんが決めた事だから仕方ない。


 「へぇー、さっきーって国語得意なの?」


 「まぁね」


 「私、得意教科なんて無いからさ、羨ましいよ」


 羨ましいのはあんたの容姿だよ、って言いたいが言えない。言ったら負け。私だって中学の時はそれなりにモテてたはずなんだから!

 

 「あー、そう言えばさ、私の隣の席の男子。今日は休みなんだけど」

 

 そう言って私は隣の席を横目で見る。今日は空席。

 まあ、いても全く喋らないからあんまり変わらないんだけど。


 「ん? 確か、黒瀬(・・)君だっけ? 彼がどうしたの?」


 「この前、テストの答案チラッと見ちゃったんだよね」


 「ふーん、黒瀬君って賢かったっけ」


 「いや、もうそんなレベルじゃなかった」


 もうマジでこれには驚いた。

 こんなヤツ漫画の世界にしかいないって思ってたんだけど。


 「それが満点ばっかだったんだよね」


 「満点!? ええっ、マジですか!?」


 「水城、声がデカいわよ」

 

 そう、彼、黒瀬君鳥はこの前のテストで満点を連発していたのだ。国語以外。


 「すごいね......」


 「ね、この世界には才能ってのがあるのよ、ちゃんと」


 「ううぅ......言わないで......」


 「で、なんだけど」


 「で?」


 さて、ここからが本題。私の人生を大きく左右するかどうかはわからないけど、ここがきっと分岐点。


 「近いうちに、黒瀬が来たら告ろうと思う」

 

 沈黙。

 水城は理解できていないのか、ポカーンとした表情のまま固まっている。

 そして約十秒後、


 「えええーーーっ!? マジで!?」


 「水城、声がデカいわよ」


 「いやいやいや、そんないきなりでいいの?」


 「良いんじゃない? 私そういうの詳しくないから」

 

 流れよ流れ。何事にも流れってモノがあるのよ。

 今のうちに好きだーって言っておいた方がいいじゃないの。その方が苦労しない。

 変に思いが募ってから告白なんてしようものなら、絶対に失敗するわ。

 私の持論ね。

 

 「別にさっきーがそれでいいなら私止めないけど......」


 「そうしてちょうだい。ま、明日黒瀬が来ればの話なんだけどね」


 「ほ、ホントにいいのかなぁ......」


 「私なんかの事より、水城には好きな人とかいないの?」

 

 無理やり話を変える。これ以上言われると思いが揺らぎそうだ。


 「わ、私は特にないけど......」


 「水城かわいいし、実際何度も告白されてるんだから、その中に一人くらい良い男子いなかったの?」


 「良い男子って......」


 「まあいないならいないで良いんだけど」


 良かったね、男子共。まだ水城ちゃんはフリーだってさ。

 このクラスの半分は彼女の事が好きらしいし。

 学園のアイドルは実在するのである。

 

 とそこで、


 「えーと、芹さん、提出物の回収なんだけど......」


 「ああ、ごめんなさい」


 私たちの前に立っているのは加賀隼(かがはやぶさ)。クラス委員だ。

 

 「クラス委員も大変だねー」


 「別に大した事ないよ。僕はやりたくてやってるだけだから」


 「ふーん、そりゃ御苦労」


 私は未提出だったプリントを加賀に渡した。

 本当に私が最後だったらしく、彼はそのまま職員室へ行くらしい。

 そんな事より、


 「......水城?」

 

 なんか隣の美少女が顔を赤くして俯いていた。

 あらー、これはこれは。

 

 「ええと......、水城?」


 「えっ、ああー、どうしたの?」


 「どうしたの、じゃないわよ。水城、あんたまさか......」


 「いやいやいやっ! そ、そんな事ないわよ!!」


 ああ、やっぱり。水城ちゃんはフリーじゃなかったのね。

 残念だったね、男子共!


   ▼▼


 放課後、下校中。

 さて、話は大きく変わるが、いや、かなり大きく変わるが、今日私は家出をする事になっている。

 これは大分前に決めたことで、告白する事と被さってしまったのは偶然。これも水城に反対された理由の一つね。


 まあ確かに、ちょっと気分的に重すぎるとは思うけど。

 家出はしないといけない確定事項だから仕方がないし、告白についても、このタイミングを逃す事はできない。

 

 「さてと、実際どうしますかね、家出」


 「......本当にするの?」


 「やるわよ。やらないといけないの」


 「......何か事情があるみたいだけど、良かったら私にも相談してね?」


 それはありがたいのだが、彼女に関わられてしまうと困る。

 それはもう、私の命が危ないレベルで困る事になってしまう。


 「あーっと、私こっちだ」


 「ええと、今日は本屋行くんだっけ?」


 「うん、ごめんね。相談に乗ってあげられなくて。無理しちゃだめだよ?」


 「心配はいらないわよ」


 「うん、でもさっきーは私の親友だからねっ!」


 彼女とは本屋の前で別れた。さっきの彼女の言葉はとても心に染みた気がする。

 

 親友......か。

 私は彼女の事を守るためにも、家出をしないといけない。

 私はそう固く決心するのだった。


   ▼▼   


 「ただいまー」


 がちゃん、と大きな扉を開け、誰もいない廊下に向かって私は言った。

 自慢じゃないが、私の家は結構大きい。父親の仕事で結構お金が入ってくるからだ。

 

 父親は科学者。

 ほとんど家には帰ってこない。

 母親はいない。

 もう、どこにいるのか見当もつかない。


 階段を上り、さらに廊下の奥へと進む。一番奥に私の部屋がある。

 

 「ふぅー......」


 私はカバンを放り捨て、ひとまずベッドに転がる。

 このベッドとも今日でお別れか......。

 

 「準備しないと......」

 

 クローゼットを開け、服をいくつか取りだす。

 荷物はすでに用意してあるが、服はクローゼットを開けた時にばれてしまう恐れがあるので、当日詰め込む事にしていた。

 

 「これで、よしっと」


 私は大きなカバンを引っ提げて部屋を出た。

 幸い、まだ誰もいない。家政婦さんは今日はお休みの日。

 父親が帰ってくる可能性もあるけど、まあそれはないと思う。

 

 手早く準備を済まし、きちんと鍵を閉め、私は家を出た。


   ▼▼


 まず行ったのは今日の宿泊先のホテル。お金だけはあるのよね、私。必要以上に。


 「うー......」


 ベッドに転がりながら考える。

 これからのスケジュール。


 まず、『荷物』を取りに、父親の研究所に向かう。

 無事生きて戻ってこれたら、すぐに『部品』を取り替える。

 単純な事だが、それが実に困難。

 こっからはアドリブ。

 成功するかは運次第ね。


 「......行きますか」


 私は十分も経たないうちに、ホテルを後にした。


   ▼▼


 父親の研究所は、家の敷地の地下にある。

 なので私はまた家の前まで戻ってきていた。

 ドアを開け、階段を下りる。

 そこにエレベーターがある。

 私は四ケタのパスワードを打ち込み、エレベーターに乗り込む。

 ごうんごうんごうん、という普通はしないであろう機械音。


 かなり地下へ下る。

 

 私はまた来てしまった。けどこれが最後だ。

 全部終わらせてやる。


 「さて、と」


 エレベーターを降りてすぐにライフルで武装した(・・・・・・・)男二人とかちあった。

 けどこんな奴ら、私の敵じゃない。


 「何をしている『Zn-04』」


 「おまえにはここに入る許可は出ていないはずだが?」


 男二人は私にライフルを向けながら言う。

 はぁ、本当に私が『Zn-04』だと思って言ってるのかしら。

 だとしたら相当馬鹿ね、あんたら。

 

 「ごめんなさいね、ちょーっとだけ用があって」

 

 「撃て」

 

 男は遠慮なく言った。

 バン、バン、と研究所に響く発砲音。

 しかし。

 

 「馬鹿なの? あんたたち」


 「......!?」


 私はライフルの弾を全て右手で弾いた。

 そしてそのまま鳩尾に一発。


 「ぐほあっ!?」


 もう一人は相変わらず発砲してくるが、全部腕で弾く。弾いてしまう。

 男に思いっきり側頭部にハイキックをブチかます。


 戦闘は数秒で終わった。まあ、殺してはないから感謝してよね。

 私の両腕がギィィンという機械音を鳴らしていた。

 私は改めて自分の両腕を見る。


 私、芹紫咲は完全な『人間』ではない。


 私は自身をどう定義すれば良いのかすらわかっていない。

 サイボーグ。

 人造人間。

 機構少女。

 ロボット。

 私はどうであれ、科学に改造された元『人間』なのだ。

 マッドサイエンティストの父、芹将二の手によって。


 私は長い通路を進む。

 この研究所は結構広い。

 それはあちこちで非人道的実験が行われていることを意味している。

 

 「どこだっけ......」


 私自身の『部品』が置いてあるのは確か、第二十五倉庫だったはず。

 結構奥の方まで行かないといけない。

 だから、無駄に広いのよね。


   ▼▼


 途中、何人か武装兵を倒した。別に大したヤツらじゃなかったけど、多分もう侵入者がいるとバレてるだろう。

 まぁ、そんな事はどうでもいいんだけど。

 

 目的地の第二十五倉庫に行くには第二十五実験場を通らなければならない。

 私が改造されたのもそこだったから、出来れば通りたくなかったんだけど。

 そこで。

 アイツが現れた。


 「よぉ、芹」


 第二十五実験場、その部屋の機材を部屋左右に吹き飛ばし、そいつは立っていた。

 そいつは私と同じくらいの年齢の少年だった。

 そしてそいつもまた、私と同じように改造された元『人間』。

 もちろん面識はある。昔は仲良やってたんだけどね。

 

 「芹、おまえ何する気だ? 反逆とかなら止めとけよ。それはおまえ自身が一番良くわかっているはずだ」


 「はっ、忠告どうもありがとう。だけど生憎、私にはどうしてもやり遂げないといけない目的があるのよね」


 私の言葉を聞いて、少年はハァ、とため息を吐いた。


 「なぁ芹、良いのかおまえ。このままじゃ戍亥たちにも迷惑だぞ?」


 「それは大丈夫よ。私が守るから」


 チッ、と舌打ちをする少年。

 ああそう言えば、こいつに言っとかないといけない事があるんだった。


 「ところでさぁ、あんたの方こそ良いの?」


 「......?」


 「あんたがさっき言ってた戍亥水城ちゃんはあんたの事が好きらしいぜ? クラス委員くん?」


 少年、加賀隼はさっきより大きな舌打ちをして、


 「だからどうした、親友さん」


 「明日あたり、学校中の男子共に殺されるわよ、あんた」

 

 ガキン! と大きな音と共に、私の腕が変形した。



 人間の腕から機械の腕に。



 いい加減、殴り合いの喧嘩を始めようじゃないの。


 「ハッ、んな事はどうでもいいだろ? 先におまえを殺すから問題ない」

 

 プチップチッ、という何かが弾ける音と共に、加賀の腕から血が噴き出す。

 

 「意味わかんないわよ、それ」


 「そうかい。じゃ、殺し合いを始めようぜ」


 加賀が告げる。

 元『人間』どうしの戦いが始まった。


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